国際通貨基金 (IMF) の Japan Sustainability Report
一昨日、国際通貨基金 (IMF) から Japan Sustainability Report 2011 が発表されています。日本財政の現状を分析し、国債金利の "sudden spike" を憂慮しています。ハッキリいって大した内容ではなく、世間的にもそれほど注目されていませんが、国際機関のリポートを取り上げるのは私のこのブログのひとつの特徴ですので、簡単に振り返っておきたいと思います。まず、Wall Street Journal のサイトから記事の最初の6パラを引用すると以下の通りです。
IMF Warns Japan Debt Could 'Become Unsustainable'
The International Monetary Fund warned in a new report that market concerns over fiscal sustainability could trigger a "sudden spike" in Japanese government bond yields that could quickly render the nation's debt unsustainable as well as shake the global economy.
The fund's Japan Sustainability Report, released on Wednesday, was a signal to Tokyo policy makers that the international community is already worried about fallouts from Japan's potential fiscal problems, after debt problems in some European economies evolved into a Continent-wide crisis.
Japan's public liabilities amount to roughly twice annual economic output-a ratio worse than that of any other industrialized economy, including turmoil-hit Spain and Italy. The Japanese government has been slow to move amid political reluctance to lift taxes, particularly after the March 11 earthquake.
"Should JGB yields rise from current levels, Japanese debt could quickly become unsustainable," the IMF said in the report.
"Recent events in other advanced economies have underscored how quickly market sentiment toward sovereigns with unsustainable fiscal imbalances can shift," the fund said.
Higher government bond yields "could result in a withdrawal of liquidity from global capital markets, disrupt external positions and, through contagion, put upward pressure on sovereign-bond yields elsewhere," the fund said.
リポートから日本の財政や国債残高に関する現状を説明するグラフを引用したいと思います。まず、見慣れた棒グラフですが、先進国の中で日本の国債残高のGDP比が飛び抜けて大きいことを示すグラフです。欧州は1国で表章してありますが、100%を超える先進国はイタリアくらいだろうと思います。リポートの p.4 Gross Debt for G-20 Advanced Countries から引用しています。
次に、この膨大な国債残高の原因が社会保障にあることを示唆するグラフを2点引用したいと思います。まず、国債残高のストックがGDP比で示されているグラフはリポートの p.10 Cumulative Contribution to Net Debt です。黄色の社会保障給付と緑色の社会保障負担の差に注目すべきと私は考えています。赤い部分の社会保障給付以外の支出はここ2-3年で極めて小さくなっている点も見逃すべきではありません。
次に、財政収支のフローが額で示されているグラフはリポートの p.12 Distribution of General Government Expenditures です。前のストックのグラフと色分けが異なるので少し見づらいんですが、緑色の社会保障給付以外の支出は2000年以降くらいでほぼ横ばいになっている一方で、赤の社会保障給付が際限なく増加しているのが見て取れます。確かに、ムダな公共投資はまだまだいっぱいあるのかもしれませんが、公共投資は1990年代半ばをピークに減少傾向にあることも事実です。シルバー・デモクラシーに基づく高齢者のウルトラ優遇策が財政悪化の一因となっている現状が理解できます。
次に、ここまで積み上がった国債残高の保有者の内訳のグラフをリポートの p.15 Holdings of Japanese Government Bonds から引用すると以下の通りです。銀行や生保・損保などの機関投資家の保有割合が過半を占め、海外保有者は5%ほどに過ぎません。
この圧倒的な国内保有比率からして、リポートの p.15 パラ14で、日本政府の財政状況が極めて悪いにもかかわらず低コストの資金調達が可能となっている、とIMFも認めています。しかし、リポートでは大きなリスクが存在するとして、それは金利に上乗せされるリスクプレミアムの突然の上昇であると指摘しています。すなわち、何らかの要因でリスクプレミアムを含む金利が上昇すれば、アっというまに日本財政はサステイナブルでなくなると指摘しています。そして、リスクプレミアムの上昇を引き起こす要因は財政再建の遅れだけでなく、企業収益の低下に伴う民間部門の貯蓄の減少、成長の鈍化が長引くケース、投資家のポートフォリオのシフトなどを例として上げています。リポートの p.17 から関連する部分を引用すると以下の通りです。
Should JGB yields rise from current levels, Japanese debt could quickly become unsustainable.
Market concerns about fiscal sustainability could result in a sudden spike in the risk premium on JGBs, without a contemporaneous increase in private demand. An increase in yields could be triggered by delayed fiscal reforms; a decline in private savings (e.g., if corporate profits decline); a protracted slump in growth (e.g., related to the March earthquake); or unexpected shifts in the portfolio preferences of Japanese investors. Once confidence in sustainability erodes, authorities could face an adverse feedback loop between rising yields, falling market confidence, a more vulnerable financial system, diminishing fiscal policy space and a contracting real economy.
上の引用はリポート p.17 の "Domestic Perspective" と題した部分なんですが、当然ながら、IMFは親切にも日本の利益だけを勘案して分析・提言してくれているわけではありません。リポート p.18 の "Multilateral Perspective" を読めば、国債価格が暴落すれば、保有する邦銀が流動性や準備の不足に陥って、世界中の流動性をかき集め、為替相場も含めてグローバルに大混乱が生じる可能性を懸念していることが理解できます。すなわち、"A spike in JGB yields could result in an abrupt withdrawal of liquidity from global capital markets and possibly disruptive adjustments in exchange rates." なわけです。ですから、財政再建が短期的には経済に下押し圧力を加える点を考慮して、リポート p.21 では "Japan needs both fiscal adjustment and structural reform." と結論しています。特に新味はなく、ありきたりながら、当然すぎるほど当然の結論といえます。
最後に、ホンのついでなんですが、本日、総務省統計局から消費者物価指数 (CPI) が発表されました。いつものグラフは上の通りです。生鮮食品を除くコアCPIの前年同月比上昇率は10月の全国で▲0.1%と、6月統計以来のマイナスを記録し、さらに、11月の東京都区部は▲0.5%とデフレが悪化しています。誰も注目していませんが、円高の影響がジワジワと出始めたのではないかと私は危惧しています。また、2010年における消費者物価の地域差指数も同時に発表されています。下のグラフの通りです。
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