シルバー民主主義の下で社会保障はあくまで高齢者を優遇し続けるのか?
昨夜、総理大臣官邸で第10回社会保障改革に関する集中検討会議が開催され、社会保障改革案を公表しました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
消費税、15年度までに10%明記 改革原案
医療や介護、負担合算し上限
社会保障と税の一体改革に向けた政府の集中検討会議(議長・菅直人首相)は2日、改革原案を公表した。医療や介護、保育の利用者負担を合算し、自己負担額に上限を設ける「総合合算制度」の導入など若年層と低所得者への支援強化を打ち出した。財源を確保するため、消費税率を2015年度までに段階的に10%へ引き上げることも明記した。ただ高齢者向け給付抑制に向けた道筋はほとんど示さず、制度の持続性には疑問も残る。
原案は一体改革の狙いを社会保障の充実・強化と財政健全化の「同時達成」と強調。パートなど短時間労働者の厚生年金加入拡大や、年金受給資格をもらえる加入期間(現在25年以上)の短縮などを打ち出した。15年度時点で消費税率5%分の約13.5兆円の財源が必要だとした。
増税で得る税収のうち消費税率3%分(約8.1兆円)は社会保障の拡充や基礎年金の2分の1を国庫負担する制度の維持に使う。残りの2%分は高齢者向けの医療・年金・介護で発生している財源不足の穴埋めなどに充てる。税率引き上げ時期については「段階的に10%まで引き上げる」と明記し、2段階に分けて税率を上げるシナリオをにじませた。
政府・与党は月内に最終案となる「改革案」をとりまとめる方針だ。今年度中に消費税率の引き上げ幅などを盛った税制改革法案の国会提出を目指す。ただ、与党内にも消費税率引き上げに反発する声があり、調整難航も予想される。
すでに、一昨日のエントリーで私の従来からの主張を詳しく繰り返しましたし、諸般の事情により、今夜は帰りが遅くなりましたので、ごく簡単に提出資料などを概観して、従来からの私の主張である「高齢者に余りに偏った社会保障制度を税制よりもまず改革すべき」という観点を補強しておきたいと考えます。まず、下のグラフは昨夜の第10回社会保障改革に関する集中検討会議に提出されたうち、「社会保障に係る費用の将来推計について」の p.3 から給付費に関する見通しを引用しています。我が国の社会保障給付が高齢者向けの「年金」、「医療」、「介護」に圧倒的に偏っており、「子ども子育て」が軽視されている現状を2025年まで続ける決意が示されているんでしょうか。なお、医療については年齢に関係ないとの見方もあるかもしれませんが、少し前のカギカッコ付きの「後期高齢者医療制度」の大騒ぎを見ても明らかな通り、かなりの財源が高齢者に流れていることは明らかであり、シルバー民主主義が圧倒的なパワーで高齢者に不利な政策変更を葬り去ったことは記憶に新しいところです。
この高齢者に社会保障給付を偏らせるという政府の強い決意の下、我が国の子ども・子育てをはじめとする家族関係社会支出の対GDP比は先進諸国の中でもかなり低い現状が下のグラフから読み取れます。「参考資料」の p.5 から各国の家族関係社会支出の対GDP比の比較を引用しています。2007年時点での比較ですから、子ども手当はまだ始まっておらず、我が国の家族関係社会支出のGDP比はわずか0.79%と、このグラフに取り上げられたG7+スェーデンの8カ国の中で米国に次いでほぼ最低水準となっています。無理やりに1人当たり13000円の子ども手当を上乗せした仮定計算をしても1.13%にしか達せず、3%に上るフランス、英国、スウェーデンに遠く及びません。これら諸国の水準に近づけようとすれば、日本ではGDP比2%、すなわち、10兆円ほどの財源を注ぎ込む必要があります。批判論の中には子ども手当を「バラマキ」と称する場合もあるようですが、事実はまったく逆と言わざるを得ず、大きな財政リソースを注入しているのは高齢者向けの年金・医療・介護であって、先進国水準で見れば子供向けや家族関係の社会支出はまだまだ低水準と言わざるを得ません。
今さら日本の財政の状態について言及するまでもなく、ムディーズに日本政府の格付けのアウトルックがネガティブであると指摘される必要もないくらい、かなり多くの日本人が財政破綻を食い止める政策を支持していることは確かです。しかし、この改革案は穴の開いたバケツに水を入れようとするようなものであり、しかも、バケツの穴からは高齢者に向けて貴重な財政リソースが大量にあふれ出しています。ここまで、シルバー民主主義の下では、政策には高齢者の声ばかりが反映され、この増税の大きな部分を負担するハメになる若年層や勤労世代の意見は届かないんでしょうか?
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