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2011年11月 8日 (火)

中村文則『掏摸[スリ]』と『王国』(河出書房新社) を読む

中村文則『掏摸 [スリ]』と『王国』(河出書房新社)

中村文則さんの『掏摸 [スリ]』と『王国』(河出書房新社) を読みました。なお、作者のサイトに従えば、『掏摸 [スリ]』はフリ仮名込みでタイトルだそうですので、念のため。
私はこの作者の作品は、誠に残念ながら、はるか昔に芥川賞を授賞された「土の中の子供」しか読んでいません。2005年9月27日付けのエントリーで酷評しています。その後、特に注目していたわけでもないんですが、この2作の姉妹作品は見るべきものがあります。上の表紙の画像からしてもこの2作が姉妹作を意図していることは明らかでしょう。まず、出版社のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。

掏摸 [スリ]
天才スリ師に課せられた、あまりに不条理な仕事……失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、お前が親しくしている女と子供を殺す。ジャンルを超えた絶賛の声続々の話題作!! 第4回大江健三郎賞受賞。
王国
社会的要人の弱みを人工的に作る女、ユリカ。ある日、彼女は出会ってしまった、最悪の男に。絶対悪VS美しき犯罪者! 大江賞受賞作のベストセラー『掏摸』を超える話題作がついに刊行!

極めて単純化すれば、いわゆる「ピカレスク小説」です。私のような公務員をはじめとする多くの「普通の人々」には関係の薄いウラの世界の出来事を取り上げています。しかし、反社会的な行動をあおったり、美化したりすることはしていません。ウラ世界の個人を主人公に、主人公がウラ世界の組織にからめ取られていくさまを淡々と描写しています。2人の主人公はものすごいガッツがあるわけではなく、自分で道を切り拓こうという意図は持ちながらも、必ずしも成功しているわけではありません。ウラ社会というのは表社会より以上に組織化されているのかもしれません。
姉妹編のこの2作に共通して登場するのは「化け物」と称される木崎です。ウラ世界の親玉というか、両作品のそれぞれの主人公のいわば「上位」の存在といえます。ネタバレかもしれませんが、『掏摸 [スリ]』の主人公の男性スリは木崎に殺され、『王国』の主人公のユリカは殺されはしませんが、木崎の支配下におかれます。この木崎と独特の世界観が両作品をリンクしています。細かな表現力と全体の構成力が微妙に拮抗して、なかなか見事な作品に仕上がっています。両作品のリンクは木崎だけでなく、第1作のスリの男性や第2作のユリカのボスである矢田など、いくつかの登場人物も共有されています。このあたりは、伊坂幸太郎さんの作品と似ている部分もあります。そのあたりのサジ加減もいい雰囲気を出しているような気がします。

取り上げているのがウラ世界ですから、すべての人にオススメ出来るわけではありませんが、多くの図書館に所蔵されていることと思います。興味ある方は手に取って読んでみて損はないと考えます。

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