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2011年9月22日 (木)

福田和代『リブート!』(双葉社) を読む

福田和代『リブート!』(双葉社)

福田和代『リブート!』(双葉社) を読みました。銀行のオンライン・システムを支えるシステム・エンジニアの活動を描いており、この作者にしてはめずらしく、テロや犯罪とは関係がなく、警察や自衛隊も出て来ません。まず、作者のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。

『リブート!』双葉社
銀行の取引システムを支える技術屋たちの奮闘を描く。統合を控えた2つの銀行 の、違うタイプのエンジニアが最後に得るのは不信か友情か。度重なるトラブルに立ち向かう熱い人間ドラマ。毎日を懸命に生きるサラリーマンにエールを贈る!

このブログでは今まで取り上げませんでしたが、実は、私は以下の福田和代さんの作品をほとんど読んでいます。例外は、短編集の『プロメテウス・トラップ』くらいなんですが、現時点で読み終えていないというだけで、パラパラといくつかの短編は目を通していますので、そのうちに図書館で借りて読むつもりにしています。なお、以下の順番は作者のサイトに従っていますが、おそらく、新しい順ではないかと考えています。

  • 『リブート!』双葉社
  • 『怪物』集英社
  • 『タワーリング』新潮社
  • 『迎撃せよ』角川書店
  • 『ハイ・アラート』徳間書店
  • 『オーディンの鴉』朝日新聞出版
  • 『プロメテウス・トラップ』早川書房
  • 『黒と赤の潮流』早川書房
  • 『TOKYO BLACKOUT』東京創元社
  • 『ヴィズ・ゼロ』青心社

どうして、この作者の作品を今まで取り上げなかったかというと、端的に言って、作品の出来がよくないからです。それなりに名を知られるようになったのは、『TOKYO BLACKOUT』からではないかと記憶していますが、『TOKYO BLACKOUT』を含めて、『ヴィズ・ゼロ』、『ハイ・アラート』、『迎撃せよ』、『タワーリング』の5作品は大がかりな舞台装置でもって、特に、『ヴィズ・ゼロ』と『迎撃せよ』については、個人を中心とする「小さな物語」ではなく、天下国家を巻き込んだ「大きな物語」を取り上げたがる傾向が見られました。しかし、ハッキリ言って、作者には登場人物のキャラを書き分ける筆力がなく、個々人はさて置くとしても、大きなテロや犯罪を組織的に実行する場合の個々人のつながりといったものがまったく注意が払われていなかったと私は評価しています。すなわち、かなり大規模なテロや犯罪ですから、個人ではなく何人かの組織で実行する必要があるんですが、どうしてこれらの人々が集まったのかがまったく不明でした。加えて、テロや犯罪の動機というか、出発点がとても非現実的で、さらに、エコノミストの目から見て原価計算が未成熟というか、合理的なコスト・ベネフィットを超えていて、債務超過のテロや犯罪ばかりを取り上げている気がしたからです。もっとも、狂信的なテロはともかく、犯罪はビジネスとして成り立たないのは広く知られているところであろうという気はします。なお、『黒と赤の潮流』についてはタイトルの付け方から始めても、論外というようなひどい出来でした。
長編としては、私は『怪物』から少し変化があったと受け止めています。「馬鹿げた」という形容詞がつきそうなほどの大がかりで組織的なテロや犯罪ではなく、もちろん、天下国家を対象とする「大きな物語」も卒業して、地に足のついたホラー小説です。登場人物を限定してキャラを書き分ける能力の不足を補い、極めて明瞭な終わり方を指向しています。基本的に、この方向性は『リブート!』にも受け継がれていて、さらに画期的にも、最初に書いた通り、この作者にしてはめずらしく、テロや犯罪とは関係がないビジネス小説に仕上げています。全部は読んでいませんが、『プロメテウス・トラップ』もサイバー・テロを取り扱っていて、FBIやインターポール捜査官が登場しますので、その意味では、『リブート!』はこの作者の転換点となる可能性があります。もちろん、キャラやストーリーに関する作者の筆力が向上すれば、もう一度、式的なテロなどのアクションを含む「大きな物語」に挑戦することは将来の課題となる可能性はありますし、現時点で、この作者の作品に満足している読者には誠にお気の毒に感じるんですが、この作者はそれだけの能力は有していません。身近で土地勘のあるストーリーから始めて然るべきです。

誠に申し訳ないながら、福田和代さんについては、最近の直木賞作家である道尾秀介さんや池井戸潤さんに比べて、さすがに2ケタくらいの力量の差を感じました。この評価は正直に図書館の予約に表れ、我が家の近くの区立図書館では4月発売の『タワーリング』、6月発売の『怪物』、7月発売の『リブート!』は、すべてほとんど予約待ちなしに借りられました。しかし、『怪物』と『リブート!』はこの作者の転機になる可能性があります。いくつか連載も続いているようですし、楽しみに次の作品を待ちたいと思います。

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