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2011年6月27日 (月)

国際決済銀行「年次報告」に見るバブルの BIS View

昨日、国際決済銀行 (BIS) から「年次報告」 BIS Annual Report 2010/11 が発表されています。もちろん、全文リポートの pdf ファイルもアップされています。基本的には、低金利の継続に起因するインフレを含め、新たな金融不均衡の是正を目指して、各国中央銀行に対して政策金利を引き上げることを求める内容となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

超低金利の長期化「金融に深刻なゆがみ」 BIS年次報告
国際決済銀行(BIS)は26日に2011年の年次報告を公表し、主要国の中央銀行が3年近く低金利政策を続けた結果として「深刻な金融のゆがみなどを生むリスクがある」と警告した。危機対応の国債買い入れや自国通貨高を防止するための為替介入で、各国中銀の資産規模が膨れていることへの懸念も示した。
BIS報告は各国の金融政策に絡んで「歴史的にみて政策金利が低すぎる」と指摘。物価上昇の懸念に加え、資金余剰が新興国での資産価格の急上昇などを招き、「金融安定を脅かすリスクを高めている」とした。
中央銀行の貸借対照表(バランスシート)が膨らんでいることも問題点に挙げた。国内総生産(GDP)に対する中銀の資産規模は金融危機前には米国が8%、ユーロ圏が13%だったが、ともに20%程度に上昇。日本では30%に達している。先進国中銀は経済や市場の安定に向けて量的緩和や国債買い入れを進め、新興国では介入で外貨準備が積み上がっている。
BISはこうした政策が金融危機対応に役立ったとしながらも、金利や為替面でのリスクを中銀が抱え込んだことで「市場変動で大きな損失となりかねない」と警戒感を示した。異例の政策を平時に戻す「出口戦略」にも触れ、「政策当局は非常に困難な問題を抱えている」と結論付けた。

今夜のエントリーではバブルに関する見方について少し取り上げたいんですが、その前に簡単にこのBISのリポートを紹介すると、まず、インフレの高進に注意を促しています。下のグラフは全文リポートの p.4 Graph I.3 Inflationary pressures を引用しています。左のパネルが日米英欧4か国のヘッドライン・インフレ率、真ん中が農産物や原油などの商品価格、右がインフレ連動債から計算したブレーク・イーブンの期待インフレ率です。これも日米英欧の4か国です。

Inflationary pressures

次に、全文リポートの p.21 Graph II.3 Debt を引用して、主要国の財政債務残高のグラフです。後に少し書きますが、BISでは財政不均衡も金融不均衡のひとつとして捉えているのかもしれません。話題のギリシアこそ入っていませんが、アイルランド、スペインとイタリアを除くG7各国がプロットされています。

Debt

さて、このリポートの下敷きになっているのはバブルに関するBISビューと呼ばれている基本的スタンスであり、FEDビューと対にして論じられることもあります。以下の表は現在の日銀総裁である白川総裁の『現代の金融政策 - 理論と実践』(日本経済新聞出版社)の pp.400-401 あたりを私が取りまとめて、昨年の長崎大学経済学部研究年報に掲載した紀要論文「ギリシアにおける財政危機に関するノート: 日本への教訓」から p.170 表2: バブルへの政策対応を引用しています。

FED ViewBIS Vew
物価のレンズ金融的不均衡のレンズ
バブル判定の困難性持続困難な現象の組み合わせの判断
プルーデンス政策の必要性金融政策とプルーデンス政策の協力

ということで、FEDビューとはその名の通り、米国連邦準備制度理事会で支配的であったスタンスで、BISビューもその名の通り、国際決済銀行で支配的であったスタンスです。まず、FEDビューは事後対応であり、バブルの認識が困難であることなどを根拠に、金融政策当局は物価安定に専念しバブルの発生については政策対応せず、バブル崩壊に際して事後的に流動性供給などの金融政策で対応し、主として日本の2000年代初頭のデフレを念頭に、バブルが崩壊した後に大規模な金融緩和政策を機敏に実施すれば大きな経済的コストは避けられるとの観点に立っています。対して、BISビューは事前対応であって、金融的なコンテクストにおける不均衡としてバブルを捉え、バブルの発生そのものを事前的な政策対応により抑え込むことを念頭に置いています。サブプライム・バブルの処理でFEDビューは崩壊したように私は受け止めていますが、今年のBIS「年次報告」ではいかんなくBISビューが展開されており、バブル発生という金融不均衡の発生前に金融緩和を終了させたいという意図があるのかもしれません。最後に、FEDビューとBISビューを代表するリファレンスを上げておきます。ご興味ある方のfurther readingとしてオススメです。

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