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2010年11月22日 (月)

The Economist の日本特集 A special report on Japan: Into the unknown

Cover The Economist 2010 November 20

最新号の The Economist の表紙を見て、少しショックを受けた読者も中にはいるんではないでしょうか。"Japan's burden" と題されて、少年が苦しそうに日の丸を支えています。上の画像の通りです。もちろん、The Economist のサイトから引用しています。どうでもいいことなんですが、この表紙はアジア太平洋版だけであり、北米版ではチェーンソーを持ったオバマ米国大統領の画像とともに、"How to cut the deficit" と題されており、英国・欧州版ではさらに別の画像で "Saving the Euro" と題されています。
加えて、いわゆるセンター・フォールドの部分に日本特集が組まれています。すなわち、"A special report on Japan: Into the unknown" 「未知の領域へ」との特集記事が組まれているとともに、"The future of Japan: The Japan syndrome" という記事も掲載されています。なお、最近5年くらいで本格的な日本特集が The Economist で組まれたのは、2005年10月のかの有名な "The sun also rises" 「日はまた昇る」と2007年12月の "Going hybrid" 「ハイブリッドで行こう」に次ぐものではないかと思います。後者については、このブログの2007年12月4日付けのエントリーで取り上げています。私は2005年10月にはまだ The Economist を購読していなかったような気がします。読売新聞など大手のメディアも含めて、アチコチで取り上げられているんですが、今夜のエントリーではこれらに便乗して、以下、The Economist のサイトからいくつかグラフを引用しつつ、この特集記事を紹介したいと思います。

From pyramid to kite

"A special report on Japan: Into the unknown" 「未知の領域へ」では、日本の高齢化についてスポットを当てています。上の画像はどこかで見たことがある我が国の人口ピラミッドです。1950年、2005年、2050年と大雑把に50年おきの人口ピラミッドが示されています。私の記憶が正しければ、以前の "Going hybrid" の画像を使い回ししているようです。日本の高齢化について記事にする際につかみで必ず必要になるグラフだという気がします。

For whom the bell tolls

上の画像では日本の人口が先行き急速に減少するシナリオを示しています。欧州3国と比較して、ドイツも減少するんですが、もちろん、日本の方が減少スピードは大きく、英仏は2050年まで増加や横ばいを続けると見込まれています。この人口減少が成長率の加速とデフレ脱却を困難にしていると論じられています。人口が唯一の原因だとは考えませんが、私も人口動態が経済に大きな影響を及ぼしていることはその通りだと受け止めています。ただし、いわゆる一国経済の規模で考えるか、1人当たりの所得で考えるかは議論の分かれるところであり、後者の見方からすれば、一国経済が縮小しても人口減少を勘案した1人当たり所得が増加を続けるのであれば国民生活の上からは大きな問題ではない、との見方も出来ます。しかし、記事では2050年までに中国だけでなく、インド、ブラジル、インドネシア、メキシコなどの諸国にGDP規模で抜かれ、戦間期に米国に次ぐ経済規模を誇りながらも戦後には普通の国になったアルゼンティンになぞらえ、「東洋のアルゼンティン」との呼び名を日本に当てはめることが出来るかもしれないと示唆しています。

Regular guys

企業文化が日本経済に大きなダメージを与えつつあるとして、ありきたりではありますが、上のような男女年齢別の正規・非正規雇用比率のグラフを掲げ、新卒時の「一発勝負」の就職方式をやり玉に挙げています。同時に、外国人雇用の少なさも指摘して、ソニーのストリンガー会長や日産のゴーン会長の事例を紹介しています。人口減少に暗喩的に対比して、ここ20年間で合法的に日本に居住する外国人は2倍になったものの、移民については文化的な地雷原であることを示唆しています。

Not cheap, not cheerful

このブログでは最後にお示しする上のグラフは、いうまでもなく人口減少や少子高齢化社会の最大の難所である社会保障です。「ワニの口」と称される歳出と歳入のギャップを指摘しつつ、2020年には2005年の2倍の社会保障支出が必要になるとのマッキンゼーの試算を示し、最後に、外資系エコノミストの「もっとも不都合な真実は政府が社会保障支出の削減に乗り気でないことである」との取材結果を紹介しています。私に言わせれば「シルバー・デモクラシー」の結果であろうという気がします。もっとも、別の部分で、名目収入が固定されている年金で生活する引退世代にはデフレは歓迎すべき経済現象であることを喝破し、人口の高齢化により日本経済の選好体系が歪みつつあることを示唆しています。

私のような語学力薄弱なエコノミストには相変わらず少し難しい英語であるといわざるを得ませんが、さすがに我が国メディアに比べるべくもない広範な取材の結果を駆使しており、読みごたえはあります。いつまでかは知りませんが、現時点では pdf の全文リポートが入手できますので、ご興味ある方は以下のリンクからどうぞ。

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