経常収支の先行き見通しと景気ウォッチャー調査
本日、財務省から12月の国際収支が発表されました。ヘッドラインとなる経常収支は季節調整していない12月の統計を見ると、前年同月からほぼ1/4に減少したものの3035億円の黒字、他方、貿易サービス収支は7002億円、うち貿易収支は5851億円のそれぞれ赤字を記録しました。2011年通年の経常収支は前年比ほぼ半減の9兆6289億円の黒字、貿易収支は1兆6089億円の赤字と、必ずしも同じベースで比較できないものの、1963年以来の赤字に転落しました。10-12月期のGDP統計で外需がマイナスになるのは確実ですが、第一生命経済研の今日のリポートでは一昨日にこのブログで紹介した1次QE予想を微妙に下方修正しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
経常黒字43.9%減 11年、過去最大の減少率
48年ぶり貿易赤字
財務省が8日発表した2011年の国際収支速報によると、モノやサービス、配当、利子など海外との総合的な取引状況を示す経常収支は9兆6289億円の黒字にとどまった。前年比43.9%減で、1985年以降の現行方式で最大の減少率となった。円高などで輸出が減る一方、原子力発電所の停止で燃料輸入が急増。輸出から輸入を差し引いた貿易収支が赤字に転落したことが主因だ。
経常黒字額は15年ぶりの低水準となった。財務省は「(世界経済の低迷による輸出の減少など)貿易赤字は全てが一時的要因とはいえない」としたうえで、「所得収支の黒字が堅調に推移すれば、ただちに経常赤字になることはない」との見方を示した。
貿易赤字は1兆6089億円だった。現行方式では初めての赤字。単純比較はできない旧基準のデータまで遡ると、63年以来48年ぶりの貿易赤字となる。
輸出額は62兆7234億円で、1.9%減少した。東日本大震災によるサプライチェーン(供給網)寸断で生産がストップし、輸出に響いた。年後半は欧州債務危機の深刻化や歴史的な円高が輸出の重荷となった。11年の為替相場は平均で1ドル=79円77銭と、前年に比べ8円ほど円高・ドル安で推移した。
輸入額は64兆3323億円で15.0%増えた。原発停止を受け、火力発電に使う液化天然ガス(LNG)の需要が膨らんだ。通関ベースでLNGの輸入は金額・数量ともに過去最高を記録した。
旅行や運送などのサービス収支は1兆6407億円の赤字となった。赤字額が前年より2264億円増えた。震災後の放射能不安などで、訪日外国人旅行客が3割近く減ったためだ。
所得収支は、経常収支を構成する4つの収支のうち、唯一黒字を確保。黒字額は19.9%増の14兆296億円となり、4年ぶりに拡大した。アジア新興国を中心に、海外子会社から受け取る配当・利子が増えたためだ。
同日発表した11年12月の経常黒字は前年同月比74.7%減の3035億円だった。震災が発生した昨年3月以降、10カ月連続で黒字額が前年同月の水準を下回った。
次に、いつもの経常収支のグラフは以下の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を、棒グラフはその内訳を経常収支のコンポーネント別に、それぞれ示しています。積上げ棒グラフの色分けは凡例の通りです。

メディアの論調に合わせるわけではないんですが、今夜のエントリーでは通年の経常収支統計を中心に、先行き見通しに焦点を当てて考えたいと思います。特に、いくつかのシンクタンクや金融機関では2020-25年度くらいまでの中期経済見通しを昨年12月から今年1月にかけて発表していますので、その中から私の実感に合致する結果などをいくつかピックアップしたいと思います。まず、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「日本経済の中期見通し」 p.28/49 図表24から経常収支の見通しのグラフを引用すると以下の通りです。

上のグラフの経常収支見通しは、私を含めて、かなり多くのエコノミストのコンセンサスに近いんではないかと受け止めています。2011年度は震災やタイの洪水などの特殊要因に起因する供給制約から輸出が振るわず、さらに、原発停止の影響で火力発電向けの燃料輸入が増加し、貿易収支が赤字に落ち込んだため、経常収支も大きく黒字幅を縮小すると予想されています。これら一時的な要因が解消される来年度は貿易収支は黒字に戻ると考えられるものの、2010年代半ばで経常収支の黒字拡大はピークを付け、その後、貿易収支が赤字化するに従って経常収支もゆっくりと黒字幅を縮小すると見込まれています。もっとも、投資収益収支の黒字が大きいため、2020年度くらいまでの中期では経常収支の黒字幅は縮小するものの赤字に転落することは予想されない、との結論です。なお、図表の引用はしませんが、ニッセイ基礎研「中期経済見通し」の p.10 [図表-8]経常収支の推移を見ると、2011年度から2021年度まで経常収支の黒字幅は回復することなく、一貫して縮小すると見込まれている点で、上の三菱UFJリサート&コンサルティングや下の大和総研と異なるものの、最終年度の2021年度まで何とか経常黒字を維持するという結論は変わりありません。

上のグラフは、大和総研「日本経済中期予測」 p.21/57 図表1-20から貯蓄投資バランスの見通しのグラフを引用しています。海外部門の黒字が経常収支に相当しますが、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「日本経済の中期見通し」の経常収支の見通しのグラフとほぼ同じシェイプと言えます。また、図表の引用はしませんが、野村證券「中期経済見通し」 p.19 図表23に示された日本の経常収支の先行き試算でも、2025年までGDP比1%程度の経常黒字を保つことが見込まれています。ただし、当然ながら、円高は経常収支を悪化させます。具体的な例を示すと、大和総研「日本経済中期予測」 p.26/57 図表2-4において5%の円高ドル安となった場合の日本経済への影響が大和中期マクロモデルにより試算されており、2年目以降はGDP比で▲0.2%程度の経常収支悪化要因となることが示されています。

どうして経常収支の先行き見通しを取り上げるかといえば、GDPのコンポーネントである外需の需要項目であるだけでなく、膨大な政府債務を積み上げた我が国財政のサステイナビリティに関係するからです。ということで、上のグラフは野村證券「中期経済見通し」 p.12 図表15から経常収支と国債の海外投資家比率を引用しています。とても少なくて恣意的なサンプル選択の中で引かれているトレンド・ラインながら、直感的に、経常収支と国債の海外投資家比率の間にはマイナスの相関があることは理解できます。これは必ずしも因果関係を示すものではありませんが、経常収支が赤字になれば海外投資家から国債の資金調達をする必要が大きくなることは明らかであり、財政のサステイナビリティの観点からも経常収支の動向には関心が払われて然るべきです。もっと言えば、経常収支が黒字をキープできている間に財政再建に成功しないと、財源調達を海外に頼ることにもなりかねず、極端な場合、財政破綻の確率が高まる可能性すら排除できません。

最後に、本日、内閣府から今年1月の景気ウォッチャー調査結果が発表されています。現状判断DIは低下し、先行き判断DIが上昇する結果となっています。円高と大雪がマインドを悪化させたと分析されているようで、少なくとも後者の大雪については、先行き判断DIのスコープである2-3か月のうちに解消されることは明らかです。
| 固定リンク
コメント