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2011年1月 9日 (日)

齋藤智裕『KAGEROU』(ポプラ社) を読む

齋藤智裕『KAGEROU』(ポプラ社)

齋藤智裕『KAGEROU』(ポプラ社) を読みました。作者は水嶋ヒロという名で知られた俳優さんでもありますが、昨年10月にこの小説で第5回ポプラ社小説大賞を受賞したあたりから作家に専念しているという説もあります。私にはよく分かりません。いずれにせよ、話題の書です。作者もさることながら、賞金2000万円を辞退したことも注目されました。従って、村上春樹さんの『1Q83』をしのぐ予約を集め、すでに100万部を突破したと報じられています。私も12月15日の発売日に我が家のおにいちゃんのお誕生祝いのプレゼントとして買い求め、この正月休みにおにいちゃんが読み終わった後に回してもらって読みました。まず、ポプラ社のサイトからあらすじらしき部分を引用すると以下の通りです。

哀切かつ峻烈な「命」の物語
廃墟と化したデパートの屋上遊園地のフェンス。
「かげろう」のような己の人生を閉じようとする、絶望を抱えた男。
そこに突如現れた不気味に冷笑する黒服の男。
命の十字路で二人は、ある契約を交わす。
肉体と魂を分かつものとは何か? 人を人たらしめているものは何か?
深い苦悩を抱え、主人公は終末の場所へと向かう。
そこで、彼は一つの儚き「命」と出逢い、
かつて抱いたことのない愛することの切なさを知る。

これ以降、ネタバレがあるかもしれません。未読の方が読み進む場合は自己責任でお願いします。

いわゆる天下国家を扱った「大きな物語」ではなく、個人に焦点を当てた「小さな物語」なんですが、人間の生死に焦点を当てた非常に重いテーマを取り上げた小説です。全日本ドナー・レシピエント協会の京谷が自殺しようとする大東を助け、自殺の後に肉体のパーツをドナーとして提供することにより報酬を約束します。大東は心臓を提供すると目される茜と出会い交流を深めたりします。最後は過労から京谷が脳内出血で倒れた後に、大東の脳が京谷に移植されるらしき展開で小説は終わります。
繰返しになりますが、非常に重いテーマについて、ある部分では大東という個性でコミカルに描こうとしたりして、それなりに評価は出来ると私は受け止めています。本日付けの朝日新聞の書評欄でも、重いテーマを淡々と描き出す姿勢が割合と好意的に取り上げられていた気がします。しかし、いくつかのアマゾンのレビューに典型的に示されているように、カギカッコ付きで「2000万円の賞金を辞退した大賞受賞作」として読むと、構成力や表現力などに物足りなさが残るのは事実です。しかし、先日、第144回芥川賞候補作品が発表されましたが、あくまでシロートの「私の目から見て」と言う前提ながら、この水準に満たない作品で芥川賞を授賞された小説もなくはありません。これだけ人口に膾炙した話題作を手に取るのも悪くないような気がしますので、私のこのブログでも好意的に評価しておきたいと考えています。

私は発売開始その日に入手した第1刷なんですが、232ページに修正のテープが張られたりしています。いずれにせよ、いろんな機会に論じられているんでしょうが、この作家の第2作があらゆる意味で注目されます。場合によっては、そのまま消え去る可能性もゼロではありません。

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