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2011年11月29日 (火)

経済協力開発機構 (OECD) の経済見通し Economic Outlook, No.90

昨日、経済協力開発機構 (OECD) から経済見通し Economic Outlook, No.90 が発表されました。今年2011年のOECD加盟国の成長率は+1.9%ですが、来年2012年には+1.6%に減速した後、さ来年2013年は再び+2.3%と順調に成長を加速させると見込んでいます。しかしながら、異例にも今回の見通しでは標準シナリオのほかに、米国が過剰な財政赤字削減を実行する (Excessive US fiscal consolidation) ダウンサイド・シナリオと欧州が現在の債務危機を鎮静化させる (Euro-area debt crisis successfully defused) アップサイド・シナリオの2ケースを想定し、それぞれに成長率を弾き出しています。見通しの幅に余裕を持たせたのではなかろうかという気がします。今日の段階では簡単に取り上げるにとどめたいと思いますが、まずは、いつもと少し趣向を変えて Les Echo のサイトからフランス語の記事の要約を引用すると以下の通りです。

L'OCDE appelle Paris à prendre de nouvelles mesures
L'OCDE a revu en baisse ses prévisions de croissance pour la France. le PIB ne progresserait que de 0,3 % en 2012 et l'Hexagone connaîtrait une légère récession en fin d'année. Une contre-performance largement inférieure à la dernière prévision du gouvernement français qui nécessite de nouvelles mesures budgétaires.

次に、日米欧とOECD非加盟ながらBRICsなどの主要国の成長率見通しは以下の通りです。これがいわゆる標準ケースです。OECD未加盟国を含めて、ほとんどの国で2012年から2013年にかけては成長が加速する見通しとなっている一方で、日本だけが成長を鈍化させると見込まれています。もっとも、これは一部に増税の影響も含まれている可能性はあるものの、主として、2012年の成長率が震災からの復興需要でかさ上げされることの反動であると私は受け止めています。なお、図表としては引用しませんが、成長率以外のひとつの特徴として米欧日いずれにおいても失業率が高止まりすると予想されていることが上げられます。米国は8%台半ばで、ユーロ圏諸国は10%を超えた水準で、日本も4%台半ばで、2013年までほとんど改善しないと見込まれています。プレゼンテーションの p.2 を画像に変換しています。なお、画像をクリックすると別タブで各国の成長率見通しを一覧にした pdf ファイルが開きます。Statistical Annex の p.216 を抽出しています。

The Outlook, Real GDP Growth

次に、標準シナリオから外れて、ダウンサイド・シナリオとアップサイド・シナリオの米欧日中4か国の成長率見通しは以下の通りです。成長率のパーセント・ポイント差で見て、もっとも大きな影響を受けるのは、もちろん、震源地の米欧なんですが、いずれにせよ、米国が過剰に財政再建を進めてしまうダウンサイドのシナリオでは米欧日の先進国がいずれもマイナス成長に陥る可能性が示唆されています。プレゼンテーションの pp.14-15 を画像に変換しています。

The downside and upside scenarios

次に、代替シナリオをOECDに用意させるほどの財政状況について、2011年から2013年で財政再建の進捗がどれくらいあったかを示すグラフは以下の通りです。歳出と歳入別で推計されています。もはや、驚きもしないんですが、国債残高のGDP比が先進国でもっとも高い水準を誇る我が国では一向に財政再建が進んでいないことは明白です。先週金曜日のエントリーで取り上げたように、国際通貨基金 (IMF) が懸念するのも当然なのかもしれません。このグラフはプレゼンテーションの p.13 を画像に変換しています。

Fiscal consolidation is ongoing

しかしながら、米欧日の先進国の大国における財政再建は遅々として進みません。米国では政府債務残高のGDP比は100%を超え、ユーロ圏でも100%に近づくと見込まれています。我が日本は債務残高がGDPの200%を超えても悠然と債務を積み上げ続けると予想されています。下の表は「経済見通し」本文の p.35 Table 1.4. Fiscal positions will improve only slowly から引用していますが、2010年から2013年までの3年間でGDP比で25%を超える債務を積み上げるのは日本だけです。

Table 1.4. Fiscal positions will improve only slowly


OECDの経済見通しとしては最後に、日本経済の見通しは以下の通りです。GDPコンポーネントごとの詳細な表になっています。見通し期間で公共投資がやや変動を大きくするのは震災復興のためです。国別サマリーのサイトから引用しています。

Japan: Demand and output

OECD経済見通しから離れて、本日、月末の閣議日ですので雇用統計が発表されました。すなわち、総務省統計局から失業率などの労働力調査が、また、厚生労働省から有効求人倍率などの職業安定業務統計が、それぞれ発表されています。4.1%に大きく低下した先月の失業率の統計について、私はこのブログで「失業率の大幅な改善はにわかには信じ難く、統計の信頼性について疑問を持つ向きがあっても不思議ではない」と書きましたが、案の定、4.1%から4.5%に再びハネ上がりました。グラフは以下の通り、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数です。いずれも季節調整済みの系列で、影をつけた部分は景気後退期です。

雇用統計の推移

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2011年11月28日 (月)

薬丸岳『ハードラック』(徳間書店) を読む

薬丸岳『ハードラック』(徳間書店)

薬丸岳『ハードラック』(徳間書店) を読みました。作者は2005年に『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビューしたミステリ作家です。まず、出版社のサイトからこの作品の「内容紹介」を引用すると以下の通りです。

内容紹介
人生をやり直したい、と願ったネットカフェ難民相沢仁(26)は、闇の掲示板で仲間を募り、応じてきた四人の男女と話すうち金満家襲撃話が持ち上がった。が、決行中に相沢は頭を殴られて昏倒。結局一人逃げるはめになった彼は、報道で邸から3人の他殺体が発見されたと知る。家人には危害を加えないはずが、俺は仲間にはめられた。3人殺しでは死刑は確実。得体の知れない仲間を彼は自力で見つけねばならなくなった……。

圧倒的な支持を受けて江戸川乱歩賞を受賞した『天使のナイフ』こそ書名だけ知っていたものの、誠に不勉強ながら、この作者の作品は初めて読みました。少しネットで調べると、少年犯罪、刑法第39条の責任能力、犯罪者の処罰と更正など、とってもヘビーなテーマを取り上げて来た作者にしては、この作品はホンの少し裏社会が描かれているとはいえ、かなりライトな内容なのかもしれません。その意味で、この作者の小説を初めて読んだ私なんかの初心者ならともかく、ずっとデビュー作から読み続けている愛好家には、ひょっとしたら、少し物足りない可能性もあります。
この作品に描かれている日本の裏社会がどこまで正確なのかは、表社会を代表するがごとき国家公務員をしている私なんぞに分かるハズもありませんが、キチンと書き分けられたキャラと迫力あるストーリー展開で一気に読むことが出来ます。もちろん、プロットも秀逸で、残りページ数がわずかになっても、一向に事件が解決に向かわないイライラした雰囲気をラストで一気にひっくり返してくれます。犯人探しのミステリとしてもなかなかの出来栄えです。

ここ数年でそれなりに名をはせた新進気鋭の作家の最新作です。多くの図書館に所蔵されていることと思いますので、多くの方が手に取って読むことを願っています。

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2011年11月27日 (日)

80歳になったソニー・ロリンズのテナーはやっぱり力強く男性的か?

ソニー・ロリンズ「ロード・ショウズ」Vol.1, Vol.2

テナーサックスの巨人、ソニー・ロリンズが新しいアルバムをリリースしました。「ロード・ショウズ vol.2」です。2年前の vol.1 とともに聞いてみました。まず、曲の構成は以下の通りです。

  • Road Shows, vol.1
    1. Best Wishes
    2. More Than You Know
    3. Blossom
    4. Easy Living
    5. Tenor Madness
    6. Nice Lady
    7. Some Enchanted Evening
  • Road Shows, vol.2
    1. They Say It's Wonderful
    2. In a Sentimental Mood
    3. Sonnymoon for Two
    4. I Can't Get Started
    5. Raincheck
    6. St. Thomas

vol.1 も vol.2 もいずれもすべてライブ録音された音源です。vol.1 が古いところでは1980年代の2曲を含むのに対して、vol.2 はすべてが2010年のライブですから、その意味で、注目するジャズ・ファンも多かったんではないかと考えられます。もちろん、私もそのうちの1人です。ちなみに、vol.2 の1曲目は札幌でのライブ、最後の6曲目は東京で録音されています。2-5曲目はニューヨークにおけるロリンズ自身の「生誕80周年記念ライブ」でのパフォーマンスです。
いうまでもありませんが、ロリンズはコルトレーンと並ぶモダン・ジャズのテナーサックスの巨人の1人であり、力強い男性的なサウンドを売り物にしています。私の受止め方だけなんですが、コルトレーンが緊張感を高めるテナーサックスなのに対して、ロリンズはリラックスできるサウンドな気がします。同じことを別の表現をするならば、コルトレーンはストレス・レベルを上げ、ロリンズは下げるということも出来るかもしれません。もっとも、私は基本的に適度に緊張感を高めるために音楽を聴くことは嫌いではなく、決して、音楽はリラックスするだけが目的ではないと考えています。非常に極端な例では戦意高揚のための軍歌の効用について、マンガ「ケロロ軍曹」のギロロ伍長が発言していたことを思い出します。もちろん、私は戦意高揚やその先にある戦争を称揚するつもりはありませんし、軍歌とモダン・ジャズの名曲・名演奏を同一視するのはとんでもないことだと考えていますので、念のため。
前置きが長くなりましたが、このアルバムの vol.1 も決して悪い出来ではないと思っていましたが、続けて聞くと、やっぱり vol.2 がすぐれています。もちろん、ロリンズの全盛期は50年ほど前の1960年前後でしょうし、このアルバムが「サキソフォン・コロッサス」よりもいい出来であるなどと、血迷ったことはいうつもりはありませんが、ロリンズらしい朗々となるテナーサックス、小粋なアドリブ、くつろいだ雰囲気の聴衆と、なかなかの出来上がりとなっています。まあ、80歳にしては十分な肺活量でよく息が続きますし、フィンガリングもまだまだ健在でよく指が動きますす。さすがに、新しい音楽を切り開く境地にいるとはとても思えませんが、それでも、「昔の名前で出ています」だけではありません。今世紀に入ってからのテナーサックス奏者では、私は圧倒的にエリック・アレクサンダーを評価していて、やや懐古趣味的なアンディ・スニッツァーやグラント・ステュワート、あるいは、ハリー・アレンなんかも決して嫌いではないんですが、1950-60年代の圧倒的なロリンズの存在感には及ばないのは当然です。スポーツのように勝負が決まるわけではないので、ロリンズを引退に追い込むというのは表現が違う気もしますが、いつまでもロリンズを聞いているのではなく、バリバリの若いテナーサックス奏者が出て来て欲しい気もしないでもありません。

最後に、下の動画は昨年2010年の North Sea Jazz Festival で St. Thomas を演奏するソニー・ロリンズです。

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2011年11月26日 (土)

今年のヒット商品やいかに?

一昨日の11月24日、電通総研から「話題注目商品2011」と題するリポートが発表されました。今年の注目商品のランキングです。約130の候補商品・サービスに関して、アンケート調査から求めた「認知度」、「関心度」、「話題度」を合計したもので作成しているようです。昨年に引き続き今年も、普及が進んだ「スマートフォン」が、1位を獲得しました。週末の軽い経済の話題として取り上げたいと思います。まず、30位までのランキングは以下の通りです。

生活者が選ぶ2011年の話題注目商品ベスト30

リポートでは、ランキング上位の特徴として、スマートフォン・タブレット端末・ソーシャルメディアなどの新しい情報ツール、震災を背景に需要が高まった節電関連商品やエコカーなどの省エネや環境にやさしい商品、東京スカイツリー・なでしこジャパン・AKB48などの日本人を元気にした現象や人々が目立ったことを指摘しています。そうかもしれません。
ランキングの5位までは誰が見ても文句なしでしょう。ベストテンの中では、8位の防災グッズ・備蓄食と9位の扇風機は3月の震災以降に注目を集めたと私は受け止めています。扇風機については2位のLED電球や7位のハイブリッドカーが震災前から地球温暖化防止などの観点で注目されていたのとはわけが違います。逆に、10位の地デジ対応大画面薄型テレビは今年限りのランクインで、来年はすっかり忘れ去られていると私は予想しています。また、週末サイクリストとして、これだけ流行っているのに、どうして自転車が30位までにランクインしていないのか不思議に感じています。

私自身は昨夏に長崎から帰京して、今春に下の子が中学に上がりましたが、私自身の生活は特に変化もありません。地デジ移行のためにテレビこそ買い換えましたが、30位にもランクインしていない自転車を週末に乗り回すだけで、コレといってマイブームはありませんでした。元来、テンパることもないし、何かにハマることもない人間なんだということは自覚しています。

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2011年11月25日 (金)

国際通貨基金 (IMF) の Japan Sustainability Report

一昨日、国際通貨基金 (IMF) から Japan Sustainability Report 2011 が発表されています。日本財政の現状を分析し、国債金利の "sudden spike" を憂慮しています。ハッキリいって大した内容ではなく、世間的にもそれほど注目されていませんが、国際機関のリポートを取り上げるのは私のこのブログのひとつの特徴ですので、簡単に振り返っておきたいと思います。まず、Wall Street Journal のサイトから記事の最初の6パラを引用すると以下の通りです。

IMF Warns Japan Debt Could 'Become Unsustainable'
The International Monetary Fund warned in a new report that market concerns over fiscal sustainability could trigger a "sudden spike" in Japanese government bond yields that could quickly render the nation's debt unsustainable as well as shake the global economy.
The fund's Japan Sustainability Report, released on Wednesday, was a signal to Tokyo policy makers that the international community is already worried about fallouts from Japan's potential fiscal problems, after debt problems in some European economies evolved into a Continent-wide crisis.
Japan's public liabilities amount to roughly twice annual economic output-a ratio worse than that of any other industrialized economy, including turmoil-hit Spain and Italy. The Japanese government has been slow to move amid political reluctance to lift taxes, particularly after the March 11 earthquake.
"Should JGB yields rise from current levels, Japanese debt could quickly become unsustainable," the IMF said in the report.
"Recent events in other advanced economies have underscored how quickly market sentiment toward sovereigns with unsustainable fiscal imbalances can shift," the fund said.
Higher government bond yields "could result in a withdrawal of liquidity from global capital markets, disrupt external positions and, through contagion, put upward pressure on sovereign-bond yields elsewhere," the fund said.

