有川浩『県庁おもてなし課』(角川書店) を読む
有川浩さんの『県庁おもてなし課』(角川書店) を読みました。実は、この作者は以前に『阪急電車』と『フリーター、家を買う』といった話題の本は読んでいます。もっとも、今度読んだ『県庁おもてなし課』を含めて3冊とも図書館で借りています。初期の自衛隊3部作や『図書館戦争』シリーズは読んでいません。まず、出版社のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。
あらすじ
とある県庁に突如生まれた新部署"おもてなし課"。
観光立県を目指すべく、若手職員の掛水史貴は、振興企画の一環として、
地元出身の人気作家・吉門喬介に観光特使就任を打診するが…。
「バカか、あんたらは」。吉門にいきなり浴びせかけられる言葉に掛水は凍りつく―いったい何がダメなんだ!?
悩みもがく掛水は、そんな中、県庁内でも知る人ぞ知るおよそ20年前に提唱された、
革新的な地域振興プラン「パンダ誘致論」に行き着く。
掛水は県庁内で伝説となっているその地方振興プランを探り始めるが……!?
「パンダ誘致論」とは一体何なのか、そして、それを提唱した人物とは? そしてその先に見え隠れする突破口とは!?
"お役所仕事"と"民間感覚"の狭間で揺れ動く、掛水とおもてなし課の地方活性にかける苦しくも輝かしい日々が始まった!
私が従来からこの作者の作品、読んだ限りですが、『阪急電車』と『フリーター、家を買う』とこの『県庁おもてなし課』について感じているのは、確かにハッピーエンドで終わっていて、読後感もよくて適度にラブストーリーになっているんですが、ホントに現実的なんだろうか、ということです。内輪の出来過ぎた話で終わっている可能性はないだろうかという気がします。特に、今回の物語は作者の出身の高知県における実在の「おもてなし課」を舞台にしているだけに、観光という市場で価値が貨幣単位で計測される成果をお手盛りの評価で終わらせていないか、という不安があります。エコノミストの考え過ぎなのかもしれませんが、しばしば官庁というのはこういった自己満足で終わることがあり、市場で計測される「民間感覚」との大きな隔たりを生んでいることは、この小説の中で作者自身が指摘しているところです。もちろん、この小説自身はベストセラーに名を連ねて市場での評価は誠に素晴らしいものがありますが、物語の中身、すなわち、高知県の観光振興がどこまで市場で評価されているかは私の知らない範囲ですので、ついつい不安になってしまいます。特に、高知県といえば、私が昨年まで単身赴任していた長崎や島根、青森などと並んで衰退の著しい地方として名を上げられる場合の多い県です。ホントに県庁おもてなし課がうまくいっているんであれば、とってもハッピーなんでしょうが、地方振興や観光についてはトンと専門外の私にまで情報は伝わって来ません。でも、繰返しになりますが、楽しく読めて適度にラブストーリーになっていて、読後感もさわやかで、小説としてはとってもいい出来に仕上がっている気がします。素直に市場に判断されている通りです。
次に、これも話題の書で、市橋達也被告の『逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録』(幻冬舎) も図書館で借りて読んでみました。2007年3月、千葉県市川市のマンションで英会話講師リンゼイ・アン・ホーカーさんが殺害された事件で殺人と強姦致死の罪で起訴されている著者が、事件の後、2009年11月に逮捕されるまでの約2年7か月の間、どこにいて、どのような生活をし、何を考えて来たかを取りまとめたものです。すでに朝日新聞の書評でほぼ私の言いたいことが簡潔に取りまとめられていますので、簡潔に、特に強く同意する最後のパラだけを以下に引用します。
「文学」に昇華した逃亡物語
本書を「不道徳」と非難する人は、罵りながらも本書を買っているのだろう。テレビのワイドショーで、司会者が「許されませんね」と眉をひそめつつも殺人事件をエンターテインメントとして消費するのと、同じ構造だ。本書を「不道徳」と捉えることは、実は自らが衆愚的なニュースの消費者に陥りかねない、という危険な罠が潜んでいるのである。
図書館にリクエストしていたスティーヴン・キングの最新刊『アンダー・ザ・ドーム』上下が届きました。この大作を読み終えるまで、しばらく読書感想文の日記はお休みになるかもしれません。
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