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2010年11月16日 (火)

社会保障給付に見る手厚い引退世代への給付と軽視されている子育て世代

1次QEなどに押されて取り上げるのが遅れてしまい、やや旧聞に属する情報ですが、先週金曜日の11月12日に国立社会保障・人口問題研究所 (社人研) から「平成20年度社会保障給付費」が発表されました。主として2008年度の社会保障給付のデータが整理されて公表されていますが、国際比較では2007年データも見受けられます。2008年度は前年度比+2.9%増の94兆848億円と過去最高額を更新しており、国民所得に占める割合は26.8%と+2.6%ポイントも上昇しました。内容については、ここ何年かこのブログでも取り上げている通り、今年も圧倒的な引退世代の優遇と勤労世代へのケチッた給付が浮彫りになっています。まず、関連する記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

社会保障給付、過去最高の94兆円 08年度、高齢化で増加
国立社会保障・人口問題研究所は12日、年金や医療、介護などにかかった社会保障給付費が2008年度は前年度比2.9%増の94兆848億円になったと発表した。高齢化で年金受給者が増えたことなどから、過去最高額を更新した。国民所得に占める割合は26.8%と同2.6ポイント上昇した。リーマン・ショックの影響で経済規模が縮小したため、同割合は過去最大の上昇幅となった。
社会保障給付費は税金や保険料を元に支払われた年金や介護、福祉などの費用の総額で、政府の決算統計などを基に同研究所が毎年推計している。
08年度は経済の急激な落ち込みで国民所得が前年度比7.1%減と大きく減る一方、社会保障に対する支出は上昇した。このため、対国民所得の割合が大きく出て過去最高となった。海外と比べると日本の社会保障の規模は米国に比べれば大きいものの、ドイツ、フランスなど主要先進国に比べれば小さい。
08年度の社会保障の個別項目をみると、高齢化に伴って受給者が増えた「年金」が2.6%増の49兆5千億円になった。「医療」は2.3%増の29兆6117億円。「福祉その他」は5.1%増の14兆9千億円で、02年度以来の高い伸びとなった。景気悪化に伴い失業者が増え、雇用保険の給付費が増えたことが大きい。それぞれのシェアは「年金」が52.7%と圧倒的に大きく、「医療」は31.5%、「福祉その他」は15.9%だった。
社会保障のうち高齢者関係の給付費は合計で65兆4千億円と2.8%増えた。年金は2.9%増の48兆2千億円、高齢者の医療給付費は1.3%増の10兆4千億円だった。介護など老人福祉サービスは4.6%増の6兆7千億円、高齢者の再雇用に伴う給付費は10.9%増の1200億円だった。
09年度の見通しについても「高齢化が続くため(増加)トレンドは変わらない」(同研究所)という。クレディ・スイス証券の白川浩道チーフ・エコノミストは「相当大規模な増税をしなければ社会保障費はまかないきれなくなる。収入の高い人に医療費をもっと自己負担してもらうなど、歳出側の抑制が急務ではないか」と指摘する。

引用した記事にも「年金」シェアが50%超とある通り、社会保障給付については圧倒的な引退世代優遇が臆面もなく実行されています。2008年度は昨年の総選挙前ですから、政権交代前の統計なんですが、昨年の政権交代後はこの傾向が強まっているように感じているのは私だけではないと感じています。

政策分野別社会保障支出の国際比較 (2007年)

まず、私が引退世代優遇とするひとつの根拠ですが、OECD基準に準拠した政策分野別の社会保障給付費の国際比較のグラフは上の通りです。2007年の統計です。いろいろな分類がある中で、「高齢」と「家族」を取り出して、「遺族」や「失業」などを「その他」でひとまとめにしてあります。上のパネルは社会保障給付費の中での構成比、下のパネルはGDP比です。他の先進国と比較して、「高齢」分類では高福祉国スウェーデンもびっくりの手厚い引退世代への給付を実現している一方で、「家族」分類は低福祉国である米国とともにほぼ最低レベルにあるといえます。「高齢」と「家族」で10倍の差がついているのは上のグラフの中では日本だけです。もちろん、他国と比較して少子化も高齢化もともに進行していることは考慮する必要はあるのかもしれませんが、もしも、少子高齢化の流れを転換したいのであれば、5兆円、すなわち、社会保障給付費の中では5%くらい、GDP比で1%くらいの財源を「高齢」分類から「家族」分類に振り替えることは考えられないんでしょうか。それが先進国のスタンダードだという気がしなくもありません。

年収階層別にみた在学費用の年収に対する割合

特に、勤労世代の中でも子育て世代の教育費負担が重くなっています。上のグラフは11月12日に日本政策金融公庫から発表された「教育費負担の実態調査結果」の p.7 図-10 年収階層別にみた在学費用の年収に対する割合、という図からデータを取って私がグラフ化しています。もちろん、国の教育ローンを利用している勤務者世帯のデータですから、教育費の割合が高いバイアスはかかっているものの、それにしても、200-400万円所得世帯で50パーセントを超え、400-600万世帯でもほぼ40パーセントを占める教育費負担は異常と言わざるを得ません。このグラフに示されている通り、教育費負担が逆進的であるということは、所得格差が世代間で引き継がれる可能性が高いことを示唆しています。政府財政が火の車という財源問題が重くのしかかるとはいえ、この現状を放置したまま高齢者優遇を続けていいのかどうか、私は疑問に感じざるを得ません。

シルバー・デモクラシー

この引退世代と勤労世代で不公平な社会保障給付を実現してしまっている原因はシルバー・デモクラシーにあります。上のグラフは今年9月2日付けのエントリーで厚生労働省の「平成20年所得再分配調査」を取り上げた際にアップしたものですが、男女別にそれぞれの有権者総数に占める年齢階層別の有権者と白抜きの投票者のパーセンテージをプロットしたものです。50代後半以降の圧倒的な投票パワーを読み取るべきです。そして、この先しばらく、この傾向は強まりこそすれ逆転することはあり得ません。従って、このシルバー・デモクラシーに抗して、勤労世代や子育て世代を支援する仕組みを構築していく必要があります。その意味で、私は子ども手当は大いに意味があると受け止めています。

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