リポートから日本の財政や国債残高に関する現状を説明するグラフを引用したいと思います。まず、見慣れた棒グラフですが、先進国の中で日本の国債残高のGDP比が飛び抜けて大きいことを示すグラフです。欧州は1国で表章してありますが、100%を超える先進国はイタリアくらいだろうと思います。リポートの p.4 Gross Debt for G-20 Advanced Countries から引用しています。

Gross Debt for G-20 Advanced Countries

次に、この膨大な国債残高の原因が社会保障にあることを示唆するグラフを2点引用したいと思います。まず、国債残高のストックがGDP比で示されているグラフはリポートの p.10 Cumulative Contribution to Net Debt です。黄色の社会保障給付と緑色の社会保障負担の差に注目すべきと私は考えています。赤い部分の社会保障給付以外の支出はここ2-3年で極めて小さくなっている点も見逃すべきではありません。

Cumulative Contribution to Net Debt

次に、財政収支のフローが額で示されているグラフはリポートの p.12 Distribution of General Government Expenditures です。前のストックのグラフと色分けが異なるので少し見づらいんですが、緑色の社会保障給付以外の支出は2000年以降くらいでほぼ横ばいになっている一方で、赤の社会保障給付が際限なく増加しているのが見て取れます。確かに、ムダな公共投資はまだまだいっぱいあるのかもしれませんが、公共投資は1990年代半ばをピークに減少傾向にあることも事実です。シルバー・デモクラシーに基づく高齢者のウルトラ優遇策が財政悪化の一因となっている現状が理解できます。

Distribution of General Government Expenditures

次に、ここまで積み上がった国債残高の保有者の内訳のグラフをリポートの p.15 Holdings of Japanese Government Bonds から引用すると以下の通りです。銀行や生保・損保などの機関投資家の保有割合が過半を占め、海外保有者は5%ほどに過ぎません。

Holdings of Japanese Government Bonds

この圧倒的な国内保有比率からして、リポートの p.15 パラ14で、日本政府の財政状況が極めて悪いにもかかわらず低コストの資金調達が可能となっている、とIMFも認めています。しかし、リポートでは大きなリスクが存在するとして、それは金利に上乗せされるリスクプレミアムの突然の上昇であると指摘しています。すなわち、何らかの要因でリスクプレミアムを含む金利が上昇すれば、アっというまに日本財政はサステイナブルでなくなると指摘しています。そして、リスクプレミアムの上昇を引き起こす要因は財政再建の遅れだけでなく、企業収益の低下に伴う民間部門の貯蓄の減少、成長の鈍化が長引くケース、投資家のポートフォリオのシフトなどを例として上げています。リポートの p.17 から関連する部分を引用すると以下の通りです。

Should JGB yields rise from current levels, Japanese debt could quickly become unsustainable.
Market concerns about fiscal sustainability could result in a sudden spike in the risk premium on JGBs, without a contemporaneous increase in private demand. An increase in yields could be triggered by delayed fiscal reforms; a decline in private savings (e.g., if corporate profits decline); a protracted slump in growth (e.g., related to the March earthquake); or unexpected shifts in the portfolio preferences of Japanese investors. Once confidence in sustainability erodes, authorities could face an adverse feedback loop between rising yields, falling market confidence, a more vulnerable financial system, diminishing fiscal policy space and a contracting real economy.

上の引用はリポート p.17 の "Domestic Perspective" と題した部分なんですが、当然ながら、IMFは親切にも日本の利益だけを勘案して分析・提言してくれているわけではありません。リポート p.18 の "Multilateral Perspective" を読めば、国債価格が暴落すれば、保有する邦銀が流動性や準備の不足に陥って、世界中の流動性をかき集め、為替相場も含めてグローバルに大混乱が生じる可能性を懸念していることが理解できます。すなわち、"A spike in JGB yields could result in an abrupt withdrawal of liquidity from global capital markets and possibly disruptive adjustments in exchange rates." なわけです。ですから、財政再建が短期的には経済に下押し圧力を加える点を考慮して、リポート p.21 では "Japan needs both fiscal adjustment and structural reform." と結論しています。特に新味はなく、ありきたりながら、当然すぎるほど当然の結論といえます。

消費者物価上昇率の推移

最後に、ホンのついでなんですが、本日、総務省統計局から消費者物価指数 (CPI) が発表されました。いつものグラフは上の通りです。生鮮食品を除くコアCPIの前年同月比上昇率は10月の全国で▲0.1%と、6月統計以来のマイナスを記録し、さらに、11月の東京都区部は▲0.5%とデフレが悪化しています。誰も注目していませんが、円高の影響がジワジワと出始めたのではないかと私は危惧しています。また、2010年における消費者物価の地域差指数も同時に発表されています。下のグラフの通りです。

消費者物価地域差指数

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2011年11月24日 (木)

道尾秀介『水の柩』(講談社) を読む

道尾秀介『水の柩』(講談社)

道尾秀介『水の柩』(講談社) を読みました。作者はいろんなシリーズの作品を発表していて、『月と蟹』で第144回直木賞を受賞した後、『カササギたちの四季』も私は読みましたが、少年を主人公にした純文学系のシリーズの受賞後第一作ではないかと受け止めています。まず、出版社の特設サイトからあらすじを引用すると以下の通りです。

道尾秀介『水の柩』
老舗旅館の長男、中学校二年生の逸夫は、自分が“普通”で退屈なことを嘆いていた。
同級生の敦子は両親が離婚、級友からいじめを受け、誰より“普通”を欲していた。
文化祭をきっかけに、二人は言葉を交わすようになる。
「タイムカプセルの手紙、いっしょに取り替えない?」
敦子の頼みが、逸夫の世界を急に色付け始める。
だが、少女には秘めた決意があった。
逸夫の家族が抱える、湖に沈んだ秘密とは。
大切な人たちの中で、少年には何ができるのか。

繰返しになりますが、作者はなかなかに多作で、いくつかのシリーズの作品を発表しています。私が読んだ限りでも、デビュー作の『背の眼』で始まる吉備真備シリーズ、『片眼の猿』、『ソロモンの犬』、『ラットマン』、『カラスの親指』などの十二支シリーズ、『月と蟹』や本作のような少年を主人公にした純文学に近いシリーズ、さらに、初期の作品で最も著者の名を高からしめた『向日葵の咲かない夏』や最近の『カササギたちの四季』などの単発ミステリもあります。
上に引用したあらすじには「普通」をキーワードにしているように意図的に構成されていますが、実は、「嘘」がもうひとつのキーワードになっています。主人公の逸夫の同級生である敦子のつく「嘘」、そして、引用したあらすじにはありませんが、逸夫の祖母のいくが生涯をかけてつき通して来た「嘘」、そして、「嘘」を乗り越えて葬り去らんとするかのようなある種の儀式として、逸夫と敦子といくの3人が人形をダムに落としたりします。その後、いくは急速に認知症の症状を進めてしまう一方で、敦子は極めて独特の方法でいじめを切り抜けます。
読後感もさわやかで、エンターテインメント系の作品に秀作を残している作家ながら、こういった純文学系の作品にも十分な力量を示しています。作品の構成としては中学生の男女を主人公に据えていじめの問題も含んでいて、私が読んだ中では川上未映子さんの2年前の作品『ヘヴン』に似ていなくもありません。いずれも30代半ばの若手と目される作家の2人に私は注目していることはすでに何度かこのブログでも書いた記憶があります。30年後のノーベル文学賞を目指してほしい気がします。

最後に、この作品で触れられている学校のいじめに関する私見ながら、もはや我が国の義務教育レベルの教育機関ではいじめに対して無力である、と文学作品では受け止められていると感じざるを得ません。もし事実がこれらの小説の通りであれば、富裕層や教育に関する意識の高い家庭の子弟が公立小中学校から私立に流れるのも仕方ないのかもしれません。

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2011年11月23日 (水)

おにいちゃんと「ガンダム」の映画を見に行く

ガンダムUC episode 4 「重力の井戸の底で」ポスター

今日は、外出して我が家のおにいちゃんとガンダムUC episode 4 「重力の井戸の底で」を見に行きました。普通の劇場版の封切りと少し違って、上映時間は1時間ちょっととやや短く、そのためか、料金は均一1200円とかなりお安く設定されていました。我が家のおにいちゃんは学校の文化祭でもガンプラを組んだりしていますし、ある程度は小説の方を読んでいるので参考まで見に行きました。下の子も誘ったんですが、興味はないようでした。
今回の映画はガンダムUC、なお、「UC」はユニコーンの省略ですが、episode 4 になり、「重力の井戸の底で」のタイトル通り、地球が主な舞台となります。ちなみに、episode 1 から 3 までは「ユニコーンの日」、「赤い彗星」、「ラプラスの亡霊」でした。引き続き、地球連邦軍を滅亡に導くといわれる「ラプラスの箱」を巡る物語ですが、今回の episode 4 は早い話、「袖付き」と呼ばれるネオ・ジオン残党、フル・フロンタル大佐率いるネオ・ジオン残党軍が地球で破壊活動を行います。主人公はこのシリーズに共通してバナージ・リンクスであり、当然ながら、白い方のガンダム・ユニコーンを操ります。既発表の小説に従えば、episode 5 は「黒いユニコーン」となり、今日見た映画でも最後に登場しました。マリーダ・クルスの操縦だとおにいちゃんが教えてくれました。

おにいちゃんは小説を読んでいて話の筋を理解しているんですが、相変わらず、私は断片的にしかガンダムは把握していませんので、理解を超える部分が多々あります。今日の映画の客層も中心は10代後半から20代の男性だったような気がします。ホントに心行くまでガンダムを楽しもうと思ったら、ある程度の下調べは必要なのかも知れません。

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2011年11月22日 (火)

今冬のボーナスの動向やいかに?

そろそろ11月も終わりに近づき、日本では明日が勤労感謝の日のお休み、米国では明後日の Thanksgiving Day の後、いわゆる Black Friday からクリスマス商戦が始まります。日本でも本格的な年末商戦の始まりが近づいています。足もとから近い将来の景気動向を占うことが出来るかもしれません。ということで、日本の年末商戦を占う大きな要因となる年末ボーナス予想について取り上げたいと思います。まず、シンクタンクから公表されている年末ボーナス予想を取りまとめると以下の通りです。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しました。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートがダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別画面が開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名民間企業
(伸び率)
国家公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研37.5万円
(▲1.1%)
53.4万円
(▲10.0%)
今冬の賞与を展望すると、民間企業の一人当たり支給額は前年比▲1.1%と夏季賞与の同▲0.8%に続き、小幅マイナスとなる見通し。
みずほ総研37.7万円
(▲0.7%)
71.1万円
(+2.4%)
民間と公務員を合わせた支給総額は前年比▲0.1%と小幅な減少が予想される。時系列でみると、リーマンショック後に大きく落ち込んだ水準で、底ばいの動きとなりそうだ。
第一生命経済研37.3万円
(▲1.6%)
n.a.大企業については震災の影響は来年夏以降のボーナスに出るとみられる。一方、中小企業では、大企業に比べて業況が厳しいことに加え、震災後の業績悪化による押し下げ圧力もあることから、夏に続いて、冬のボーナスも減少するだろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング37.3万円
(▲1.8%)
54.7万円
(▲7.8%)
震災の影響もあって、企業規模や業種、個別企業間でボーナスの支給状況や支給額の格差はより広がることになるだろう。

一応、念のためですが、公務員のボーナスについて、日本総研と三菱UFJリサーチ&コンサルティングは表記の通り国家公務員ベースで、人事院勧告が実施されると微増のハズなんですが、すでに 閣議決定されている給与削減法案が成立した場合、表にある通り、大幅な減少となります。みずほ総研については、管理職を含むベースで給与削減法案を盛り込まず人事院勧告実施を前提としています。
上の表にあるリポートの一例として、三菱UFJリサーチ&コンサルティングのリポートの p.5/7 から民間企業の支給労働者数と支給労働者数割合及び支給総額のグラフを引用すると以下の通りです。詳しくは出典元のリポートをご覧ください。

冬のボーナス予想

額や伸び率の予想は上の表の通りなんですが、別の観点から、今年は格差が大きい年末ボーナスと受け止められています。いつもの官民格差が目につきますが、この官民格差については給与削減法案が成立すれば、わずかなりとも縮小する方向にあります。しかし、民間ボーナスの中で大手と中小の格差が広がっているといわれています。すなわち、大手企業については震災後ながらも春に年内のボーナス、夏季と年末を一括して妥結しているのに対して、中小企業では夏季と年末のボーナスを都度妥結しているので、この間の景気の下振れに影響されやすくなっています。もちろん、大企業もラグを伴って景気にアジャストするんでしょうが、この年末ボーナスについては調整遅れのおかげで少し高めのボーナスとなっているわけです。ですから、大手企業を対象とした日経新聞の調査結果(中間集計)経団連による大手企業業種別妥結状況調査結果ではボーナスは前年比でかなりのプラスと結論されています。しかし、上の表に見られる通り、中小企業を含むベースでのボーナス予想は軒並み前年比マイナスと予想されています。ただし、注意すべきは、支給者数が増加すると予想されていることです。マクロの消費に影響するのは1人当たりボーナス支給額もさることながら、1人当たりに支給者数をかけた支給総額です。今冬のボーナスは1人当たり支給額が減少する一方で、日本総研とみずほ総研では支給者数は増加、第一生命経済研と三菱UFJリサーチ&コンサルティングは支給者数も減少、とそれぞれ予想しています。日本総研とみずほ総研も含めて、支給総額は減少と予想されています。
この結果から、年末商戦を含む今後の消費を占うと、必ずしも明るい展望は描けません。7-9月期GDP速報では消費は伸びましたが、10-12月期にはマイナスに落ち込む可能性も否定できません。ただし、基本的には消費は底堅く推移すると私は予想しています。ひとつには、消費がどれだけボーナスに敏感かという問題があります。恒常所得仮説に従えば消費がボーナスに非感応的な可能性が強いですし、家計調査のデータは賞与にほとんど反応しないとの正準相関分析に基づく研究成果も見られます。別の観点で、消費が強いか弱い課ではなく、本来のあるべき消費の動向を探る意味もあります。すなわち、昨年の政策効果による消費の撹乱が今年10-12月期には存在しないという事情も興味深いと私は受け止めています。昨年は9月上旬で中止されたエコカー補助金による自動車販売の変動、家電エコポイントの12月の制度変更で11月に膨大な駆込み需要が発生したテレビ、10月からの大幅値上げで9月に駆込み需要が発生したたばこ、などの政策要因による消費の変動が観察されました。今年はそういった事情は昨年に比べてグっと小さく、もちろん、何らかの反動は含まれるものの、政策による変動の少ない本来の消費の動向が観察される可能性が高いと私は考えています。

