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2010年11月25日 (木)

貿易統計に見る輸出の足踏みとマイナス続く企業向けサービス物価

本日、財務省から貿易統計が、また、日銀から企業向けサービス価格指数 (CSPI) が、それぞれ発表されました。いずれも10月の統計です。貿易の方では輸出の鈍化が続き、企業向けサービス価格もデフレが止まりません。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

輸出10月7.8%増、伸び率鈍化 EU向けマイナスに
財務省が25日発表した10月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額が前年同月比7.8%増の5兆7236億円になった。自動車などが増え、11カ月連続で前年同月を上回った。ただ欧州連合(EU)向けが減少に転じたうえ、リーマン・ショック後の落ち込みの反動が一巡したこともあり、伸び率は8カ月連続で鈍化した。円高の影響もあり、景気のけん引役である輸出の先行きに不透明感が出てきた。
輸入額は8.7%増の4兆9017億円で、差し引きの貿易収支は8219億円の黒字だった。為替レートは1ドル=83円42銭と、前年同月比7%の円高になった。
地域別の輸出動向ではアジア、米国、EUに対する輸出の前年同月比が悪化した。特にEU向けは1.9%の減少で、2009年11月以来のマイナスになった。映像機器が減ったほか、前年計上していた大型船舶の輸出がなかったという特殊要因も重なった。財務省はEU向けについて「低調が続くとはみていない」と分析している。
アジア向け輸出は前年同月比11.3%増で、伸び幅は9カ月連続で縮小した。中国向けが金属加工機械を中心に17.5%増と伸び率が拡大した一方、韓国や台湾など新興工業経済群(NIES)向けが4.3%増と大幅に鈍化した。米国向けは4.7%増だった。
企業向けサービス価格1.2%低下、10月
日銀が25日に発表した10月の企業向けサービス価格指数(2005年=100、速報値)は96.6になり、前年同月比で1.2%低下した。指数は前月に続いて1985年の調査開始以来の最低水準を更新し、前年同月比での低下も2年1カ月連続になった。運輸価格の下落が響いた。
同指数は運輸や広告、不動産など企業間で取引するサービスの価格動向を示す。運輸は0.4%低下した。需要の回復で価格下落幅が急速に縮小した前年の反動に加え、円高進行の影響もあり、外航貨物輸送や貨物用船料が下落した。
安値受注を背景に、土木建築サービスなどの諸サービスは1.4%低下。情報通信も0.8%低下した。日銀は「低下幅の縮小がこのところ一服している」と分析し、当面は「一進一退の状況が続く」とみている。

リーマン・ブラザーズ証券破綻後の Great Recession に伴う落ち込み後の反動増が一巡し、輸出はほぼ足踏み状態に入ったと私は受け止めています。輸出の足踏みの要因として上げられるのは、足元で再び回復に向かいつつあるものの、先進国をはじめとする世界経済の成長の鈍化と円高です。所得効果も価格効果も我が国の輸出に逆風です。季節調整していない原系列と季節調整済みの系列の輸出入の推移のグラフは以下の通りです。季節調整済みの輸出は半年ほど前月比マイナスを続けていることが読み取れます。

貿易統計の推移

下のグラフは、上から輸出の前年同月比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解したもの、真ん中は輸出数量指数と OECD 先行指数のそれぞれの前年同月比、一番下が輸出数量指数と鉱工業生産指数のそれぞれの前年同月比です。輸出については、引用した報道にもある通り、欧州向けが落ち込みを示しており、合い無償の公式見解は否定しているものの、アイルランドを震源地とする欧州の金融財政問題の先行きが下振れリスクと考えられ、先進国をはじめとする世界経済の鈍化が円高とともに我が国輸出の足踏みをもたらし、輸出の足踏みが生産の落ち込みをもたらしていることが読み取れます。

輸出の推移

それでは、我が国の輸出の足踏み状態がいつまで続くかという先行きの見通しですが、私は来年年央近くまで輸出の回復は難しいと見込んでいます。為替レートについては今しばらくラグを伴いつつ輸出にマイナスの影響を及ぼし続ける可能性が高く、世界経済が景気回復初期を終えて直近にミニボトムをつけたのはおそらく2010年年央であろうと考えていますが、もう一度本格的な回復軌道に戻るのが来年前半から年央くらいと予測しているからです。外れたらゴメンナサイです。

企業物価の推移

目を企業向けサービス物価 (CSPI) に向けると、相変わらず前年同月比で▲1%を超えるデフレが続いています。上のグラフの通りです。CSPI だけで見ると、2008年10月から前年同月比でマイナスを続けていますので2年を超えました。日銀レビュー 2010-J-8 「企業向けサービス価格指数からみた日本経済」で明らかにされているように、CSPI は需給ギャップとの相関が高く、景気循環に敏感に動く指標であると受け止められていますが、今年5月には前年同月比で▲0.7%までマイナス幅を縮小したにもかかわらず、その後は景気の足踏みとともにナイマス幅を拡大させ、10月には前月に比べてさらに下落しました。デフレ脱却への道のりはまだまだ遠いといわざるを得ません。なお、下のグラフの通り、内閣府の今週の指標 No.973 によれば、7-9月期には1次QEベースでGDPギャップが▲3.5%まで縮小したと試算されています。

GDPギャップの推移

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