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2011年2月17日 (木)

食料価格の上昇の経済的帰結やいかに?

昨日の読売新聞夕刊の1面トップ記事を占めた世銀ゼーリック総裁へのインタビューの中で食料価格が大きくクローズアップされていましたが、今夜のエントリーでは世界的な商品市況の高騰に伴う、というか、その主要なコンポーネントをなしている食料価格の上昇に焦点を当てたいと思います。もっとも、その原因については日本の猛暑をはじめとする世界的な天候不順と資金の商品市況への流入ということで軽く済ませておいて、世銀が開設した Food Crisis というサイトからの情報を引きつつ、この食料価格上昇の経済的な帰結について重点的に取り上げたいと思います。昨夜の労働者送金に比べて、この食料価格のトピックよりはかなり世間的に注目を集めているものの、我が国ではまだまだ危機感は高くないと私は受け止めています。まず、世銀が出した Food Price Watch というリポートから、世界の食料品価格の推移を示すグラフを引用すると以下の通りです。食料価格指数というと FAO Food Price Index が有名なんですが、世銀でも算出しているようです。

World Bank Food Price Index

2003-04年ころからジワジワと上昇を始めた食料価格は、2008年夏にかけて、原油価格がWTIでバレル当たり140ドルを超えたことに象徴される商品市況の高騰の中で大きく上昇した後、2008年9月のリーマン・ブラザーズ証券の破綻と世界経済の Great Recession 入りのために他のコモディティとともに急速に下げましたが、昨年年央から再び上げ足を速めています。穀物はまだ2008年年央の水準に達していませんが、食料全体としての価格水準はほぼこの水準に達しました。この食料価格上昇を途上国への影響と新興国への影響に大雑把に分けて考えると、以下の通りです。
まず、この食料価格高騰は途上国の国民生活を直撃しています。世銀のリポートによれば、昨年2010年後半6月から12月の間にコムギの国際価格が75パーセント、コメが同じく17パーセント値上がりしました。国内価格は基本的に国際価格の変化率に為替の変化率を乗じた比率で上下すると考えられますが、もちろん、関税などを含めて各種の国境措置もあって単純ではありません。しかし、例えば、コメを主食とするアジアではカロリー摂取量でコメに大きく依存する国が少なくありません。カンボディアでは65パーセント、ベトナムでは59パーセント、インドネシアでも50パーセントのカロリー摂取をコメに頼っています。アゼルバイジャン、タジキスタンなどは同様に過半のカロリー摂取をコムギに依存しています。途上国では先進国と比較していわゆるエンゲル係数が高く、消費に占める食料支出の割合が高いわけですから、このまま食料価格が高騰を続ければ、実質購買力が大きく引き下げられる可能性が高まっています。また、経済的な購買力の問題に止まらず、食料摂取の面から国民生活が危機に瀕する途上国が出る可能性も無視できません。

Food Inflation in China

続いて、いわゆる途上国から一歩なりとも経済開発の進んだ新興国では、食料価格の高騰が別の経済的な問題を引き起こしつつあります。すなわち、インフレです。上のグラフも同じく世銀のリポートから引用していますが、中国の食料価格上昇が2ケタに達しているのが見て取れます。景気回復がや遅れている先進国と違って、新興国では活発な経済活動により完全雇用に近い状態にある国も少なくなく、この食料価格の高騰が賃金上昇につながれば、単なる相対価格の変化に止まらず、我が国の1970年代前半の第1次石油危機の時のようなホームメード・インフレーションに転化する可能性が高まります。また、これを防止するために強力な引締め政策を実行すれば、景気回復・拡大が終了・反転して、景気後退局面に陥る可能性も無視できません。ご参考までですが、食料価格の上昇に対する金融政策の対応について、DSGE モデルを使ったシミュレーションを行って分析したペーパーが昨年12月にNBERワーキングペーパーとして出ています。食料価格の上昇により、輸入国で交易条件が悪化して実質為替レートが増価するなど、にわかには理解しがたい結果も含めて、詳しくは以下のリファレンスをどうぞ。

いずれにせよ、エネルギー価格の上昇は工学的な技術の進歩によって、いわゆる省エネが進んで需要が減少、あるいは増加を抑制できる可能性が大いにありますが、食料については人間が食用に供する限り、需要を抑制・減少させるには限界があります。供給側で増産を図る必要があるわけです。私は食料問題についてはなはだ専門外ながら、長期的にはそんなに根拠のない楽観論に立っているものの、短期的には世界経済に何らかの混乱をもたらす可能性を忘れるべきではありません。

昨日今日と私の興味分野で途上国や新興国に関する経済問題について、国際機関のリポートや学術的なペーパーなどを引用しつつ取り上げてみました。まだまだ日本国内での認知度や危機意識は高くありませんが、今年の世界経済を考える場合には重要なポイントとなる可能性を指摘しておきたいと思います。

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