エコノミストとしては年末ボーナスに基づく消費の動向が気がかりですが、我が家の大黒柱としては国家公務員の給与削減法案の行方が気がかりです。すでに閣議決定されているので、ひょっとしたら、さかのぼって適用される可能性があるのか、それとも、一定の時期を過ぎれば今年については逃げ切れるのか、私は詳しくないんですが、我が家の所得には一定の影響を及ぼすことは明らかです。

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2011年11月21日 (月)

予期せぬ貿易赤字を記録した貿易の先行きを考える

本日、財務省から10月の貿易統計が発表されました。ヘッドラインとなる輸出入は季節調整していない原系列で輸出が5兆5128億円、輸入が5兆7866億円、差引き貿易収支は2738億円の赤字となりました。市場の事前コンセンサスはわずかながら貿易黒字を記録するというものでしたから、ちょっとびっくりの結果だと私は受け止めています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の輸出、3カ月ぶりマイナス 欧州危機・タイ洪水響く
東日本大震災後の落ち込みから持ち直し傾向にあった輸出が足踏みしている。財務省が21日発表した10月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額は前年同月比3.7%減の5兆5128億円となり、3カ月ぶりにマイナスに転じた。欧州危機の影響で欧州連合(EU)や米国、アジア向けが軒並み減少した。洪水の影響でタイ向けが同5.1%減となるなど海外需要は徐々に減退している状況だ。
10月の輸出額は季節調整済みの前月比でも3.5%減となった。前月水準を下回ったのは震災直後の4月以来、半年ぶりで輸出の復調には陰りがみられる。財務省は「欧州債務問題による世界経済の減速や、円高に伴う海外生産シフトなど輸出の動向を注視していく」(関税局)としている。
10月の輸出額は数量ベースでは前年同月比4.0%減。輸出の足踏みは輸出価格を押し下げる円高よりも、海外需要そのものが落ち込んだ影響が大きい。
地域別にみると、米国、EU、アジア向けがいずれも減少に転じた。欧州危機に直面するEU向けは同2.9%減少。輸出額から輸入額を差し引いた貿易黒字は1002億円と、10月としては1979年以来の最低水準を記録した。米国向けも同2.3%減った。
アジア向けは半導体や船舶を中心に同6.6%減少した。大洪水で生産活動が止まったタイ向けは5.1%減。半導体など電子部品の輸出が約4割減った一方、タイからのパソコン輸入も2割減った。財務省は「11月は洪水の影響がさらに拡大した可能性がある」とみている。
品目別では、一般機械や電気機器を中心に減少が目立った。半導体など電子部品は世界的なIT(情報技術)市況の不調から2割減。船舶も3割減と減少基調が続いており、世界的な荷動きの停滞を反映している可能性もある。海外市場の在庫積み増しを急ぐ自動車は6.1%増加した。
10月の貿易収支は2738億円の赤字で、2カ月ぶりの赤字となった。輸出の減少に対し、輸入額が17.9%増と大幅に増加したのが主因。原子力発電所の停止に伴う火力発電用の液化天然ガス(LNG)の需要が高まっているほか、原油価格の高止まりも輸入金額を押し上げた。

いつもの貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも輸出入とその差額たる貿易収支をプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列、下は季節調整済みの系列です。水色の折れ線グラフが輸出、赤が輸入、緑色の棒グラフは貿易収支となっています。縦軸の単位は兆円です。

貿易統計の推移

まず、グラフを見れば明らかなんですが、原発停止の影響で燃料輸入が増加しているとはいうものの、貿易赤字の主因は輸出にあります。季節調整済みの下のパネルで見て、輸入が依然として従来のトレンドに乗っている一方、10月統計では輸出が落ち込んでいるのが見て取れます。引用した記事にもある通り、欧州のソブリン危機とタイの洪水が輸出の下押し要因となっています。前者は需要面からの輸出下押し要因、後者は供給面からの要因です。タイの洪水についてはエコノミストの守備範囲外で、私にはよく分かりませんが、欧州をはじめとする先進国経済については、いつものOECD先行指数で見たのが下のグラフです。

輸出の推移

上のパネルは輸出の金額指数の前年同月比を数量指数と価格指数で寄与度分解しています。10月の輸出の落ち込みは数量に起因することが明らかです。下のパネルは輸出の数量指数とOECD先行指数のそれぞれの前年同月比をプロットしています。ただし、OECD先行指数は1か月のリードを取っています。下のパネルから、欧州のソブリン危機もあり、先進国需要がゆっくりと下り坂になっていることが読み取れます。なお、今年3月から夏くらいまでの輸出指数の下方乖離は震災に起因する供給制約です。欧州初の需要ショックに加えて、タイの洪水についても震災と同じ供給ショックが生ずる可能性があります。

我が国の輸出の先行きについては、タイの洪水がどのくらい長引くかは不透明ですが、欧州のソブリン危機は簡単には終息しそうにありません。年内はもとより、年度内くらいは輸出が足踏みを続ける可能性があると覚悟すべきです。

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2011年11月20日 (日)

ジェフリー・ディーヴァー『007 白紙委任状』(文藝春秋) を読む

ジェフリー・ディーヴァー『007 白紙委任状』(文藝春秋)

ジェフリー・ディーヴァー『007 白紙委任状』(文藝春秋) を読みました。世界的なベストセラー作家による007シリーズなんですから、面白くないわけがありません。まず、出版社のサイトから「担当編集者から一言」を引用すると以下の通りです。

担当編集者から一言
いま世界最高のサスペンス作家といえばジェフリー・ディーヴァーに間違いないでしょう。そのディーヴァーが今回挑んだのは史上最高のヒーロー――007ことジェームズ・ボンドなのです。殺しのライセンスを持つイギリスのスパイ、007。その物語を、ディーヴァーは現代的なノンストップ・サスペンスに仕立て上げてみせました。ヨーロッパから南アフリカ、そしてドバイへと世界を駆け巡る一大アクション巨篇です。

まず、どうでもいいことかもしれませんが、上に引用した「担当編集者から一言」の舞台の異動は少し順番が違っています。007 ジェームズ・ボンドの本拠地であるロンドンを含めて、物語はセルビア、ロンドン、ドバイ、南アフリカと展開されます。007シリーズなんですから、力技のドンパチが繰り広げられるアクション巨編であることは間違いありません。また、私はイアン・フレミングのオリジナル007ははるかかなたの大昔に読んだだけなんですが、長官のMとマニーペニー、ボンドの直属の上司であるビル・タナー、連絡係のメアリー・グッドナイト、CIAのフェリックス・ライター、フランス情報部のレネ・マティスなど、冷戦時代のお馴染みがズラリと顔をそろえてたりします。もちろん、装備はフルに21世紀仕様になっています。私なんかには理解のはかどらないハイテク装備で満載です。
世界的なベストセラー作家と持ち上げましたが、実は、私はジェフリー・ディーヴァーについては、リンカーン・ライムを主人公とするニューヨークを舞台にした鑑識捜査シリーズのうちの『ウォッチメイカー』しか読んだことがありません。別のシリーズの主人公であるキネシクスの専門家キャサリン・ダンスも登場するオトクな1冊です。それはともかく、ジェフリー・ディーヴァーといえば、リンカーン・ライムの鑑識、キャサリン・ダンスの尋問と、ともに静かなインドアのイメージがあって、アウトドアで力技のドンパチを繰り広げる007シリーズには不向きな気もしていました。例えば、同じ言葉の「スパイ」を扱った巨匠とはいっても、スマイリーを主役とするシリーズで有名なジョン・ル・カレが007シリーズに向いていないのと同じです。でも、これは評価の分かれるところかもしれません。私は基本的にディーヴァーはテレンス・ヤングのオリジナルの007を十分に理解していると感じましたし、その上でディーヴァーが解釈した007は面白いと受け止めました。ただし、かなり内省的なジェームズ・ボンドです。父親がスパイだったのではないかと思い悩むスパイです。ゴルゴ13ではありませんが、マシンのように着実に任務を遂行する007を求める向きがある可能性もあります。でも、やっぱり、007とゴルゴ13は違うと私は思います。

訳者のあとがきにもあるんですが、スパイとしてのインシデントの処理は終了していますが、ボンドの家族の物語は尾を引いている印象があります。すなわち、ディーヴァーが007シリーズの続きを書く可能性は残されていると私は受け止めています。もしも、出版されたら、次も私は読みたいと思います。

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2011年11月19日 (土)

映画「ステキな金縛り」を見に行く

映画「ステキな金縛り」ポスター

今日は朝から雨降りで自転車で出かけるわけにいかず、仕方ないので室内競技に的を絞り、やっぱり、映画を見に行きました。上のポスターの通り、「ステキな金縛り」です。ご存じの通り、三谷幸喜監督作品で、主演は「悪役」でモントリオール世界映画祭最優秀女優賞と日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した深津絵里さんです。なお、ミステリ仕立てなので犯人は明かしませんが、映画の核心部分に触れるネタバレがあるかもしれません。読み進む場合は自己責任でご注意ください。
力量不足の弁護士に依頼されて落ち武者の幽霊が殺人事件の被告のアリバイを証明するというコメディで、もちろん、法廷を舞台にしています。幽霊が見えるのは、仕事が不調な上に、最近、何かの死に遭遇した、もしくは遭遇しかけた、シナモンをそこそこ大量に摂取している、という3条件に適する人物で、この弁護士と被告人と検事には幽霊の姿が見えて、声も聞こえますが、裁判長には見えず聞こえずです。一応、ハッピーエンドで終わると見せかけて、アリバイを証明する落ち武者の幽霊に加えて、被害者の幽霊まで動員して、深津絵里扮する弁護士が勝訴します。しかし、仕事がうまく行ったので、小さいころに死に別れた父親の幽霊を感じることが出来ません。なかなかよく考えられたエンディングだという気がします。

私の好みの問題もあるような気がしますが、俳優陣と女優陣、特に女優陣が豪華です。繰返しになりますが、主演は深津絵里、ほかに、竹内結子、篠原涼子、深田恭子と続きます。私の好みからすれば、松嶋菜々子が出演していれば完璧だった気がします。とにかく、ものすごく流行っている映画なので見ておいて損はないような気がします。

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2011年11月18日 (金)

とうとう The Economist にも取り上げられた日本の世代間格差

私が従来から指摘している勤労世代と引退世代の世代間格差について、日本のメディアは何らかの理由によって意識的にか無意識にか、あるいは、まったく気付かないのか、無視しているんですが、どうも The Economist は気付いたようです。"Japan's economy: Whose lost decade?" と題する最新号の記事を取り上げたいと思います。満開のサクラの下にあるベンチに初老の夫婦がにこやかに座っている写真が記事の内容のシンボルとして使われています。なお、適確にも、副題は "Japan's economy works better than pessimists think - at least for the elderly" となっています。そうなんです。日本社会はシルバー・デモクラシーによって高齢者がトクをするように出来ているんです。まず、The Economist のサイトから記事の最初の2パラを引用すると以下の通りです。

Japan's economy: Whose lost decade? | The Economist
THE Japanese say they suffer from an economic disease called "structural pessimism". Overseas too, there is a tendency to see Japan as a harbinger of all that is doomed in the economies of the euro zone and America-even though figures released on November 14th show its economy grew by an annualised 6% in the third quarter, rebounding quickly from the March tsunami and nuclear disaster.
Look dispassionately at Japan's economic performance over the past ten years, though, and "the second lost decade", if not the first, is a misnomer. Much of what tarnishes Japan's image is the result of demography-more than half its population is over 45-as well as its poor policy in dealing with it. Even so, most Japanese have grown richer over the decade.

記事では、東大の伊藤隆敏教授やコロンビア大学のワインシュタイン教授への取材も盛り込みつつ、現在の財政赤字は人口動態起因しる部ぬんがあり、すなわち、高齢者の増加に従って、年金や医療費などの社会保障費が大きく増加した一方で、税収が減少しているのだから、赤字が大幅に増加して当然と結論しています。しかし、高齢者は負担の増加や給付の削減を拒否している一方で、少数派の若年層は長期的な利害を実現するための政治的な影響力を何ら持たない、と実に適確に分析しています。すなわち、8パラ目で "Officials say the elderly resist higher taxes or benefit cuts, and the young, who are in a minority, do not have the political power to push for what is in their long-term interest." との政府関係者の発言を引いています。一応、念のためですが、私も政府の Official ながら、取材は受けていませんし、この記事の "Officials" には含まれていません。でも、考えていることはほとんど同じだったりします。我が同僚にも同じ理解をしている人がいることを力強く感じています。出来れば、私なんかと違って、政策策定により大きな影響力のあるポストに就いている人達であることを望んでいます。さらに、「政治主導」のご時世の下、主導する政治家の理解が進むことが何よりも必要です。海外メディアですら報じ始めた「シルバー・デモクラシーに基づく高齢者優遇」を国内で取り上げるのは、このブログの次はどこでしょうか?

And the laggard is...

もっとも、現状に対する判断は私にかなり近いものがある一方で、結論は彼我で大きく違っているように見えます。The Economist の方は、記事の中で上のグラフを示しつつ、生産性が低下しているのは困りものだが、まずまず、GDP総額でも1人当たりでもプラス成長しているのだし、欧米に比較して失業率はずいぶんと低いし、中年以上の日本人には結構は話ではないか、ということで、例えば、10パラ目で、"In short, Japan's economy works better for those middle-aged and older than it does for the young. But it is not yet in crisis, and economists say there is plenty it could do to raise its potential growth rate, as well as to lower its debt burden." と結論しています。生産性を上げたり、債務残高を低下させたりするには、いろんな手段があるというわけです。でも、ほとんど実行されていなかったりします。

The Economist がホントに能天気に日本経済を楽観視しているのか、それとも、シニカルに皮肉を込めて逆説的な記事にしているのか、私には判断がつきません。受け止める日本人の側の問題なのかもしれません。

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2011年11月17日 (木)

既婚男性はどこで夕食を食べているか?

