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2011年3月23日 (水)

東野圭吾『麒麟の翼』(講談社) を読む

東野圭吾『麒麟の翼』(講談社)

東野圭吾『麒麟の翼』(講談社) を読みました。おにいちゃんが先に読んで、私に回って来ました。この作品については、家族のあり方を取り上げた『赤い指』と日本橋界隈の人情を題材にした『新参者』を融合させたような「加賀シリーズ最高傑作」と作者自身が豪語するだけあって、ホントに「最高傑作」かどうかは別にして、なかなかの出来栄えです。まず、出版社の特設サイトから著者メッセージを引用すると以下の通りです。

加賀シリーズの前作『新参者』を発表した後、次に書くものについて編集者たちと話し合うことにしました。自分としては、家族のあり方を問うた『赤い指』と人情を描くことに挑んだ『新参者』の両方の要素を取り入れられればいいな、と贅沢なことを考えていましたが、具体的なアイデアは何ひとつありません。とりあえず日本橋に行ってみようということになりました。東京に住んで長いのですが、日本橋をじっくりと眺めたことは一度もなかったからです。
上には悪評高い高速道路が通っていますが、石造の日本橋は、歴史の重みを感じさせる立派な橋でした。特に装飾の見事さは、ため息が出るほどです。それらを見ているうちに、ふと思いついたことがありました。この素晴らしい橋の上で人が死んでいたら、しかもそれが殺人事件だったらどうだろう、というものでした。
編集者たちに話したところ、すぐに食いついてきました。
「それ、面白いじゃないですか。どうしてそんなところで殺されたんですか?」
興味津々の顔で尋ねますが、私には答えられません。なぜそんな場所で殺されたのか?
それをこれから考えなきゃいけないわけです。
一体なぜだろう。彼あるいは彼女に何があったんだろう。私は何度も日本橋に足を運びました。そのたびに見上げたのが、橋の中央に設置されている麒麟の像です。繁栄を象徴する架空の動物ですが、この像にはさらにオリジナリティがあります。本来の麒麟にはないはずの翼が付けられているのです。ここから全国に羽ばたいていく、という意味を込めて付けられたそうです。
その由来を知り、二つの言葉が浮かびました。一つは「希望」、そしてもう一つは「祈り」です。今回の物語では、その二つの言葉に思いを馳せる人々を描こうと思いました。
帯には、「加賀シリーズ最高傑作」と謳っていることだろうと思います。その看板に偽りなし、と作者からも一言添えておきます。『赤い指』と『新参者』を融合させられたのではないか、と手応えを感じています。

ミステリですので、私なりに注意しているつもりですが、以下はネタバレを含む可能性があります。未読の方が読み進む場合は自己責任でご注意ください。まず、繰返しになりますが、『麒麟の翼』は加賀恭一郎シリーズの最新刊です。我が家ではおにいちゃをはじめとして、どちらかと言えばガリレオ・シリーズのファン層の方が厚いような気がしないでもありません。それはともかく、すでに10万部の増刷がかかっており、作者は増刷分の印税はすべて東北大震災の被災地へ救援金として寄付することを明らかにしています。舞台はこの前の『新参者』から日本橋に移っています。刑事にも人事異動はあります。権限ある公務員なんですから当然です。
日本橋の欄干にある翼をもつ麒麟像の下に倒れた被害者をめぐって、ミステリは進展します。被害者の財布を所持していた元派遣工員が、警官の職務質問から逃亡する際に交通事故で死亡し、企業の製造本部長だった被害者の労災隠しがクローズアップされる一方で、被害者の日本橋における想像外の行動に加賀が着目し、最後に、被害者の長男がかかわった3年前の中学水泳部の事故に起因する乱麻を解きほぐし、作者なりの正義観が、「正義感」ではなく正義観が示されます。中学教師の胸ぐらをつかんで発する加賀の言葉が耳に残ります。短期間とは言え、教鞭を執ったことにしている設定が活かされる場面かもしれません。また、真犯人については、読者によっては違和感を覚える人がいるかもしれません。しかし、ひとつの事件を事故に見せかけて隠してしまったために、別のの事件を起こす形になっているんですが、例えば、『悪の教典』では1人の殺人を隠すために担当クラスの生徒全員を殺そうとするストーリーのように、こういった連鎖的な犯行も考えられるわけで、私は「あり得る話」と受け入れました。ウソが破綻しそうになると、さらにウソを重ねるようなものです。加えて、2人の男の子を持つ私としては、父親の役割について考えさせられる小説でもあります。もっとも、子供のメールや手紙をのぞき見することが正当化されるとは思いませんが、親が子供についてより深く知ろうとする姿勢は重要だと言う気がします。月並みですが、そんなところでしょうか。

最後に、作者自身が「加賀シリーズの最高傑作」とうそぶいているんですから、反論はしませんが、少なくとも作家としての最高傑作ではありません。また、『どちらかが彼女を殺した』と『私が彼を殺した』もシリーズの中で別の意味で捨てがたい魅力があります。でも、文句なしの5ツ星のベストセラーですし、多くの方が本を手に取って読むことを願っています。作者も最後の扉に「著者は本書の自炊代行業者によるデジタル化を認めておりません」と明記していたりします。

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