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2011年3月31日 (木)

完全に過去の数字ながら明日発表の短観予測やいかに?

明日の発表を前に、シンクタンクや金融機関などから3月調査の日銀短観予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って業況判断DIを取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しました。いつもは先行きに注目しているんですが、東北大震災の影響について注目しました。なお、日銀が提示した回収基準日は3月11日でしたので、東北大震災やその後の原発事故は調査結果にはほとんど反映されていないと考えられます。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが閲覧、または、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別画面が開いてリポートが読めるかもしれません。見れば分かると思いますが、数字は上段から大企業製造業の業況判断DI、大企業非製造業の業況判断DI、3段目のカッコ内が大企業全産業の2011年度設備投資計画です。土地を含みソフトウェアは除かれています。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
12月調査先行き+5
+1
<n.a.>
n.a.
日本総研+5
+2
<+1.7>
消費マインドに左右されやすい小売、宿泊・飲食サービスなどの業種には、震災の影響が比較的早期に及ぶ可能性
みずほ総研0
▲3
<+2.4>
震災の影響は6月調査以降に表れてくると予想
ニッセイ基礎研+1
0
<▲1.2>
地震に関して生産設備の直接的被害や停電・インフラ被害による生産・物流への影響が出ていること、原発問題も含め被害の全容が見えていないことがマイナスの影響
第一生命経済研▲3
▲7
<+1.0>
1995年の阪神・淡路大震災は、製造業の業況判断が落ち込まなかったが、今回はより大きな悪影響が心配される
三菱総研+5
+4
<n.a.>
業況判断DI(大企業)は、製造業については、海外向けを中心に需要は拡大しているものの、幅広い商品価格の上昇を背景に収益環境が悪化しており、前回調査比横ばいを見込む
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+8
+2
<+1.8>
次回6月調査になると、震災が企業の生産活動や企業マインドに与える影響などが次第に明らかになっていくと思われる
みずほ証券リサーチ&コンサルティング+7
+3
<+2.0>
総じて業況判断は前回調査から小幅に改善すると想定
伊藤忠商事+7
+2
<+0.7>
昨年12月以降の輸出の緩やかな持ち直し及び生産回復を受けて、改善が見込まれる
富士通総研+7
+3
<+1.5>
業況判断DIは、製造業、非製造業ともわずかに改善すると見込まれる

3月統計とは言いつつ、最初に書いたように、回収基準日が3月11日ですから、ちゃんと出した会社は震災前の状況で回答していますし、震災で大きな影響を被った会社は回答すらままならないところもあるかもしれません。いずれにせよ、震災の被害はほとんど盛り込まれていない可能性が高いと受け止めるべきです。3月調査とはいえ、この短観もやっぱり過去の数字です。

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2011年3月30日 (水)

3月以降の鉱工業生産は震災被害と計画停電で大幅減か?

本日、経済産業省から2月の鉱工業生産指数が発表されました。市場の事前コンセンサスはわずかながらも減産を予想していたんですが、+0.4%の増産と4か月連続のプラスを記録しました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産指数、2月は0.4%上昇 自動車・機械けん引
経済産業省が30日に発表した2月の鉱工業生産指数(速報値、2005年=100)は96.4になり、前月比で0.4%上昇した。輸出向けの自動車や機械がけん引役になり、4カ月連続でプラスを維持した。ただ東日本大震災の影響で企業の生産活動が大幅に落ち込んでおり、民間予測によると、3月は前月比で1割程度低下するとの見方が強まっている。
経産省は生産の基調判断を「持ち直し」に据え置いた。ただ先行きについては「震災の影響に留意する必要がある」との見方を示した。
2月の生産指数を押し上げたのは輸送機械工業で3.4%の上昇。米欧向けの普通乗用車の生産が好調だったほか、国内向けの小型自動車も伸びた。一般機械工業もショベル系掘削機械が好調で2.4%上昇した。
在庫指数は101.8で1.5%の上昇。出荷指数は98.0で1.7%のプラスだった。
合わせて発表した製造工業生産予測指数は3月が1.4%上昇、4月が1.3%低下。ただ東日本大震災が発生する直前の10日時点で集計しており、震災の影響は反映していない。

鉱工業生産指数のグラフは以下の通りです。上のパネルは2005年=100の鉱工業生産指数そのもの、下のパネルは財別分類から輸送機械を除く資本財出荷指数です。いずれも季節調整済みの系列で、影を付した期間は景気後退期です。

鉱工業生産指数の推移

今さら、何を言っても仕方ないんですが、2月まで順調に踊り場を脱却して、年央くらいには本格的な景気回復局面に復帰する姿が確認されています。2月統計だけでなく、引用した記事にもある通り、製造工業生産予測指数で見て、少なくとも3月までは増産が見込まれていました。さらに、上のグラフに示した通り、資本財出荷も踊り場を脱する動きが見られ、設備投資にも光が差しつつあった段階だったのかもしれません。しかし、地震による被災とその後の計画停電により3月の生産は少なくとも1割程度の減産と多くのエコノミストは考えており、私なんかは減産幅が20%に達しても驚かないくらいです。加えて、1995年1月の阪神淡路大震災の際のようなV字回復も望めません。言うまでもなく、首都圏などにおける計画停電の影響です。

昨日の雇用統計と同様に今日の2月鉱工業生産指数も過去の数字です。一応、記録にとどめる意味でブログに取り上げましたが、ある意味で、2月の統計調査はすべて過去の数字ですから、1か月後に公表されるであろう3月統計、あるいは、それ以降の統計が注目されるところです。

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2011年3月29日 (火)

改善が進んだ2月の雇用統計は3月調査から震災被害と計画停電で悪化に向かうか?

本日、総務省統計局から失業率などの労働力調査が、厚生労働省から有効求人倍率などの職業安定業務統計が、それぞれ発表されました。いずれも震災前の2月の統計です。ヘッドラインとなる失業率は前月から0.3%ポイント改善して4.6%に低下し、有効求人倍率も0.01ポイント改善して0.62倍になりました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の失業率4.6%、前月比0.3ポイント改善
総務省が29日に発表した2月の完全失業率(季節調整値)は4.6%になり、前月比で0.3ポイント改善した。完全失業者数(同)は同19万人減の303万人だった。厚生労働省がまとめた2月の有効求人倍率(同)は前月よりも0.01ポイント改善して0.62倍になった。2月は景気が上向き、雇用の持ち直しが進んだ。ただ東日本大震災の影響で3月以降の雇用情勢は見通しづらい状況だ。
震災の影響で調査票が一部届かなかったため、2月の失業率の計算には岩手、宮城、福島の3県のデータが反映されていない。3県の調査票が全体に占める割合は3%だが、1月のデータについて3県を除いて推計してみたところ、失業率に差は出なかった。
2月の失業率は2009年2月(4.5%)以来の低水準だった。年齢別にみると、15-24歳が7.6%と前月比で0.7ポイント改善。25-34歳も0.9ポイント改善して5.5%になった。男女別では、女性が0.1ポイント悪化して4.3%になった一方、男性は0.5ポイント改善して4.8%だった。
ハローワークで仕事を探す人のうち、1人あたり平均何件の求人があるかを示す有効求人倍率は10カ月連続で改善した。ただ労働市場の先行きを映す新規求人倍率(季節調整値)は前月比0.03ポイント悪化して0.99倍だった。足元では震災の影響でハローワークの相談件数が増えているといい、厚労省は直近の雇用について「東北を中心に深刻な影響が出ている」との見方を示した。

まず、いつもの雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルから失業率、有効求人倍率、新規求人数です。いずれも季節調整済みの系列で、影を付けた部分は景気後退期を表しています。ただし、失業率について統計局のアナウンスによれば、「震災の影響により、岩手県、宮城県及び福島県の調査票を集計に用いることが困難な状況のため、当該3県以外の調査票を用いて集計」されています。職業安定業務統計については、特段のアナウンスはありません。念のため。

雇用統計の推移

実に緩やかなペースながら雇用統計は改善を続けて来たんですが、3月11日の震災の影響は短期的な雇用にはネガティブと言わざるを得ません。首都圏や東北の計画停電がこれから悪化に拍車をかける可能性もあります。すなわち、今日発表された2月の雇用統計は、被災3県を含めようと含めまいと、すべて過去の数字です。ただし、復興需要が本格化すれば、建設業や製造業を中心に雇用にプラスの影響をもたらす可能性は十分あります。下のグラフは季節調整していない原系列の産業別雇用者数の前年同月比増減をプロットしており、2月の統計でも製造業や建設業はいまだに前年同月比でマイナスが続いていますが、復興需要が本格化すれば、計画停電次第という面もあるものの、これらの業種の雇用者が増加する可能性が残されています。

産業別雇用者の推移

緩やかながら雇用統計が2月時点までは改善を続けている姿を確認できたのは貴重な情報と言えますが、繰返しになるものの、今日発表の雇用統計が過去の数字であるのは衆目の一致するところです。引用した記事にもある通り、東北地方を中心に、震災の影響により足元の雇用はすでに悪化に向かっている可能性があり、中長期的に復興需要は見込めるものの、短期的には計画停電でさらに拍車がかかる可能性も否定できません。

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2011年3月28日 (月)

代り映えせずマイナスの続く消費者物価と企業向けサービス物価

私が下の子の卒業式に出席していた先週金曜日、総務省統計局から消費者物価指数(CPI)が、また、日銀から企業向けサービス価格指数(CSPI)が、それぞれ発表されました。いずれもCPIの東京都区部速報を別にすれば、全国ベースでは2月の統計です。下の子の卒業式から週末にかけては、かなりのんびりと過ごしたため、経済指標なんぞは取り上げる気もせず、大幅に遅れまてしまいましたが、一応、このブログで記録に残す意味もありますので、簡単に振り返っておきたいと思います。まず、両統計を前年同月比で見て、生鮮食品を除く全国のコアCPIの前年同月比上昇率は▲0.3%、東京都区部の3月速報のコアCPIも同じく▲0.3%、企業向けサービス価格上昇率も▲1.0%と、いずれもマイナスを記録しました。ハッキリ言って代り映えしません。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価、2月は0.3%低下 「下落幅は縮小傾向」
総務省が25日発表した2月の消費者物価指数(CPI、2005年=100)は変動の大きい生鮮食品を除くベースで98.9となり前年同月に比べて0.3%低下した。24カ月連続のマイナスで、下落幅は前月に比べて0.1ポイント広がった。物価が継続的に落ち込むデフレの基調は変わっていないが、昨年10月以降、下げ幅が縮む傾向にある品目が増えていることから、総務省は「下落幅は縮小傾向にある」とした。
生鮮食品を含めた物価の総合指数は前年同月比で横ばいの99.3。食料とエネルギー価格を除いた総合指数(欧米型コア)は0.6%低下の96.8だった。ともに増減率は1月から横ばいだった。
品目別では資源高を受け、エネルギー関連が軒並み上昇。ガソリンが前年同月比7.2%、灯油が17.1%それぞれ上がった。一方で電気代は7カ月ぶりに低下した。
3月以降は東日本大震災の影響で、品薄になった食料や燃料の価格に上昇圧力が働くとの指摘もある。総務省は今後の物価動向の見通しついては「状況が刻々と変化しており、コメントできない」としている。
物価の先行指標である東京都区部の3月のCPI(中旬速報値)は生鮮食品を除いたベースで前年同月比0.3%低下した。調査日は9-11日で東日本大震災の影響はほとんど反映されていない。2010年度全体では、0.9%の低下となり2年連続のマイナスだった。
2月の企業向けサービス価格、29カ月連続マイナス
日銀が25日発表した2月の企業サービス価格指数(CSPI、2005年平均=100)は前年同月比1.0%下落の96.3と29カ月連続で下落した。マイナス幅は前月より0.1ポイント縮小。日銀は「昨年から1%台前半のマイナスで一進一退という傾向に変化はない」(調査統計局)と分析している。
企業向けサービス価格指数は不動産や輸送、情報通信など企業間で取引するサービスの価格動向を示す。
項目別にみると、低下に大きく影響したのは「広告」。自動車やサービス娯楽などのテレビコマーシャルが前の月に大きく増加した反動が出た。
一方、燃料価格の上昇の影響で外航タンカーがプラスに転じるなど、低下幅縮小につながる動きもあった。
11日に発生した東日本大震災の影響については、広告や運輸、労働者派遣サービスなどに影響を与えるとしながらも「どのような影響を与えるのかはわからないため、今後とも注意深く調査していきたい」(同)という。

次に、いつもの通り、生鮮食品を除くコア消費者物価の前年同月比上昇率上昇率は下のグラフの通りです。折れ線グラフは青が全国コアCPI、赤が食料とエネルギーを除く全国コアコアCPI、グレーが東京都区部のコアCPIです。棒グラフは全国コアCPI上昇率に対する寄与度の内訳をエネルギー、食料とその他に分けて示しています。