毎年、欠かさずブログでお祝いして来ましたが、今年だけは11月11日の私と女房の結婚記念日を祝うのを忘れていました。遅ればせながら、いつものジャンボくす玉を置いておきたいと思います。めでたいと思う向きには、くす玉をクリックして割ってみてください。

ということで、我が家の結婚記念日にほど近い11月22日は語呂から由来して「いい夫婦の日」だそうです。これにちなんで、楽天リサーチから一昨日の15日に「夕食に関する調査」が公表されています。私のような既婚男性700人を対象として、タイトル通り、夕食に関する調査を実施しています。いくつか、参考まで簡単に見ておきたいと思います。

自宅で食事をとる頻度

まず、上の表は「自宅で食事をとる頻度」に関する回答です。朝食と夕食に関しては、「ほぼ毎日」という回答が75%を超えて圧倒的な比率を占めています。私もこの中に入ります。昼食はグっと比率が落ちて、私も日曜日だけですから「週1日程度」に入るんだろうと思います。いずれにせよ、4人のうち3人は「ほぼ毎日」自宅で夕食との結果です。調査対象に単身赴任者が含まれるかどうかは判然としませんが、かつての高度成長期に比べて比率は高まっているんではないかという気もします。

自宅で夕食をとる理由

次に、「自宅で夕食をとる理由」の回答結果は上のグラフの通りです。「作ってくれるから」という回答だけが半分を超えていて、「食費の節約」も結構な割合を占め、意外と「おいしいから」という回答は50%に達しません。理解できるような気もします。ポジティブな回答結果が並んでいて、「女房が怖いから」という選択肢は見当たりません。また、食べたいものをリクエストするか、さらに、リクエストは反映されるか、という設問もあり、非常に高い比率でリクエストがなされて、反映されているようです。しかし、私はリクエストはしません。

自宅で夕食をとることのメリット

最後に、「自宅で夕食をとることのメリット」の回答結果は上のグラフの通りです。今のご時世らしく、「節約」も大きな割合を占めています。我が家も朝食は出かける時刻によってバラバラですが、私が忘年会とかの例外を別にすれば、夕食は一家4人そろって食べます。子供達が大きくになるに従って会話は少なくなった気がしないでもありませんが、NHKのニュースを親が解説することも含めて、夕食が家族のコミュニケーションの場となっていることは確かです。逆に、個別の必要ある場合を別にして、一般的なコミュニケーションは夕食の場以外にはあまりないんではないかという気もします。

グルメでも何でもない私には食事は栄養補給という観点が強いんですが、それでも、一家そろっての夕食は大きな楽しみです。昨夏までの単身赴任で大いにそのことを実感しました。

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2011年11月16日 (水)

近ごろの七五三のお祝いはどうなっているか?

今週の週末は東京では現時点の天気予報では冴えないお天気になりそうなんですが、先週末の土日はまずまずの秋晴れで、アチコチで七五三の親子連れを見かけました。我が家は男の子2人ですが、やっぱり、女の子の着物姿は男の子とは大いに違うものだと実感しました。ということで、メディアインタラクティブから「季節行事に関する意識調査」というタイトルで、昨日、七五三に関するアンケート結果が発表されています。簡単に見ておきたいと思います。

七五三のお祝いの予定

まず、上の円グラフは「Q. 七五三のお祝いをする予定はありまか。もしくは、これまでにお祝いをしたことはありまか。」という設問に対する回答です。軽く90%超の割合で「お祝いをする予定が ある、もしくはこれまでにしたことがある」となっています。我が家も2人ともしたんですが、上のおにいちゃんの時には一家そろって南の島暮らしだったもので、ジャカルタから一時帰国していた9月に季節外れの七五三をお祝いした記憶があります。着物を着せて写真館で写真を取りましたが、その格好で外に出歩くと暑い季節でしたので、お参りは普段着で済ませました。

七五三のお祝いの内容

ということで、上の棒グラフは「Q. お祝いでは、何をする予定でか。または、何をしましたか。」に対する回答です。一番上の選択肢の「家族(親族)で集合写真を撮った」が 2/3 ほど占めていますが、我が家は集合写真ではなく、上のおにいちゃんの時も下の子の時も単独写真を撮っています。なぜなら、着飾らせたのはお祝いの本人だけだったからです。おにいちゃんの時の七五三が9月の残暑の季節だったもので、親も普段着で済ませてしまいましたので、下の子の時だけ一家そろって着飾るのを避けたという事情もあります。もちろん、それを口実にサボっただけという見方も出来ます。格好はともかく、お祝いの本人は着物を着せ写真を撮り、みんなで神社にお参りし、下の子の時は千歳あめを買っています。ただし、おにいちゃんの時は季節外れでしたので千歳あめは売っていませんでした。なお、最後に、七五三のお祝いの予算に関する設問の回答は下の棒グラフの通りです。我が家も標準的な出費をしたんではないかと記憶しています。

七五三のお祝いの予算

一生の冠婚葬祭のうち、成人する前の子供のころに済ませる行事としては、幼稚園や学校の入学・卒業は別にして、生まれたばかりのお七夜やお宮参り、お食い初めから始まって、七五三がかわいい盛りでの大きな行事となりますが、冠婚葬祭ではないものの、我が家では東京の家族らしく「おかあさんといっしょ」出演を企画しました。上の子が3歳になるとせっせとNHKに葉書を出して、ジャカルタに出発する直前に念願かなった記憶があります。しかし、下の子は3歳のころはジャカルタ暮らしで一時帰国中にNHKに行くのは無理でしたから、代りに、数年前にボーイスカウトから他のテレビ出演にこぎつけたことを覚えています。その後、2人とも小学校を卒業し中学生になって、おにいちゃんは十三参りを済ませ、下の子も来年は連れて行くつもりです。このあたりで昔ながらの主要な行事は尽きて、受験を含めた学校行事が主になるのかもしれません。

七五三も子供の成長の通過点のひとつです。モノを買い与えるのは結構ですが、家族で思い出を作るのもいいことだと思います。

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2011年11月15日 (火)

川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』(講談社) を読む

川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』(講談社)

川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』(講談社) を読みました。『ヘヴン』の読書感想文を書いたのが2009年9月23日付けのエントリーでしたから、ほぼ2年振りの新刊ということになります。前作の『ヘヴン』は「初の長編」という触込みでしたが、今回の『すべて真夜中の恋人たち』は「初の長編恋愛小説」というキャッチフレーズです。まず、出版社のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。

あらすじ
入江冬子、34歳はフリー校閲者。人づきあいが苦手で孤独を当たり前のように生きてきた彼女の唯一といっていい趣味は、誕生日に真夜中のまちを散歩すること。友人といえるのは、仕事でつきあいのある大手出版社社員で校閲局勤務の石川聖。ふたりの共通点は、おない年で出身県が一緒であること。ただ、それだけ。冬子は、ある日カルチャーセンターで初老の男性と知り合う。高校の物理教師という、その男性の「今度は、光の話をしましょう」という言葉に惹かれ、冬子は彼がときを過ごす喫茶店へ向かうようになる。少しずつ、少しずつ、ふたりの距離は縮まってゆくかにみえた。彼に触れたいという思いが高まる冬子には、高校時代に刻みつけられたある身体の記憶があった――。

中学2年生の少年少女を主人公にした前作『ヘヴン』では、私は「どうして時代背景を1991年にしたのか」という疑問を呈しました。要するに、作者と同じ世代の主人公を描き出しているのだろうか、というのがひとつの仮説でしたが、今回の作品は30代半ばの女性と60歳前の初老の男性の恋愛諸説ですから、やっぱり、主人公は作者と同世代ということになります。
私の詰らない仮説はさておき、やわらかな文章の恋愛小説です。単純にひらがなが多いのもそうした印象を与えているのかもしれません。そういう意味で、一昔前の表現ですが、「女性らしい文章」ということもできるかもしれません。30代半ばの女性である作者が「恋愛とは何か」について考えているのであろうと読者に想像させるに十分な表現力と構成力を持った作品です。登場人物について、石川聖以外はサラっとした性格で、アクも強くないんですが、読んでいて理解が進むというか、感情移入が出来そうなキャラに仕上がっています。あらすじにはないんですが、主人公が勤めていた会社の女性が石川聖の陰口をいう場面とか、主人公の高校のころの友人が家族でディズニーランドに来た際の会話とか、よく考えられた文章だと受け止めています。構成にしても、最近の安直な小説は一直線で進む展開もめずらしくないんですが、この作品はちゃんとサイクルがあり、登場人物のいろんな面を見せてくれます。その昔は「起承転結」と表現していたのかもしれません。また、ある意味で、女性向けの小説ではないかという気がしないでもないんですが、私のような中年のオッサンにも十分に楽しめる一級品の小説、純文学に仕上がっていると思います。もともと、私は期待が大きいだけに、この作者の作品の評価は甘いんですが、一応、5ツ星としておきます。

作者のブログ「純粋悲性批判」では、この作品は「すべまよ」と略称されていたりします。もっとも、出版社の特設サイトのディレクトリは "mayonaka" で作成されています。どちらに親近感を覚えるかは受け手によって違うのかもしれません。

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2011年11月14日 (月)

7-9月期GDP速報は予想通りの高成長を記録

本日、内閣府から7-9月期のGDP速報、エコノミストの間で1次QEと称されている重要な経済指標が発表されました。季節調整済みの実質成長率は前期比で+1.5%、前期比年率で+6.0%の高い伸びを記録しました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。


内閣府が14日発表した2011年7-9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比1.5%増、年率換算で6.0%増となった。プラス成長は4四半期ぶり。東日本大震災後の自動車生産の回復で輸出が伸びたほか、個人消費も増えた。日本経済は震災前の水準を取り戻したが、先行きは円高や海外経済の減速で回復力が鈍りそうだ。
実質GDPは年率換算で約542兆円と、震災前の10年10-12月期(約540兆円)を上回った。前期比伸び率は10年1-3月期(2.5%増)以来の大きさ。生活実感に近い名目GDPは1.4%増、年率で5.6%増だった。
古川元久経済財政担当相は「サプライチェーン(供給網)の立て直しが急速に進んだが、足元では海外景気の回復が弱まり、景気の持ち直しテンポが緩やかになっている」と強調した。
全体で前期比1.46%増となった実質GDPの増減にどれだけ影響したかを示す寄与度をみると、個人消費など内需が1.04%分、外需が0.42%分押し上げた。
需要項目別では、個人消費が1.0%増。自動車購入が伸びたほか、旅行やレジャーなどサービス消費が持ち直した。住宅投資は5.0%増加。
設備投資は1.1%増。自動車メーカーが投資に動き出したほか、復旧・復興需要で建設用クレーンの投資が伸びた。民間の在庫動向も成長率を0.2%分押し上げた。公共投資は仮設住宅の建設が増えた前期の反動で2.8%減少した。
外需では、自動車が急回復した輸出が前期比6.2%増加。輸入は国内の生産回復や火力発電用の液化天然ガス(LNG)の調達増で、3.4%増えた。
総合的な物価の動向を示すGDPデフレーターは前年同期を1.9%下回った。8期連続の下落。前期比では0.1%下落にとどまったが、物価が持続的に下落する緩やかなデフレ基調がなお続いている。

ということで、いつもの通り、ほぼ適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、アスタリスクを付した民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンクからお願いします。

需要項目2010/
7-9
2010/
10-12
2011/
1-3
2011/
4-6
2011/
7-9
国内総生産GDP+0.7▲0.7▲0.7▲0.3+1.5
民間消費+0.9▲0.6▲0.5+0.5+1.0
民間住宅+1.1+2.1+1.4▲1.1+5.0
民間設備+0.6▲0.1▲1.1▲0.5+1.1
民間在庫 *+0.4▲0.0▲0.2+0.2+0.2
公的需要▲0.0▲0.6+0.6+1.2▲0.1
内需寄与度 *+0.9▲0.6▲0.5+0.5+1.0
外需寄与度 *▲0.2▲0.0▲0.2▲0.8+0.4
輸出+0.1▲0.5+0.2▲5.0+6.2
輸入+1.5▲0.2+1.7+0.1+3.4
国内総所得GDI+0.8▲0.7▲1.5▲0.8+1.3
名目GDP+0.1▲0.9▲1.1▲1.5+1.4
雇用者報酬+1.1▲0.1+0.1+0.5+0.0
GDPデフレータ▲2.3▲1.7▲1.9▲2.2▲1.9
内需デフレータ▲1.6▲1.1▲0.9▲0.8▲0.4

テーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの系列の前期比成長率に対する寄与度で、左軸の単位はパーセントです。棒グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7-9月期の最新データでは公的需要を除いて、すべての需要項目がプラスの寄与を示しています。赤の消費と黒の外需が特に大きいことが読み取れます。

GDP前期比成長率と需要項目別寄与度の推移

プラスの寄与度の大きい消費と外需についてもう少し詳しく見ると、まず、消費は下のグラフの通り耐久財の伸びが大きくなっています。政策効果の最後の駆込みで、エコポイントは3月でとっくに終わっているんですが、被災3県を除く7月の地デジ完全移行に伴うテレビが寄与しているんではないかと受け止めています。また、外需については震災の影響によるサプライ・チェーンの毀損からの復旧に伴う輸出の増加が寄与しており、確かに前期比でプラスなんでしょうが、正常化の範囲内と考えるべきです。いずれにせよ、7-9月期の特殊要因であったり、年央まで続いた震災からの復旧に伴う「ゲタ」に基づくものであり、サステイナビリティには大きな疑問が残ります。

