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2011年7月21日 (木)

ようやく供給制約を脱しつつある輸出の回復で貿易黒字を記録

本日、財務省から6月の貿易統計が発表されました。ヘッドラインとなる輸出は5兆7759億円、輸入は5兆7052億円、差引き貿易収支は707億円の黒字と、3か月振りに黒字を記録しました。ただし、この数字はいずれも季節調整していない原系列の計数であり、季節調整済みの系列では貿易赤字が続いています。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

6月の貿易収支、3カ月ぶり黒字 自動車の輸出回復
財務省が21日発表した6月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は707億円の黒字となった。東日本大震災の影響で4月以降は貿易収支の赤字が続いており、黒字は3カ月ぶり。部品不足の解消から自動車などの輸出のマイナス幅が縮小した。ただ、夏場の電力不足や海外経済の変調が輸出動向に影響を与える可能性があり、黒字基調が定着するかどうかは微妙だ。
6月の輸出額は5兆7759億円となり、前年同月比1.6%減少した。なお前年割れが続くが、5月の10.3%減からマイナス幅は縮小した。季節調整済みの前月比は5.4%増となり、財務省は「持ち直しの動きがみられる」とした。
輸出額のマイナス幅が縮まったのは、自動車の生産回復が進んでいるため。部品メーカーの供給復旧に伴い、トヨタ自動車など自動車大手では生産がほぼ正常化している。自動車の輸出額は4月に前年同月比67.0%減に落ち込んだが、6月は12.5%減に持ち直した。
米中向けの工作機械が堅調な金属加工機械は40.8%増えた。地域別では、中国向けが1.2%増と3カ月ぶりにプラスに転じた。米国向けも減少幅を縮めた。半導体など電子部品や鉄鋼は世界経済の減速で、回復が遅れている。
輸入額は5兆7052億円で、9.8%増だった。原子力発電所の運転停止などの影響で、火力発電用の液化天然ガス(LNG)需要が増加したため。季節調整済み前月比では0.5%増と小幅な増加にとどまった。
財務省が21日発表した2011年1-6月の輸出額は32兆1131億円となり、前年同期比3.0%減少した。減少は3期ぶりで、大震災以降の輸出急減が響いた。貿易収支は8955億円の赤字で、4期ぶりの赤字に転落した。石油危機で原油などの輸入額が膨らんだ1980年1-6月(2兆6217億円)以来の赤字幅となった。

次に、いつものグラフは以下の通りです。いずれも輸出入を折れ線グラフで、その差額たる貿易収支を棒グラフでプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下のパネルは季節調整済みの系列です。

貿易統計の推移

最初に書いたことの繰返しですが、季節調整していない原系列の統計では3か月振りに貿易黒字を記録しましたが、季節調整済みの系列では震災後の4月から3か月連続で赤字を記録しています。私は基調としては足元でまだ貿易赤字が続いている可能性が高いと判断しています。例えば、季節調整していない原系列で見ても、今年上半期1-6月では8955億円の貿易赤字となっています。サプライチェーンの毀損に起因する供給制約を受けた結果だと考えるべきです。

輸出の推移

輸出を詳しく見たのが上のグラフです。上のパネルは金額ベースの輸出指数を数量指数と価格指数で寄与度分解しています。すべて季節調整していない原系列の指数の前年同月比です。下のパネルは輸出数量指数とOECD先行指数のそれぞれの前年同月比伸び散るについて、後者に3か月のリードを取ってプロットしてあります。OECD先行指数は日本に輸出に対する世界需要の代理変数ですから、今年3月から我が国の輸出数量が下振れしているのは震災による供給制約の結果であると考えられます。
ですから、輸出の回復を知るには貿易統計ではなくて供給体制の回復状況を知る必要があるんですが、広く報じられている通り、生産の復旧はかなり前倒しで進んででおり、急ピッチというのは少し抵抗があるものの、少なくとも着実に供給体制は回復して来ており、足元で貿易赤字の基調を続けている一方で、時間の問題ながら、貿易黒字を取り戻すのも射程に入ったと私は見ています。ただし、原発の再稼働次第なんですが、輸入は火力発電需要があり鉱物性燃料を中心に増加する方向にあります。このブログでも何度か書きましたが、日本は小国ではありませんので、日本が鉱物性燃料の輸入を増加させれば、量的に輸入数量が増えるだけでなく、価格も上昇します。日本経済は世界的に鉱物性燃料の需要曲線を上方シフトさせるだけのボリュームを有しています。輸出が回復を示す一方で、輸入も増加の方向にあり、輸出入の差引きで定義される貿易収支の方向は定まりません。繰返しになりますが、貿易黒字を取り戻す射程に入ったと私は考えているものの、今しばらく、貿易赤字に基調が続く可能性もまだ残されています。ただし、GDPベースの外需を考えると、4-6月期のGDP成長率への外需の寄与度は明らかにマイナスです。▲0.5%を超え▲1.0%に近い数字になる大きさになる可能性が高いと覚悟すべきです。

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最後に、貿易統計とやや関連して、国際通貨基金 (IMF) から中国に対する Article IV Consultation の結果が公表されました。毎年のことですが、人民元レートについては20%ほどの増価が必要としており、その場合の世界経済への波及効果がモデルの試算結果として明らかにされています。上の表は Staff Report の p.36 から引用しており、人民元が20%増価した場合の各国の成長率への波及効果を示しています。日本の成長率へは最大+0.3%であり微々たるものですが、現在の日本経済の実力からすれば決して無視できない波及効果ではないでしょうか?

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