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2011年4月22日 (金)

経済協力開発機構 (OECD) の日本経済見通しと対日審査報告書を概観する

昨日、経済協力開発機構 (OECD) から対日審査報告書 Economic Survey of Japan 20113月11日震災後の日本経済見通し Japan's economic outlook following the 11 March 2011 Earthquake がそれぞれ発表されました。今日が聖金曜日で今週末がイースターですから、一気に発表した気がしなくもありませんが、それは別にして、消費税率引上げに言及した対日審査報告書については、英文の Overview日本語の「概観」がそれぞれ pdf ファイルで入手可能です。それから、どうでもいいことですが、このブログの先々週4月6日付けのエントリーで取り上げた OECD Economic Outlook Interim Assessment では日本は経済見通しから省かれていましたので、今回は異例ながら日本単独の見通しを発表したものであると私は受け止めています。従って、対日審査報告書の構成は、経済見通し、金融政策、財政政策、成長戦略、教育制度、労働市場の6章構成となっています。一応、念のための言い訳ですが、国際派の官庁エコノミストとして私は OECD/OLIS のアカウントを持っており、OECD のさまざまな文書にアクセスできます。特に、対日審査報告などは注目のところなんですが、一般に広くネット上で利用可能な資料ではありませんので、今夜のエントリーでは以下の出典を中心に組み立てたいと考えています。悪しからず。

まず、圧倒的に財政再建とそのための消費税率引上げに大きく傾斜した我が国メディアの代表的な報道として、日経新聞のサイトから経済見通しと対日審査報告書に関する記事を引用すると以下の通りです。

「消費税率20%必要」OECDが対日報告書
「日本の財政、極めて厳しい」

経済協力開発機構(OECD)は21日、日本の経済政策に対する提言をまとめた対日審査報告書を発表した。公的債務残高が国内総生産(GDP)比で200%に達する財政状況について「極めて厳しい状況」と指摘。債務残高を減らすため「消費税率の20%相当までの引き上げが求められる」と強調した。
報告は東日本大震災による日本経済の低迷は短期にとどまると予測。2011年4-6月期は生産が大幅に落ち込むが「08年のリーマン・ショック後よりは緩やか」と分析した。7-9月期には復興関連の投資が伸び、生産が急回復すると見込んだ。11年の実質経済成長率は0.8%、12年は2.3%と予想した。
復興に向けた歳出拡大の必要性を認める一方、「信頼できる中期の財政健全化計画を示すことが重要だ」と指摘。社会保障の歳出抑制策や、消費税率上げを中心とする増税のスケジュールを明確にするよう求めた。
消費税率については、20年時点で基礎的財政収支の黒字をGDP比で3%分確保し、公的債務を減少に向かわせるケースを想定。現行税率の5%から11-15%程度の引き上げが必要になると分析した。
一方、日銀には「長期国債の購入拡大などさらなる措置の準備をすべきだ」と指摘。経済見通しが悪化した場合には、追加的な金融緩和が必要との認識を示した。

次に、日本経済見通しのテーブルを OECD のサイトから引用すると以下の通りです。昨年11月の OECD Economic Outlook No.88 では日本の成長率は2011年1.7%、2012年1.3%と見込まれていましたので、今年2011年については下方修正、来年2012年は上方修正ということになります。

OECD's revised projections for Japan in 2011-12

さらに、同じサイトから成長率の四半期パターンを引用すると以下の通りです。破線で Consensus と示されているのは、このブログの先週4月13日付けのエントリーで取り上げた経済企画協会の4月の「ESP フォーキャスト調査」結果をプロットしているようです。大雑把な感触として、「ESPフォーキャスト調査」に参加しているエコノミスト諸氏の見込みに比較して、OECD では復興需要が早期に本格化すると見込んでいるようです。

Projections for Japan's real GDP growth on a quarterly basis

今夜のエントリーの最後に引用するグラフは、OECD の対日審査報告書のサイトからいわゆる「ワニの口」グラフです。バブル経済の崩壊後に、支出が増加を続ける一方で税収が低下傾向にあるのが読み取れます。「ワニの口」が開くに従って、棒グラフで示された国債発行が増加しており、しかも、建設公債よりも特例公債の割合が圧倒的に大きくなっています。

Widening gap between expenditure and tax revenue

以下では、我が国一般の興味の傾向を反映して、このブログでも財政再建と消費税率の引上げに絞って論じたいと思います。まず、この日本の財政を再建するために、OECD では欧州と同等の20%を目指した消費税率引上げをひとつの案として提示しています。すなわち、このブログの1月21日のエントリーでも取り上げた「経済財政の中長期試算」を引用しつつ、2020年に基礎的財政収支をバランスさせるためには5-9%ポイントの消費税率引上げが必要であり、単にバランスさせるだけでなく、GDP比で3%の基礎的財政収支黒字を達成するためには、さらに6%ポイントの引上げが必要となることから、"bringing it towards the 20% average in Europe" と結論しています。なお、分かるとは思いますが、引用文中の "it" は消費税率を指しています。
次に、日本の財政再建について、昨年2010年7月15日付けのエントリーで取り上げた国際通貨基金 (IMF) の Article IV Consultation に続いて、OECD も発言し始めた現状について、2点ほど注意が必要です。第1に、日本政府の対応が遅れるほど消費税率の引上げ幅が大きくなる可能性です。すなわち、我が国の財政再建への方策として、消費税率の引上げで対応すべきというのがほぼ国際機関のコンセンサスになっていて、昨年の IMF では2011年から消費税率引上げを開始して、15%をひとつの目途にしていたりしました。昨年の IMF では15%、今年の OECD は20%なわけです。もちろん、大陸欧州に本部を置く OECD と米国の首都に位置する IMF で考えの違いは否定しませんが、昨年と今年のタイミングの差もあり得ると考えるべきです。すなわち、財政再建の開始が遅れれば遅れるほど大幅な消費税率引上げが必要になる含意を無視すべきではありません。加えて、国際機関には希薄で私独自の観点ながら、従来から主張している通り、高齢者層のカギカッコ付きの「逃切り」の可能性が高まります。第2に、世界経済への波及の可能性を考慮すべきです。少し前の Wall Street JournalWill Spain Be a Domino or a Dam? と題する記事があり、南欧の財政危機の中でスペインがダムになってせき止めて欲しいという願いがタイトルに込められていたんだと記憶していますが、もしも、もしもですが、日本がドミノになって倒れたらスペインの何倍もの大きなインパクトを世界経済に及ぼす可能性があります。日経新聞の論説に「二流国転落を論じられる日本」というのがありましたが、もしも日本が財政破綻するならば、その影響の大きさで測って超一流国であることは間違いありません。国際機関は親切心や、ましてや逆に、意地悪で我が国の財政をあげつらっているわけではありません。日本ドミノが倒れれば世界経済に甚大な影響を及ぼすからなのです。

以上。対日審査報告書の中の財政政策と特に消費税率引上げを中心に論評しましたが、最初に示したような6章構成となっており、特に、教育制度のところは昨年発表され、このブログでも2010年12月21日付けのエントリーで取り上げた PISA 2009 の結果にも言及しつつ、経済成長に貢献する教育の重要性や高等教育とイノベーションの関係などが論じられていて興味深いものがあります。残念ながら、今夜のエントリーでは長くなりましたし割愛しますので、ご興味ある方は上のリンクからご覧ください。

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