形態別の消費の伸び率

消費についてはもちろん、輸出は欧州を震源とするソブリン・リスクの顕在化によって世界経済が大きく失速する中で、円高も加わって、先行きに明るい展望が持てるわけはありません。消費も雇用者報酬が底堅く推移していることから、一定の景気を下支えする効果は見込まれますが、少なくとも現段階では、景気をけん引するだけの力強さには欠ける可能性が大きいと私は考えています。さらに、ゆくゆくは復興需要が見込めるとはいえ、7-9月期に公的需要はマイナスを記録しています。近日中に第3次補正が国会を通過したとしても、執行は年明けになる可能性が高いと考えられます。ということで、下のグラフは、7-9月期までの実績値に経済企画協会のESPフォーキャストのデータを継ぎ足してプロットしていますが、7-9月期の高成長の後、10-12月期は成長率が大きく鈍化する点については多くのエコノミストの間にコンセンサスがあるといえます。なお、私は10-12月期もギリギリでプラス成長と見込んでいますが、マイナス成長との見方を示すエコノミストも少なくありません。しかし、年明け1-3月期については第3次補正予算の執行も始まり、足もとの10-12月期より成長率を高めるのではないかと期待しています。

GDP前期比年率成長率の推移

何度もこのブログで繰返しましたが、足もとから来年年明けころの景気は復興需要のプラス要因と世界経済の失速に円高が加わったマイナス要因の綱引きになります。10-12月期については第3次補正予算の執行に至らず世界経済の失速ばかりが目立つことになり、来年1-3月期には第3次補正予算の執行が始まって復興需要が本格化します。ただし、その時点における円高や世界経済の動向は不透明極まりありません。

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2011年11月13日 (日)

山中千尋 Reminiscence を聞く

山中千尋 Reminiscence

山中千尋の Reminiscence を聞きました。8月に発売されています。このアルバムは3つほどバリエーションがあって、ジャケットが上の画像ではなくてワインレッドのドレスを着たバージョンのアルバムは音質のいいSACD-SHMだったり、DVDつきだったりして、我が家にあるのは上のジャケットのCDで何の変哲もないフツーのオーディオCDなんだと思います。もっとも、ご本人のホームページのディスコグラフィーのサイトにあるジャケット写真は上のと同じです。曲のラインナップは以下の通りです。

  1. Rain, Rain and Rain
  2. Soul Serchin'
  3. (They Long to Be) Close to You
  4. Dead Meat
  5. Ele e Ela
  6. This Masquerade
  7. She Did It Again
  8. You've Got a Friend/Central Park West
  9. La Samba des Prophetes
  10. Can't Take My Eyes Off of You

八木節が入っていないのはさて置くとしても、ポピュラー・ソングのオンパレードではないか、と思うんですが、いかがでしょうか。1曲目は彼女のオリジナルです。2曲目はホレス・シルバー作曲とあるんですが、私は不勉強にして知りませんでした。ただし、さすがというか、アドリブ・パートは水際立っています。私の知る限り、秋吉敏子というビッグ・ネームを別にして、最近の我が国の女性ジャズ・ピアニストのうち、総合点でピカイチは上原ひろみなんですが、アドリブの冴えは山中千尋に年齢分だけの長があるように受け止めています。なお、私は上原・山中の両ピアニストのライブは聞いたことがないんですが、CDはすべて聞いたと考えています。ただし、選曲や作曲も含めた総合点で山中千尋を評価すると、アテリエール・サワノの最後の Madrigal と Verve からメジャー・デビューした Outside by the Swing の2枚がもっとも出来がよかった気がします。2004-05年ころです。私は Reminiscence が出る前は、この2枚をウォークマンに入れていました。
ドラムスに Bernard "Pretty" Purdie が2曲だけ入っていて、他の曲と違和感ないのはいいんですが、少しベースとドラムスがピアノに比べて弱いと感じる人もいるかもしれません。逆に、それだけピアノに勢いがあるという見方が出来ることも事実です。ベースはほとんどソロを取っていません。いわゆるポピュラー・ソングで耳当たりのいい知ったメロディーが流れるのはいいですし、繰返しになりますが、アドリブはピカイチです。でも、何となく物足りないと感じるのは私だけではないと思います。

ついつい、3月にリリースされた上原ひろみのVoice と比べてしまいます。山中千尋も次はギンギンのアルバムを出して欲しいと思います。

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2011年11月12日 (土)

神宮外苑のいちょう並木はまったく色づかず!

神宮外苑いちょう並木

今日は、中途半端に用件があり、朝から近くの区立図書館に行った後、女房が昼前から外出するので、下の子と昼食に出かけることにしました。もっとも、夕方までには帰宅せねばならない用件があり、ランチくらいなら青山という都会のど真ん中の便利なところで、下の子と青山通りをブラブラと歩いて済ませました。しかし、上の写真は神宮外苑絵画館前のいちょう並木なんですが、11月も半ばに入ろうという季節なのに、まった色づく気配すらありません。
昨夏に長崎から東京に復帰して、九州だけではなく東京もまた秋が極めて短くて、夏から急に冬になるような印象を受けたんですが、今年も同様で、この夏は特に10月いっぱいまでクールビズだったものですから、つい先日まで半袖で過ごすいていたかと思うと、11月半ばにはコートの必要な気候になり、一気に冬将軍がやって来たように感じてしまいます。

何年か前に神宮外苑いちょう並木の写真を年賀状に使ったことがありますが、そのころも勤労感謝の日くらいまで待たないと色づいてくれず、年賀状を早めに注文する割引が使えなかったことを記憶しています。

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2011年11月11日 (金)

来週月曜日発表の7-9月期1次QEは4四半期振りに大きなプラス成長か?

内閣府による来週月曜日11月14日の発表を前に、GDP統計1次速報に必要な経済指標がほぼ出尽くし、各シンクタンクや金融機関などから2011年7-9月期の1次QE予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しました。可能な範囲で、足元の7-9月期以降の先行き見通しを拾いましたが、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートがダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別画面が開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+1.6%
(+6.4%)
10-12月期以降を展望すると、回復・復興の動きが引き続き景気押し上げに作用するものの、以下2点(引用者注: 円高とタイの洪水被害)を中心に下振れリスクがやや拡大。事態が深刻化すれば成長率が急減速する恐れ。
みずほ総研+2.1%
(+8.5%)
10-12月期は大幅に減速するが、プラス成長を維持すると予想。
ニッセイ基礎研+1.4%
(+5.7%)
当研究所推計の月次GDPは2011 年4月から6月にかけて高い伸びとなった後、7月以降は3ヵ月連続で前月比マイナスとなっており、景気は実勢としてはすでに大きく減速している。
第一生命経済研+1.5%
(+5.8%)
大幅なプラス成長は、6月までの景気が急回復したことによるプラスのゲタの影響が大きく、各種月次統計では7月以降景気回復ペースが明確に鈍化していることが示されている。7-9月期の高成長とは裏腹に、既に景気が減速局面にある点には注意が必要だろう。10-12月期についてはこうしたプラスのゲタが期待できず、成長率の大幅減速は必至の情勢である。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+1.3%
(+5.2%)
4四半期ぶりにプラス成長となり、プラス幅もかなり大きくなったと見込まれる。東日本大震災の影響で一旦大きく落ち込んだが生産活動が、供給体制の復旧に伴って急速に回復したことが大きな要因である。
三菱総研+1.5%
(+6.3%)
月次ベースの主要経済指標によると、5-6月に急速に持ち直した後、その回復ペースは徐々に鈍化しており、7-9月期の高成長は前期の「ゲタ」による側面が大きい。
伊藤忠経済研+1.7%
(+7.0%)
高成長は7-9月期の1四半期で終わり、輸出と個人消費の急減速により、10-12月期の日本経済は再びゼロ%程度まで成長率が低下する可能性が高い。2012年1-3月期以降については、第三次補正予算に計上された復興投資などの寄与により、日本経済は緩やかな拡大を続けるとメインシナリオでは予想している。
みずほ証券リサーチ&コンサルティング+1.5%
(+6.0%)
7-9月期の高成長は6月までの持ち直しを受けて高い発射台からのスタートとなったことが寄与した面が大きく、7月以降は、供給制約の解消に伴う動きが概ね一巡するなか、海外経済の減速の影響が輸出・生産面に現れてきているため、回復ペースは鈍化している。このため、当期は高成長となったものの、10-12月期以降、GDPの回復ペースは鈍化していく可能性が高いと考えている。

昨年以来1年振りに7-9月期はプラス成長となり、前期比年率成長率で5%を超えるかなりの高成長を記録した点についてはほぼコンセンサスがあります。同時に、この高成長は初夏から夏前の5-6月くらいまでの「ゲタ」によるものであり、7-8月くらいからすでに景気は鈍化していて、足もとの10-12月期は大幅に成長が減速するという点に関してもほぼコンセンサスがあるように見受けられます。問題は10-12月期がプラス成長なのか、マイナス成長なのか、という点ですが、私の見方はみずほ総研や伊藤忠経済研に近くて、10-12月期はギリギリにせよプラス成長を確保し、1-3月期にも拡大を続ける、と見込んでいます。もっとも、欧州情勢次第かもしれません。

企業物価の推移

最後に、GDP統計とは直接の関係はないんですが、本日、日銀から発表された10月の企業物価のグラフは上の通りです。前年同月比上昇率をプロットしています。

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2011年11月10日 (木)

機械受注統計と日本経済に世界経済の失速はどう作用するか?

本日、内閣府から9月の機械受注統計が発表されました。広く知られている通り、変動の大きな船舶と電力を除いた民需がGDPベースの設備投資の先行指標と見なされています。9月統計の結果は季節調整済みのコア機械受注、すなわち、船舶と電力を除く民需が▲8.2%減の7,386億円となりました。市場の事前コンセンサスをやや下回っています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の機械受注、2カ月ぶりに減少 円高や世界景気減速懸念で
内閣府が10日発表した9月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶、電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比8.2%減の7386億円だった。マイナスは2カ月ぶり。歴史的な円高に加え、世界景気の減速懸念が強まり、企業の設備投資意欲に陰りが出ている。
内閣府は基調判断を「一進一退で推移している」とし、前月の「持ち直し傾向にある」から下方修正した。下方修正は昨年11月以来10カ月ぶりとなる。
業種別にみると、製造業が17.5%減。電気機械や情報通信機械などが落ち込んだ。一方、非製造業は8.5%増。運輸業・郵便業、情報サービス業などの増加が寄与した。
7-9月期の「船舶、電力を除く民需」の受注額は、前期比1.5%増の2兆2687億円。3期連続のプラスで、内閣府が6月に調査した予測(0.9%増)を上回った。東日本大震災後の生産体制の回復に伴い、自動車などからの受注が増えた。

機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需の季節調整済みの計数とその6か月後方移動平均を兆円単位の縦軸に従ってプロットしています。下のパネルは四半期データとして発表される達成率をプロットしています。いずれも、影を付けた部分は景気後退期なんですが、大雑把に、下のパネルにプロットした達成率が低下して90%のラインを切ると景気後退に入るという経験則があります。

コア機械受注の推移

まず、この機械受注の統計を見る限り、少なくとも引用した日経新聞の報道や基調判断を下方修正した統計作成官庁である内閣府のスタンスほど過度に悲観的になる必要はないと私は考えています。もちろん、円高や世界経済の失速は我が国の機械受注にマイナスであることはいうまでもないんですが、グラフを見ても6か月後方移動平均は従来からのトレンドラインに乗ったままであるように見受けられますし、9月単月で基調判断を下方修正するくらいの弱さかというと、私はそこまで悲観する必要はないと考えています。もちろん、10-12月期見通しが▲3.8%減となっていることも基調判断の下方修正につながっていますし、世界経済の失速や円高による下押し圧力が楽観できるわけもありません。要するに、やや悲観論に振れる現状は私なりに理解出来るんですが、悲観も楽観も出来ない情勢であると私は受け止めています。特に、世の中が悲観論に振れやすくなっているような気がしますので、過度に悲観的にある必要はないことを強調しておきたいと思います。
ただし、楽観できないとする根拠の大きなものとして、世界経済の失速の中身を考えるべきです。すなわち、現時点では欧州のソブリン・リスクに端を発した金融面からの全般的な需要の下押し圧力、あるいは、金利の上昇が一般的に観察されるだけなんですが、これに何が誘発されるかにより機械受注や日本経済への影響は違ってきます。私は注目すべきは2点あり、第1にITサイクルへの影響です。Windows 8 が秒読み段階に入ったとはいえ、世界経済とともにITサイクルが下降に転じれば、我が国経済、特に機械受注へのダメージはより大きくなる可能性があります。第2に商品価格、特に資源価格への影響です。ここ数年の資源高に支えられていたのは、顕著には船舶などですが、資源が他産業である鉄鋼なども部分的に資源高に起因してプラスの影響がありました。しかし、3月の震災とその後の原発停止の影響は石油・ガス価格の上昇と電力価格の高騰という形で幅広い産業にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。資源価格、特に石油価格と部分的に連動するカス価格の動向が気になるところです。世界経済の失速とともに需要面から価格を低下させるのか、あるいは、新興国・途上国からの需要に支えられて価格は上昇するのか、はたまた、例えば、米国がQE3を発動して大きな流動性供給に伴って国際商品価格に影響を与えるか、何とも見通しにくいところですが、少なくとも、震災前と違って資源価格の高騰は日本経済に従来よりもさらに大きなダメージを及ぼす可能性は否定できません。
いろいろと考えるべきポイントがあり、さらに、復興需要に裏付けられた楽観論と世界経済の失速と円高に裏付けられた悲観論のいずれに軍配が上がるかは、少なくとも現時点では不明です。もちろん、復興需要についてはサステイナビリティに欠けることは明らかですし、『国家は破綻する』で明らかにされているように、金融危機を伴う経済停滞は長引くという見方も成り立ちます。ですから、繰返しになりますが、やや悲観論に傾くのは理解できるものの、世間一般がそうなだけに、反対の見方も含めて示しておきたいと考えます。

消費者態度指数の推移

最後に、機械受注を離れて、内閣府から本日発表された消費動向調査のうちの消費者態度指数は上のグラフの通りです。季節調整済みの統計で、最新月は10月です。景気ウォッチャーが供給側のマインドであるのに対して、消費者態度指数は需要側のマインドと見なされています。10月は前月と同じ38.6でした。先行きの不透明感が高くなっているような気がします。

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2011年11月 9日 (水)

本日発表の経常収支と景気ウォッチャーは何を示しているか?