消費者物価の推移

繰返しになりますが、ハッキリ言って代り映えしません。しかし、消費者物価に関する政策部局ではない総務省が、基調判断めいて「下落幅は縮小傾向」と明言したように報じられています。単純に指数の前年同月比上昇率の最近の動向を言い表したものであると理解していますが、デフレとの関係でこのような表現をすることの適切さについて私はやや疑問に感じます。と言うのは、下落幅が縮小している要因は2つあって、第1にエネルギー価格です。中東における地政学的な要因も含めて、商品市況の高騰による物価上昇、と言うか、下落幅の縮小であるといえます。他方、デフレの原因についてはいくつか論じられていますが、少なくとも、私は寡聞にしてリーマン・ショック後の商品価格の下落が我が国のデフレを引き起こしたという説は聞いたことがありません。逆に言えば、商品価格の上昇では我が国のデフレは解消しないと考えるべきです。下落幅が縮小している第2の要因は計測誤差です。「計測誤差」と言うのは正しい用語ではないかもしれませんが、ラスパイレス指数の本質に起因する過大推計であると表現する方が正しいかもしれません。少なくとも、この第2の点について統計局は熟知しているハズです。そして、何度も書きましたが、多くのエコノミストのコンセンサスと同様に、、4月には高校実質無償化の▲0.5%程度の物価押下げ要因が剥落しますので、コアCPIはプラスに転じる可能性が高いものの、夏に基準改定があれば、大きく下方修正されると私は予想しています。

企業向けサービス価格の推移

上のグラフは企業向け物価のモノとサービスの両方をプロットしています。青の折れ線がCGPI、赤が昨日発表のCSPIです。参考としてプロットしたCGPIの国内物価は商品市況の影響を受けて、プラスに転じて、そのプラス幅を拡大しているように見えますが、いろんな物価指標の中で需給ギャップに最も敏感なCSPIはまだまだマイナスを続けています。CPIと同様に代り映えしません。

最後に、震災の物価に及ぼす影響ですが、中長期的には物価上昇要因になると私は考えています。しかし、短期にはいかにもケインズ経済学的な物価でなく数量での調整が主流となる可能性があります。計画停電なんかは典型的です。しかし、中長期的には単純に需給ギャップが物価をそれなりに決めると仮定すれば、震災による潜在産出の下方シフトと現実の需要の落ち込みを考えれば、特に、後者に復興需要を加味すれば、前者よりも後者の方が小さく、あるいは、前者はマイナスである一方で後者はプラスになる可能性も考えられ、需給ギャップは縮小し、震災の経済的帰結は中長期的に物価上昇に現れると考えるべきです。しかし、この震災に伴う物価上昇はデフレ脱却とは関係ないと受け止めるべきです。

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2011年3月27日 (日)

海外メディアに見られる震災後の日本のイメージ

海外メディアにおける震災後の日本のイメージについて、特に原発事故とは関係なく、いろいろと画像を集めてみました。主として日の丸をイメージするものを中心に選んだつもりです。単なる趣味の世界だったりしますが、一応、記録に残す目的もあります。でも、お手軽に済ませているのは事実です。

The Independent

まず、震災後に旬日を経ずして、もっとも日本人の共感を得た The Independent の表紙の画像です。3月13日付けの日曜版の表紙だったと記憶しています

Bloomberg Businessweek

次に、逆にもっとも日本人の反感を買ったのが Bloomberg Businessweek の先週号(3月21-27日)の上の表紙です。ニューヨーク総領事が抗議したと報じられたような記憶があります。

The Economist

Bloomberg Businessweek の表紙はひび割れたままの日の丸ですが、上の The Economist の先週号(3月19-25日)の表紙は落ちた日の丸を持ち上げようと努力する様子が描かれています。

The Economist

最後に、今週号(3月26-4月1日)の The Economist に Japan's disaster: A crisis of leadership, too と題した記事が掲載されています。その記事に並べてあったイメージは上の通りです。東京と福島で危機が共鳴しているのかもしれません。

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2011年3月26日 (土)

親子でトランプ遊び

子供達とトランプ遊び

下の子のリクエストで、今日は子供達を相手にトランプ遊びです。小学生の下の子が言い出したことですから、七並べで遊びます。私はともかく、おにいちゃんが下の子に説得されて、いっしょに遊ぶという構図だったりします。女房は早々に買い物に出かけてしまいました。最初はジョーカーなしでやっていたんですが、途中からジョーカーを入れるようになると、立て続けに下の子は最後にジョーカーが残るハメになってしまいました。やや難しいルールだったかもしれません。

どこかに出かけるわけでもなく、下の子の卒業式も終えて、子供達は本格的な春休みに入り、のんびりと過ごした春の一日でした。

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2011年3月25日 (金)

下の子の小学校の卒業式に行く

校長先生から小学校の卒業証書を渡される下の子

小学校の卒業式にて親子3人で記念撮影

今日は下の子の小学校の卒業式でした。誠にめでたい限りです。なお、4月から行く中学校は、すでに2月初旬の受験で決まっています。今日は仕事を休んで夫婦で小学校の卒業式に出ました。もちろん、中学校の入学式にも出るつもりです。
思い起こせば6年前の3月から4月にかけてのころ、私は役所で官房参事官なんぞと言う、ちょっと耳にする限りではエリート・コースに乗っているような誤解を与えかねないポストにあり、どうしても外せない仕事の都合のため、下の子の幼稚園の卒園式も、小学校の入学式も出席することがかないませんでした。その後、エリート・コースを滑り落ちたというわけではありませんが、まだ6年前の記憶が残っているだけに、今日の卒業式は感慨もひとしおでした。立派に成長してくれたことに感謝し、ここまで育てたことを誇りに思います

小学校卒業をめでたいとお考えであれば、上のジャンボくす玉をクリックして割って、我が家の下の子を祝ってやって下さい。

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2011年3月24日 (木)

輸出が回復を示した2月の貿易統計は過去の数字か?

本日、財務省から2月の貿易統計が発表されました。ヘッドラインとなる貿易収支は6541億円の黒字でした。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の輸出額9.0%増、中国向け伸びる 貿易統計速報
財務省が24日発表した2月の貿易統計速報(通関ベース)によると、貿易黒字額は前年同月比2.5%増の6541億円となった。黒字は2カ月ぶり。輸出額は前年同月に比べ9.0%増の5兆5886億円となり、15カ月連続のプラスとなった。1月に春節(旧正月)の大型連休の影響で伸び悩んだ中国向けが一転して大幅に増え、全体の伸び幅も拡大した。輸入額は9.9%増の4兆9345億円。
統計には東日本大震災の影響は含まれていない。財務省は3月以降の見通しについて「震災で一部の港湾や空港が損壊し、生産活動が停滞しているとも聞いている。特に注視したい」と輸出の鈍化に警戒感を示した。
2月の地域別の輸出動向ではアジア向けが前年同月に比べ12.3%増となり、2カ月ぶりに伸び幅が広がった。特に春節の影響の反動増があった中国は29.1%の大幅な増加。金属加工機械やディーゼルエンジンの輸出がけん引した。
欧州連合(EU)向けは前年同月比で12.7%増えた。フランス向けなど自動車輸出が伸びたほか、一時的な需給要因で英国向けの軽油も増えた。米国向けは2.0%増だったが、鉄鋼などが伸び悩み増加幅は1月より縮んだ。
輸入は中東・北アフリカの政情不安などを背景にした資源価格の上昇が押し上げ要因となり、原油は前年同月比17.1%、鉄鉱石が69.6%それぞれ輸入額が増えた。ただ、中国からの輸入が春節の影響で停滞したことなどから全体の輸入額は伸び悩んだ。

次に、いつもの貿易統計のグラフは以下の通りです。いずれも毎月の輸出入を折れ線グラフで、その差額たる貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしているんですが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計、下は季節調整済みの系列です。縦軸の単位は兆円です。

貿易統計の推移

1月統計で伸び悩んだ中国向けなどが、先進国向けとともに、ほぼ踊り場を脱して輸出は順調な伸びを示すようになったと受け止めています。ただし、これはあくまで震災前の過去の数字です。もしも、「震災なかりせば」という現実的でない前提を置けば、輸出の動向に影響を及ぼす指標を示すと以下の通りです。一番上のパネルは輸出金額指数の前年同月比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解したものです。真ん中のパネルは米国ISMの購買部指数(PMI)と輸出数量指数のそれぞれの前年同月比伸び率をプロットしています。最後の3番目はOECD先行指数と輸出の数量指数を、やっぱり前年同月比伸び率でプロットしています。ただし、OECD先行指数には3か月のリードを取っています。

輸出数量と関連指標の推移

輸出も含めて、震災がマクロ経済に及ぼす影響については、昨日の月例経済報告閣僚会議に「震災対応特別会合資料 -東北地方太平洋沖地震のマクロ経済的影響の分析-」として報告され、計画停電等の電力供給の制約を除いても、16-25兆円の損失が生じたと試算されています。基本的には、この資料に尽きていますが、短期的な震災のマクロ経済への影響には3つのルートがあり、計画停電がプラスアルファとして加わる可能性がある、また、中長期的には、インフラを含めたストック回復によりプラスに作用する可能性も小さくない、と私は考えています。短期的な影響につき、ルートの第1は、インフラを含めた資本ストック、すなわち、供給能力の減少ないし停滞です。ストック以外も含めれば、計画停電も生産能力への制約要因となると言う意味では同じ結果をもたらします。第2は、マインドの悪化や不要不急の消費の先送りなどを含めて、需要の減退です。もちろん、マクロの需要の減退であって、特定の品目については売上げを伸ばす可能性があることは否定しようがありません。第3に、これら需給要因にロジスティックな制約が加わります。ガソリン不足もこれに拍車をかける可能性があります。少し考えれば明らかですが、輸出については、第2の需要の減退の影響はほとんど受けません。海外需要にけん引されているからです。第1の供給制約は消費や投資などの他の需要項目と変わるところはありませんが、第3のロジスティックな制約は輸送すべき距離が長いだけに、より深刻な影響を受ける可能性があります。場合によっては、引用した記事にもある通り、他に何の要因がなくても、「港湾や空港が損壊」したために輸出が減少を余儀なくされる可能性も否定できません。

現時点で利用可能な情報からは、他の経済指標とともに、輸出の先行きについて断定的な見通しは申し上げられませんが、今後、徐々に明らかになるものと考えています。特定の製造業の製品では、我が国の企業がサプライチェーンの重要な一角を占めている場合も少なくないことから、この震災復興局面は世界に対して我が国経済の底力を見せるいい機会かもしれません。

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2011年3月23日 (水)

東野圭吾『麒麟の翼』(講談社) を読む

東野圭吾『麒麟の翼』(講談社)

東野圭吾『麒麟の翼』(講談社) を読みました。おにいちゃんが先に読んで、私に回って来ました。この作品については、家族のあり方を取り上げた『赤い指』と日本橋界隈の人情を題材にした『新参者』を融合させたような「加賀シリーズ最高傑作」と作者自身が豪語するだけあって、ホントに「最高傑作」かどうかは別にして、なかなかの出来栄えです。まず、出版社の特設サイトから著者メッセージを引用すると以下の通りです。

加賀シリーズの前作『新参者』を発表した後、次に書くものについて編集者たちと話し合うことにしました。自分としては、家族のあり方を問うた『赤い指』と人情を描くことに挑んだ『新参者』の両方の要素を取り入れられればいいな、と贅沢なことを考えていましたが、具体的なアイデアは何ひとつありません。とりあえず日本橋に行ってみようということになりました。東京に住んで長いのですが、日本橋をじっくりと眺めたことは一度もなかったからです。
上には悪評高い高速道路が通っていますが、石造の日本橋は、歴史の重みを感じさせる立派な橋でした。特に装飾の見事さは、ため息が出るほどです。それらを見ているうちに、ふと思いついたことがありました。この素晴らしい橋の上で人が死んでいたら、しかもそれが殺人事件だったらどうだろう、というものでした。
編集者たちに話したところ、すぐに食いついてきました。
「それ、面白いじゃないですか。どうしてそんなところで殺されたんですか?」
興味津々の顔で尋ねますが、私には答えられません。なぜそんな場所で殺されたのか?
それをこれから考えなきゃいけないわけです。
一体なぜだろう。彼あるいは彼女に何があったんだろう。私は何度も日本橋に足を運びました。そのたびに見上げたのが、橋の中央に設置されている麒麟の像です。繁栄を象徴する架空の動物ですが、この像にはさらにオリジナリティがあります。本来の麒麟にはないはずの翼が付けられているのです。ここから全国に羽ばたいていく、という意味を込めて付けられたそうです。
その由来を知り、二つの言葉が浮かびました。一つは「希望」、そしてもう一つは「祈り」です。今回の物語では、その二つの言葉に思いを馳せる人々を描こうと思いました。
帯には、「加賀シリーズ最高傑作」と謳っていることだろうと思います。その看板に偽りなし、と作者からも一言添えておきます。『赤い指』と『新参者』を融合させられたのではないか、と手応えを感じています。

