昨夜のエントリーで少し触れたように、本日、経済産業省から鉱工業生産指数が、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、総務省統計局から消費者物価指数と家計調査が、さらに、昨日、経済産業省から商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも震災をまたいだ3月の統計です。生産については季節調整済みの前月比で▲15.3%減の減産となり、家計調査の消費支出も季節調整していない原系列の前年同月比で実質▲8.5%を記録しました。いずれも過去最大の落ち込みとなっています。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
3月の鉱工業生産指数、過去最大のマイナス幅
経済産業省が発表した3月の鉱工業生産指数のマイナス幅はリーマン・ショック後の2009年2月(8.6%)を上回り、1953年1月の統計開始以来過去最大になった。経産省は基調判断を初めて「急激に低下」に引き下げた。ただ4月と5月の生産は上昇を予測しており、先行きについては「回復していく見込み」とした。
3月の生産指数は事前の市場予測の中心値(10.6%低下)を大幅に下回った。地域別に見ると、被災地はマイナス31.9%、被災地以外は13.5%だった。被災地以外の低下が全体に与えた影響が約8割を占め、震災でサプライチェーンが寸断された結果、被災地以外にも減産が波及した。
全業種で生産指数が低下した。低下の5割は輸送機械工業が46.4%減少した影響だった。なかでも普通乗用車と小型自動車の減産率は50%を超えた。一般機械工業もマイナス14.4%と6カ月ぶりの減少。3分の2の工場が被災地にある半導体製造装置は34.1%の減産だった。
今後の生産は回復してゆく見通しだ。同日発表した製造工業生産予測調査によると、4月は3.9%上昇、5月は2.7%上昇する。予測通りなら5月の鉱工業生産指数は88.4となる。
4月予測は輸送機械工業が7.6%上昇。自動車各社のサプライチェーン修復が進んでおり、3月の大幅な落ち込みから反転する。一般機械工業や電気機械工業もそれぞれプラスに転じる見込みだ。5月は生産の回復が一段と広がる見通し。全11業種のうち、鉄鋼業や化学工業などを含めた9業種がプラスになると予測している。
今回の調査は、東日本大震災の被災地9県194市町村にある約1000の事業所も対象に含めた。このうち約1割が調査票の提出などできなかったために推計値を作成したほか、連絡の取れなかった16の事業所はデータを「0」として生産指数などを作成した。
消費支出、8.5%減 過去最大の落ち込み
総務省が28日発表した家計調査速報によると、2人以上の世帯の消費支出は29万3181円で、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比8.5%減少した。下落率は比較可能な1964年以来、最大の落ち込みとなった。東日本大震災後に自粛ムードが広がり、自動車などの買い控えが響いた。
総務省は基調判断を「大幅に減少した」とし、前月までの「このところ弱含んでいる」から下方修正した。
項目別に見ると、消費支出を最も押し下げたのは自動車購入など交通・通信で、14.4%減少した。大震災後の買い控えのほか、昨年9月のエコカー補助金終了の影響も出た。教養娯楽は18.7%減った。自粛ムードの広がりで、国内パック旅行費や宿泊料への支出が大きく落ち込んだ。
一方、大震災の影響で買いだめが起こり支出が伸びた品目もあった。コンロ用ガスボンベなど「他の光熱のその他」は242.2%増と急増。電池やミネラルウオーターも2倍以上の伸びを示したが、消費支出の押し上げ効果は限定的だった。
失業率、横ばいの4.6% 3月、就業者数は46万人減
東北3県は反映せず
総務省が28日発表した3月の完全失業率(季節調整値)は4.6%となり、前月に比べ横ばいとなった。就業者数が前月に比べ46万人減り、雇用情勢の改善に足止め感が出ている。厚生労働省が同日発表した有効求人倍率は前月と比べ0.01ポイント高い0.63倍となる一方、雇用の先行指数となる新規求人数は前月比7.1%減となった。労働市場にも東日本大震災の影響が出ている。
細川律夫厚生労働相は同日の閣議後記者会見で労働市場の現況について「4月(の結果)は3月より悪くなるのではとの懸念がある」と雇用の悪化を予測。厚労省として雇用対策に全力を挙げる考えを示した。
