企業活動の改善に足踏みが見られる法人企業統計
本日、財務省から今年1-3月期の法人企業統計が発表されました。ただし、今回の集計では岩手県・宮城県・福島県の被災3県に加えて、さらに、青森県と茨城県の一部も含まれておらず、改めて7月29日にこれらを含む確報を発表するとしています。暫定的な統計ながら、通常の金融業と保険業を除く季節調整前の原系列で見て、ヘッドラインとなる売上高は前年同期比+1.4%増、経常利益も同じく+16.4%増、また、ソフトウェアを除く設備投資は前年同期比で+4.2%増、ソフトウェアを含む設備投資は同じく+3.3%増と、それぞれ前の四半期に比べて増勢に鈍化が見られます。季節調整値が公表されているソフトウェアを除く設備投資は前期比で▲0.2%の減少を記録しました。特に、製造業は減益に転じています。被災地域を含む統計では、さらに下振れする可能性が高いと考えられます。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
設備投資3.3%増 1-3月の法人企業統計、被災地含まず
財務省が2日発表した1-3月期の法人企業統計調査によると、企業の設備投資は前年同期比3.3%増の11兆5114億円と、3期連続で増加した。ただ東日本大震災の被災企業などが含まれておらず、今後下方修正の可能性もある。収益面では製造業が6期ぶりの減益となった。サプライチェーン(供給網)の寸断による自動車などの減産が響いた。
四半期の法人企業統計は資本金1000万円以上の企業の仮決算をまとめる。今回は大震災の被害が大きかった岩手、宮城、福島3県の企業など2000社弱(調査対象の約6%)から調査票を回収できず、業種や資本金ごとの全国平均値で補った。財務省は、被災地の企業のデータもそろえた確報値を7月29日に公表する。
産業別の設備投資動向をみると、製造業は27.7%増加。比較可能な2002年7-9月以降で最大の伸びとなった。スマートフォン(高機能携帯電話)需要の拡大を受け、メモリーや液晶パネルなど情報通信機械が61.6%伸びた。食料品も飲料品の生産ライン増設が目立った。非製造業は6.8%減。前年に大型投資が出た反動で、不動産業や卸売業が減少した。
震災の影響は企業の収益に表れた。製造業の経常利益は5.3%減少した。部品調達の混乱で大幅な減産を強いられた輸送用機械が71.7%減。鉄鋼業や金属製品も、震災による工場の操業停止で減益となった。一方、非製造業は30.1%増えた。全産業では売上高は1.4%、経常利益は16.2%それぞれ増加した。
財務省が試算した設備投資(ソフトウエアを除く)の季節調整値は前期比0.2%減と小幅なマイナスだった。9日発表の実質国内総生産(GDP)の設備投資の改定値は、速報値(0.9%減)から大きく変わらないとの見方が出ている。
まず、統計のヘッドラインとなる売上高などのグラフは以下の通りです。上のパネルは売上高と経常利益を、下はソフトウェアを除く設備投資を、それぞれプロットしています。いずれも季節調整済みの系列で、影をつけた部分は景気後退期です。見れば分かると思いますが、売上高がジグザグした動きになっていて、経常利益の伸びが鈍化しています。ですから、設備投資にも勢いはありません。繰返しになりますが、1-3月期の設備投資はソフトウェアを除いて前期比▲0.2%の減少を示しました。これは震災の被災地域を含んでいませんから、被災地域を含むという意味での全国ベースではさらに弱い数字になる可能性が高いと理解すべきです。被災地域を除いた集計でも、明らかに、企業活動は鈍化を示し始めていると私は受け止めています。
次に、法人企業統計の直接の調査項目ではないんですが、インプリシットに計算できる指標を2点ほどグラフに示しています。以下の通り、労働分配率と損益分岐点です。労働分配率は単純に人件費を経常利益と減価償却と人件費の和で除しています。損益分岐点は売上高を人件費と減価償却と支払利息の和で構成される固定費及び売上高から経常利益と固定費を差し引いた変動費に分割して計算しています。いずれも季節調整していない原系列ですので、後方4四半期移動平均で平準化を図っています。労働分配率も損益分岐点も改善にブレーキがかかりつつあるのが読み取れると思います。特に、労働分配率は雇用の改善に足踏みをもたらしかねませんので懸念されるところです。
最後に、来週6月9日に公表される予定の1-3月期2次QEに設備投資にはこの法人企業統計はほとんど影響ないと考えられますが、別の要因で設備投資は下方修正される可能性が高いと私は受け止めています。というのは、内閣府から6月1日付けで「2011(平成23)年1-3月期四半期別GDP速報(2次速報値)における推計方法の変更について」が発表されており、これに従えば、「2次QEでは、(法人企業統計)調査延期法人は3月11日以降の設備投資を行っていないものとして、推計する」ことが明らかにされています。このエントリーで取り上げた法人企業統計では他の地域で補完推計されていることから、これをゼロとする2次QEでは設備投資は下振れる可能性が高いと考えるべきです。
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