政府統計発表の集中日に生産・雇用・物価を評論する
本日、月末の閣議日ということで、政府統計の発表がいくつか集中しました。いずれも8月の統計で、経済産業省から鉱工業生産指数、総務省統計局から失業率、厚生労働省から有効求人倍率などの雇用統計、総務省統計局から消費者物価指数、がそれぞれ発表されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
8月の鉱工業生産0.8%上昇 自動車・鉄鋼がけん引
経済産業省が30日発表した8月の鉱工業生産指数(2005年=100、季節調整値)は93.7と、前月比で0.8%上昇した。前月比プラスは5カ月連続。主力の自動車や鉄鋼で回復が進み、季節調整をしない原指数では東日本大震災後初めて前年同月を上回った。経産省は基調判断を「震災の影響からほぼ回復した」としたが、円高などの影響で先行き不透明感もある。
生産指数の伸び率は市場の事前予想(1.5%上昇)を下回った。原指数が90.6と前年同月を0.6%上回ったため、これまで「回復しつつある」としていた基調判断の表現を変更した。
8月上昇のけん引役は自動車。サプライチェーン(供給網)の回復が進み、北米やアジア向け普通乗用車の生産が回復した。輸送機械工業は6.5%上昇したほか、鉄鋼が2.5%、電子部品・デバイス工業が1.2%上昇した。
一方地上デジタル放送への移行が完了したことで液晶テレビが4割落ち込み、情報通信機械工業は10.8%低下した。ただ東京電力管内などで発動した電力制限令は「大手ではほとんど影響がなかった」(経産省)。
経産省が同日発表した製造工業生産予測調査によると、生産指数は9月に2.5%の低下に転じ、10月は3.8%上昇する見通し。ただ円高の進行や世界経済の減速など懸念材料もある。
8月の失業率、4.3% 職探し断念者増加で低下
総務省が30日発表した8月の完全失業率(季節調整値、被災3県除く)は4.3%となり、前の月に比べて0.4ポイント低下した。失業者が大きく減ったため指標は改善したが、非労働力人口も同時に20万人増えており、失業者が職探しをあきらめて労働市場から退出した可能性が高い。就業者も全体で16万人減った。厚生労働省が同日発表した8月の有効求人倍率は前月に比べて0.02ポイント上昇し0.66倍になった。
小宮山洋子厚生労働相は同日の閣議後会見で「雇用情勢は一部に持ち直しの動きがみられるものの、依然として厳しい」との認識を表明。今後も東日本大震災や円高の影響を見極めたいとの考えを示した。
完全失業者は270万人となり、前月に比べ24万人(8.2%)減った。内訳をみると、自発的に離職した人が18万人減の89万人になったほか、勤め先の都合など「非自発的な離職者」も9万人減って101万人になった。一方で、労働市場に参加しない非労働力人口が20万人増の4322万人になった。総務省は「円高が進むことで(雇用情勢の厳しさを見越し)仕事探しを見合わせる動きがあったようだ」と分析した。
厚労省がまとめた8月のハローワークでの職業紹介状況によると、雇用の先行指標となる新規求人数は前月比0.9%増の67万人になった。2カ月連続で増えたが、伸びは前の月(4.0%増)に比べて鈍化した。ただ、新規求職申込件数が増えたため、新規求人倍率は1.05倍と前月に比べて0.02ポイント低下した。
8月の消費者物価、0.2%上昇 2カ月連続
総務省が30日発表した8月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、値動きが激しい生鮮食品を除くベースで99.9となり、前年同月比0.2%上昇した。電気料金の引き上げやガソリン高で、2カ月連続のプラスとなった。ただデジタル家電の価格下落に歯止めがかからないなど需要不足に伴うデフレ基調はなお続いている。
消費者物価の上昇は資源高の影響が大きい。エネルギーではガソリン価格が13.1%、電気代が3.4%それぞれ上がった。食品では小麦の国際価格高騰を受け食パンやうどんが上昇した。
一方で耐久財は価格下落の動きが止まらない。テレビや電気冷蔵庫、洗濯乾燥機は3割近く下落。冷房需要も盛り上がらずルームエアコンは1割下がった。食料とエネルギーを除いたCPIは、8月はマイナス0.5%。基調的な物価は下落が続いている。
円高や海外経済の減速の影響で家計の先行き不安は根強く、物価の先行きは再び下落に転じるとの見方が多い。国際原油市況は8月に入って軟調に推移。原油の輸送などに時間がかかるため、秋以降はガソリン価格が伸び悩む可能性がある。また10月には、昨年のたばこ値上げと傷害保険料上げの影響が一巡する。
総務省が同日発表した東京都区部の9月のCPI(中旬速報値)は、生鮮食品を除くベースで0.1%下落した。CPIは7月分から基準年を05年から10年に切り替えた。
続いて、まず、生産のグラフは以下の通りです。上のパネルは2005年=100となる鉱工業生産指数そのもので、下のパネルは輸送機械を除く資本財と耐久消費財の出荷の推移です。いずれも季節調整済みの系列で、影を付けた部分は景気後退期です。

引用した記事にもある通り、製造工業生産予測指数に従えば、9月に減産した後、10月には再び増産が見込まれている、ということですが、私を含む多くのエコノミストにはやや怪しい、と受け止められています。世界経済の減速の影響が生産に波及し不透明感が残るからです。資本財や耐久消費財のグラフを見ても、ほぼ震災前の水準に復帰したように見受けられますが、方向感には乏しいと私は受け止めています。

上のグラフは雇用統計について、上のパネルから、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列で、影を付けた部分は景気後退期です。いずれの雇用指標も改善しているように見られますが、少なくとも失業率の低下については、非労働力人口が大きく増加しており、失業者が職探しを諦めて労働市場から退出した可能性が示唆されていますから、必ずしも雇用の改善とはみなせない部分も残ります。特に、総務省統計局の失業率などの労働力調査は震災3県を除いた統計ですので、信頼性に欠けると言わざるを得ません。いつもと同じ評価ですが、最初のグラフで見たように、生産や資本財の出荷もリーマン・ショック前の水準には遠く及びませんし、同様に雇用もリーマン・ショックを含む景気後退前の水準に戻るには時間がかかると覚悟すべきなのかもしれません。

最後に、消費者物価はエネルギーにけん引されてプラスが続いています。特に、電気料金をはじめとする公共料金の値上げが大きくなっています。上のグラフはコア消費者物価上昇率を折れ線グラフで、そのうちの公共料金の寄与度を棒グラフで、それぞれプロットしています。コア消費者物価上昇を大きく上回る公共料金の上昇が読み取れます。一般物価水準としてプラスのインフレを記録し始めたのは評価すべきかもしれませんが、政策割当てとしては問題があるような気がします。
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