本日、財務省から経常収支を含む国際収支が、また、内閣府から景気ウォッチャー調査結果が、それぞれ発表されました。経常収支は9月、景気ウォッチャー調査は10月の結果です。なお、これでGDPを構成するすべてのコンポーネントの1次統計が発表されたことになり、来週14日の7-9月期の1次QEを待つばかりになりました。まず、今日発表された統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

経常黒字、上期46.8%減 縮小幅はリーマン以来
財務省が9日発表した2011年度上半期(4-9月期)の国際収支速報によると、モノやサービス、配当、利子など海外との総合的な取引状況を示す経常収支は4兆5196億円の黒字となった。黒字は前年同期に比べ46.8%減り、リーマン・ショックの影響が大きかった08年度下半期以来の大幅縮小となった。東日本大震災の影響で貿易収支が過去最大の赤字に転落したことが響いた。
貿易収支は前年同期比で5兆2662億円減少し、1兆2517億円の赤字に転落した。赤字となるのは08年度下期以来、半期ベースで5期ぶり。
輸出は31兆2687億円で3.2%減った。震災の影響で生産が急減した自動車や、半導体など電子部品の減少幅が大きかった。輸入は15%増の32兆5204億円。石油など資源価格が高止まりしたことから金額が膨らんだ。
旅行や輸送などの動向を示すサービス収支は1兆1108億円の赤字。原発事故の風評被害などで、日本を訪れる外国人が急減した影響が出た。企業が海外投資から受け取る利子や配当などを示す所得収支の黒字額は26.4%増の7兆3436億円だった。
財務省が同日発表した9月の経常収支の黒字額は、前年同月比21.4%減の1兆5848億円となった。資源価格の上昇で輸入額が膨らみ、貿易収支の黒字幅が縮小したことが響いた。
10月の街角景気、3カ月ぶり改善
内閣府が9日発表した10月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、足元の景気実感を示す現状判断指数は前月比0.6ポイント上昇の45.9と3カ月ぶりに改善した。東日本大震災からの復旧が進むにつれて生産が回復していることに加え、気温低下に伴う季節商材の消費が改善に寄与した。一方、2-3カ月先の先行き判断は円高の進行やタイの大規模洪水の影響で悪化した。
現状判断で改善が目立ったのは小売業だった。「今月は冷え込みとともに秋物が動き出している」(九州の百貨店)や「数カ月前と比較すると買い物をしようとする意欲は高まっている」(北陸の百貨店)との声が目立つ。
製造業からは「部品調達難から生産、販売が遅れていたが、7月以降の増産により取り戻しつつある」(四国の一般機械器具)や「震災復旧関連の工事の受注が継続している」(東北の建設業)など震災からの順調な回復をうかがわせるコメントが並んだ。
しかし、先行きについては不透明感が強まっている。先行き判断指数は0.5ポイント低下の45.9と4カ月連続で悪化した。歴史的な円高で「海外向けは順調に注文が入るが、円高の影響で採算がとれない」(中国の一般機械器具)のほか、「中国からの輸入品との価格競争が激しくなっている」(近畿の繊維工業)との声があった。
タイの洪水も先行きに影を落としている。「既にデジタルカメラなどの入荷が遅れている」(北関東の家電量販店)と実際に影響が出ているほか、「円高や欧州の財政問題、タイの洪水など外的なマイナス要因が多すぎる」(北海道の家具製造)などタイの洪水に触れるコメントが100件近くに膨らんだ。
内閣府は、景気の現状に対する基調判断を「円高の影響もあり、持ち直しのテンポが緩やかになっている」で据え置いた。ただ、今回の調査では「景気回復につながる明るい材料が見当たらない」(近畿のスーパー)といった漠然とした不安の声が「散見された」(内閣府)と指摘した。
調査は景気に敏感な小売業関係者など2050人が対象。3カ月前と比べた現状や、2-3カ月先の景気予想を「良い」から「悪い」まで5段階で評価して指数化する。今回の調査は10月25日から月末まで。

いつものグラフはまず経常収支が以下の通りです。月次の季節調整済みの系列であり、青い折れ線の経常収支の内訳が棒グラフで示されています。色分けは凡例の通りです。季節調整する前の原系列に基づく記述となっている上の記事とは少し印象が異なっているかもしれません。

経常収支の推移

引用した記事にもある通り、年度半期でくくった経常収支はリーマン・ショック後に匹敵するくらいの落ち込みとなっています。今年度上半期2011年4-9月期では、3月の震災に起因するサプライ・チェーンの毀損による供給制約のため、また、原発停止に伴う火力発電の稼働増加に伴う燃料輸入の増価があり、貿易収支が赤字化するとともに、経常収支の黒字幅は大きく縮小しました。この先も、輸入面については、燃料輸入の増加と単価上昇が続くと考えられる他、輸出面では、欧州のソブリン危機に起因する世界経済の失速が需要面から、タイの洪水に起因する部品調達難が供給面から、それぞれ輸出の下押し要因になる可能性があり、年度かこのブログで書きましたが、貿易収支については年や年度を通じて赤字化する可能性も排除できません。

景気ウォッチャー調査の推移

景気ウォッチャー調査の結果は上のグラフの通りです。現状判断DIは上向いたものの、先行き判断DIは低下しました。解釈の難しいところです。特に、現状判断については、家計動向関連DIが天候要因による季節商品の動きがよくなる一方で、雇用関連DIは円高進行などに伴って慎重姿勢が見られて悪化するなど、強弱入り混じった動きを示していますが、個別のコメントなどに目を通した私の実感では、天候と円高に典型的に示されている通り、改善方向の要因の方がサステイナビリティに欠ける気がしないでもありません。直観的な見方ですので、私が単に弱気になっているだけかもしれません。

いずれにせよ、何度もこのブログで繰り返している通り、足もと10-12月期から先は復興需要に伴う内需に起因する景気押上げ要因と世界経済と円高に伴う外需に起因する景気下押し要因の力比べになります。経常収支に現れる後者の方が景気ウォッチャーに現れる前者を上回る可能性がやや高いんではないかと私は危惧しています。また、7-9月期の経常収支の動向から、14日発表のGDP1次QEベースの外需は0.5%近いプラスの寄与を示すのではないかと私は見込んでいます。

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2011年11月 8日 (火)

中村文則『掏摸[スリ]』と『王国』(河出書房新社) を読む

中村文則『掏摸 [スリ]』と『王国』(河出書房新社)

中村文則さんの『掏摸 [スリ]』と『王国』(河出書房新社) を読みました。なお、作者のサイトに従えば、『掏摸 [スリ]』はフリ仮名込みでタイトルだそうですので、念のため。
私はこの作者の作品は、誠に残念ながら、はるか昔に芥川賞を授賞された「土の中の子供」しか読んでいません。2005年9月27日付けのエントリーで酷評しています。その後、特に注目していたわけでもないんですが、この2作の姉妹作品は見るべきものがあります。上の表紙の画像からしてもこの2作が姉妹作を意図していることは明らかでしょう。まず、出版社のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。

掏摸 [スリ]
天才スリ師に課せられた、あまりに不条理な仕事……失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、お前が親しくしている女と子供を殺す。ジャンルを超えた絶賛の声続々の話題作!! 第4回大江健三郎賞受賞。
王国
社会的要人の弱みを人工的に作る女、ユリカ。ある日、彼女は出会ってしまった、最悪の男に。絶対悪VS美しき犯罪者! 大江賞受賞作のベストセラー『掏摸』を超える話題作がついに刊行!

極めて単純化すれば、いわゆる「ピカレスク小説」です。私のような公務員をはじめとする多くの「普通の人々」には関係の薄いウラの世界の出来事を取り上げています。しかし、反社会的な行動をあおったり、美化したりすることはしていません。ウラ世界の個人を主人公に、主人公がウラ世界の組織にからめ取られていくさまを淡々と描写しています。2人の主人公はものすごいガッツがあるわけではなく、自分で道を切り拓こうという意図は持ちながらも、必ずしも成功しているわけではありません。ウラ社会というのは表社会より以上に組織化されているのかもしれません。
姉妹編のこの2作に共通して登場するのは「化け物」と称される木崎です。ウラ世界の親玉というか、両作品のそれぞれの主人公のいわば「上位」の存在といえます。ネタバレかもしれませんが、『掏摸 [スリ]』の主人公の男性スリは木崎に殺され、『王国』の主人公のユリカは殺されはしませんが、木崎の支配下におかれます。この木崎と独特の世界観が両作品をリンクしています。細かな表現力と全体の構成力が微妙に拮抗して、なかなか見事な作品に仕上がっています。両作品のリンクは木崎だけでなく、第1作のスリの男性や第2作のユリカのボスである矢田など、いくつかの登場人物も共有されています。このあたりは、伊坂幸太郎さんの作品と似ている部分もあります。そのあたりのサジ加減もいい雰囲気を出しているような気がします。

取り上げているのがウラ世界ですから、すべての人にオススメ出来るわけではありませんが、多くの図書館に所蔵されていることと思います。興味ある方は手に取って読んでみて損はないと考えます。

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2011年11月 7日 (月)

改定された第10次景気動向指数への変更のポイントやいかに?

本日、内閣府から9月の景気動向指数が発表されました。CI一致指数は前月比▲1.4ポイント低下の88.9を記録し、基調判断は「下げ止まりを示している」に据え置かれています。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事の最初の5パラを引用すると以下の通りです。

9月の景気一致CI、2カ月連続低下
海外成長鈍化で生産落ち込み

内閣府が7日発表した9月の景気動向指数速報(CI、2005年=100)は、景気の現状を示す一致指数が前月比1.4ポイント低下の88.9だった。世界経済の成長が鈍化し、生産が落ち込んだことが影響した。低下は2カ月連続。
一致CIを押し下げたのは、投資財出荷など生産関連の指標だった。欧米や新興国の景気回復には陰りが出ており、海外向けの需要減退が生産の足を引っ張った。地上デジタル放送への完全移行が終了し、液晶テレビなど消費関連の落ち込みもマイナスに拍車を掛けた。内閣府は、10月以降に関して「タイの洪水の影響も加わり、下振れリスクがある」とみている。
数カ月後の先行きを示す先行指数も2.2ポイント低下の91.6と2カ月連続で低下した。世界的な景気減速の懸念や欧州の債務問題の深刻化を受けて、商品市況や株価などリスク資産の価格が下落したことが影響した。住宅は東日本大震災で見送られていた着工の進捗が9月は一巡。自動車などの海外への出荷が伸びずに在庫率が上昇していることもマイナスに寄与した。
一方で、景気に数カ月遅れる遅行指数は1.7ポイント上昇の85.9。完全失業率の改善や法人税収入の増加が指数を押し上げた。
内閣府は、基調判断を「下げ止まりを示している」に据え置いた。10月19日開催の景気動向指数研究会(座長・吉川洋東大教授)で基準が見直されたため、基調判断を見直し前の「改善を示している」から「下げ止まり」に修正していた。

次に、いつものグラフは以下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数、下はDI一致指数の推移をプロットしています。いずれも影を付けた部分は景気後退期です。

景気動向指数の推移

引用した報道にもある通り、10月19日に景気動向指数研究会が開催され、判断基準が見直されていますが、同時に、新しい第10次指数への改定が了承され、一部の採用系列が入れ替えられるとともに、いわゆる「外れ値」の処理方法を変更しています。具体的には、系列の変動を体系全体に発現する「共通循環変動」と当該系列のみに発現する「系列固有変動」に分解し、「外れ値」処理の対象を後者の「系列固有変動」に限定しています。これに従って、リーマン・ショックや東日本大震災のような体系全体に対する共通ショックが「外れ値」として処理されるのを防ぐことが可能となっています。実際に、第9次指数と第10次指数のそれぞれのCI一致系列をプロットすると以下の通りです。

第9次指数と第10次指数の比較 (CI一致指数)

「外れ値」処理が系列固有変動に限定されたため、実は、景気動向指数はもっと下方をはっていたことが発見されました。以前は下方変動をずいぶんと「外れ値」処理していたんだということが理解できます。また、最近時点では、決して景気動向指数は鉱工業生産指数のように経済活動の水準を表現しているわけではないものの、CI一致指数が震災前の水準を超えたことも、必ずしも正しくなかったことが分かります。リーマン・ショックに谷の深さとともに、実感に合致した変更だと評価できます。

何となく、統計の改定の解説に終わってしまいましたが、いつも通り、今後の景気の動向は復興需要と海外経済の失速プラス円高の動向次第といえます。9月の景気動向指数は後者のマイナス要因が前者のプラス要因を上回ったわけですが、今後も同様の傾向が続きそうな予感がしています。

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2011年11月 6日 (日)

キース・ジャレット「リオ」を聞く

Keith Jarrett: Rio

予定通りに、キース・ジャレットのソロ・アルバム「リオ」を買いました。wikipedia のサイトに従えば、「ソロ・コンサート」から始まるキース・ジャレットのソロ・ピアノのシリーズは以下の通りです。ただし、本日午後6時の時点でまだ入っていませんでしたので、最後の Rio は私が付け加えました。

  • Solo Concerts: Bremen and Lausanne (1973, ECM, ライブ)
  • The Köln Concert (1975, ECM, ライブ)
  • Staircase (1976, ECM)
  • Sun Bear Concerts (1976, ECM, ライブ)
  • Invocations/The Moth and the Flame (1979/1980, ECM)
  • Concerts: Bregenz and München (1981, ECM, ライブ)
  • Book of Ways (1986, ECM)
  • Spirits 1 & 2 (1985, ECM)
  • Dark Intervals (1988, ECM, ライブ)
  • Paris Concert (1988, ECM, ライブ)
  • Vienna Concert (1991, ECM, ライブ)
  • La Scala (1995, ECM, ライブ)
  • The Melody at Night, with You (1998, ECM)
  • Radiance (2002, ECM, ライブ)
  • The Carnegie Hall Concert (2005, ECM, ライブ)
  • Testament (2008, ECM, ライブ)
  • Rio (2011, ECM, ライブ)