完全失業率などを示す労働力調査は3月から被災地の岩手、宮城、福島の3県で実施が困難な状況のため、当面、被災3県を除いた値で結果を公表する。3県の調査対象が全国に占める割合は5%と小さい。ただ、今後の労働力調査で被災地の雇用情勢がうまく反映されない可能性はある。
3月の就業者数は5983万人となり、前の月に比べて0.8%減少した。働く人が減ったのは4カ月ぶりで、落ち込み幅は2009年3月以来の大きさだ。一方で非労働力人口は4278万人と前月比1.1%増えた。雇用情勢の悪化から職探しをあきらめた人が増えている可能性がある。
ハローワークで仕事を探す人のうち、1人あたり平均何件の求人があるかを示す有効求人倍率は11カ月連続で改善した。ただ、雇用の先行指数となる新規求人数は09年2月以来となる悪化幅となった。
同日発表した2010年度平均の完全失業率(被災3県除く)は5.0%となり、前年度に比べ0.1ポイント低下となった。完全失業者数は312万人と前年度に比べ13万人減った。有効求人倍率は0.56倍と前の年度に比べ0.11ポイント上昇した。
3月の全国の消費者物価0.1%下落 25カ月連続マイナス
総務省が28日朝発表した3月の全国の消費者物価指数(CPI、2005年=100)は、生鮮食品を除く総合が99.4と、前年同月比0.1%下落した。下落は25カ月連続。ガソリン価格や電気代の上昇で、交通・通信、光熱・水道が上昇したため、下落幅は前月の0.3%から縮小した。
生鮮食品を含む総合は99.6と、前年同月比横ばいだった。野菜の高騰が落ち着いた。
4月の東京都区部の消費者物価指数(中旬の速報値、05年=100)は、生鮮食品を除く総合が99.0と0.2%上昇した。高校授業料の無償化の影響が一巡したことで、09年3月以来25カ月ぶりに上昇に転じた。ただ、総務省では「無償化の影響を除くとまだマイナスが続いている」としている。
生鮮食品を含む総合は99.1と0.1%下落した。ただ、鶏卵価格が「震災の影響で供給が減少し近年にないような値上がりを見せている」(総務省)ことなどにより、下落幅は前月の0.2%から縮小した。
先行きについては「高校授業料の無償化の影響が、公立高校が多い全国で都区部よりも強く出てくる。ガソリンの高騰や電気代の上昇の影響も効いてくるだろう」としている。
3月の小売店販売額6.7%減、コンビニ9.1%増 震災の影響鮮明
経済産業省が27日発表した3月の商業販売統計によると、大型小売店の販売額は前年同月比6.7%減の1兆5076億円となった。3月11日の東日本大震災の発生で不要不急の支出を手控えた消費者が多く、百貨店の販売額は15.4%の大幅な減少。一方、乾電池やカップ麺などの買いだめ需要が膨らんだコンビニエンスストアの販売額は9.1%増えており、大震災の影響が販売動向を大きく左右した。
百貨店では主力商品である衣料品が19.8%の大幅減となり、比較可能な1980年以来で最大の下げ幅を記録した。大震災で消費者に自粛ムードが広がったほか、計画停電で休業や営業時間の短縮に踏み切ったことも響いた。地域別の動向では東北地方が43%の大幅減、関東地方も23.7%減少した。
大型小売店ではスーパーの販売額も前年比1.5%減少した。衣料品が19.3%減だったことが影響したが、主力の飲食料品が2.5%増えた。
百貨店などの大型小売店とは対照的に、3月の販売額が伸びたのはコンビニ。地震への警戒などから消費者が飲食料品や日用品の買いだめに走ったためとみられ、乾電池やマスク、たばこなど非食品が22.2%増加したほか、カップ麺などの保存食を含む加工食品が4.2%増加した。
大型小売店やコンビニなどを合計した小売業全体では3月は前年比8.5%減の11兆2460億円となった。
今後の販売動向について、経産省は「ヒアリングによると、大型店では3月下旬に比べると客足が戻ってきている」と指摘。販売額が23%の減少となった首都圏の百貨店についても「4月は減少幅が10%前後にとどまりそうだ」との見通しを示した。
次に、グラフを並べて行きたいと思います。グラフのトップを切って、最も注目度の高い鉱工業生産指数は以下の通りです。2005年=100となる鉱工業生産指数そのものの季節調整済みの系列です。影をつけた部分は景気後退期となっています。あまり定かではありませんが、リーマン・ブラザーズ証券破綻後の傾きよりも大きなスロープで減産を記録しました。過去最大の落ち込みです。4月と5月は予測指数では増産が示唆されていますが、電力供給などにも依存しそうな気がします。なお、一昨日4月26日の公表ですが、経済産業省から「東日本大震災後の産業実態緊急調査」及び「サプライチェーンへの影響調査」も公表されています。ご参考まで。