ミステリですので、私なりに注意しているつもりですが、以下はネタバレを含む可能性があります。未読の方が読み進む場合は自己責任でご注意ください。まず、繰返しになりますが、『麒麟の翼』は加賀恭一郎シリーズの最新刊です。我が家ではおにいちゃをはじめとして、どちらかと言えばガリレオ・シリーズのファン層の方が厚いような気がしないでもありません。それはともかく、すでに10万部の増刷がかかっており、作者は増刷分の印税はすべて東北大震災の被災地へ救援金として寄付することを明らかにしています。舞台はこの前の『新参者』から日本橋に移っています。刑事にも人事異動はあります。権限ある公務員なんですから当然です。
日本橋の欄干にある翼をもつ麒麟像の下に倒れた被害者をめぐって、ミステリは進展します。被害者の財布を所持していた元派遣工員が、警官の職務質問から逃亡する際に交通事故で死亡し、企業の製造本部長だった被害者の労災隠しがクローズアップされる一方で、被害者の日本橋における想像外の行動に加賀が着目し、最後に、被害者の長男がかかわった3年前の中学水泳部の事故に起因する乱麻を解きほぐし、作者なりの正義観が、「正義感」ではなく正義観が示されます。中学教師の胸ぐらをつかんで発する加賀の言葉が耳に残ります。短期間とは言え、教鞭を執ったことにしている設定が活かされる場面かもしれません。また、真犯人については、読者によっては違和感を覚える人がいるかもしれません。しかし、ひとつの事件を事故に見せかけて隠してしまったために、別のの事件を起こす形になっているんですが、例えば、『悪の教典』では1人の殺人を隠すために担当クラスの生徒全員を殺そうとするストーリーのように、こういった連鎖的な犯行も考えられるわけで、私は「あり得る話」と受け入れました。ウソが破綻しそうになると、さらにウソを重ねるようなものです。加えて、2人の男の子を持つ私としては、父親の役割について考えさせられる小説でもあります。もっとも、子供のメールや手紙をのぞき見することが正当化されるとは思いませんが、親が子供についてより深く知ろうとする姿勢は重要だと言う気がします。月並みですが、そんなところでしょうか。

最後に、作者自身が「加賀シリーズの最高傑作」とうそぶいているんですから、反論はしませんが、少なくとも作家としての最高傑作ではありません。また、『どちらかが彼女を殺した』と『私が彼を殺した』もシリーズの中で別の意味で捨てがたい魅力があります。でも、文句なしの5ツ星のベストセラーですし、多くの方が本を手に取って読むことを願っています。作者も最後の扉に「著者は本書の自炊代行業者によるデジタル化を認めておりません」と明記していたりします。

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2011年3月22日 (火)

福島原発事故を海外メディアはどう報じているか?

東北大震災のひとつの帰結として世界が注目するのは福島原発の事故であることは内外の衆目の一致するところだと思いますが、ここ数日の海外の報道を見ている限り、国内メディアよりも危機感が大きいように見受けられます。あえて誇張して書けば、国内メディアには緊張感がやや欠ける一方で、海外メディアの方に危機感があふれています。今夜のエントリーはこの点に着目します。なお、いくつかのメディアのサイトにリンクを張っていますが、中には何らかの登録を要求されるサイトがあるかもしれません。悪しからず。

まず、正しい現状認識ですが、経済産業省の原子力保安院は国際原子力機関 (IAEA) の The International Nuclear and Radiological Event Scale (INES) 基準で評価すると、 基準2でレベル5に相当することを明らかにしています。暫定的な総合評価でもレベル5です。詳細は原子力保安院の3月18日の記者発表「東北太平洋沖地震による福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所の事故・トラブルに対するINES(国際原子力・放射線事象評価尺度)の適用について」をご覧ください。暫定評価ながら基準2でレベル5というのは米国スリーマイル島の事故に匹敵します。ですから、National Geographic のサイトでは、"For decades, Three Mile Island and Chernobyl have served as shorthand for the nightmare of nuclear power generation gone awry. In the wake of Japan's deadly earthquake and tsunami last week, the still-unfolding disaster of Fukushima Daiichi has come closer than any nuclear crisis in history to making it a fearsome trio."福島第1原発の事故をスリーマイル島やチェルノブイリに匹敵する3大原発事故として歴史に残るだろうと指摘しています。国内メディアでここまで緊張感ある記事は少なく、福島原発が大事故である認識に欠けているのではないかと誤解するほどのんびりした報道になっています。
なお、INES Scale を図示したものとして、以下の通り原子力安全基盤機構のサイトから引用します。

IAEA INES Scale

私が海外メディアを見ている限りにおいて、批判は2点あり、コトの重要性にかんがみて、第1に、事故からの復旧が遅い、ということであり、第2に、政府や東電の情報提供が十分でない、という点です。前者の批判を端的に表したのが Wall Street Journal の記事であり、私が見た最初には "Progress at Nuclear Plant Is Slow" なる、そのものズバリのタイトルだったんですが、今では "At Plant, Repair Is Painstaking Task" とマイルドな表現に改められています。確かに、放水する以外に何か手段がないのかと、シロートながら思わないでもないんですが、残念ながら、私は原発に関する技術的な専門知識を持ち合わせていませんので、第1の点は簡単にこれで済ませておきます。後者の第2の点の情報提供でも同じようなタイトル変更の事例があり、New York Times の記事では、当初 "Flaws in Japan's leadership deepen sense of crisis" としていたところ "Dearth of Candor From Japan's Leadership" に差し替えられました。でも、情報提供についてもっとも端的に表現したのは、来日した国際原子力機関 (IAEA) の天野事務局長の発言で、朝日新聞の記事を引用すると、海江田経済産業大臣との会談後に記者団に対し、日本政府などからの情報提供について、「もっと早く、もっと数多く、もっと正確な情報がほしい」と訴えた旨が報じられています。逆に言えば、それまでの政府や東電などからの情報提供は「遅くて、少なくて、不正確」だったと言うことになります。海外メディアでは Wall Street Journal の記事"Critics Focus on Accuracy of Nuclear-Plant Information" と批判していますが、かつての「大本営発表」は別の話としても、記者クラブなどを通じた官庁からのニュースソースに頼りがちな国内メディアでは、ここで取り上げたような海外メディアの視点が少し希薄ではないかと私は受け止めています。
この結果、内外メディアの論調の差が大きくなっています。例えば、Wall Street Journal の記事では "Japanese, Foreign Media Diverge" とのタイトルで、日本記者クラブの石川洋総務部長への取材に基づき、日本のメディアは "the Japanese media has a view the situation will be resolved" であるのに対して、海外メディアは "The foreign media is focusing on the other side - that this is getting out of control" であると結論し、内外メディアの見方が大きく異なることに着目しています。どちらの見方が正しいのかは早晩決着がつくことでしょうし、ホントのところは歴史的に判断するしかありませんが、情報提供に関する批判には真摯に耳を傾けるべき点が含まれているように感じています。

 March 11, 2011 northeast earthquake and tsunami
estimates
The 1995 Kobe earthquake
DamageEstimates range from $122 to 235 billion
(2.5 to 4 percent of GDP)
$100 billion
(around 2 percent of GDP)
Death toll15,214 (dead and missing)6,434
Cost to private insurance$14–33 billion$783 million
National budget for reconstruction$12 billion from current budget.
Much more in FY2011.
$38 billion over 2 fiscal years

最後に、誠についでながら、昨日、世銀のシンガポール事務所から日本の地震と津波の経済的な被害推計が発表されました。もっとも、世銀スタッフが独自に試算したものではなく、日本政府など諸機関の推計を取りまとめただけで、しかも、主眼は東アジアへの経済的な影響だったりします。出典は The recent earthquake and tsunami in Japan: Implications for East Asia と題するリポートです。何らご参考まで。

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2011年3月21日 (月)

家にこもって2000年以降くらいのジャズ・ピアノを聞く

この3連休は特に何もすることがありません。それでも、土日はお天気がよかったので外を出歩きました。私の持っている唯一のパーソナルな移動手段である自転車に乗って、ガソリンスタンドに長蛇の列を作っている自動車を尻目に、行ける範囲で図書館などに出かけました。しかし、今日の雨では出かけることも出来ずに家でブラブラしています。と言うことで、3連休の最初は本を、昨日の第2日目は映画を取り上げましたので、今日は音楽です。私の音楽シーンはジャズを中心に聞いていますが、独身のころはサキソフォンを含めたカルテットか、さらにトランペットなどのホーンを入れたクインテットのコンボが中心でした。オーケストラでジャズをやる時代でもありませんでした。その中でもコルトレーンは特別の位置を占めていました。でも、年齢とともに、体調が悪かったり、気分が落ち込んでいたりした時には、どうもコルトレーンは不向きになってしまい、チリに行ったころ、と言うか、バブルが崩壊したころからピアノ中心になって、さらに、ここ数年はエリック・アレキサンダーやハリー・アレンなどのテナーサックスに回帰する、という複雑な運動を経ています。それはともかく、今日のところは、近くの図書館で借りたのも含めて、この3連休で聞いたジャズ・ピアノ、特に2000年以降くらいの作品について取り上げます。

エディー・ヒギンズ「懐かしのストックホルム」Dear Old Stockholm

まず、極めて old-fashioned で standard なところはエディー・ヒギンズの「懐かしのストックホルム」Dear Old Stockholm です。今日のタイトルは「2000年以降くらい」としたんですが、1960-70年代のジャズそのままで、何とも言えません。このようなスタイルのピアノが好きになって来たと言うことは、要するに、年を取ったんだろうと思います。

スティーブ・キューン「誘惑」Temptation

基本的にエディー・ヒギンズと同じ路線だと思うんですが、スティーブ・キューンの「誘惑」Temptation です。ロマンティックでスタンダードです。ヒギンズと少し違うのは「内省的」とか、「翳りのあるリリシズム」とか表現されることで、「亡き王女のためのパヴァーヌ」Pavane for a Dead Princess は確かにそう言えますが、少なくとも後者について、このアルバムでは明るい演奏が聞けると私は受け止めています。もっとも、エディー・ヒギンズの演奏を「能天気」と考えているわけでは決してありません。

ニューヨーク・トリオ「星へのきざはし」Stairway to the Stars

さらに似通ったラインで、ニューヨーク・トリオ「星へのきざはし」Stairway to the Stars もあります。ピアノはビル・チャーラップです。このアルバムはこのトリオの最大のヒットとなりました。と言うのも、スイングジャーナル誌の読者のリクエストに応えたスタンダード曲を集めていますから当然です。演奏はいい意味で脂ぎっていて、元気よくてギンギンのノリに仕上がっています。気分が軽快になります。

レイチェル Z「愛は面影の中に」First Time Ever I Saw Your Face

かなり毛色の変わったところで、レイチェル Z の「愛は面影の中に」First Time Ever I Saw Your Face もなかなかの1枚に仕上がっています。レイチェル Z と言えば、エレクトリックな演奏で、ジャズとは言っても、スムーズ・ジャズとか、むしろフュージョンに近い印象もなくはないんですが、このアルバムはアコースティックでオーソドックスなジャズです。タイトル曲は言うまでもなくロバータ・フラックの大ヒット曲です。どうでもいいですが、ジャケット写真を見る限り、分野は違えど同じピアニストで、やっぱり私が大好きな小菅優さんと全体の雰囲気が似ているような気がしないでもありません。

チック・コリア「過去・現在・未来 」Past, Present & Futures

私が輸入盤で聞いたものですから、ジャケット写真は上の通りですが、チック・コリアの「過去・現在・未来 」Past, Present & Futures です。未来だけが複数形になっているのがミソだとどこかで読んだ記憶があります。チック・コリアなんて大御所の大ベテランだと思っていたんですが、1曲目からかなり複雑なリズムに乗せて難解な曲を斬新に弾きこなしています。1曲目の Fingerpsints のタイトルは言うまでもなく、ウェイン・ショーターがいたころのマイルス・デイビス・クインテットの Footprints を下敷きにしていると受け止めています。同世代にハービー・ハンコックやキース・ジャレットなどの俊英がいましたが、今ではチック・コリアばかり聞いているような気がします。ピアノソロの「スタンダード」と「オリジナル」も愛聴しています。

小曽根真「パンドラ」Pandora

最後に、日本人を代表して、と言うわけでもないんですが、小曽根真の「パンドラ」Pandora です。最近では、日本人ピアニストと言えば上原ひろみも注目度が高いんですが、やっぱり、私は小曽根や塩谷哲が好きです。このアルバムは全曲が小曽根自身かドラムスのクラレンス・ペンの作曲になるオリジナルです。小曽根と言えば、「ドラえもんの歌」を演奏したこともありますが、スタンダードを弾きこなすプレーヤーと言うよりも、コンポーザーやアレンジャーとしての能力が高いような気がします。大げさに言えば、前世紀初頭のマーラーのような存在なのかもしれません。同時代人はマーラーのことは偉大なる指揮者と受け止めていたようなことを何かで読んだ記憶があります。小曽根も100年後に作曲家として名を残している可能性があります。月並みな表現ですが、ともかくかっこいいです。

