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2010年12月23日 (木)

ウンベルト・エーコ『バウドリーノ』(岩波書店) を読む

エーコ『バウドリーノ』(岩波書店)

ウンベルト・エーコ『バウドリーノ』(岩波書店) を読みました。舞台は13世紀初頭に第4回十字軍により蹂躙されるコンスタンティノープルにおいて、神聖ローマ帝国皇帝赤髭王フリードリッヒ一世の養子であったバウドリーノがビザンティン帝国の歴史家ニケタスを救い出すところから始まり、バウドリーノ自身が語るその生涯についての一代記となっています。もっとも、「ほら吹きの嘘八百」と称する向きもありますが、娯楽大作であることは明らかです。作者のエーコ教授は記号論の大家にして、私はダン・ブラウンの作品の主人公であるハーバード大学ラングドン教授のモデル、というか、創作の際に影響を与えたんではないかと想像したりしています。なお、エーコ教授の小説としては『薔薇の名前』、『フーコーの振り子』、『前日島』に続く4作目ですが、一応、私はすべて読んでいます。第1作目の『薔薇の名前』については、年末年始休みに見ようとショーン・コネリー主演の映画のDVDも借りました。でも、まだ見ていません。また、この本はかなり注目を集めましたので、いくつかの新聞で書評が取り上げられています。私の知る限りで朝日新聞と日経新聞の書評にリンクを張っておきます。

大雑把に、上巻を占める前半部分ではイタリア出身のバウドリーノがフリードリッヒの養子となり、イタリア諸都市との戦争を繰り広げるフリードリッヒに従ったり、パリに遊学したりして成長するバウドリーノの姿が語られます。バウドリーノは極めて多くの言語に通じた語学の天才として描かれています。後半の下巻では、フリードリッヒの死後、捏造された「司祭ヨハネの手紙」を起点に、パリの仲間らとともに聖遺物を求めて東方のキリスト教王国を目指す旅が語られます。この旅で、1本足のスキアポデス、頭のないブレミエスなどの荒唐無稽ながら中世には信じられていた怪人・怪物などが現れます。もちろん、東方のキリスト教王国も都市伝説といえます。そして、最後にフリードリッヒの死が密室殺人として謎解きされて、この小説にミステリの雰囲気をもたらします。このあたりは『薔薇の名前』に少し似ているかもしれません。

まさか、この小説を歴史的に正確な記述で成り立っているノンフィクションと受け取る読者はいないでしょうが、逆に、中世的な偏見に満ちた「ホラ吹きの嘘八百」と考えるのもやや極端です。中世に疎くてキリスト教徒ならざる私としては、現実と虚構の境目がやや不明瞭な小説ながら、思いっきり痛快な娯楽小説と受け止めています。エーコ教授の小説は4本とも何の関連も持たせてありません。独立の作品として大いに楽しめます。多くの方が手に取って読むことを期待します。

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