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2011年4月 7日 (木)

高野和明『ジェノサイド』(角川書店) を読む

高野和明『ジェノサイド』(角川書店)

高野和明『ジェノサイド』(角川書店) を読みました。私がこの作者の小説を読むのは初めてです。読書感想はこのブログでは週末の定番となっているんですが、とっても面白いので週の半ばに取り上げます。まず、角川書店のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。

【内容紹介】
急死したはずの父親から送られてきた一通のメール。それがすべての発端だった。創薬化学を専攻する大学院生・古賀研人は、その不可解な遺書を手掛かりに、隠されていた私設実験室に辿り着く。ウイルス学者だった父は、そこで何を研究しようとしていたのか。
同じ頃、特殊部隊出身の傭兵、ジョナサン・イエーガーは、難病に冒された息子の治療費を稼ぐため、ある極秘の依頼を引き受けた。暗殺任務と思しき詳細不明の作戦。事前に明かされたのは、「人類全体に奉仕する仕事」ということだけだった。イエーガーは暗殺チームの一員となり、戦争状態にあるコンゴのジャングル地帯に潜入するが……。
父の遺志を継ぐ大学院生と、一人息子のために戦い続ける傭兵。交わるはずのない二人の人生が交錯する時、驚愕の事実が明らかになる。それは、アメリカの情報機関が察知した、人類絶滅の危機――

上のあらすじに登場する創薬化学の大学院生である古賀研人、特殊部隊出身の傭兵ジョナサン・イエーガーのほか、古賀研人の友人である留学院生・李正勲が研人に協力し、測定不能なIQを持つアーサー・ルーベンスが「人類絶滅の危機」の原因となる生物を抹殺する作戦の責任者となり、大企業の御曹司で人類学者であるナイジェル・ピアースが「人類絶滅の危機」の原因となる生物に同行しています。いきなりですが、以下はネタバレを含みますので、未読の方は自己責任でご注意ください。
ということで、カギカッコが二重に付いた「『人類絶滅の危機』の原因となる生物」とは進化した人類のことです。そして、ホモ・サピエンスと呼ばれる現生人類がいわゆる類人猿や原人を絶滅させたのと同じように、進化した人類によりホモ・サピエンスは絶滅させられると米国大統領は考えます。アキリと名付けられた、この進化した人類がコンゴ奥地に出現し、人類学者のピアースが保護していますが、アフリカ大戦争から脱出するのが基本的なストーリーです。この進化した人類アキリを米国大統領が抹殺することを決意し、その作戦を任されるのはルーベンスなんですが、ルーベンスは古い「ハイズマン・リポート」に進化した人類が触れられていることを発見して執筆者のハイズマンに会いに行き、進化した人類を抹殺することは不可能であると考えを改め、CIA長官とともに隠密裏に保護に回ります。また、アキリを抹殺するために派遣された傭兵のリーダーがイエーガーなんですが、不治の病で死を待つばかりの息子を救う特効薬を進化した人類のプログラムにより古賀研人が作成中であることを知り、任務を放棄してアキリの保護、アフリカ脱出の手助けに回ります。なお、アキリはピアースが保護している進化した人類に付けられた固有名詞ですが、米国政府では「ヌース」という一般名称で呼ばれています。そして、アフリカを脱出したアキリとピアース一行は日本を目指します。どうして日本を目指すのかは、ネタバレ満載のブログとはいえ、読んでみてのお楽しみに取っておきます。
私は化学や薬学はもちろん、安全保障や軍事もまったくのシロートで、この小説の中にはかなり難しい説明があったりしますが、そのあたりは読み飛ばしても一向に差し支えありません。何が面白いかというと3点あり、第1点は、最後のどんでん返しで一気に全貌が明らかにされるわけではなく、徐々に徐々に、タマネギの皮をむいていくように真実が小出しに明らかにされる手法です。その上で、最後にサプライズも残されています。第2に、進化した人類が、姿かたちは別にして、行動や思考のパターンなどが現在世代の西洋人の考える神になぞらえられていることです。私のような典型的な仏教徒からすれば少し違和感がないでもないんですが、おそらく、全知全能のキリスト教的な神を下敷きにして進化した人類の姿が想像、もしくは、創造されています。ゲーム論的にはしっぺ返し戦略に近い反応であるとされています。進化した人類「ヌース」は米国政府の打つ手をことごとく見透かしていて、すべてを乗り越えて無事にアフリカを脱出し日本に向かいます。第3に、小説の内容の真贋は私には判定不能なんですが、少なくとも、綿密な取材に裏付けされているように読み取れます。ですから、フィクションにリアリティが与えられています。巻末にもインタビュー対象や参考文献などがていねいに上げられていて、適当に書き飛ばした小説にはない重みが感じられます。

最後は、全知全能の神に近い存在である進化した人類がアフリカを脱出し、無事に日本にたどり着くわけですが、もちろんフィクションながら、アフリカの悲惨な内戦も克明に描写されています。胸が痛むほどです。登場人物の心の葛藤や内面などがよく書けている半面、アフリカの情景の描写が少し荒っぽい気はしますが、ストーリー展開で十分にカバーされています。文句なしの5ツ星です。

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