前回、11月3日のエントリーで「私はあまねくキース・ジャレットのソロ・ピアノを聞いています」と書きましたが、私の誤解でした。いくつか聞いていないアルバムもあります。お詫びして訂正します。Invocations/The Moth and the FlameSpirits は聞いたことがありませんし、Book of Ways に至っては、そんなアルバムは知りもしませんでした。不勉強を恥じております。もっとも、上のリストの中で The Melody at Night, with You なんぞは、いわゆるキース・ジャレットのソロ・コンサートの流れに入るものではないと私は考えていますので、上のリストの位置づけには疑問は残ります。
さて、本題の Rio なんですが、誠に申し訳ないながら、このレベルになると私は評価できません。というか、自信がありません。私の直感では、1枚目の5曲目、すなわち、RIO Part V の出来がもっともよかったように感じていますが、違う受止め方をした人もいるかもしれません。感性の問題なんだと思います。ただし、外形から明らかなんですが、このアルバムは2枚組で15曲入っています。ごく単純に、RIO Part I から XV までです。2枚合わせて80分余りのアルバムで15曲ということは1曲当たり5分余りと、今までのソロ・コンサートでは平気で20-30分くらい延々と弾いていたアルバムもあるのに、1曲が極端に短くなっているような気がします。これは、何が起こったのか私には分かりません。65歳を超えて、そろそろ枯れた心境に入ったか、体力が続かなくなったか、あるいは、南米という土地柄が緊張感を長続きさせるにふさわしくなかったか、はたまた、実は何でもないのか、興味深いところです。

昨日の映画「一命」と同じで、好きな人は好きかもしれませんが、評価しない人もいる可能性は排除できません。でも、私のようにキース・ジャレットのソロ・コンサートのシリーズが好きな人は是非とも聞くベだという気がします。

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2011年11月 5日 (土)

マリオンに映画「一命」を見に行く

映画「一命」ポスター

今日は有楽町マリオンに行って、映画「一命」を見て来ました。滝口康彦原作、市川海老蔵主演、三池崇史監督作品です。音楽担当は坂本龍一となっています。なお、原作は短編集『一命』に収録されている「異聞浪人記」で、約50年前の1962年に「切腹」という題で小林正樹監督作品として映画化されているそうです。誠に残念ながら、私は「切腹」の方は見ていません。
徳川幕府の下で天下統一がなされた17世紀前半、天下泰平の裏側で豊臣寄りの大名はもちろん、親藩や譜代まで含めて多くの大名が改易され浪人が街にあふれる中、貧窮を極める浪人生活の最後にと浪人が名のある大名家の庭先・玄関先で「偽装切腹」を願い出て、うまくいけば召し抱えられたり、あるいは、なにがしかのお金をもらったりするのが流行する中、井伊家に切腹を願い出た浪人がホントに切腹させられ、その岳父が復讐を果たすというストーリーです。
原作も映画も、いずれも井伊家の方を上辺だけを取り繕った悪者に仕立て上げ、主人公の津雲半四郎やホントに切腹させられた千々岩求女を、いわば『フランダースの犬』のネロみたいに扱っています。おそらく、それはそれで正しい解釈だと私は考えますが、逆に、浪人の津雲半四郎や千々岩求女を「情けない武士」ととらえる見方も一部の人には受け入れられそうな気もします。特に、映画では原作になかった「せめて3両」という具体的な金額を千々岩求女に言わせていますから、「情けない度」がやや上がっているかもしれません。でも、少し前に流行った言葉で、このブログでは意図的に使わないようにしているんですが、ここであえて使うと、「負け組」の浪人と「勝ち組」の井伊家家臣団とを強烈に対比した原作にかなり忠実に仕上がっています。ただし、「情けない度」を上げているのは、先に指摘した「せめて3両」という発言と落ちた卵を腹ばいになってすする、というシーンかもしれません。逆に、最後の井伊家上屋敷での大立回りは映画ならではの見ごたえがありました。

評価の分かれる映画だという気がします。私は山田洋二監督作品の「たそがれ清兵衛」、実は原作はほとんど「祝い人助八」なんですが、この映画は多くの方にオススメ出来ると考えています。しかし、この「一命」は難解というか、見る人によって浪人達に人間の真実を見る人と、逆に、浪人達を理解できない人に分かれそうな気がします。

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Communiqué G20 Leaders Summit - Cannes

G20 Cannes logo

Communiqué
G20 Leaders Summit -- Cannes -- 3-4 November 2011

1. We, the Leaders of the G20, met in Cannes on 3-4 November 2011.

2. Since our last meeting, global recovery has weakened, particularly in advanced countries, leaving unemployment at unacceptable levels. In this context, tensions in the financial markets have increased due mostly to sovereign risks in Europe; there are also clear signs of a slowing in growth in the emerging markets. Commodity price swings have put growth at risk. Global imbalances persist.

3. Today, we reaffirm our commitment to work together and we have taken decisions to reinvigorate economic growth, create jobs, ensure financial stability, promote social inclusion and make globalization serve the needs of the people.

A global strategy for growth and jobs

4. To address the immediate challenges faced by the global economy, we commit to coordinate our actions and policies. Each of us will play their part.

5. We have agreed on an Action plan for Growth and Jobs to address short term vulnerabilities and strengthen medium-term foundations for growth.

  • Advanced economies commit to adopt policies to build confidence and support growth and implement clear, credible and specific measures to achieve fiscal consolidation. We welcome the decisions by European Leaders on October 26th, 2011 to restore debt sustainability in Greece, strengthen European banks, build firewalls to avoid contagion, and lay the foundations for robust economic governance reform in the Euro area and call for their swift implementation. We support the measures presented by Italy in the Euro Summit and the agreed detailed assessment and monitoring by the European Commission. In this context, we welcome Italy's decision to invite the IMF to carry out a public verification of its policy implementation on a quarterly basis.
  • Taking into account national circumstances, countries where public finances remain strong commit to let automatic stabilizers work and take discretionary measures to support domestic demand should economic conditions materially worsen. Countries with large current account surpluses commit to reforms to increase domestic demand, coupled with greater exchange rate flexibility.
  • We all commit to further structural reforms to raise output in our countries.
  • Monetary policies will maintain price stability over the medium term and continue to support economic recovery.

6. We are determined to strengthen the social dimension of globalization. We firmly believe that employment and social inclusion must be at the heart of our actions and policies to restore growth and confidence. We therefore decide to set up a G20 task force which will work as a priority on youth employment. We recognize the importance of social protection floors in each of our countries, adapted to national situations. We encourage the ILO to continue promoting ratification and implementation of the eight core Conventions ensuring fundamental principles and rights at work.

7. Convinced of the essential role of social dialogue, we welcome the outcomes of the B20 and L20 and their joint statement.

Towards a more stable and resilient International Monetary System

8. We have made progress in reforming the international monetary system to make it more representative, stable and resilient. We have agreed on actions and principles that will help reap the benefits from financial integration and increase the resilience against volatile capital flows. This includes coherent conclusions to guide us in the management of capital flows, common principles for cooperation between the IMF and Regional Financial Arrangements, and an action plan for local currency bond markets. We agree that the SDR basket composition should continue to reflect the role of currencies in the global trading and financial system. The SDR composition assessment should be based on existing criteria, and we ask the IMF to further clarify them. To adjust to currencies' changing role and characteristics over time, the composition of the SDR basket will be reviewed in 2015, or earlier, as currencies meet the existing criteria to enter the basket. We are also committed to further progress towards a more integrated, even-handed and effective IMF surveillance and to better identify and address spill-over effects. While continuing with our efforts to strengthen surveillance, we recognize the need for better integration of bilateral and multilateral surveillance, and we look forward to IMF proposals for a new integrated decision on surveillance early next year, and for increased ownership and traction.

9. We affirm our commitment to move more rapidly toward more market-determined exchange rate systems and enhance exchange rate flexibility to reflect underlying economic fundamentals, avoid persistent exchange rate misalignments and refrain from competitive devaluation of currencies. We are determined to act on our commitments to exchange rate reform articulated in our Action plan for Growth and Jobs to address short term vulnerabilities and restoring financial stability and strengthen the medium-term foundations for growth. Our actions will help address the challenges created by developments in global liquidity and capital flows volatility, thus facilitating further progress on exchange rate reforms and reducing excessive accumulation of reserves.

10. We agreed to continue our efforts to further strengthen global financial safety nets and we support the IMF in putting forward the new Precautionary and Liquidity Line (PLL) to provide on a case by case basis increased and more flexible short-term liquidity to countries with strong policies and fundamentals facing exogenous shocks. We also support the IMF in putting forward a single facility to fulfil the emergency assistance needs of its members. We call on the IMF to expeditiously discuss and finalize both proposals.

11. We welcome the euro area's comprehensive plan and urge rapid elaboration and implementation, including of country reforms. We welcome the euro area's determination to bring its full resources and entire institutional capacity to bear in restoring confidence and financial stability, and in ensuring the proper functioning of money and financial markets.

We will ensure the IMF continues to have resources to play its systemic role to the benefit of its whole membership, building on the substantial resources we have already mobilized since London in 2009. We stand ready to ensure additional resources could be mobilised in a timely manner and ask our finance ministers by their next meeting to work on deploying a range of various options including bilateral contributions to the IMF, SDRs, and voluntary contributions to an IMF special structure such as an administered account. We will expeditiously implement in full the 2010 quota and governance reform of the IMF.

Reforming the financial sector and enhancing market integrity

12. In Washington in 2008, we committed to ensure that all financial markets, products and participants are regulated or subject to oversight, as appropriate. We will implement our commitments and pursue the reform of the financial system.

13. We have agreed on comprehensive measures so that no financial firm can be deemed "too big to fail" and to protect taxpayers from bearing the costs of resolution. The FSB publishes today an initial list of Global systemically important financial institutions (G-SIFIs). G-SIFIs will be submitted to strengthened supervision, a new international standard for resolution regimes as well as, from 2016, additional capital requirements. We are prepared to identify systemically important non-bank financial entities.

14. We have decided to develop the regulation and oversight of shadow banking. We will develop further our regulation on market integrity and efficiency, including addressing the risks posed by high frequency trading and dark liquidity. We have tasked IOSCO to assess the functioning of Credit Default Swaps markets. We have agreed on principles to protect financial services consumers.

15. We will not allow a return to pre-crisis behaviours in the financial sector and we will strictly monitor the implementation of our commitments regarding banks, OTC markets and compensation practices.

16. Building on its achievements, we have agreed to reform the FSB to improve its capacity to coordinate and monitor our financial regulation agenda. This reform includes giving it legal personality and greater financial autonomy. We thank Mr Mario Draghi for the work done and we welcome the appointment of Mr Mark Carney, Governor of the Central Bank of Canada as Chairman of the FSB, and of Mr. Philipp Hildebrand, Chairman of the Swiss National Bank as Vice-Chairman.

17. We urge all jurisdictions to adhere to the international standards in the tax, prudential and AML/CFT areas. We stand ready to use our existing countermeasures if needed. In the tax area, we welcome the progress made and we urge all the jurisdictions to take the necessary actions to tackle the deficiencies identified in the course of the reviews by the Global Forum, in particular the 11 jurisdictions identified by the Global Forum whose framework has failed to qualify. We underline the importance of comprehensive tax information exchange and encourage work in the Global Forum to define the means to improve it. We welcome the commitment made by all of us to sign the Multilateral Convention on Mutual Administrative Assistance in Tax Matters and strongly encourage other jurisdictions to join this Convention.

Addressing commodity price volatility and promoting agriculture

18. As part of our financial regulation agenda, we endorse the IOSCO recommendations to improve regulation and supervision of commodity derivatives markets. We agree that market regulators should be granted effective intervention powers to prevent market abuses. In particular, market regulators should have and use formal position management powers, among other powers of intervention, including the power to set ex-ante position limits, as appropriate.

19. Promoting agricultural production is key to feed the world population. To that end, we decide to act in the framework of the Action Plan on Food Price Volatility and Agriculture agreed by our Ministers of Agriculture in June 2011. In particular, we decide to invest in and support research and development of agriculture productivity. We have launched the "Agricultural Market Information System" (AMIS) to reinforce transparency on agricultural products' markets. To improve food security, we commit to develop appropriate risk-management instruments and humanitarian emergency tools. We decide that food purchased for non-commercial humanitarian purposes by the World Food Program will not be subject to export restrictions or extraordinary taxes. We welcome the creation of a "Rapid Response Forum", to improve the international community's capacity to coordinate policies and develop common responses in time of market crises.

Improving energy markets and pursuing the Fight against Climate Change

20. We are determined to enhance the functioning and transparency of energy markets. We commit to improve the timeliness, completeness and reliability of the JODI-oil database and to work on the JODI-gas database along the same principles. We call for continued dialogue annually between producers and consumers on short medium and long-term outlook and forecasts for oil, gas and coal. We ask relevant organizations to make recommendations on the functioning and oversight of price reporting agencies. We reaffirm our commitment to rationalise and phase-out over the medium term inefficient fossil fuel subsidies that encourage wasteful consumption, while providing targeted support for the poorest.

21. We are committed to the success of the upcoming Durban Conference on Climate Change and support South Africa as the incoming President of the Conference. We call for the implementation of the Cancun agreements and further progress in all areas of negotiation, including the operationalization of the Green Climate Fund, as part of a balanced outcome in Durban. We discussed the IFIs report on climate finance and asked our Finance Ministers to continue work in this field, taking into account the objectives, provisions and principles of the UNFCCC.

Avoiding protectionism and strengthening the multilateral trading system

22. At this critical time for the global economy, it is important to underscore the merits of the multilateral trading system as a way to avoid protectionism and not turn inward. We reaffirm our standstill commitments until the end of 2013, as agreed in Toronto, commit to roll back any new protectionist measure that may have risen, including new export restrictions and WTO-inconsistent measures to stimulate exports and ask the WTO, OECD and UNCTAD to continue monitoring the situation and to report publicly on a semi-annual basis.

23. We stand by the Doha Development Agenda (DDA) mandate. However, it is clear that we will not complete the DDA if we continue to conduct negotiations as we have in the past. We recognize the progress achieved so far. To contribute to confidence, we need to pursue in 2012 fresh, credible approaches to furthering negotiations, including the issues of concern for Least Developed Countries and, where they can bear fruit, the remaining elements of the DDA mandate. We direct our Ministers to work on such approaches at the upcoming Ministerial meeting in Geneva and also to engage into discussions on challenges and opportunities to the multilateral trading system in a globalised economy and to report back by the Mexico Summit.

24. Furthermore, as a contribution to a more effective, rules-based trading system, we support a strengthening of the WTO, which should play a more active role in improving transparency on trade relations and policies and enhancing the functioning of the dispute settlement mechanism.

