本日発表の経常収支と景気ウォッチャーは何を示しているか?
本日、財務省から経常収支を含む国際収支が、また、内閣府から景気ウォッチャー調査結果が、それぞれ発表されました。経常収支は9月、景気ウォッチャー調査は10月の結果です。なお、これでGDPを構成するすべてのコンポーネントの1次統計が発表されたことになり、来週14日の7-9月期の1次QEを待つばかりになりました。まず、今日発表された統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
経常黒字、上期46.8%減 縮小幅はリーマン以来
財務省が9日発表した2011年度上半期(4-9月期)の国際収支速報によると、モノやサービス、配当、利子など海外との総合的な取引状況を示す経常収支は4兆5196億円の黒字となった。黒字は前年同期に比べ46.8%減り、リーマン・ショックの影響が大きかった08年度下半期以来の大幅縮小となった。東日本大震災の影響で貿易収支が過去最大の赤字に転落したことが響いた。
貿易収支は前年同期比で5兆2662億円減少し、1兆2517億円の赤字に転落した。赤字となるのは08年度下期以来、半期ベースで5期ぶり。
輸出は31兆2687億円で3.2%減った。震災の影響で生産が急減した自動車や、半導体など電子部品の減少幅が大きかった。輸入は15%増の32兆5204億円。石油など資源価格が高止まりしたことから金額が膨らんだ。
旅行や輸送などの動向を示すサービス収支は1兆1108億円の赤字。原発事故の風評被害などで、日本を訪れる外国人が急減した影響が出た。企業が海外投資から受け取る利子や配当などを示す所得収支の黒字額は26.4%増の7兆3436億円だった。
財務省が同日発表した9月の経常収支の黒字額は、前年同月比21.4%減の1兆5848億円となった。資源価格の上昇で輸入額が膨らみ、貿易収支の黒字幅が縮小したことが響いた。
10月の街角景気、3カ月ぶり改善
内閣府が9日発表した10月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、足元の景気実感を示す現状判断指数は前月比0.6ポイント上昇の45.9と3カ月ぶりに改善した。東日本大震災からの復旧が進むにつれて生産が回復していることに加え、気温低下に伴う季節商材の消費が改善に寄与した。一方、2-3カ月先の先行き判断は円高の進行やタイの大規模洪水の影響で悪化した。
現状判断で改善が目立ったのは小売業だった。「今月は冷え込みとともに秋物が動き出している」(九州の百貨店)や「数カ月前と比較すると買い物をしようとする意欲は高まっている」(北陸の百貨店)との声が目立つ。
製造業からは「部品調達難から生産、販売が遅れていたが、7月以降の増産により取り戻しつつある」(四国の一般機械器具)や「震災復旧関連の工事の受注が継続している」(東北の建設業)など震災からの順調な回復をうかがわせるコメントが並んだ。
しかし、先行きについては不透明感が強まっている。先行き判断指数は0.5ポイント低下の45.9と4カ月連続で悪化した。歴史的な円高で「海外向けは順調に注文が入るが、円高の影響で採算がとれない」(中国の一般機械器具)のほか、「中国からの輸入品との価格競争が激しくなっている」(近畿の繊維工業)との声があった。
タイの洪水も先行きに影を落としている。「既にデジタルカメラなどの入荷が遅れている」(北関東の家電量販店)と実際に影響が出ているほか、「円高や欧州の財政問題、タイの洪水など外的なマイナス要因が多すぎる」(北海道の家具製造)などタイの洪水に触れるコメントが100件近くに膨らんだ。
内閣府は、景気の現状に対する基調判断を「円高の影響もあり、持ち直しのテンポが緩やかになっている」で据え置いた。ただ、今回の調査では「景気回復につながる明るい材料が見当たらない」(近畿のスーパー)といった漠然とした不安の声が「散見された」(内閣府)と指摘した。
調査は景気に敏感な小売業関係者など2050人が対象。3カ月前と比べた現状や、2-3カ月先の景気予想を「良い」から「悪い」まで5段階で評価して指数化する。今回の調査は10月25日から月末まで。
いつものグラフはまず経常収支が以下の通りです。月次の季節調整済みの系列であり、青い折れ線の経常収支の内訳が棒グラフで示されています。色分けは凡例の通りです。季節調整する前の原系列に基づく記述となっている上の記事とは少し印象が異なっているかもしれません。
引用した記事にもある通り、年度半期でくくった経常収支はリーマン・ショック後に匹敵するくらいの落ち込みとなっています。今年度上半期2011年4-9月期では、3月の震災に起因するサプライ・チェーンの毀損による供給制約のため、また、原発停止に伴う火力発電の稼働増加に伴う燃料輸入の増価があり、貿易収支が赤字化するとともに、経常収支の黒字幅は大きく縮小しました。この先も、輸入面については、燃料輸入の増加と単価上昇が続くと考えられる他、輸出面では、欧州のソブリン危機に起因する世界経済の失速が需要面から、タイの洪水に起因する部品調達難が供給面から、それぞれ輸出の下押し要因になる可能性があり、年度かこのブログで書きましたが、貿易収支については年や年度を通じて赤字化する可能性も排除できません。
景気ウォッチャー調査の結果は上のグラフの通りです。現状判断DIは上向いたものの、先行き判断DIは低下しました。解釈の難しいところです。特に、現状判断については、家計動向関連DIが天候要因による季節商品の動きがよくなる一方で、雇用関連DIは円高進行などに伴って慎重姿勢が見られて悪化するなど、強弱入り混じった動きを示していますが、個別のコメントなどに目を通した私の実感では、天候と円高に典型的に示されている通り、改善方向の要因の方がサステイナビリティに欠ける気がしないでもありません。直観的な見方ですので、私が単に弱気になっているだけかもしれません。
いずれにせよ、何度もこのブログで繰り返している通り、足もと10-12月期から先は復興需要に伴う内需に起因する景気押上げ要因と世界経済と円高に伴う外需に起因する景気下押し要因の力比べになります。経常収支に現れる後者の方が景気ウォッチャーに現れる前者を上回る可能性がやや高いんではないかと私は危惧しています。また、7-9月期の経常収支の動向から、14日発表のGDP1次QEベースの外需は0.5%近いプラスの寄与を示すのではないかと私は見込んでいます。
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