反転の時期を探る生産と緩やかにしか回復しない雇用
今日は、月末の閣議日でしたので経済指標がいくつか発表されました。このブログで取り上げる順に、経済産業省から鉱工業生産指数が、総務省統計局から失業率などの労働力調査と厚生労働省から有効求人倍率などの職業安定業務統計、さらに、毎月勤労統計を合わせて雇用統計が、それぞれ発表されました。いずれも10月の統計です。まず、いつもの日経新聞のサイトから関連する記事を引用すると以下の通りです。
鉱工業生産、10月は1.8%低下 市場予測より小幅
経済産業省が30日発表した10月の鉱工業生産指数(速報値、2005年=100)は91.1と、前月比1.8%低下した。前月を下回るのは5カ月連続で、エコカー補助金の終了に伴う自動車の減産が指数を押し下げた。ただ、エコポイント制度の見直しで家電の生産が増えたこともあり、事前の市場予測(中央値で3.4%低下)は上回った。11、12月の生産は上昇を見込んでいる。
生産指数が5カ月連続マイナスになるのは、リーマン・ショック後の08年10月-09年2月以来。マイナス幅は09年2月(8.6%)以来の大きさだった。経産省は基調判断を「生産は弱含み」に据え置いた。
エコカー補助金終了の影響で自動車など輸送機械工業が前月比10.0%減と6カ月連続でマイナス。国内向け普通乗用車や小型自動車の落ち込みが大きかった。
アジア向けの携帯電話用の半導体が減少したことなどで、電子部品・デバイス工業も3.2%低下。自動車の減産の影響で工業用ゴム製品が減少し、その他工業も2.3%の低下となった。
ただ「自動車以外は想定したほど悪くなかった」(経産省)ため、全体では市場予測を上回った。家電エコポイント対象商品の液晶テレビは11.9%増、電気冷蔵庫は14.1%増だった。国内や台湾向けのフラットパネル・ディスプレー製造装置が伸びた一般機械工業も3.8%増だった。
在庫指数は1.5%減った。エコポイント効果による液晶テレビの出荷増などで情報通信機械工業が24.0%減と6カ月ぶりに低下した。出荷指数は輸送機械工業の落ち込みが響いて2.7%低下だった。
製造工業生産予測調査によると、11月は前月比1.4%増、12月は1.5%増になる見込み。11月は普通乗用車など輸送機械工業が海外向けを中心に回復し、3.7%増える。家電エコポイントの駆け込み需要があるため、電気機械工業も押し上げ要因になる。
12月には国内向け自動車が回復するとして、輸送用機械工業で5.6%増を見込んでいる。鉄鋼業も輸出が回復するため、1.1%増になる。
失業率4カ月ぶり悪化 10月、若者雇用厳しく
総務省が30日発表した10月の完全失業率(季節調整値)は5.1%と前月に比べ0.1ポイント上がった。悪化は4カ月ぶり。10-20代の若者などの雇用情勢が厳しくなったことが要因。厚生労働省が同日まとめた10月の有効求人倍率(同)は前月から0.01ポイント上昇し0.56倍だった。企業の生産活動は弱含んだままで失業率がこれから改善に向かうか不透明な状況だ。
完全失業率は15歳以上の働く意欲のある人のうち、職に就いていない人の割合。年齢別では15-24歳の失業率が1.3ポイント悪化し9.3%、25-34歳も0.1ポイント悪化の6.0%だった。景気の先行きの不透明感や円高懸念から企業が新規採用に慎重になっているとみられる。
男女別の失業率では女性が0.3ポイント悪化の4.6%。男性は0.1ポイント改善の5.4%だった。
10月の完全失業者数(原数値)は前年同月に比べて10万人減の334万人だった。総務省は「高い水準が続いており注視していく」と指摘している。就業者数(同)は前年同月に比べ15万人増え6286万人となった。医療、福祉がけん引役となり46万人増えたものの、建設業や生活関連サービス業などで減った。
ハローワークで仕事を求める人に1人当たり平均何件の求人があるかを示す有効求人倍率は6カ月続いて上昇。新規求人倍率(季節調整値)は前月から0.02ポイント改善の0.93倍だった。厚労省は雇用情勢について「依然として厳しい状況にある」と判断を据え置いた。
現金給与総額、10月は0.6%増の26万8951円
厚生労働省が30日午前発表した10月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、従業員1人当たり平均の現金給与総額は前年同月比0.6%増の26万8951円だった。増加は8カ月連続。残業代の増加や所定内給与の下げ止まりが寄与した。
