マット・リドレー『繁栄 - 明日を切り拓くための人類10万年史』上下 (早川書房) を読む
マット・リドレー『繁栄 - 明日を切り拓くための人類10万年史』上下 (早川書房) を読みました。作者は長らく The Economist のサイエンス・ライターを務めたジャーナリストで、動物学の学位を取得しています。この本に深く関係する The Rational Optimist... なるサイトも運営しています。というのも、実は、この本の原題は The Rational Optimist: How Prosperity Evolves というからです。
原題も含めたタイトルから明らかなように、これでもかというほど力強い楽観論を展開する本です。もちろん、観念的に楽観論を展開するのではなく、データに基づいて10万年前の石器時代からグーグル時代とも呼ばれる現代まで、豊富なエピソードで解き明かし、現在がいかに豊かな社会であり、人口問題、経済問題、環境問題、エネルギー問題など数々の悲観論を乗り越えて来たか、また、将来にわたっても、天然資源の枯渇や気候変動などの悲観論を克服するであろう展望を論じます。筆者の強烈な楽観論の根拠は、人類の大いなる特徴である分業と交換、さらに、これを基礎とした知識の集積です。我が国でも人口に膾炙しているローマ・クラブのエネルギー枯渇論をはじめとして、「スターン・レビュー」に象徴される気候変動問題、アフリカの発展に対する悲観論などが徹底的に論駁されています。なお、上の画像にもリンクを張ってある早川書房のサイトから第1章がダウンロードできます。ご参考まで
別の観点で、悲観論が好きなのは、日本人の、というか、日本のメディアの特徴だろうと私は今まで考えていたんですが、この本を読んでいて、実は、世界各国に共通して、みんな悲観論が大好きなのだということは改めて認識させられました。私自身が楽観論者なものですから、日本を別にすれば、世界の大勢は楽観論だと勝手に考えていた次第です。認識を改めました。誠についでながら、エコノミストらしく、経済学の観点から人口と経済成長、特に、技術進歩や知識の集積に関して論じた主要な参考文献を以下に3点ほど上げておきます。なお、最初の Kremer (1993) はこの『繁栄』のプロローグにも参考文献として上げられています。
- Kremer, Michael (1993) "Population Growth and Technological Change: One Million B.C. to 1990," Quarterly Journal of Economics 108(3), August 1993, pp.681-716
- Jones, Charles I. (2002) "Sources of U.S. Economic Growth in a World of Ideas," American Economic Review 92(1), March 2002, pp.220-39
- Beaudry, Paul and David A. Green (2002) "Population Growth, Technological Adoption, and Economic Outcomes in the Information Era," Review of Economic Dynamics 5(4),October 2002,pp.749-74
上下巻に分割した製本上のミスを別にすれば、論調が明瞭でブレがなく、観念的でなくデータで定量的にしっかりと押さえられており、私のような生来の楽観論者から見れば、文句なしの出来上がりとなっています。多くの方が手に取って読むことを願っています。
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