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2011年6月21日 (火)

震災と電力制約は比較優位構造にどう影響するか?

昨日、みずほ総研からみずほ日本経済インサイトのシリーズのリポート「業種別にみた震災後の製造業活動 - 出荷・在庫の変動からみえる各業種の特徴」が発表されました。昨夜のエントリーでも強調した私自身の興味は、電力供給の制約を織り込んだ中長期的な日本経済の比較優位構造なんですが、それに至る一段階前ながら、震災によるサプライ・チェーン等の棄損と回復について手際よく取りまとめてありますので、いくつか図表を引用しつつ、今夜のエントリーの前半で紹介したいと思います。後半では経済産業省の資料から電力制約について考えます。なお、個別には示しませんが、前半部分では図表は番号とともに、すべてみずほ総研のリポート「業種別にみた震災後の製造業活動 - 出荷・在庫の変動からみえる各業種の特徴」から引用しています。

図表1 業種別の出荷・在庫・輸入動向

まず、上の表は製造業を業種別に出荷・在庫・輸入の動向について鉱工業生産指数から把握を試みています。まだ5月統計は発表されていませんから、震災の月である今年3月とその次の4月について、鉱工業生産指数から出火、在庫、輸入のそれぞれの季節調整済みの前月比を取っています。見れば分かると思いますが、増加がピンクで、減少が青でセルを色分けしています。これを基に、サプライ・チェーンの棄損と回復についてAからEまでの5つのグループに製造業を分類しています。以下の表の通りです。

図表4 業種グループの分類

これも見れば明らかですが、Aが震災のダメージが小さい、もしくは、回復が早い業種、Bが供給制約から輸出よりも国内向け出荷を優先した業種、特にB-①は在庫を取り崩して出荷に対応し、B-②は輸入により対応したと考えられる業種です。Cは国内外向けとも出荷が大幅に減少した業種であり、このCの大幅な出荷減の業種に我が国の主要な輸出産業である自動車などが含まるわけです。Dは供給サイドというよりも需要サイドの要因から出荷が低迷している業種、Eは3月末で期限切れを迎えたエコポイントに伴う調整局面に入っていた業種、となっています。繰返しになりますが、この大幅な出荷減のグループに入った自動車などで輸出の減少も観察されます。

図表6 生産回復のイメージ

そして、各グループの生産回復の短期的なイメージは上の通りです。早いところではAグループが5-6月には生産が回復し、遅いところで出荷の大幅減を記録したCグループですら本年度前半での復旧が見込まれています。要するに、秋口までにはサプライ・チェーンなどの生産ネットワークはほぼ回復するとこのリポートでは見込んでいます。もちろん、この総似の復旧は、リポートにもある通り「有事における日本企業の対応力の高さ」によるものです。相変わらず、我が国では政治や政府の対応よりも企業の方が上を行くようです。ただし、上のイメージの注にある通り、これは夏場の電力抑制の影響は考慮されていません。

製造業業種別エネルギー消費

ということで、みずほ総研のリポートを受けて、後半では経済産業省の資料から電力制約に絞って考えたいと思います。まず、一般に電力に限らず、エネルギー集約的な産業といえば素材産業と理解されています。上のグラフは経済産業省の「エネルギー白書2010」第2部エネルギー動向、第1章国内エネルギー動向、第2節部門別エネルギー消費の動向から引用していますが、鉄鋼、化学、窯業土石(セメント)及び紙パルプの素材系4業種でエネルギー消費の7割を超えています。

業種別電力消費の内訳

しかし、エネルギーを電力に限ると話はかなり違って来ます。上のグラフは経済産業省の産業活動分析のトピックス分析から「電力からみた製造業の生産性について」の p.26 第I-1-13図 業種別電力消費の内訳を引用しています。先の素材系4業種は引き続き大きなシェアを占めていますが、機械産業も電力消費量が極めて大きいことが読み取れます。

電力生産性の推移

しかも、我が国にとって極めて不都合な真実なんですが、上のグラフの通り、我が国産業の電力生産性は長期に渡って低下を続けています。同じく、「電力からみた製造業の生産性について」の p.29 第I-1-19図 電力生産性の推移を引用しています。なお、横軸は平成でスケールされており、西暦ではありません。電力生産性は付加価値額(100万円)を電力使用量(日銀投入物価指数でデフレートした電力使用額100万円)で除した系列となっています。日本の産業が全体として電力集約的、あるいは、電力多消費型に変化しているのは明らかです。

昨年までのように大学に勤務する教員であれば、本筋の比較優位についてデータや既存研究をもっとサーベイして、チャチャッと取りまとめて紀要にでも掲載するようなペーパーを書くんですが、役所の本省課長というサラリーマンではそうも行きません。本筋の比較優位の構造に至る前に力尽きて、取りあえず、このあたりまでとします。

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