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2012年2月23日 (木)

家計の貯蓄に関する雑感

昨日、日銀の金融広報中央委員会から「家計の金融行動に関する世論調査」が発表され、昨年の金融資産の非保有世帯比率が大きく上昇したことなどがメディアで報じられています。今夜のエントリーではこの調査とともに、先週金曜日に総務省統計局から発表された家計調査の2011年平均も併せて、家計の貯蓄の統計を確認しつつ、私なりの雑感を記しておきたいと思います。まず、日経新聞のサイトから「家計の金融行動に関する世論調査」に関する記事を引用すると以下の通りです。

金融資産なしの世帯、最大の28% 11年
保有額平均は19万円減の1150万円

金融広報中央委員会(事務局・日銀情報サービス局)は22日、2011年の「家計の金融行動に関する世論調査」を公表した。家計の金融資産の保有額は1世帯当たり平均1150万円となり、前年より19万円減った。欧州債務問題を背景にした相場下落で保有する有価証券が値下がりしたことが響いた。
調査は昨年10月7日-11月14日、全国8000の2人以上世帯を対象に実施し、3802世帯から回答を得た。
金融資産が減少したと答えた世帯に理由を聞いたところ、「株式・債券価格の下落で評価額が減少した」と答えた割合は29%と、質問項目を設けた1989年以来最大。調査実施期間はギリシャ問題などを巡り株価の下落が続いていた局面だった。
貯蓄を取り崩す高齢者世帯の増加などから、金融資産を保有していないと答えた世帯の割合は全体の28.6%と過去最大になった。

まず、上の引用した日経新聞をはじめ、いろんなメディアに注目された金融資産非保有世帯比率のグラフは以下の通りです。2000年から2003年までジワジワと上昇した後、2010年まではほぼ横ばいで推移していたんですが、2011年になって大きく上昇したように見受けられます。何らかの理由で金融資産を使い尽くした世帯が増加したことは明白ですが、その理由でもっとも蓋然性が高いのは震災の影響です。震災による直接の影響で金融資産が滅失した、例えば津波にさらわれた、というより、その後の経済の停滞が主因だという気がしますが、この世論調査の結果だけからでは推察の域を出ません。

金融資産非保有世帯比率の推移

次に、先週の金曜日に発表された家計調査の2011年平均の統計から、家計調査で黒字率と定義されている貯蓄率の推移は以下のグラフの通りです。統計の対象は勤労者世帯ですから、年齢階級での区分ではないものの、大雑把に60歳以下の年齢層が多いと考えるべきです。このグラフを見る限り、大きな貯蓄率の変動は観察されません。安定して20%台後半で細かな変動を続けていると見受けられます。

貯蓄率 (黒字率) の推移

大雑把に60歳以下の勤労世帯で貯蓄率の低下が生じていないとすれば、それよりも高齢の家計での貯蓄率が低下、あるいは高齢者の家計で金融資産の消尽が生じているの可能性があるのではないかと推測するのは突飛なことではありません。ということで、下のグラフは家計調査の2011年平均のリポートの p.5 図9 高齢無職世帯の家計収支から引用しています。高齢無職世帯では実収入181,921円から税金や社会保障負担などを除いた可処分所得が158,522円なんですが、消費支出の202,973円に対して44,451円が不足し貯蓄を取り崩している、という平均的な姿が示されています。金融資産を使い尽くしたのも高齢無職世帯が多くを占める可能性は否定できません。

高齢無職世帯の家計収支

高齢化の進展による貯蓄率の低下、ないし、金融資産非保有比率の上昇とともに、所得動向も貯蓄に影響を及ぼします。すなわち、通常のケインズ的な経済理論では限界貯蓄性向は平均貯蓄性向よりも低いと考えられており、所得が増加すれば貯蓄率は上昇し、逆に、所得が減少すれば貯蓄率は低下します。この関係を表したのが下のグラフであり、家計調査の2011年平均のリポートの p.3 図6 実質可処分所得と平均消費性向の関係の推移を引用しています。横軸は実質可処分所得、縦軸は貯蓄率ではなく消費性向が取られており、明確な負の相関が読み取れます。すなわち、所得と貯蓄率では正の相関ということになります。ただし、この関係は平成8-10年、すなわち、1996-99年を境にして左方下方にシフトしているように見えます。2005年から2006年にかけてのシフトは理由がよく分かりませんが、2010年から2011年にかけての可処分所得の減少と平均消費性向の低下は震災の年の特異な動き、要するに、いずれも震災に起因する所得の減少と将来不安に備えた消費の減少が生じたと考えることができます。

実質可処分所得と平均消費性向の関係の推移

いずれにせよ、昨年2011年は所得や貯蓄もはじめとして震災により通常のトレンドラインから外れた動きを示した可能性が否定できません。メディアで盛んに取り上げられた金融資産非保有世帯比率の上昇もそのうちのひとつであり、格差の拡大と直接の関係があるかどうか疑わしいという気がしないでもありません。

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