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2011年10月20日 (木)

財政収支の改善には物価上昇よりも成長が有効か?

読むのに時間がかかりましたが、10月17日に内閣府の経済社会構造に関する有識者会議から、「経済成長と財政健全化に関する研究報告書」が公表されていますので、取り上げたいと思います。

 歳出の弾性値歳入の弾性値収支改善条件
物価上昇1弱約1×
実質成長0.2弱1強
名目成長0.5弱1強

いきなり結論ですが、実質成長、物価、そしてこの2つを合成した名目成長のうち、実質成長が財政収支の改善には有効であり、物価上昇は歳出の増加を招くことから、財政収支改善条件の可能性は低い、と結論しています。上の表の通りです。リポート p.34 の収支改善変化のための条件を一般政府に着目して私なりに取りまとめています。また、下のグラフはリポート p.51 から引用しており、G7諸国の財政収支改善と物価上昇率、実質成長のそれぞれをプロットしています。成長が財政収支改善に寄与しているように見える一方で、物価上昇とは明確な関係は見出せそうにありません。

財政収支改善幅と実質成長率及び物価上昇率の関係

財政収支だけに着目して、実質成長が有効であって、物価上昇は同時に歳出の増加も招く、すなわち、物価上昇については歳入の弾性値が1を超える一方で、歳出の弾性値もほぼ1近傍である、というのは説得力あることは確かです。例えば、リポート p.31 でマクロの国民医療費の伸びの要因分解をしていて、1990年度から95年度にかけての伸びと1995年度から2000年度にかけての増分を比較し、高齢化による要因がほぼ4割を占め、残りの59.8%のうちの53.7%と、ほとんどが医療技術の進歩・高度化等に起因すると結論しています。社会保障に財政リソースを注ぎ込む根拠を示していると私は受け止めています。
しかし、リポートが見落としている点を3点だけ私から上げておきたいと思います。第1に、フローの財政収支の改善には役立たない可能性が高いながら、物価上昇はストックの債務残高の縮減には有効である可能性が大きい点です。金利上昇が物価に追いつかないと仮定すれば、容易に理解できるでしょう。特に、精緻な理論展開は不要だと考えます。ついでながら、現時点で、資産ストックをいっぱい持っているのは引退世代であり、負債ストックが多いのは政府です。この負債ストックは将来の納税者に転嫁される可能性があります。デフレは資産ストック保有者に有利に働き、インフレが負債ストック保有者、あるいは、将来のその負担者に有利に作用するのはいうまでもありません。第2に、医療費の例を引いたように、社会保障給付の増加の大きな要因は高齢化とともに質の向上に起因します。しかし、医療などの人道的な配慮が求められる分野は質の高い社会保障が必要としても、勤労世代が労働市場で低賃金と高失業に苦しむ現在の日本において、市場の圧力にさらされず政治的圧力で決まる部分が大きい社会保障の分野で、引退世代だけが質の高い給付を享受することが合理化されるべきではない、と私は考えています。繰返しになりますが、高度な医療などは別としても、少なくとも一般論として、賦課制度の年金の下で引退世代が勤労世代からの移転で高い生活水準を享受し続けるのは、急速に高齢化が進展する社会ではまったくサステイナブルではありません。一般論を超えて我が国においても、社会保障に大きな財政リソースが必要である原因を社会保障の質的な向上に求めるのは限界があると理解すべきです。第3に、復興増税をはじめとして、今後、政府で議論される財政収支改善のための消費税率引上げも含めた増税議論との整合性に疑問を感じるのは私だけでしょうか。物価や成長を通じた歳入と歳出のバランスの変化に伴う財政収支改善とともに、より直接的な財政収支改善方策として歳出削減と歳入増加があるのはいうまでもありません。歳出を削減し、あるいは、歳入を増加させるための増税には一時的にせよ成長の鈍化が伴う可能性があります。この研究会では物価や成長といったマクロ経済の環境変化だけをスコープに捉え、ダイレクトに財政収支へ影響を及ぼす歳出削減や歳入増加、あるいは、増税は財務省に遠慮したのかどうか、スコープから外れている、ということなのかもしれませんが、歳出の削減や歳入の増加は成長にマイナスの影響を及ぼす可能性があるだけに、財政収支の改善に一定の制約がかかる可能性があります。露骨にいえば、一般均衡的に成長鈍化を織り込むと増税幅は部分均衡的に考えるよりも大きくする必要が生じる可能性があります。そこまでの含意を持たせているのであれば、かなり念のいったリポートだという気がします。

私が指摘した3点、特に2番目の社会保障給付の増加が社会保障の質的な高度化に起因する、という点に関してはごまかされるエコノミストが多そうな気がします。もっとも、社会保障給付の質を低下させることも財政収支改善のアジェンダに上げるべき、というのは典型的に Starve the Beast 的な政策スタンスで、実は決して、私の好みではないんですが、シルバー・デモクラシーを考慮して、行き過ぎた引退世代の優遇を改めるためには、いろんなことを総動員で考える必要がありそうな気がします。

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