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2010年12月 3日 (金)

最近読んだ話題のペーパーから

最近、いくつかの日本語サイトでも取り上げられていますが、NBER のワーキングペーパーから興味深い研究結果が発表されています。NBER からはいつも大量のペーパーが発表されていますので、すべてを見ているわけではありませんが、今夜は以下の2本のペーパーをごく簡単に取り上げたいと思います。

タイトルを見れば分かりますが、最初のペーパーは経済的な豊かさの指標のひとつであるGDPではなく、経済的厚生の水準を計測しようという試みです。私は必ずしも GDP が "a flawed measure" であるとは考えていませんが、いわゆる Stiglitz-Sen リポートも話題になりましたし、それなりに注目しています。計測結果はペーパーの p.22 Table 2: Welfare and Income across Countries, 2000 にいくつかの国が示されており、さらに、スタンフォード大学のサイトに Excel ファイルで詳細に提供されています。このデータを基に主要な国について、The Economist のサイトに画像が示されていますので、以下に引用します。

Standard of living and GDP

もうひとつのペーパーは11,571人を対象とした米国テネシー州のSTARプロジェクトの結果を取りまとめた内容で、何と、幼稚園を終了する段階でその後の人生が決まってしまっている可能性を示唆するものです。下のグラフは、ペーパーの p.54 Figure 1 Correlation between KG Test Scores and Adult Outcomes から引用しています。横軸が幼稚園終了時のテストのスコアを順位で相対的に並べたもの、縦軸は25-27歳時点での平均所得です。高校数学のレベルでも関数は y=ƒ(x) と学習しますが、横軸の x が縦軸の y を決定する定式化となっていて、見事なほどに相関しています。幼稚園卒業時のスコアの順位が高いほど高所得が享受でき、平均 $15,912 の所得に対して、1%ポイントの順位の違いが $132 の差をもたらすと結論されています。また、学級の人数は大きな影響がないものの、教員のスキルは影響が大きいとも指摘されています。ひょっとしたら、幼稚園終了時のスコアでもってその後の人生が決まってしまい、小学校の初等教育や中等教育、さらに、大学での高等教育を含めても、逆転することは難しいという結果が示唆されているのかもしれませんが、せいぜい27歳までしかフォローしていませんから、日本人的に言えば50年以上の人生が残っているわけで、その後の大逆転があるのかもしれません。この研究成果からは残り50年の人生については不明です。

Correlation between KG Test Scores and Adult Outcomes

いずれも9月に発表されたペーパーです。ご興味ある向きは最初にお示しした NBER のサイトをご覧ください。

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