Addressing the challenges of development

25. Recognizing that economic shocks affect disproportionately the most vulnerable, we commit to ensure a more inclusive and resilient growth.

26. The humanitarian crisis in the Horn of Africa underscores the urgent need to strengthen emergency and long-term responses to food insecurity. We support the concrete initiatives mentioned in the Cannes final Declaration, with a view to foster investments in agriculture and mitigate the impact of price volatility, in particular in low income countries and to the benefit of smallholders. We welcome the initiative of the Economic Community of Western African States (ECOWAS) to set up a targeted regional emergency humanitarian food reserve system, as a pilot project, and the "ASEAN+3" emergency rice reserve initiative.

27. Recognizing that the lack of Infrastructure dramatically hampers the growth potential in many developing countries, particularly in Africa, we support recommendations of the High Level Panel and the MDBs and highlight eleven exemplary infrastructure projects and call on the MDBs, working with countries involved, to pursue the implementation of such projects that meet the HLP criteria.

28. In order to meet the Millennium Development Goals, we stress the pivotal role of ODA. Aid commitments made by developed countries should be met. Emerging countries will engage or continue to extend their level of support to other developing countries. We also agree that, over time, new sources of funding need to be found to address development needs and climate change. We discussed a set of options for innovative financing highlighted by Mr Bill Gates. Some of us have implemented or are prepared to explore some of these options. We acknowledge the initiatives in some of our countries to tax the financial sector for various purposes, including a financial transaction tax, inter alia to support development.

Intensifying our Fight against Corruption

29. We have made significant progress in implementing the Action Plan on combating corruption, promoting market integrity and supporting a clean business environment. We underline the need for swift implementation of a strong international legislative framework, the adoption of national measures to prevent and combat corruption and foreign bribery, the strengthening of international cooperation in fighting corruption and the development of joint initiatives between the public and the private sector.

Reforming global governance for the 21st century

30. We welcome the report of UK Prime Minister David Cameron on global governance. We agree that the G20 should remain an informal group. We decide to formalise the Troika. We will pursue consistent and effective engagement with non-members, including the UN and we welcome their contributions to our work.

31. We reaffirm that the G20's founding spirit of bringing together the major economies on an equal footing to catalyze action is fundamental and therefore agree to put our collective political will behind our economic and financial agenda, and the reform and more effective working of relevant international institutions. We support reforms to be implemented within the FAO and the FSB We have committed to strengthen our multilateral trade framework. We call on international organisations, especially the UN, WTO, the ILO, the WB, the IMF and the OECD, to enhance their dialogue and cooperation, including on the social impact of economic policies, and to intensify their coordination.

  • On December 1st. 2011, Mexico will start chairing the G20. We will convene in Los Cabos, Baja California, in June 2012, under the Chairmanship of Mexico. Russia will chair the G20 in 2013, Australia in 2014 and Turkey in 2015. We have also agreed, as part of our reforms to the G20, that after 2015, annual presidencies of the G20 will be chosen from rotating regional groups, starting with the Asian grouping comprising of China, Indonesia, Japan and Korea.

32. We thank France for its G20 Presidency and for hosting the successful Cannes Summit.

source: G20 Cannes Summit

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2011年11月 4日 (金)

遅くなったので、取りあえず、米国雇用統計のグラフだけ

本日、米国労働省から米国雇用統計が発表されました。統計のヘッドラインをいくつか上げると、いずれも季節調整済みの数字で、非農業部門雇用者数は前月から+80千人の増加、うち、民間部門は+104千人、また、失業率は前月から0.1%ポイント改善して9.0%となりました。諸般の事情により、今夜はもう私にとっては遅いですので、簡単に済ませたいと思います。まず、日本時間で本日夜10時過ぎくらいの New York Times のサイトから最初の4パラだけ記事を引用すると以下の通りです。なお、後刻、記事は差し替えられる可能性があります。ご容赦ください。

Report Shows a Mere 80,000 Jobs Added in U.S. in October
The United States had another month of mediocre job growth in October, the Labor Department reported Friday.
Employers added 80,000 jobs on net, slightly less than what economists had expected. That compares to 158,000 jobs in September, a month when the figure was helped by the return of 45,000 Verizon workers who had been on strike.
While job growth is certainly better than job losses, a gain of 80,000 jobs is hardly worth celebrating. That was just about enough to keep up with population growth, so it did not significantly reduce the backlog of 14 million unemployed workers.
As a result, the unemployment rate barely budged, dropping to 9 percent from 9.1 percent in September. The rate has not fallen below 9 percent in seven months. In the year before the recession began in December 2007, the jobless rate averaged about half that, at 4.6 percent.

次に、いつものグラフは以下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減とそのうちの民間部門です。色分けは凡例の通りです。下は失業率です。いずれも季節調整済みの系列をプロットしており、影をつけた部分は景気後退期です。

米国雇用統計の推移

さらに、これまた、いつもの Jobless Recovery のグラフは以下の通りです。景気の山をベースにして、その後の非農業部門雇用者数をプロットしています。2001年のITバブル崩壊後の景気回復過程も jobless と呼ばれたんですが、今回の方がさらに雇用の回復が遅いのが見て取れます。

Jobless Revovery

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2011年11月 3日 (木)

キース・ジャレットのソロCDを買いに行ってデフレと内外価格差を実感する

Rio: Keith Jarett

あまり宣伝をするつもりはないんですが、私は役所の1階にある書店で Jazz Japan という雑誌を定期購読していて、最新号にキース・ジャレットのソロ・ピアノで Rio というアルバムが11月2日、すなわち、昨日に発売されるとあり、私はあまねくキース・ジャレットのソロ・ピアノを聞いていますので、文化の日の今日になって買いに出かけました。
2枚組で3,600円はキース・ジャレットのソロ・ピアノのファンには適当な価格で、今まで、ライブでは日本やドイツなどがあったものの、今回は南米はリオ・デ・ジャネイロでのライブということで、それなりに楽しみにはしていました。現在、トップ・クラスのジャズ・ピアニストを3人上げるとすれば、この順でチック・コリア、キース・ジャレット、ハービー・ハンコックと私は考えています。もちろん、3人ともジャズ発祥の地の米国人ですが、ラテン系のチック・コリア、アフリカ系のハービー・ハンコック、欧州系のキース・ジャレット、という勝手な想像をしていましたから、キース・ジャレットのソロ・ピアノがリオでのライブで聞けるというのは少し意外感がありました。
いつもCDを買うお店に行くと、当然ながら、定価の3,600円で何枚か上のデザインのアルバムが並んでいるんですが、その隣のコルトレーンの日本ライブ完全収録5枚組7,500円は別としても、11月5日(土)入荷予定の輸入盤が定価2,930円、期間限定割引で2,590円と宣伝してあります。50歳を過ぎて老い先短く、時間が貴重に感じられる私なんですが、さすがに、明後日には輸入盤ながら1,000円以上も値引きされるとあっては、国内盤3,600円はパスしました。少し待てば安くなるというのは典型的なデフレ期待であって、わずか2日とはいえ私のように買い控えるというのも典型的なデフレ下の消費行動といえます。また、ライナー・ノーツが日本語で書かれているか、英語かの違いだけで、ディスクはほとんど同じクォリティなのに、なぜか輸入盤の方が段違いに安いのは品質で調整し切れない内外価格差が大きいといえます。

エコノミストにして、ジャズ・ファンの私は、デフレと内外価格差にはなすすべもなく、何も買わずにお店を出てしまいました。キース・ジャレットの Rio の1枚目は半分くらい試聴したんですが、余り長々と試聴していると、伊坂幸太郎さんの『死神の精度』を読んでいる店員さんがいれば、死神に間違われかねないと考えて、名残り惜しくも切り上げました。

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2011年11月 2日 (水)

グールド『ぼくは上陸している』上下(早川書房)を読む

グールド『ぼくは上陸している』上下(早川書房)

2002年に亡くなったグールド教授のエッセイ集『ぼくは上陸している』上下を読みました。まず、出版社のサイトから本の紹介文を引用すると以下の通りです。

〈ハヤカワ・ポピュラー・サイエンス〉1901年9月11日の出来事を描いた表題作から、ナボコフの蝶研究にまつわる誤解、フロイトの未発表の生物学論文についてなど、名手の連作エッセイの最後を飾る珠玉の31篇

人文学の広い知識をもとにした独特のスタイルで進化生物学を語ってきた科学者グールド。本書はその彼が真骨頂を発揮した、作家生活25周年の集大成である。

『ロリータ』の著者ナボコフは、蝶の分類の専門家としての顔も持っていたが、多くの文芸評論家に誤解されている。その誤解とは? ダーウィンの代表的な弟子である進化生物学者ランケスターが、なぜマルクスの葬儀に出席したのか? 熱烈な進化論者ヘッケルのとてもわかりやすく大評判になった――が、必ずしも正確ではなかった――著書の余白に、進化論の反対論者だったアガシが残した言葉とは? ウィットに富み、蘊蓄を織り交ぜたエッセイは、読者をいつしか科学の愉しみへといざなう。

2002年に惜しまれながら亡くなった著者の、最後の科学エッセイ集。

著者であるハーバード大学グールド教授は生物学者であり、いうまでもなく、20世紀後半の戦後を代表する知性の1人であり、非常に分かりやすい文章をものにするサイエンス・ライターです。このブログでも5年超以前の2006年1月26日付けのエントリーでグールド教授の名を高めた論文のひとつを引用しています。グールド教授の専門の進化論に関する論文で、今では、出版社のご厚意で pdf ファイルにより一般に広く公開されています。以下の通りです。

日本人には想像もつかないような米国の科学教育の現状、すなわち、つい先ごろの20世紀に至るまで、また、地域によっては現在でも、聖書で説かれた神による創造説と矛盾するビッグバン宇宙論や進化論に対する反対論が強い現状、聖書が科学よりも優先される、なんてことは理解が及びません。著者のグールド教授は進化論を十分に理解した科学者であることはいうまでもなく、自ら「筋金入りのリベラル」を自任し、不合理な論調を完膚なきまでに反論を加えます。何回かこのブログでも表明しましたが、私も経済学という科学に対して経済に関する迷信やオカルトが存在し、専門教育を受けていない人々の間にまだまだ影響力を持っている現状を知っているつもりです。

上下2巻からなる本書はボリュームとしても適当ですし、31篇からなるエッセイは極めて上質で、私のような専門外の目で見ても、かなり分かりやすく解説されています。読み始めれば一気に読めてしまいます。上下で5000円ほどと高価な書籍ではありますが、かなり多くの図書館に所蔵されているようですので、多くの方が手に取って読むことを願っています。

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2011年11月 1日 (火)

毎月勤労統計に見る雇用動向やいかに?

本日、厚生労働省から9月の毎月勤労統計調査の結果が発表されました。同時に、今年の夏季ボーナスの統計も公表されています。私がいつも注目している賃金動向は季節調整していない原系列の現金給与指数で見て前年同月比持合いとなりました。夏季ボーナスは昨年と比べて▲0.8%減を記録しています。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

11年夏のボーナス、0.8%減 2年ぶり減少、中小で伸び悩み
厚生労働省は1日、2011年の夏季賞与(夏のボーナス)が全産業平均で36万4252円になったと発表した。前年の夏季賞与に比べ0.8%減った。減少は2年ぶり。厚労省が大企業を対象にした夏の賞与調査では5.0%増えたが、中小企業を含めると前年の水準を下回った。円高や東日本大震災の影響で中小企業は賞与を抑えたことが浮き彫りになった。
6-8月に賞与として支給されたものを集計した。産業別には、製造業が前年比6.7%増、生活関連サービス業が10.7%増と伸びた一方、卸・小売業が2.0%減、医療・福祉が2.7%減と落ち込んだ。企業規模別にみると、従業員が30人以上の企業は0.5%増と伸びたが、5人以上の企業を加えると前の年を下回った。
同時に発表した9月の現金給与総額は前年同月と同じ26万7948円。景気動向に敏感に反応する製造業の所定外労働時間(季節調整済み)は前月比0.7%減と2カ月連続で落ち込んでおり、海外経済の減速で企業の生産活動の停滞を裏付けている。

まず、毎月の注目点で、下のグラフは季節調整していない原系列の現金給与指数の前年同月比と季節調整済みの所定外労働時間をプロットしています。いずれも5人以上事業所で、影を付けた部分は景気後退期です。

毎月勤労統計の推移

賃金は先月まで3か月連続で前年割れだったんですが、9月はようやく前年水準に戻りました。緩やかながら雇用情勢が改善していることが背景となっていると受け止めています。他方、所定外労働時間はここ1年半ほど総じて停滞しており、9月は生産が減産に転じたことから前月からほぼ横ばいとなっており、先行きも大きく増加する見込みはありません。生産などと同じで、先行きは国内要因の復興需要と海外要因の世界経済の失速と円高の影響のいずれの効果が大きいかに依存します。

産業別夏季ボーナス

簡単に産業別の夏季ボーナスを見ておくと上のグラフの通りです。調査産業計で▲0.8%の減少なんですが、これは5人以上事業所の統計であり、30人以上事業所では+0.5%の増加となっていますから、引用した記事にもある通り、中小の事業所が低調だった結果を反映しています。産業別でみると、製造業、情報通信業、運輸業・郵便業、生活関連サービス業等でプラスを記録したほかは軒並みマイナスとなっています。電気・ガス・熱供給等は伸び率はナイマスなんですが、額はまだまだ大きく、東京電力なんかは値上げの前に賃金リストラで賠償原資がもっと出そうな気もします。

Summary of G20 projections

ここで、毎月勤労統計調査を離れて、OECDからG20サミットに向けた改定経済見通しが発表されていますので、簡単に取り上げたいと思います。上の表の通りなんですが、これは昨日、グリア事務総長の記者会見の際に配布されたハンズアウトで、Economic Outlook and Policy Requirements for G20 Economies と題されています。今年2011年の成長率を見ると、我が日本が5月時点の▲0.9%から▲0.5%に上方改定された一方で、米国は+2.6%から+1.7%に、ユーロ圏諸国は+2.0%から+1.6%に、それぞれ下方修正されています。しかし、政府債務のGDP比はユーロ圏で落ち着く一方で、日米では上昇を続けると見込まれています。なお、次回の経済見通しは11月28日公表と予定されています。

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