この3日間で聞いたジャズ・ピアノ、期せずしてトリオばっかりになりましたが、もちろん、これら以外にも、優れた演奏は多々あります。私が聞いたことがある範囲でも、デヴィッド・ヘイゼルタインの「不思議の国のアリス」Alice in Wonderland、あるいは、ハロルド・メイバーンの「ファンタジー」Fantasy などはオススメですし、聞いたことのない名演奏もいっぱいあると思います。ちゃんと確認していませんが、今日のエントリーで取り上げたCDはすべて、昨年廃刊になったスイングジャーナル誌のゴールドディスクに選ばれている気がします。なお、ジャケット写真は勝手ながら amazon の各ページから拝借しています。

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2011年3月20日 (日)

読書に飽きてDVDで「たそがれ清兵衛」を鑑賞する

DVD「たそがれ清兵衛」パッケージ

読書にも飽きて、今日は朝から自転車で近くの図書館に行って借りて来て、午後からDVDで「たそがれ清兵衛」を鑑賞しました。言うまでもありませんが、藤沢周平さんの短編集『たそがれ清兵衛』に収録された「たそがれ清兵衛」と「祝い人助八」、さらに、別の短編集に納められた同じ作者の「竹光始末」を基に映画化されています。私は最後の「竹光始末」は読んでいないんですが、短編集『たそがれ清兵衛』は愛読書のひとつであり、何度か読み返しています。ストーリーとしては「たそがれ清兵衛」よりは「祝い人助八」が中心になっている気がします。どうでもいいことですが、短編集『たそがれ清兵衛』の中では、2番目の「うらなり与右衛門」が私は一番好きだったりします。
映画として封切られたのが2002年11月2日ですから、我が家が一家そろって南の島のジャカルタでのんびり暮らしていたころです。当然、私はロードショウでは見ていません。いろんなデータを並べておくと、山田洋次監督が初めて手がけた本格時代劇であり、舞台は庄内地方海坂藩、主人公の井口清兵衛に真田広之さん、その後妻役の朋江に宮沢りえさん、ラストの音楽は井上陽水さんです。2002年度第26回の日本アカデミー賞において、助演女優賞などのごく一部を除いて、各部門の最優秀賞を総なめにし、今世紀における時代劇映画の最高傑作のひとつと言えます。
さすがに素晴らしい出来栄えでした。特に、最後の方の白眉となる余呉と清兵衛の果たし合いのシーンは、いきなり両者が酒を飲みながら話を始めるなど、原作にはない大胆な解釈が施されていて、それはそれで興味深いものがありました。ただし、原作は当然のように標準語で書かれているのに対して、「がんす」言葉が聞き取りにくかったのは致し方のないところでしょうが、清兵衛の家や果たし合いの場となった余呉の家が、私が想像していたような武家屋敷ではなく、まったくの農家そのものに見えたのには少し違和感がありました。でも、東北地方の下士の家はこんなもんだったのかもしれません。

ヒマに過ごしている3連休も2日目まで終えました。あすは雨らしいので、再び読書に戻るのかもしれません。

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2011年3月19日 (土)

3連休の予定がすべてキャンセルされて『カササギたちの四季』を読む

東日本大地震から1週間がたち、この週末の予定はすべてキャンセルされました。今日の土曜日は京都大学経済学部の同窓会東京支部の総会がある予定でしたが早々に延期となり、明日は、何と、東京電力の火力発電所トゥイニー・ヨコハマを見学に行くハズでしたが、実にごていねいなお断りの電話をいただきました。仕方ありません。家にこもって読書しています。

道尾秀介『カササギたちの四季』(光文社)

道尾秀介『カササギたちの四季』 (光文社) を読みました。この直木賞作家については、すでに2月26日に受賞作である『月と蟹』を取り上げましたが、実は、私が読んだのはこの1冊だけで、デビュー作の『背の眼』にさかのぼろうか、それとも受賞後第1作にしようかと考えていたところ、早々にこの『カササギたちの四季』が出ましたので買い求めて読みました。
主人公はリサイクルショップ・カササギに勤務する美大出身の日暮正生となっています。一応、副店長らしいんですが、店長の華沙々木丈助とは同級生です。寺の住職や中学生の女の子が日常的に登場します。日暮には買い取った中古品をリペアしたり、逆に古く見せかけたりして商品に仕立て直す技術があり、店長の華沙々木は『マーフィーの法則』の原書に詳しくてすぐに引用する、という設定になっています。この日暮や華沙々木の周辺で奇怪な事件が起こり、華沙々木がヘボ探偵として的外れな謎解きをする一方で、日暮がフォローに回る、と言うストーリーで、タイトル通り春夏秋冬の各季節の4話を収録しています。四季を通じた風景や登場人物の感情の動きをていねいに書きとめており、小説としてはなかなかすばらしい出来と私は受け止めています。

私はこの作者の作品は2冊しか読んでいませんが、謎解きはかなりライトなミステリですので別にして、華沙々木のようなキャラを登場させてユーモラスに物語を進めるエンタテインメント系の作品もあるんでしょうか。デビュー作の『背の眼』や『骸の爪』などはややホラーっぽいミステリとどこかで読んだ記憶がありますが、この作者の作品を読み進むのがますます楽しみになって来ました。

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2011年3月18日 (金)

地震後1週間を経た仕事と生活の変化について

東日本大地震から1週間がたち、仕事はともかく生活の方は私の場合それほど変化ありません。仕事については、年度末の会議や何やがほとんどキャンセルされ、被災した地方と連絡を取る職員は別にして、課長の私はややヒマになったような気がしなくもありません。もちろん、善後策については業務のプライオリティなどに応じて適切に予定などを再設定することとなります。
生活の方は大きくは変化ありません。中学生と小学生の子供達は、おにいちゃんは期末試験をすでに終え、下の子はとっくに中学受験を終え、ともに春休みを待つばかりの体制になっていますし、都心3区の港区在住と言うことで我が家は計画停電の影響をほとんど受けません。直接の停電はなく、間接的な影響を受けるだけです。
仕事と生活の間のインターフェイスである通勤に関しても大きな変化はありません。もちろん、計画停電の影響で地下鉄は間引き運転ですが、そもそも通勤時間が短いので大きな影響は受けていません。

東京電力の計画停電

東京をはじめとする首都圏において、日常生活にせよ、通勤や仕事にせよ、最も大きな影響を生じている原因は東京電力の計画停電です。現行のローテーションは上の通りで、時事通信のサイトから引用しています。4月いっぱいは計画停電を続けるようですが、その先に供給能力がどこまで回復するかは不透明です。
計画停電のない港区に住み、役所まで近距離を地下鉄で通勤している私なんですが、節電で大きく変化があったのは、節電のため庁舎のエレベーターが使えないことです。一応、私のオフィスは庁舎の最上階にあったりしますが、荷物などを除いて職員の上り下りは階段を使うこととされ、1日に2-3往復は階段を使っています。これはこれでタイヘンです。

最後に、今日の午前中に G7 の協調介入により円高是正がなされました。これは私も脱帽です。単独でもいいから早期の介入が望ましいと私は考えていましたが、G7 で協調介入するところまで話を持って行ったとは、さすがに我が国の優秀な財務官僚の力量を見せつけられた気がします。早期の単独介入より、このくらい遅れても市場に対しては G7 協調介入の方がインパクトが大きかったことは、素直に認めたいと思います。私が悪うございました。間違っていました。お詫びします。今後は反省しますが、相変わらず思い切ったことを書くような気がします。

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2011年3月17日 (木)

今週の「日経ビジネス」の画像をいくつか借用し、為替相場にも目を配る

日経ビジネス最新号「中高年は席を譲れ」表紙

世の中の報道が地震一色になっていて、経済情報が少ない状態になっています。ちょうど今週あたりは経済指標の発表の谷間に当たったために、さらに経済の話題が少なく、株価の乱高下と円高がクローズアップされる形になっています。ということで、今週の経済週刊誌のうち「日経ビジネス」3月14日号に着目したいと思います。表紙は上の通りで、カバーストーリーは「中高年は席を譲れ」と私の従来の主張をサポートしているように見えます。

日経ビジネス最新号「中高年は席を譲れ」イメージ

個別の記事を引用することはしませんが、全体の論調を割合と正確に示しているのが上の画像です。クリックすると別ウィンドウで pdf ファイルが見られます。表紙のバスを横から見た姿になっています。菅内閣総理大臣をモデルにしているように見えなくもない運転手さんが、中年以上がいっぱいバスに乗り込んでいる一方で、新卒者をはじめとして大量の若年層をバスに乗せることに失敗しているように見えます。もちろん、バスは「雇用」を象徴していると言う見方もあるかもしれません。なお、私は勤続25年超のキャリアの国家公務員ですが、私の想像通りであるなら、このバスに乗り込んでいるのであろうと思います。

円ドル為替相場の推移

最後に、上のグラフは今日の昼休み12時半過ぎの時点での円ドル為替相場の推移です。昨日の夕方からグラフに収められています。今日の早朝の時点で急速な円高が進んで1ドル76円台を付け、さすがに、その後は戻しましたが、ジリジリと円高が進んでいるのが読み取れます。日本の場合は海外資産の国内還流に伴う円転により、大規模地震で円高が進む経験則については、1995年の阪神淡路大震災の折のグラフも示しつつ、すでに一昨夜のエントリーで取り上げましたが、同時に、この円高に対して単なる「注視」ではなく、単独介入で立ち向かっても世界は理解を示してくれるだろうことも主張してあります。それとも、やっぱり電話ででも G7 を開催して理解を求めないと為替介入の決断も出来ないんでしょうか?

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2011年3月16日 (水)

福島第1原発に関する悲観論と楽観論

一昨日のエントリーで原発事故に関する情報提供のあり方について少し考えましたが、誠に悲しいことながら、官庁エコノミストである私には原発事故そのものの評価は専門外でサッパリ分かりません。一応、世間一般では米国の科学国際安全保障研究所 (ISIS) に代表される悲観論と MIT エンジニアの Brook 博士に代表される楽観論の間で揺れ動いているような気がします。前者は「福島第1原発の事故は INES レベル6に近く、不幸にしてレベル7に達するかもしれない」 "This event is now closer to a level 6, and it may unfortunately reach a level 7." と指摘し、後者は「重大な放射能の放出は今までもなかったし、これからもない」 "there was and will 'not' be any significant release of radioactivity" と結論しています。なお、INES レベルはゼロから7まであり、以下の通りです。毎日新聞のサイトから引用しています。

INES レベル

繰返しになりますが、私にはよく分かりませんので、引用元の出典のみ明らかにしておきます。見れば明らかだと思いますが、最初のリンク先は悲観論の代表である ISIS のステートメントであり、2番目は楽観論の代表である Brook 博士のブログの当該エントリー、最後はこの Brook 博士のブログの和訳です。あくまで自己責任で読み解いて下さるようにお願いします。

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2011年3月15日 (火)

どうして地震が起こると円高が進むのか?

