ヴィカース・スワループ『6人の容疑者』 (武田ランダムハウスジャパン) を読む
この飛び石連休に、ヴィカース・スワループ『6人の容疑者』 (武田ランダムハウスジャパン) を読みました。どうして読んだのかというと、我が家で購読している朝日新聞の読書欄で作家の江上剛さんがオススメしていたからです。10月31日付けの紙面ではなかったかと記憶しています。なお、作品の背景を説明する順序が逆になったかもしれませんが、作者は今年のアカデミー賞映画「スラムドッグ$ミリオネア」の原作者で、元来はインド外務省の職業外交官であり、昨年から大阪の総領事に赴任しているそうです。まず、出版元のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。
6人の容疑者
"すべての死が平等というわけではない。殺人にさえカースト制は存在する"
舞台はインド。悪名高い若き実業家、ヴィッキー・ラーイが、パーティの席で拳銃で撃ち殺された。容疑者はパーティに出席していた6人。引退した元官僚、美しい人気女優、離島出身の部族民、携帯電話泥棒の青年、自称映画プロデューサーの間抜けなアメリカ人、そして州の内務大臣をつとめるヴィッキーの父親。
みなそれぞれに動機があり、それぞれが拳銃を隠し持っていた。
事件前の容疑者たちの人生を遡ることで、6人の物語が「殺人現場」という1点で奇妙に交差し、それぞれが拳銃の引き金に手をかける理由が明らかとなる。果たして犯人は誰なのか。
基本的にはミステリー仕立ての小説であり、事件の発端は、腐敗の限りを尽くした政治家の倅である実業家ドラ息子が、実際に自分がバーテンダーを射殺したにもかかわらず、無罪になった裁判の結果を祝うパーティーで射殺されるところから始まります。いかにもインドらしい6人がピストルを所持していたために容疑者とされ、警察というよりも調査ジャーナリズムの活躍により真実が明らかにされるというストーリーです。引用にもありますが、容疑者は被害者の父親である政治家、政治家と同様に腐敗し切った元高級官僚、ボリウッド映画のセックスシンボルのような売れっ子女優、その女優との結婚を目指してインドに来た間抜けなアメリカ人青年、なお、彼はグーグル創始者の1人と同姓同名だったりします。それから、大卒ながら携帯電話泥棒をしてスラム街に住むインド人青年、インド洋のアンダマン諸島から部族の宝を取り返すために出て来た部族民の青年、の6人です。そもそも、これらの登場人物もそうですが、日本では考えられないようなインド社会の実態をバックに、容疑者それぞれの背景をひも解きながら、最後に、バラバラに見えた容疑者6人の物語が収束して真実が明らかにされます。なお、ネタバレではないと信じていますが、紹介した容疑者の中の最初の2人を除く残りの4人、特にボリウッド映画のセックスシンボル女優を別にした3人は犯人ではあり得ないと、賢明なる読者はすぐに気付くと思います。もちろん、この6人の中に真犯人がいるとは限りません。
名前が難しくて、ストーリーを追うよりもソチラに注意力が殺がれてしまう部分もあります。しかし、誇張されているのかどうか私には判然としませんが、インド社会の実態に触れるチャンスがあるのかもしれません。
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