次に、いつもの順番では雇用統計なんですが、失業率が被災3県を除いて推計されたりしていることもあり、消費関連指標を取り上げると、下のグラフは昨日公表された商業販売統計の推移です。赤のグラフが小売、青が卸売です。上のパネルは季節調整していない原系列の前年同月比伸び率、下は季節調整した2005年=100の指数となっています。上のグラフの前年同月比で見て、卸売販売は3月に増加しましたが、小売販売は大きく減少しました。

さらに、家計調査の消費指数は以下の通りです。緑が名目、赤が実質の2005年=100となる季節調整済みの指数値を取っています。上に引用した記事では季節調整していない原系列の前年同月比で統計開始以来最大の落ち込みと報じていますが、震災の影響により一時的なまとめ買いはあったものの、マインド悪化に伴う消費の落ち込みはかなり大きいと受け止めています。

次に雇用統計のグラフは以下の通りです。上のパネルから、失業率、有効求人倍率、新規求人数となっています。いずれも季節調整済みの系列で、影をつけた部分は景気後退期です。失業率は被災3県を含めない推計となって前月から横ばいだったんですが、先行指標である一番下の新規求人数が大きな落ち込みとなっていることが読み取れます。震災の影響は労働市場にはデフレ圧力をもたらします。

今日の経済指標の最後に、消費者物価上昇率のグラフは以下の通りです。折れ線グラフは青が生鮮食品を除くコアCPIの前年同月比上昇率、赤が食料とエネルギーを除くコアコアCPI、グレーが東京都区部のコアCPIで、棒グラフは全国のコアCPIの前年同月比上昇率に対する寄与度を示しています。注目は全国の3月よりも東京都区部の4月であり、コアCPIはほぼ2年振りにプラスを記録しました。この大きな要因は高校実質無償化の効果が剥落したことであり、全国4月のCPIに対して先行性があると考えるべきです。すなわち、いよいよコアCPI上昇率がプラスの領域に入り始めたと私は受け止めています。しかし、原油価格を強く見ている一部のエコノミストを除いて、夏の基準改定によりマイナスに逆戻りし、10月のたばこ値上げの剥落によりマイナス幅が拡大する可能性があると考えるエコノミストが多そうな気がします。私もその1人です。

昨日と今日に発表された指標を見終えて、本日の日銀金融政策決定会合において、「経済・物価情勢の展望」(展望リポート) が取りまとめられています。政策委員の体制見通しの表は以下の通りです。震災のスタグフレーション圧力が具体化されており、1月見通しに比べて成長率は下方改定、物価は上方改定されています。

日銀の金融政策決定会合で、「展望リポート」の見通しを別として注目されたのは、西村副総裁が試算買入等の基金を5兆円程度増額し、45兆円とする議案を提出して否決されたことではないでしょうか。日経新聞の記事にありますし、日銀発表の「当面の金融政策運営について」にも明記されています。以前の福井総裁の当時の岩田副総裁は執行部提案に反対票を投じたことがありますが、独自議案を副総裁が提出したのは聞いたことがありません。日経新聞では「1%の "インフレ目標" 完成? 日銀、28日に政策会合」との記事も見かけましたが、私は本格的な BOJ Watcher ではありませんので、イマイチ、理解に苦しむところがあります。
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