地震が金融市場に及ぼすインパクトを考えると、東証の日経平均で見て、今日の株価は大幅な下落を示しました。他方、対ドルで見て、為替は昨日の日銀の流動性供給増までジリジリと円高が進んで、一時、1ドル80円の水準まで円高が進みました。

地震と為替レート

実は、大規模地震が生じると円高が進むと言う経験則があったりします。上のグラフの通りです。もちろん、すべての国の通貨に当てはまるわけではなく、日本円やその他の数少ない先進国の通貨だけだと私は受け止めています。と言うのは、大規模地震が本国への送金を引き起こすからです。海外資産を売却して円転して本国に送金する、あるいは、そうであろうと市場が期待する、というメカニズムです。
1995年1月の神戸地震の直前、1994年後半は1ドル100円ほどで安定していたんですが、地震があった後ほどなく円高が進んでいます。今回の東日本地震の場合、その前から長らく円高の傾向が続いて来ただけに、一段の円高となると厳しいものがあります。もっとも、現状では単独であっても為替介入を実施した場合、世界各国の理解を得やすいことは言うまでもありません。

他のトピックも浮かばないので、思いつくままに、大地震と経済に関する話題でした。

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2011年3月14日 (月)

原子力発電所の炉心溶融における政府の情報提供のあり方を問う

改めて地震や津波で被災された方々にお見舞いを、また、亡くなられた方々にお悔やみを申し上げます。被災地の早期の復旧を祈念しています。

さて、地震や津波に関しては一向に専門外で、東京大学や京都大学の地震研究所の先生方のお説は頭を素通りしてしまうんですが、やっぱり気になったのは原子力発電所に関する情報です。まず、以下の画像は朝日新聞のサイトから引用しています。福島第1原発及び第2原発からの避難範囲を示しています。

福島第一原発、待避範囲20キロ圏内に拡大

私はメディア論や心理学などはまったくシロートなんですが、情報は正確かつタイムリーであるべき、と考えています。「タイムリー」とは必ずしも「迅速」と同値ではありません。例えば、極端な例では、荻生徂徠が赤穂浪士の処分に関する議論について30年後に公表と柳沢吉保に進言した、と言われていますし、当時としてはタイムリーだった可能性があります。他方、正確性については客観的に担保されるべきであることは言うまでもありません。
しかし、福島第1原発については、第1に、正確性の点において、政府からの発表が混乱していたように私は受け止めています。12日夜の8時半ころの時点の枝野官房長官の発表を聞く限り、私は炉心溶融 = Meltdown が発生しつつあると私は理解しました。多くのメディアでもそのように報じられていたように記憶しています。しかし、その後の CNN では藤崎大使はメルトダウンを一所懸命に否定していました。両者を併せて見ている人も少なくないと感じましたが、明らかに政府から発表される情報は整合的ではありませんでした。その意味で、どちらかが間違っていて正確性に欠けていたと言えます。その後、枝野官房長官ではなく、藤崎大使から発表された情報に寄せる形で修正されたような気がします。政府による意図的な情報の隠匿や歪曲はなかったように感じていますが、落ち着いた時点で何らかの方法により検証する必要があるかもしれません。
第2に、タイムリーであったかどうかもやや疑問が残ります。私が20キロ避難を耳にしたのは夜の8時半ころでしたが、当然ながら、とっぷりと日は暮れていました。避難範囲が10キロから20キロに変更されたんですから、平均的に5キロ、最大で10キロの移動が要求されたわけですが、3時半過ぎに水素爆発があってから、この避難範囲の拡大がなされるのが5時間後であったと言うのはタイムリーとは言いかねます。停電している中で、せめて日没と言う自然現象くらいは認識すべきだったような気がします。
第3に、正確性に関連して、政府発表に使用した用語が適正であったかも考えるべきです。原発に関して「格納容器の健全性」くらいであればともかく理解出来ましょうが、後に「水素爆発」とより正しい表現に変更するのであれば、「爆発的事象」ではなく「水素爆発の可能性」といった分かりやすい言い方で国民に伝えるべきです。「炉心溶融」についても、CNN では明確に "meltdown" と表現しているんですから、日本語でも聞き慣れない専門用語より「メルトダウン」の方が国民の間により正確に伝わったように私は受け止めています。
特に、最後の点について、一般には分かりにくい専門用語を散りばめるのは、「よらしむべし、しらしむべからず」の時代の政府のやり方です。国民の側のリスクを受容する能力はかなり成熟した一方で、政府の側のリスクを発信する能力にそれほど向上が見られないと考えるのは私だけでしょうか。政府発表は国民の間でパニックを防止するためにもっとも重要な情報手段です。コスモ石油の事故に関するチェーンメールは私も受け取りましたが、こう言った種類の怪しげな情報に対抗するためには、正確な情報をタイムリーに提供するのがもっとも効率的です。これに失敗すれば、極めて非効率で強権的な実力行使によりパニックを防止するしかありません。また、政府の発表をメディアが咀嚼して国民に伝えるわけですが、メディアは国民の側で選択の余地が十分あり切換えコストも決して高くない一方で、少なくとも短期には政府の選択の余地は限られます。政府のより成熟したリスク管理能力と情報発信が求められます。

映画「チャイナ・シンドローム」と同時期に発生したことで知られるスリーマイル島の事故の後、米国は今に至るまで30年余りに渡って原子力発電所の新規建設が出来ていません。原発に関する正確でタイムリーな情報提供がなされないと、日本も同じことになる可能性があります。同時に、世界の目が日本の原発情報に集まっていることも見逃すべきではありません。

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2011年3月13日 (日)

警戒体制を通常モードに戻しつつ、女房の誕生日のお祝いでブッフェランチに行く

我が家では、今日から基本的に警戒体制をほぼ通常モードに戻しました。もちろん、まだまだ完全に警戒体制を解除するわけではありませんが、明日から、私はオフィスに行きますし、子供達は学校に行き、東京における通常の生活が始まりつつあります。
ということで、我が家は女房の誕生日を祝って、恒例のブッフェランチに出かけました。今年は少し目立たないところで、渋谷公園通りにある東武ホテル1階のベルデュールです。昨日の午後に電話して営業体制を確認し、ほぼ通常通りのメニューが可能とのことで出かけました。90分の時間枠の中で、何と、1時間以上にわたって我が家の4人しか客はいませんでした。完全に貸切り状態で、手厚いサービスを受けることが出来ました。そう言えば、渋谷も青山も人出は極めて少ないように感じましたし、私が朝から出かけた図書館近くのガソリンスタンドではハイオクもレギュラーも品切れ中と掲示してありました。我が家は勝手に通常モードに戻しつつありますが、世間一般はまだまだ復旧途上なのかもしれません。
下の写真はレストランのカンバンをバックに一家4人でで記念写真です。

女房の誕生日祝いでブッフェランチ

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2011年3月12日 (土)

貴志祐介『悪の教典』上下 (講談社) を読む

貴志祐介『悪の教典』(講談社)

昨日の地震の余震を警戒して、ほぼ1日中家にこもって、貴志祐介さんの『悪の教典』上下 (講談社) を読みました。英語タイトルは Lessons of the evil とされています。町田にある私立高校を舞台とするホラー小説です。怪物教師が同僚の教師や教え子である生徒を殺害しまくります。まず、講談社の特設サイトからあらすじを引用すると以下の通りです。

物語について
生徒に絶大な人気を誇り、
PTAや職員の間でも抜群に評判のいい教師が
反社会性人格障害(サイコパス)だったとき、
惨劇へのカウントダウンが始まった。

英語科教諭・蓮実聖司、32歳。

暴力生徒や問題父兄、淫行教師など、現代の学校が抱える病理に
骨まで蝕まれた私立高校で、彼は何を行ったのか。
高いIQをもつ殺人鬼は、"モリタート"の旋律とともに
犯行を重ねていく。

まったくどうでもいいことですが、作者の貴志祐介さんは京都大学経済学部のご出身で、私の後輩に当たる年代だとお見受けしました。年齢に大きな違いはありませんから、同じ教室で授業を受けていた可能性もあります。それは別にして、この作品を「ミステリ」と受け止める向きもあるかもしれませんが、私は「ホラー小説」であると勝手にカテゴリ分けしています。でももちろん、ミステリの要素もありますから、以下、ネタバレの可能性がありますので、未読の方が読み進む場合は自己責任で十分ご注意ください。
主人公の高校の英語教師である蓮見は、トマス・ハリスの生み出したハンニバル・レクター博士のような怪物です。私もホラー小説は詳しくなくて、トマス・ハリスの作品は『羊たちの沈黙』しか読んでいないので詳しくは分かりませんが、少なくとも何らかのインスピレーションを得ているような印象があります。また、中学生のころから殺人に手を染めた蓮見ですが、高校生のころの殺人の方法は、明らかにスティーヴン・キングの『It』冒頭のジョージ・デンブロウの死に方とまったく同じですし、他にもいくつかの典拠がありそうな気がします。ホラー小説に詳しい読者であれば、読書量の不足している私などよりももっと楽しめるのかもしれません。
1-3章は淡々と明るい学園生活が描かれ、その後、4-5章から蓮見の小学生のころにまでさかのぼって、蓮見のパーソナル・ヒストリーを解き明かすことにより、怪物性が明らかにされます。中学2年生の時には両親を殺害して、京都の親戚に引き取られます。京都大学に進学したものの物足りなく感じて1か月で退学し、米国のアイビーリーグ名門大学に進学して、米国の投資銀行に職を得ます。その投資銀行で蓮見の上を行く悪辣さを目の当たりにして、2度と米国には渡航できなくなり、東京で高校教員の職を得ます。前任都立高校での事件が蓮見の犯行であると示唆され、最後の方の10章で蓮見の担当である2年4組全員の殺害に走ります。この10章が最大のハイライトです。しかし、最後は生き延びた生徒や都立高校の事件に不審を抱く刑事により真実が明らかにされます。
連続殺人犯(シリアルキラー)のひとつの類型として、過去の犯行を隠ぺいするために次々と殺人に走ると言うのがあり、蓮見はこの典型だったりします。ある意味で、ウソツキと同じです。事実がウソと齟齬を来たして、次々とウソの上にウソを重ねて行かなければつじつまが合わなくなってしまいます。極めて metaphorical な意味では、経済のバブルも同じ傾きがあるのかもしれません。そして、「蓮実は矯正可能だったのか」と言う観点については、興味深い作者のインタビューが特設サイトにあることを紹介しておきたいと思います。これ以上の考察は私にはムリです。

最後に、こういった連続殺人モノのホラー小説が流行ると「青少年に対する影響」がやかましく言い立てられたりします。実は、我が家ではもうすぐ小学校を卒業する下の子がホラー小説のファンで、この『悪の教典』を読んでいたりします。私は父親として何の心配もしていないことを申し添えます。それよりも怖いのはテレビで繰り返し報じている原子炉溶融です。スリーマイル島からならチャイナ・シンドロームかもしれませんが、日本からなら「ブラジル・シンドローム」だったりするんでしょうか?

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2011年3月11日 (金)

巨大地震の日に徒歩で自宅に帰宅する

各地の震度

久し振りにものすごい地震でした。マグニチュード8.8は我が国の経験した地震としては史上最大級でしょう。なお、上の各地の震度は朝日新聞のサイトから引用しています。今日の午後、私は職場を離れて慶応大学の三田キャンパスで開催されたパネルデータ研究に関するシンポジウムに参加し、フロアから発表を聞いていたんですが、さすがに、やや年季の入った校舎で何度もあれだけ揺れるとほとんどの聴衆は外に避難しました。交通機関がバスを別にして電車は動いていませんので、役所に戻ることもかなわず、止むなく私は歩いて青山の自宅に帰宅せざるを得ませんでした。今日いっぱいくらいは電車は動かないように報じられています。他方、私が帰宅した後に、官房長官から職場待機がかかったとの報道があり、たまたまとは言え、自宅に帰宅できたのがよかったと言うべきか、どうなのか、やや悩ましいところです。
帰宅した時には、おにいちゃんがテレビを見て、下の子がネットで情報を収集しつつ、女房が避難の準備を進めていました。お風呂のバスタブに水を張って水を確保し、食料をおにいちゃんのリュックに詰め込んで、毛布を押入れから取り出して持ち出せるようにし、もちろん、玄関も含めて家のすべてのドアを開け放っていました。私と女房はジャカルタで子育てしましたから、何らかの危険に対処して避難する能力はそれなりに海外生活で鍛えられています。夜になって、我が家では自主的に緊急避難体制を解除しました。
それにしても、この緊急時に携帯電話を含めて電話がほとんど通じませんでした。自宅も職場も歩いている1時間ほどの間、全く連絡不通に陥りました。ようやく帰宅して固定電話が使えるようになったら、名古屋の叔父からのんびりと間延びした電話がかかってきたりしました。職場に連絡が取れたのは幸いでしたが、イザと言う時に余り携帯電話は頼りにならないものだと実感しました。

最後になりましたが、被災された方々には早くの復旧を祈念しております。

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2011年3月10日 (木)

わずかに下方修正された10-12月期GDP統計2次QEは過去の数字か?

