« おにいちゃんと「ガンダム」の映画を見に行く | トップページ | 国際通貨基金 (IMF) の Japan Sustainability Report »

2011年11月24日 (木)

道尾秀介『水の柩』(講談社) を読む

道尾秀介『水の柩』(講談社)

道尾秀介『水の柩』(講談社) を読みました。作者はいろんなシリーズの作品を発表していて、『月と蟹』で第144回直木賞を受賞した後、『カササギたちの四季』も私は読みましたが、少年を主人公にした純文学系のシリーズの受賞後第一作ではないかと受け止めています。まず、出版社の特設サイトからあらすじを引用すると以下の通りです。

道尾秀介『水の柩』
老舗旅館の長男、中学校二年生の逸夫は、自分が“普通”で退屈なことを嘆いていた。
同級生の敦子は両親が離婚、級友からいじめを受け、誰より“普通”を欲していた。
文化祭をきっかけに、二人は言葉を交わすようになる。
「タイムカプセルの手紙、いっしょに取り替えない?」
敦子の頼みが、逸夫の世界を急に色付け始める。
だが、少女には秘めた決意があった。
逸夫の家族が抱える、湖に沈んだ秘密とは。
大切な人たちの中で、少年には何ができるのか。

繰返しになりますが、作者はなかなかに多作で、いくつかのシリーズの作品を発表しています。私が読んだ限りでも、デビュー作の『背の眼』で始まる吉備真備シリーズ、『片眼の猿』、『ソロモンの犬』、『ラットマン』、『カラスの親指』などの十二支シリーズ、『月と蟹』や本作のような少年を主人公にした純文学に近いシリーズ、さらに、初期の作品で最も著者の名を高からしめた『向日葵の咲かない夏』や最近の『カササギたちの四季』などの単発ミステリもあります。
上に引用したあらすじには「普通」をキーワードにしているように意図的に構成されていますが、実は、「嘘」がもうひとつのキーワードになっています。主人公の逸夫の同級生である敦子のつく「嘘」、そして、引用したあらすじにはありませんが、逸夫の祖母のいくが生涯をかけてつき通して来た「嘘」、そして、「嘘」を乗り越えて葬り去らんとするかのようなある種の儀式として、逸夫と敦子といくの3人が人形をダムに落としたりします。その後、いくは急速に認知症の症状を進めてしまう一方で、敦子は極めて独特の方法でいじめを切り抜けます。
読後感もさわやかで、エンターテインメント系の作品に秀作を残している作家ながら、こういった純文学系の作品にも十分な力量を示しています。作品の構成としては中学生の男女を主人公に据えていじめの問題も含んでいて、私が読んだ中では川上未映子さんの2年前の作品『ヘヴン』に似ていなくもありません。いずれも30代半ばの若手と目される作家の2人に私は注目していることはすでに何度かこのブログでも書いた記憶があります。30年後のノーベル文学賞を目指してほしい気がします。

最後に、この作品で触れられている学校のいじめに関する私見ながら、もはや我が国の義務教育レベルの教育機関ではいじめに対して無力である、と文学作品では受け止められていると感じざるを得ません。もし事実がこれらの小説の通りであれば、富裕層や教育に関する意識の高い家庭の子弟が公立小中学校から私立に流れるのも仕方ないのかもしれません。

|

« おにいちゃんと「ガンダム」の映画を見に行く | トップページ | 国際通貨基金 (IMF) の Japan Sustainability Report »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/20840/43130529

この記事へのトラックバック一覧です: 道尾秀介『水の柩』(講談社) を読む:

« おにいちゃんと「ガンダム」の映画を見に行く | トップページ | 国際通貨基金 (IMF) の Japan Sustainability Report »