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2012年2月 5日 (日)

山田詠美『ジェントルマン』(講談社) を読む

山田詠美『ジェントルマン』(講談社)

ようやく図書館の予約の順番が回って来て、山田詠美『ジェントルマン』(講談社) を読みました。久し振りに素晴らしい小説に巡り会えた気がします。まず、出版社のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。

内容紹介
ぼくの愛したその男、罪人(つみびと)につき。
非の打ちどころのない優しさを持つ青年、漱太郎。紳士の顔に隠された、道徳の汚れを垣間見たそのときから、夢生は彼の"告解の奴隷"となった――。
哀切極まる衝撃の結末に、あなたは耐えられるか。
圧倒的熱量で紡がれる生と性の残酷さ、ままならない恋の究極。

眉目秀麗、文武両道、才覚溢れるジェントルマン。その正体――紛うことなき、犯罪者。
誰もが羨む美貌と優しさを兼ね備えた青年・漱太郎。その姿をどこか冷ややかに見つめていた同級生の夢生だったが、ある嵐の日、漱太郎の美しくも残酷な本性を目撃してしまう。それは、紳士の姿に隠された、恐ろしき犯罪者の貌だった――。その背徳にすっかり魅せられてしまった夢生は、以来、漱太郎が犯す秘められた罪を知るただひとりの存在として、彼を愛し守り抜くと誓うのだが……。
比類なき愛と哀しみに彩られた、驚愕のピカレスク長篇小説。

さすがに素晴らしい小説です。久々にこの山田詠美さんらしい作品を読んだ気がします。耽美的と言うか、背徳的と言うか、この作者の作品らしく、カギカッコ付きの「ある種の狂気」を感じさせました。読者によっては漱太郎に、貴志祐介『悪の教典』の蓮実を重ね合わせる人がいるかも知れません。でも、私は違うと感じました。京都の人間的な感性からすると、漱太郎は明らかに裏表があります。京都人と同じです。しかし、蓮見は裏も表もありません。蓮見の行動は同じ次元で首尾一貫していますが、漱太郎の表と裏は次元が異なります。漱太郎は仮面をつけていると表現してもいいかもしれません。その裏と表が、京都人のように一定の伝統的なルールに則っているわけではないだけです。しかも、京都人のように洗練されているわけでもなく、合法的でもありません。それにしても、私にも妹がいますが、漱太郎の妹に対する感性はとりわけ強烈でした。ラストよりも、そちらのほうが「衝撃的」でした。
ストーリーもさることながら、山田詠美さんらしい飛びっ切りの表現力に触れた気がします。例えば、漱太郎について「下卑た本性」 (p.100) と夢生に言わしめたり、恋愛に関する秀逸な定義を「どんなに聡い人間にも見えないものがある。それは、体験したことのない愚鈍どもの幸福。それを他者によって与えられる時、ぼくたちは、恋に落ちた、と形容するのだ。」 (p.134) として与えたりしています。私はそれほどメモ魔ではないんですが、思わず書き留めておきたくなる名文句だという気がします。特に、私が気に入った表現は「幸せに退化して行く」 (p.172) という言い回しです。ストーリーというか、プロット、特にラストの「切り取り」の部分は衝撃的ではありますが、展開を追うだけでなく、文体の素晴らしさとともに、細かな表現力も十分に読み取って味わいたい小説です。

最後に、ラストがあっけなかったと受け取る読者もいるかもしれませんが、私はふくらみと余韻をもたせたこのラストに感動しました。こと細かに何でも描写すればいいというものではありません。文句なしの5ツ星です。私も近くの図書館で借りましたが、ほとんどの公立図書館に所蔵されていると思います。多くの方が手に取って読むことを願っています。

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