本日、内閣府から昨年10-12月期のGDP統計2次QEが発表されました。先月発表された1次QEから設備投資を中心にわずかに下方修正され、ヘッドラインとなる季節調整済み系列の前期比実質成長率は1次QEと同じ▲0.3%でしたが、前期比年率では1次QEの▲1.1%から2次QEでは▲1.3%にマイナス幅がやや拡大しました。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を、いつもの日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

GDP、年率1.3%減に下方修正 10-12月実質
内閣府が10日に発表した2010年10-12月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質で前期比0.3%減、年率換算で1.3%減となった。速報段階と前期比では変わらなかったが、年率換算では1.1%減から小幅の下方修正となった。設備投資の伸びが速報値より低くなったことが背景で、マイナス成長は5四半期ぶり。
ただ足元では企業の生産や輸出が復調。1-3月期はプラス成長に転じ、景気が足踏み状態から脱するとの見方が強まっている。
改定値は、速報値の公表後に明らかになる法人企業統計などのデータを使ってGDPを推計し直した数値。日経グループのQUICKがまとめた民間調査機関の事前予想(年率換算1.3%減)と同じだった。
生活実感に近い名目GDPは前期比で0.7%減。年率換算では2.8%減となり、内閣府は速報値の2.5%減を下方修正した。
項目別にみると、設備投資は実質で前期比0.5%増と、速報値(0.9%増)から下方修正された。ただ5期連続のプラスは維持しており、緩やかな持ち直しの傾向は変わっていない。個人消費も0.8%減と、速報値(0.7%減)からやや下振れした。
内閣府の和田隆志政務官は記者会見で、今回の結果について「10-12月期は足踏みが続いたが、今年に入ってから持ち直していると思う」との認識を示した。
昨夏以降落ちこみが続いた鉱工業生産指数は、自動車の復調で11月から反転し、1月まで3カ月連続上昇。輸出も海外経済の復調で、アジアや米国向けを中心に持ち直し傾向にあり、日本経済が1-3月期に昨年10月から続く足踏み状態を脱するとの見方は強い。
ただ足元では中東・北アフリカの政情不安などを背景に原油や原材料価格が上昇。すでに企業物価や小売価格にも波及している。景気が復調しつつある中、内需は盛り上がりを欠くだけに、市況が企業収益や消費を圧迫すれば景気の持ち直しに水を差すリスクもある。

次に、いつものGDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者所得を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、アスタリスクを付した民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンクからお願いします。

需要項目2009/
10-12
2010/
1-3
2010/
4-6
2010/
7-9
2010/10-12
1次QE2次QE
国内総生産(GDP)+1.8+1.5+0.5+0.8▲0.3▲0.3
民間消費+1.0+0.5▲0.0+0.9▲0.7▲0.8
民間住宅▲4.0+1.6▲0.3+1.8+3.0+2.9
民間設備+1.6+0.7+2.9+1.4+0.9+0.5
民間在庫 *+0.0+0.7▲0.1+0.3+0.2+0.3
公的需要+1.2▲0.4+0.2▲0.2▲0.7▲0.6
内需寄与度 *+1.0+1.0+0.3+1.0▲0.2▲0.2
外需寄与度 *+0.8+0.5+0.3▲0.1▲0.1▲0.1
輸出+6.4+6.6+5.3+1.5▲0.7▲0.8
輸入+1.0+3.0+4.0+2.9▲0.1▲0.1
国内総所得(GDI)+1.6+1.1▲0.0+0.8▲0.2▲0.3
名目GDP+0.9+1.7▲0.6+0.6▲0.6▲0.7
雇用者報酬+0.3+1.4+0.5+0.5▲0.2▲0.1
GDPデフレータ▲2.4▲2.8▲1.9▲2.1▲1.6▲1.6
内需デフレータ▲2.4▲1.4▲0.9▲1.4▲1.0▲1.0

さらに、需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。季節調整済みの系列の前期比成長率に対する寄与度で、左軸の単位はパーセントです。棒グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された10-12月期の最新データでは赤い棒グラフの民間消費や黄色の公的需要がマイナスの寄与を示していることが読み取れます。

GDP統計の推移

今日発表の2次QEは1次QEからの修正幅が極めて小幅だったこともあり、完全に過去の数字と受け止められています。最大の根拠は、引用した報道に見られる通り、1-3月期にはプラス成長に転換し、今年の年央以降は再び景気回復軌道に復帰する、と多くのエコノミストが考えているからです。もっとも、私は前段の「1-3月期はプラス成長」というのには疑問を持っていて、輸出や生産に着目するだけでなく、消費に注目すれば1-3月期もまだまだマイナス成長を続ける可能性が十分残されていると受け止めています。もちろん、後段の「年央以降は景気回復軌道に復帰」については私も同感です。昨年10-12月期に続いて今年の1-3月期もマイナス成長だからと言って、いわゆる「2四半期連続のマイナス成長に基づく暫定リセッション認定の可能性」はまったく的外れであると考えるべきです。
先行きのリスクは、下振れ・上振れともに考えられ、下振れの方は第1に商品市況の高騰です。そうでなくても力強さに欠ける消費にさらに冷や水を浴びせるだけでなく、昨夜のエントリーで論じたように、より資源集約度の高い産業構造を有する新興国の景気減速を通じた日本経済へのダメージも決して無視できません。なお、商品市況高騰の原因として注目すべき要因として、中東などにおける地政学的なリスクとともに、新興国における景気過熱も一因となる可能性を見逃すべきではありません。第2に我が国の政情不安です。海外論調を見ている限り、リビアと日本の政権はどちらが先に倒れるか分からない、といった趣旨の報道すら一部に見受けられなくもありません。もちろん、政権がどうこうと私は思いませんが、予算関連法案の中には、もしも可決されないと、経済的なインパクトの小さくないものも含まれています。他方、上振れする可能性もゼロではありません。消費の動向次第です。決してサステイナブルではありませんが、家電エコポイント終了の3月末に向けた駆込み、7月の地デジ完全移行の際の駆込みはいずれも考えられますし、景気ウォッチャー調査に見られる国民マインドはかなり高まっていますから、スマートフォンに続いていくつかヒット商品が現れれば、いわゆる「節約疲れ」の反動が出ないとも限らず、何かのきっかけとともに消費が上向く可能性は決して小さくありません。

上振れ・下振れのいずれの目が出るにせよ、あるいは、基本シナリオ通りになるにせよ、今日発表のGDP統計2次QEは過去の数字と受け止められているように私には見受けられます。アナリストの相場観やエコノミストの景況感には特に影響はないと考えるべきです。

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2011年3月 9日 (水)

機械受注は資源高にどう影響されるか?

本日、内閣府から1月の機械受注統計が発表されました。ヘッドラインとなる船舶と電力を除く民需は7661億円と前月に比べて+4.2%増加しました。市場の事前コンセンサスが+2.5-3.0%増でしたので、かなり上振れました。いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の機械受注4.2%増 2カ月連続増、製造業けん引
内閣府が9日発表した1月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標となる「船舶・電力を除く民需」(季節調整値)は7661億円と前月に比べて4.2%増えた。増加は2カ月連続。化学工業など製造業からの受注が7.2%伸びたのが寄与した。一方、金融・保険業など非製造業は振るわず、受注額は2.7%減となった。
機械受注統計は3カ月ほど先の民間設備投資の動向を示す。日経グループのQUICKがまとめたエコノミスト見通し(中央値)は前月比3.0%増だったが、実績はこれを上回った。内閣府は受注動向の基調について「持ち直し傾向にあるものの、非製造業で弱い動きがみられる」との判断を3カ月連続で据え置いた。
受注額を業種別にみると、製造業では化学工業が前月比30.5%増加。熱交換器など化学機械の引き合いが増えた。非鉄金属など素材関連の受注も好調だった。一方、非製造業では通信業が携帯電話や電子計算機の落ち込みで11.6%減った。金融・保険業も34.5%減。受注動向は製造業と非製造業で明暗が分かれた。
民需とは別に公表された海外企業などからの受注を示す「外需」は、化学機械や通信機がけん引し1兆2411億円。世界経済の復調を受け、前月比で過去最高の伸びとなる71.4%増だった。

いつものグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需、いわゆるコア機械受注とその6か月後方移動平均をプロットしてあり、下は製造業、船舶を除く非製造業、外需の需要者別機械受注です。いずれも季節調整済みの系列で影を付けた部分は景気後退期です。

機械受注の推移

このコア機械受注の評価は難しいところだと私は受け止めています。単純にGDPベースの設備投資の先行指標ということであれば、前月比で大きくプラスを記録し、しかも、2か月連続のプラスというのは結構なことです。しかし、機械受注全体の需要者別を分析すると少し姿が違ってきます。引用した記事にもある通り、製造業が増加する一方で、非製造業が減少しており、さらに詳しく見ると、一般機械、電気機械、自動車・同付属製品などの我が国が競争力を持つ加工組立てセクターは軒並みマイナスを記録する一方で、化学工業+30.5%増、非鉄金属+94.7%増、金属製品+73.5%増と、商品市況の高騰などの資源高・原材料高に支えられた受注が目を引きます。コア機械受注から除かれている部分も入れると、造船業は112%増と前月比で倍増しています。我が国の産業構造、特に分野別の競争力を考慮すると、資源高・原材料高に支えられた受注増はサステイナブルかどうか疑わしいと考えるべきです。さらに、資源高がインフレ圧力とも相まって、原単位から見て資源集約的産業構造を有する新興国の景気拡大を阻害することとなれば、我が国が相対的に競争力を有すると考えられる加工組立てセクターの受注や生産にも悪影響を及ぼしかねません。ですから、資源高に支えられた機械受注の増加は、控え目に言っても、手放しで歓迎すべき現象ではあり得ません。今後の推移を注意深く見守る必要があります。

エコノミストの間でも決して主流の議論ではありませんが、資源高・原材料高については、先行きの日本経済を考える上で、単純に日本経済へのストレートな影響だけでなく、資源依存型の新興国経済が受けるダメージを経由した日本経済へのインパクトの観点も忘れるべきではありません。何らかの時間的なラグを伴って、資源高から新興国の成長減速、さらに、日本経済への悪影響の迂回ルートも併せて頭に入れておく必要があります。

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2011年3月 8日 (火)

一時的に貿易黒字が減少した経常収支と上昇基調を戻しつつある景気ウォッチャー調査

本日、財務省から1月の国際収支が、また、内閣府から2月の景気ウォッチャー調査の結果が、それぞれ発表されました。統計のヘッドラインなどを取りまとめた記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

2年ぶり貿易赤字 1月、原油高で過去2番目の大きさ
財務省が8日発表した1月の国際収支速報によると、モノやサービス、配当、利子など海外との総合的な取引状況を示す経常収支は4619億円の黒字だった。黒字幅は前年同月に比べ47.6%減少しており、中東情勢の緊迫化に伴う原油高の影響で輸入額が膨らみ、2年ぶりに貿易赤字に転落したことが響いた。
輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は3945億円の赤字で、赤字額は2009年1月(8448億円)に次ぐ過去2番目の大きさだった。
内訳をみると輸出額は2.9%増の4兆7562億円。米国向けは6.0%増と大きく伸びた一方、中国向けは春節(旧正月)の休業の影響で0.9%増と伸びが鈍かった。
輸入額は5兆1506億円で15.6%増えた。原油価格(円換算)が中東情勢の緊迫化や新興国の需要増などで6.8%上昇し、石炭など鉱物性燃料だけで2000億円以上輸入額を前年同月比で押し上げた。
貿易収支が悪化する一方で、投資による稼ぎを示す所得収支は海外株式の配当金が増え、1兆137億円と10.7%拡大した。
財務省は国際収支の今後の見通しについて「原油価格が高止まりすれば(経常黒字の減少として)響いてくるのは間違いない」としている。
2月の街角景気、2カ月ぶり改善 基調判断は据え置き
内閣府が8日発表した2月の景気ウオッチャー調査によると、街角の景気実感を示す現状判断指数は前月比4.1ポイント上昇の48.4と、2カ月ぶりに改善した。天候の回復で商店などへの来客数が増加したことに加え、エコカー補助金や家電エコポイントなど政策効果による反動減が収まってきたことを反映。海外からの受注増加も寄与し、指数を構成する家計、企業、雇用すべての分野が改善した。
2-3カ月先の先行き判断指数は横ばいの47.2だった。3月末の家電エコポイント制度終了前の駆け込み需要への期待や、求人増の動きがみられることから家計、雇用の指数は改善。一方、中東情勢や原材料価格高騰への懸念から、企業関連の指数は悪化した。
内閣府は基調判断を3カ月連続で「景気は、このところ持ち直しの動きがみられる」とした。現状判断は大幅に改善したものの天候の影響が大きく、原材料価格の高騰による影響を見極めたいとしている。
調査は景気に敏感な小売業関係者など2050人が対象。3カ月前と比べた現状や、2-3カ月先の景気予想を「良い」から「悪い」まで5段階で評価してもらい、指数化する。今回の調査期間は2月25日から月末まで。

次に、経常収支のグラフは以下の通りです。引用した記事が季節調整していない原系列の統計に基づいているのに対して、下のグラフは季節調整済みの系列ですから、少し印象が異なるかもしれません。青い折れ線が経常収支の合計で、この内訳を棒グラフで示してあります。色分けは凡例の通りですが、上に引用した記事にあるように、1月統計は季節調整していない原系列で貿易収支が赤字を記録している一方で、下のグラフに見られるように、季節調整済みの系列でも貿易黒字は大きく減少しています。

経常収支の推移

貿易黒字が大きく減少した背景は輸出入の両方にあります。輸出の方は中国の春節が2月上旬に控えていたために1月中の中国向け輸出が伸び悩んだためであり、輸入の方は商品市況の高騰により原油をはじめとする一次産品の輸入額が増加したためです。前者は一時的な影響で済む可能性が高いと考えられますが、後者はより persistent であろうと考えられます。しかし、貿易統計や経常収支を論評するたびに私が繰り返している主張は、国内生産や輸出のために必要な輸入が存在する限り、何らかの輸入増加はあり得るわけですから、景気動向を見極めるためには輸出により注目すべきである、という意見です。2月23日付けのエントリーで貿易統計を取り上げた際と同じで、私の考えるメインシナリオは、輸出は踊り場を脱却して伸びが加速しつつある段階にあり、その動きが昨年と同じ春節効果などによって一時的に停滞しているだけで、年央くらいまでに増勢を取り戻す、という見方です。貿易収支を離れて他の収支項目に目を転ずると、投資収益収支は引き続き我が国の企業が海外で稼いでいる姿をよく表していると受け止めています。