所定内給与は0.1%増の24万5518円。残業代にあたる所定外給与は6.4%増の1万8391円だった。製造業の残業代が伸びた。
所定外労働時間は5.2%増の10.1時間。うち製造業は13.7%増の14.1時間だった。
雇用形態についてみると、常用雇用は前年同月比0.7%増加の4434万5000人。うち、パートタイム以外の一般労働者は0.3%増の3202万2000人と22カ月ぶりに増加に転じた。
次に、鉱工業生産に関するグラフは以下の通りです。一番上のパネルは鉱工業生産指数そのもので、真ん中のパネルは輸送機械を除く資本財の出荷指数です。一番下は製造工業と電子部品・デバイス工業の在庫率の推移です。すべて季節調整済みの系列で、影を付けた部分は景気後退期です。なお、リーマン・ショック後の大幅な落ち込みで鉱工業生産指数の季節調整が歪んでいる可能性が指摘されていますが、今夜のブログではその可能性はひとまず無視しておきます。
一番上のパネルの鉱工業生産指数をパッと見で、景気後退期に入っているんではないかと目を疑うようなグラフになっています。引用した記事にある通り、5か月連続の減産なんですが、10月の減産幅は事前の市場コンセンサスの予想よりもかなり小さかったですし、製造工業予測指数に従えば11-12月は増産に転じる見込みとなっています。これを信じれば、この10月が生産のボトムであり、その後、反転するということになります。産業別に詳しく見れば、11月はエコポイントの制度変更に伴うテレビなどの駆込み需要で、電気機械工業が大幅なプラスを記録し、さらに、12月には輸送機械工業がプラスに転じる見込みとなっています。下の2枚のグラフはいい材料と悪い材料を並べています。真ん中のパネルの資本財出荷は目立った低下を見せていません。設備投資需要はまだ伸びているのかもしれません。しかし、一番下のパネルに見るように、電子部品・デバイス工業は明らかに「意図せざる在庫積上がり局面」に入ったように見えます。近い将来に在庫調整が必要となります。場合によっては、鉱工業全体でミニ在庫調整局面となる可能性も排除出来ません。こういった要因をいろいろと考慮した結果、10月をボトムとして生産が反転するシナリオは十分あり得ますが、懸念材料は在庫と輸出です。世界経済も米国をはじめとして反転の兆しを見せていますが、我が国の輸出にとっては円高がラグを伴ってマイナスに効くのは当然です。
生産の5か月連続の減産を受けて、雇用はホントに改善しているのかどうか、かなり疑わしい回復ペースまで落ちました。失業率は5%を超えて、失業者数は軽く300万人を上回っています。現在のテンポで有効求人倍率が1に達するのは3-4年かかりそうです。一応、方向として雇用は回復しつつありますが、その回復ペースは考えられないほど緩慢です。上のグラフは、一番上が失業率、次が有効求人倍率、3番目が新規求人数で、この3枚は季節調整済みの系列です。影を付けた部分は景気後退期です。最後の4枚目のグラフは季節調整していない原系列の産業別雇用者数の前年同月差の増減数です。棒グラフの色分けは凡例の通りです。
上のグラフは、毎月勤労統計調査から、所定外労働時間指数を上のパネルに、引用した記事にある現金給与総額指数を下のグラフに、それぞれプロットしています。所定外労働時間は季節調整済みの系列そのままですが、現金給与総額は季節調整していない原系列の前年同月比を取っています。いずれも、影を付けた部分は景気後退期です。所定外労働時間は生産が減産に転じるとともに減少して残業は減り始めているようです。お給料はさすがに前年の反動で増加に転じていますが、水準としてはまだ低いままだったりします。結論は失業率などと同じで、雇用指標は改善の方向にあるものの、そのスピードはあきれるほど緩慢といわざるを得ません。
今日は、このブログで取り上げた経済指標のほかに、今日は、総務省統計局から家計調査が、また、国土交通省から住宅着工統計が、それぞれ発表されています。前者については、エコカー補助金、家電エコポイント、たばこ値上げなど、また、後者については、住宅ローン減税や住宅エコポイントなど、それぞれの政策・制度要因が経済要因以上に統計上の変動をもたらしているように見受けられます。
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
最近のコメント