景気ウォッチャー調査の推移

次に、景気ウォッチャー調査の結果は上のグラフの通りです。赤の折れ線グラフが現状判断DI、水色が先行き判断DIです。影を付けた部分は景気後退期です。先行き判断DIは前月と同じ水準だった一方で、現状判断DIは前月からかなり大幅に上昇し、全体として上昇基調に戻りつつあるように見えなくもありませんが、「景気は、このところ持ち直しの動きがみられる」と、基調判断は据え置かれました。何と言ってもマインド調査ですから、細かな循環を繰り返しながら、方向として上昇をしばらく続けるんではないかと私は見ています。上昇が続くとそのうちに基調判断も修正されるんだろうと思います。

このブログの昨夜のエントリーで景気動向指数を取り上げて、現政権の行方が景気の先行きリスクになる可能性について論じましたが、日経新聞のサイトで、景気ウォッチャー調査を記者発表した際、内閣府の和田政務官が「国内政治の情勢も潜在的な懸念材料」と述べたと報じられています。もちろん、予算関連法案の早期成立を目指す一連の牽制球なんだろうと解釈されているようですが、予算や予算関連法案を駆引き材料にした与野党のチキンレースの行方次第では日本経済に暗雲が差しかねないことは、政府内でも広く認識されているようです。

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2011年3月 7日 (月)

高水準に達した景気動向指数について先行きリスクを考える

本日午後、今年2011年1月の景気動向指数が発表されました。ヘッドラインとなるCI一致指数は前月より2.5ポイント上昇して106.2を記録しました。CI先行指数も上昇していますし、DI一致指数も88.9となりました。内閣府は基調判断について、単なる「足踏みを示している」から3か月後方移動平均が2か月連続で上昇したことを引いて「足踏みを示している。ただし、…(中略)…改善に向けた動きも見られる」と変更しています。半ノッチの上方修正と言えます。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の景気一致指数上昇 基調判断15カ月ぶり上方修正
過去最高の水準

内閣府が7日発表した1月の景気動向指数(CI、2005年=100、速報)によると、景気の現状を示す一致指数は前月比2.5ポイント上昇の106.2と3カ月連続で改善し、過去最高水準となった。基調判断は前月の「足踏みを示している」から「足踏みを示している。ただし、改善に向けた動きもみられる」と2009年10月以来15カ月ぶりに上方修正した。
自動車や鉄鋼などの輸出の持ち直しで鉱工業の生産財出荷指数や生産指数、製造業の残業時間など生産関連の指数が改善。有効求人倍率などの雇用関連の指数も上昇したことがCIを押し上げた。
数カ月後の景気の先行きを示す先行指数は0.9ポイント上昇の101.9。景気後退懸念がやわらぎ、3カ月連続で改善した。景気に数カ月遅れる遅行指数は、1.0ポイント低下の87.8だった。

続いて、いつものグラフは以下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数、下はDI一致指数をそれぞれプロットしています。いずれも影を付けた部分は景気後退期です。

景気動向指数の推移

あるいは、グラフから読み取れるかもしれませんが、1月速報のCI一致指数106.2という水準はリーマン・ブラザーズ証券破綻をきっかけとする Great Recession 前の2007年8月の105.2を一気に抜き去り、統計を取り始めてからの最高値を記録しました。もちろん、景気動向指数は付加価値額に基づく鉱工業生産指数などと違って経済活動の水準そのものを示すわけではありませんが、それにしても、現下の冴えない景況感とズレを生じていることは事実です。
今日発表の統計について、いわゆる「速報資料」と呼ばれている解説メモを見ると、速報段階のために未発表でトレンド成分を通じた寄与のみが計上されている営業利益(全産業)と稼働率指数(製造業)を除いて、CI一致指数に対するプラスの寄与度が大きい1次統計が3本あり、それぞれ+0.41の寄与を示しています。鉱工業生産財出荷指数、所定外労働時間指数、中小企業売上高(製造業)です。逆に、低い方から3本を取ると、商業販売額(卸売業)▲0.09、投資財出荷指数(除輸送機械)+0.04、商業販売額(小売業)+0.20となります。実は、12月指数でマイナス寄与を示していたのもこの3項目ですので、1月指数だけの特殊要因とも考えられません。すなわち、先月2月28日付けのエントリーで鉱工業生産を取り上げた際にも疑問を呈しておいたように、最終需要に基づいた景気なのかどうかが疑わしいと私は受け止めています。生産したのはいいが、売れ残って在庫が積み上がるだけでは意味がありませんから、もう少し先行きを見極めたい気がします。
従来から、最大の先行きリスクは為替であると私は主張し続けて来ましたが、3月に入って現政権の行方もリスクになる可能性が高まりつつあります。例えば、昨日の前原外務大臣の辞任は海外メディアでも取り上げられ、世界的なインパクトがあった気がします。特に、普天間問題もあって米国の反応が気がかりです。米国メディアでもやや右寄りの Wall Street Jpurnal のサイトでは、"Japanese Foreign Minister Seiji Maehara resigned Sunday over illegal political donations from a foreign national, dealing a blow to Prime Minister Naoto Kan's faltering government and threatening to hinder Japan's efforts to smooth ties with the U.S. and other key diplomatic partners that have become frayed in recent months." と、pro-American であった同盟国の外務大臣の辞任を伝えています。

基本的な今年の景気シナリオは、すでに踊り場からの脱却は確実であり、年央くらいから本格的な景気回復軌道に復帰するものと考えていますが、まだまだ、先行きリスクが完全に払拭されているわけではありません。

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2011年3月 6日 (日)

丸善日本橋店の世界の万年筆展に行く

今日の午後、丸善日本橋店に出かけて、第2回世界の万年筆展を鑑賞して来ました。昨年が第1回だったらしいんですが、私はまだ長崎在住でしたから訪れるチャンスを逃してしまいました。
副題は「手書きのぬくもり」となっています。展覧会と言うよりも、展示販売会のようなものだったんですが、私は「世界の」と言う表現につられて、やや古いパーカーの万年筆を持ち込んで、金属ボディの少し黒ずんで来た部分をリペアするにはどうすればいいかと相談しました。やおら、パーカーのコーナーの人が取り出したのは、何の変哲もない普通の消しゴムでした。「もっともボディにダメージが少ない」と言いつつ、消しゴムで黒ずんで来ている部分をこすると、完全にきれいにはなりませんが、十分に見栄えのする光沢を取り戻しました。インクか何かが取り付いたのではないか、ということで、ボディのサビが下から浮き上がって来てしまえばダメだが、汚れが上から取り付いているのであれば何とかなる、と教えてもらいました。6ケタ、ウン十万円の万年筆を展示販売している横で、パーカーのソネットという超普及版・大衆版で、4ケタ、数千円しかしない万年筆の汚れをリペアしてもらうのは気が引けたんですが、かなりきれいに戻していただきました。大感謝です。
江戸時代の武人の得物と言えば、刀や槍などの武具だったのかもしれませんが、現代に生きる文官の得物と言えば、私くらいの世代までは、筆記具も含めたいわゆる文具とか文房具であろうと私は考えています。20-30年前までは万年筆が中心とは言わないまでも、少なくとも象徴的な存在であったのではないでしょうか。義務教育期はともかく、ある程度成長して、大学進学祝いとか、就職祝いで万年筆を贈る、と言ったこともあったように記憶しています。さらにその前は、筆と算盤だったかも知れません。でもさすがに、21世紀に入った現時点では、筆記具としての筆は言うまでもなく、万年筆も後景に退いて、書く方ではボールペンが主流になった気がします。私自身は、何かの折に記念でちょうだいしたペン、例えば、チリから帰国する際に日本チリ商工会議所からいただいたパーカーのボールペン、長崎大学から東京に戻る際にもらったクロスのボールペンなどを重宝しています。この先、我が家の子供達なんかの世代では、ひょっとしたら、そもそも文具が廃れて、サラリーマンの必需品はスマートフォンやタブレット端末などが主流になるのかもしれません。

薄給の私にはとても手が出ませんでしたが、高級万年筆を間近で見る機会があり目の保養になるだけでなく、私の普及版万年筆をきれいにしていただく実利もあって、誠に感謝しても感謝し切れない結構なイベントでした。丸善で何も買わないのは気が引けましたので、東野圭吾さんの最新刊『麒麟の翼』(講談社) を買って帰りました。

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2011年3月 5日 (土)

米国雇用統計のグラフィックス

昨日、米国の労働省から米国雇用統計が発表されました。ヘッドラインとなる非農業部門雇用者数は季節調整済みの前月差で+19.2万人増、うち民間部門は+22.2万人増となり、失業率も0.1ポイント低下して8.9%を記録しました。いずれも季節調整済みの統計です。まず、Wall Street Journal のサイトから記事の最初の4パラを引用すると以下の通りです。

Employment Data Signal Economic Improvement
Private-sector job creation in the U.S. accelerated in February and unemployment fell below 9% for the first time in nearly two years, the latest signs of an improving economy.
Nonfarm payrolls rose by 192,000 last month as the private-sector added 222,000 jobs, the Labor Department said Friday in its survey of employers. The January number was revised to show an increase of 63,000 jobs, from a previous estimate of 36,000.
The unemployment rate, which is obtained from a separate household survey, fell to 8.9% last month, the first time it dipped below 9% since April 2009 and a substantial decline from November's 9.8%. Still, there are about 13.67 million people who would like to work can't get a job.
Economists surveyed by Dow Jones Newswires had forecast payrolls would rise by 200,000 and that the jobless rate would inch up to 9.1% from the previous month's 9%.

続いて、いつものグラフは以下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減、下は失業率です。いずれも季節調整済の系列で、影をつけた部分は景気後退期です。

米国雇用統計の推移

続いて、New York Times のブログサイトである Economix をまねて私が書いた jobless recovery のグラフは以下の通りです。それぞれ景気後退期直前の雇用者数のピークからの雇用者数の変化を示しています。2008-09年のリセッションでは雇用の落ち込みが極めて厳しく、その後の回復もはかばかしくないことが読み取れます。前回の IT バブル崩壊後の景気後退も jobless recovery と呼ばれましたが、一段と雇用情勢は厳しくなっています。Reinhart=Rogoff などが指摘するように、金融危機を伴った景気後退の特徴のひとつです。我が国でも同じことが言えます。

jobless recovery

雇用が回復するには、今しばらく景気の本格的な拡大を待たねばならないのかもしれません。でも、「1に雇用、2に雇用、3に雇用」と雇用重視の立場を明確にした菅総理大臣には何か「腹案」があるのかと期待しておりましたが、まだ明らかにはなっていないようで残念です。

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2011年3月 4日 (金)

来週発表の10-12月期GDP2次QEはやや下方修正か?

内閣府による来週3月10日の発表を前に、昨日発表された法人企業統計などGDP統計2次速報に必要な経済指標がほぼ出尽くし、各シンクタンクや金融機関などから2010年10-12月期の2次QE予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、2次QEですので簡潔な解説が多かったのは事実です。可能な範囲で今年1-3月期以降に関する見方を取ったつもりです。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートがダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別画面が開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE▲0.3%
(▲1.1%)
n.a.
日本総研▲0.7%
(▲2.7%)
小幅下方修正となる見込み
みずほ総研▲0.5%
(▲1.9%)
1-3月期は個人消費の持ち直しなどからプラス成長に転じる見通し
ニッセイ基礎研▲0.4%
(▲1.5%)
下方修正されると予想
第一生命経済研▲0.4%
(▲1.7%)
景気認識に修正をもたらすものにはならない
三菱UFJモルガン・スタンレー証券▲0.3%
(▲1.1%)
「景気は、すでに持ち直している」との認識に変わりはない
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.4%
(▲1.6%)
小幅に下方修正される見込み
三菱総研▲0.2%
(▲0.7%)
1次速報値から+0.1%ポイント(年率+0.3%ポイント)の上方修正を予想
伊藤忠商事▲0.4%
(▲1.4%)
10-12月期に続き、1-3月期も個人消費には多くを見込めないだろう。1-3月期の成長率について、輸出主導により年率2-3%の高成長を見込む予測機関が多いが、若干目線を下げる必要が出てきているのではないか。

唯一、三菱総研が1次QEから上方修正されると予測しているのに対して、三菱総研を除く各機関は下方修正を見込んでいます。私も同じです。主因は昨日発表された法人企業統計で明らかになった設備投資と在庫です。しかし、三菱総研も含めて、昨年10-12月期がマイナス成長であったことはほぼ合意があります。問題は先行きであり、従来から主張している通り、私は上の表の中では最後の伊藤忠商事に近い見方をしています。1月の家計調査は季節調整済みの前月比で実質プラスでしたが、10-11月のエコポイント制度変更前のテレビの駆込み需要にけん引された消費水準には届かず、1月の輸出も思ったほどは振るいませんでしたし、生産の増産は出荷とともに在庫の伸びを高めた印象がありますから、これらの最終需要の動向を考え併せると、1-3月期はマイナス成長の可能性が残されていると私は考えています。もちろん、三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所と同じように、景気はすでに踊り場を脱しているとの景気認識は共通しており、2四半期連続のマイナス成長によるリセッション認定は論外と考えていますが、商品市況の動向や為替などの海外に起因するリスク要因だけでなく、国内需要の動向にもまだまだ目が離せないと受け止めています。

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2011年3月 3日 (木)

法人企業統計に見る企業活動の踊り場脱却

本日、財務省から昨年2010年10-12月期の法人企業統計が発表されました。ヘッドラインとなる売上高、営業利益、経常収支などは季節調整していない原系列の前年同期比で増収増益を記録し、季節調整値が公表されている売上高、経常収益、設備投資も前期比でプラスとなりました。まず、いつもの日経新聞のサイトから主として設備投資に着目した記事を引用すると以下の通りです。

10-12月の設備投資3.8%増 法人企業統計、2期連続
財務省が3日発表した2010年10-12月期の法人企業統計によると、企業の設備投資は前年同期比3.8%増の9兆2412億円と、2期連続でプラスになった。スマートフォン(高機能携帯電話)の需要拡大などが投資を押し上げた。売上高は4.1%、経常利益は27.3%それぞれ増加し、4四半期連続で増収増益を維持した。ただ中東・北アフリカの政情不安を受けて原油価格が上昇するなど、1-3月期以降は懸念材料も出ている。
法人企業統計は企業の収益や設備投資などを調べる統計で、四半期調査では資本金1000万円以上の企業の仮決算をまとめる。足元で原油価格が1バレル100ドルを突破したが、10-12月期は1バレル85ドル程度にとどまっていた。このため財務省は今回の結果について「引き続き改善傾向だが、中東情勢の変化があるので今後の動きを注視したい」と分析している。
産業別の設備投資動向をみると、製造業は前年同期比13.0%増と、2期連続プラスになった。スマートフォン向けメモリーの生産拡大で情報通信機械の投資額が増加。自動車向けリチウムイオン電池の増産をにらんだ電気機械も好調だった。一方、非製造業は0.5%減と、4期ぶりにマイナスに転じた。景気の先行きへの不透明感から卸売・小売業や運輸・郵便業で投資が減った。
参考系列として財務省が試算した季節調整値の前期(7-9月)比でも0.7%増と小幅のプラスだった。10日発表の実質国内総生産(GDP)の設備投資の改定値は、速報値の0.9%増と大きく変わらないとの見方が強まっている。
売上高は348兆9443億円、経常利益は13兆2114億円で、ともに季節調整値での前期比でもプラスだった。昨年9月のエコカー補助金終了で業績悪化が懸念されていた輸送用機械業は新興国や米国向けの輸出が好調で、売上高、経常利益とも前年同期比でプラスを確保した。

次に、法人企業統計調査の主要指標をプロットしたグラフは以下の通りです。上のパネルは左軸に対応する売上高と右軸の経常利益、下はソフトウェアを除く設備投資です。単位はいずれも兆円ですが、上に引用した新聞記事とは異なり、季節調整済みの系列ですから、少し印象が異なるかもしれません。

法人企業統計の推移

明らかに、10-12月期には企業部門から踊り場を脱していたことが統計で裏付けられたと私は受け止めています。売上高、営業利益、経常利益、設備投資などの注目される指標が、一度は7-9月期にやや弱い動きを示した部分もあるものの、10-12月期にはかなり本格的に回復していることが読み取れます。季節調整していない原系列で見て、売上高げ、経常利益は製造業・非製造業ともに増収増益を示しましたが、設備投資については製造業で増加したものの、非製造業では減少となりました。最近の機械受注統計と整合的な動きを示していると見ています。特に、私がもっとも注目しているのは経常利益の回復です。利益が設備投資にかなり密接に相関していると考えています。

労働分配率の推移

設備投資とともに注目される要素需要は雇用なんですが、上のグラフは季節調整していない原系列の指標から擬似的に私が労働分配率を算出した結果をプロットしています。すなわち、人件費を経常利益と減価償却費と人件費の和で除した比率です。オレンジの折れ線が算出結果そのもので、濃い茶色はその4四半期後方移動平均です。2010年1-3月期から2四半期連続で上昇しましたが、10-12月期は低下しています。移動平均で見ると傾向的に低下しているのが見て取れます。10-12月期の労働分配率はほぼ2004年後半の水準に達しました。今年に入って、年央くらいから雇用の本格的な回復が望める可能性があると私は考えています。もっとも、雇用と設備投資を国内で実施するとの前提ですから、懸念材料は為替です。

最後に、来週3月10日に発表される10-12月期の2次QEについて、引用した日経新聞の記事にある通り、設備投資はほとんど修正がないと考えられます。軽く下方修正されるぐらいではないかと私は予想しています。

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2011年3月 2日 (水)

『TPP反対の大義』(農文協ブックレット) を読む

『TPP反対の大義』(農文協ブックレット)

『TPP反対の大義』(農文協ブックレット) を読みました。今夜のエントリーでは、主として、PART 1を取り上げたいと思います。まず、どうして読んだのかというと、冒頭に宇沢弘文先生が「TPPは社会的共通資本を破壊する: 農の営みとコモンズへの思索から」という論文を寄稿されているからです。我が国でもトップクラスの学識と経験をお持ちのエコノミストである宇沢教授がTPPに反対であることは広く知られており、その理由がいわゆる「社会的共通資本」の考えに基づいていることも多くの関係者に認識されています。他方、エコノミストの末端に位置する私は、ごく単純に、自由貿易は世界及び各国の経済厚生を増加させるが、産業や地域によっては「得をする」部門と「損をする」部門があるので、何らかの補償あるいは生産要素のスムーズな移動が必要である、と考えています。私が宇沢教授のTPPに対する見方を知りたいと考えたのも当然です。
私の単純な教科書的な思考に対して、宇沢論文では、「自由貿易の命題」が成立するためには、社会的共通資本の否定、いくつかの非現実的な前提、すなわち、生産手段の完全な私有制、生産要素の可塑性、生産活動の瞬時性、外部性の不存在などが必要と論じられています。しかしながら、宇沢教授はもっとも社会的共通資本を重視しているように私には見受けられます。明記はされていないものの、社会的共通資本の外部経済効果を重視し、農業や農村が提供している社会的共通資本の外部経済効果はTPPに伴う経済効果を上回る、という主張であるように私には見受けられました。パクス・アメリカーナと市場原理主義とか、コモンズとしての農村などの主張もありますが、経済厚生に限定して読むと私のような解釈も可能であろうと思います。もちろん、私なりの解釈であって、より正確には宇沢教授の論文をキチンと読んで解釈すべきであることは言うまでもありません。私のこの要約をもって宇沢教授の論文を読んだ気になって論ずることは厳に控えるべきです。さらに、宇沢教授の論文も含めて、このブックレットのいくつかの論文は、TPPに関する態度のいかんにかかわらず読むべきです。もちろん、「自分に損だから反対」という論調もいくつか見受けらることは当然です。私はそのあたりは読み飛ばしました。
私の専門分野からすれば、自由貿易は途上国の経済発展に寄与する面が強調されており、例えば、自由貿易の評価や農業保護コストの算定などは、世銀やアジア開発銀行などから発行されている以下のリポートなどを参考にしてきました。例えば、Meade-Lipsey Model のフレームワークによる理論的な評価とか、GTAP Model をシミュレーションした実践的な結果とかが取りまとめられています。

基本的に、先進国における自由貿易の経済効果や農業保護のコストも同じであり、世界経済における分業体制の中で、我が国がどのような位置を占めているのかを生産要素賦存の観点から分析すべきである、と私は考えていますが、社会的共通資本やその他の農業の外部経済効果が十分考慮されていない可能性については、少なくとも宇沢教授の主張は正しい可能性があります。ついでながら、繰返しになりますが、社会的分業と生産要素賦存の観点からの議論を国内にも適用するよう提起しているのが私の立場であることは明らかでしょう。

最後に、このブックレットを読んでいて、発見したことがあります。すなわち、TPP賛成=親米=マニフェスト見直し=脱小沢が一連のグループ化されており、逆に、TPP反対=反米=マニフェスト尊重=親小沢が別の流れとして論じられています。もちろん、貿易自由化の政治経済学、あるいは、農業保護の政治経済学というものは、TPPを考える際に議論されて然るべきですが、ここまで話題を広げるとは、目からウロコが落ちたと言うか、目に色メガネをかけさせられたと言うか、そのような気分になってしまいました。

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2011年3月 1日 (火)

雇用の改善が余りに遅い!

本日、1月の雇用統計が発表されました。このブログの今夜のエントリーで「雇用統計」と呼んでいるのは、失業率などを含む総務省統計局の労働力調査、有効求人倍率や新規求人数などを含む厚生労働省の職業安定業務統計、さらに、所定外労働時間や賃金指数を含む厚生労働省の毎月勤労統計です。エントリーによって定義が異なる場合があります。雇用統計のヘッドラインに注目すれば、失業率は前月と変わらず4.9%でしたが、有効求人倍率は少し改善して0.61となりました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

雇用回復なお緩やか 1月の失業率、4.9%で横ばい
求人倍率は0.03ポイント上昇

総務省が1日発表した1月の完全失業率(季節調整値)は4.9%となり、前月と同じ水準となった。失業者が前月比2万人減と小幅な改善にとどまった。厚生労働省が同日まとめた1月の有効求人倍率(同)は前月から0.03ポイント上昇し0.61倍になった。景気が足踏み状態から脱しつつある中で雇用情勢も持ち直しが進んでいるが、回復の動きは緩やかなものにとどまっている。
完全失業率は15歳以上で働く意欲がある人のうち職に就いていない人の割合。年齢別にみると、15-24歳の若年失業率が前月に比べ0.6ポイント低下の8.3%、25-34歳も0.1ポイント低下の6.4%だった。若年者向け雇用対策が奏功しているとみられる。一方で65歳以上の失業率は0.5ポイント上昇し3.0%になるなど中高年の雇用情勢は悪化した。
季節調整値でみて、男女別の失業率では女性が0.1ポイント低下の4.2%、男性は0.1ポイント低下の5.3%だった。完全失業者数は前月に比べ0.6%減の322万人だった。就業者数は前月に比べ17万人増え6269万人となった。
ハローワークで仕事を求める人1人当たりに平均何件の求人があるかを示す有効求人倍率は9カ月連続で上昇した。労働市場の先行きを占う新規求人倍率(季節調整値)は前月から0.03ポイント改善し1.02倍となった。厚労省は雇用情勢について「持ち直しの動きが広がりつつあるが依然として厳しい」との判断を据え置いた。

まず、雇用統計のそれぞれのグラフは以下の通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数、所定外労働時間指数(5人以上事業所)の推移です。すべて季節調整済みの系列で、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

雇用統計の推移

上のグラフにお示しした4指標のうち、有効求人倍率と所定外労働時間指数は景気動向指数の一致指数に採用されており、また、新規求人数は先行指数に、失業率は逆サイクルで遅行指数に取り入れられています。上の3指標、すなわち、失業率、有効求人倍率、新規求人数はともに改善傾向にありますが、その水準が低過ぎます。というか、失業率だけは逆サイクルですので、水準が高過ぎます。ですから、4番目の指標の所定外労働時間指数、これはほぼ残業時間に相当しますが、この残業が増えません。従って、給与の伸びもリーマン・ショック後の大幅な落ち込みからの反動が一巡すると、すっかり横ばい気味に戻ってしまいました。以下のグラフの通りです。毎月勤労統計の賃金指数の前年同月比を取っています。季節調整する前の原系列の前年同月比上昇率です。

賃金指数の推移

リーマン・ショック後に余りに賃金が下がり過ぎましたので、その後の反動で増加する局面が続いているものの、昨年暮れくらいまでで反動もほぼ一巡し、賃金上昇は一段落してしまっています。リーマン・ショック後の下げ幅に比較して、昨年いっぱいくらいの上げ幅が相対的に小さく、結果として、賃金水準は下がっていることが読み取れます。ですから、グラフは示しませんが、今日、総務省統計局が発表した家計調査でも1月の消費支出は実質で前年同月比▲1%の減少を記録し、昨日取り上げた商業統計の小売も冴えない展開になっています。景気回復が雇用につながらず、賃金などの所得をサポートしませんから消費も盛り上がりに欠ける、という循環が続いています。あくまで私の直感ですが、雇用も設備投資も国内ではなく海外で実行している企業が多そうな気がします。円高も一因になっているのかもしれません。

産業別雇用者数の推移

最後に、上のグラフは産業別の雇用者数について、季節調整していない原系列の前年同月差増減をプロットしています。昨年9-10月くらいには製造業も含めて雇用者が増加し始める兆候が見えましたが、このところの推移を見ている限り、まだまだ本格回復にはほど遠いと私は受け止めています。

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今日は女房の誕生日!

今日は女房の誕生日です。めでたいと思われる向きはクリックして特大くす玉を割って下さい。
いつもの通り、後日、ブッフェ・ランチでお祝いします。

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