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2012年2月14日 (火)

「子どもの学習費調査」に見る学費負担を格差の観点から考える!

やや旧聞に属するトピックですが、先週金曜日2月10日に文部科学省から平成22年度「子どもの学習費調査」の結果が発表されています。報道資料概要資料がそれぞれpdfでアップされています。教育や医療については専門外なんですが、エコノミスト的な効率と公平を考える上で興味がありますので、私の分かる範囲で取り上げたいと思います。ということで、まず、調査結果の要約を報道資料 p.1 から引用すると以下の通りです。

調査結果の概要
1) 「学習費総額」は、高等学校を除く各学校種ともほぼ横ばいで推移しています。今回、大幅に減少となった高等学校については、公立高校の授業料無償制及び高等学校等就学支援金の効果と思われます。
2) 学習費総額の公私間の差については、最も差が大きい学校種は小学校で、私立が公立の4.8倍、次いで中学校の2.8倍となっています。
3) 公立学校における「補助学習費」は、高等学校進学が近づくにつれて支出額が多くなる傾向があり、中学3年生が最も多くなっています。一方、私立学校では、中学校進学が近づくにつれ、支出額が多くなる傾向にあり、小学校6年生が最も多くなっています。
4) 今回の調査結果によれば、幼稚園3歳から高等学校第3学年までの15年間において、すべて公立に通った場合では約504万円、すべて私立に通った場合では約1,702万円となります。(約3.4倍)
5) 「世帯の年間収入別」の補助学習費は、世帯の年間収入が増加するほど、多くなる傾向が見られます。

いくつかのメディアを私が見た限り、引用した上の4番目のポイント、すなわち、公立と私立の学費の格差がもっとも注目されて報道されていたような気がします。下のグラフの通りであり、報道資料 p.14 図9 幼稚園3歳から高等学校第3学年までの15年間の学習費総額から引用しています。

幼稚園3歳から高等学校第3学年までの15年間の学習費総額

幼稚園から高校まですべてを公立に通う場合が504万円、逆に、すべて私立に通う場合が1,702万円となります。引用にある通り、オール公立とオール私立の差は3倍を超えます。なお、我が家の場合、上のおにいちゃんが小学校に入学した時は海外在住でしたので現地の日本人学校の小学部に入りました。これは公立に分類されるのかどうか、私には不明です。

世帯の年間収入段階別の「補助学習費」

次に、引用した第5のポイント、すなわち、所得階層別の補助学習費も格差の観点から興味あるところで、上のグラフの通りです。報道資料 p.12 図7-1 世帯の年間収入段階別の「補助学習費」(公立) と図7-2 世帯の年間収入段階別の「補助学習費」(私立) から引用しています。一部に逆転現象も見られますが、当然ながら、大雑把に所得が高いほど補助学習費も多い結果が得られています。ただし、統計的に有意な差なのかどうかは明らかにされていません。

公財政教育支出の対GDP比(2006年)

補助学習補の所得に基づく格差を重視するのは、我が国では公財政からの教育費支出が先進国の中では小さく、このため、私的に支出される補助教育費により、極めて容易に教育成果に差がつきやすいからです。上のグラフは、OECD東京センター「図表で見る教育2009: 関連資料」の p.6 表 B2.1: 公財政教育支出の対GDP比(2006年)を引用していますが、日本は欧米諸国に比較して初等中等教育段階での公財政からの教育費支出が大きく見劣りします。GDP比で1%ほどの差があり、金額に換算すると4-5兆円くらい欧米諸国より少ないと言えます。逆から見て、公財政からの教育費で十分な教育が受けられるようにしないと、親の所得に相関する形で補助教育費が上乗せされることにより、もしも、教育成果の格差が所得に反映されると仮定すれば、格差が世代を超えて継承されることになりかねません。

中学入試偏差値と合格実績

もっとも、この見方には反論もあります。例えば、『経済分析第182号(ジャーナル版)』に収録されている小塩・佐野・末冨「教育の生産関数の推計 - 中高一貫校の場合」に従えば、入学から卒業までの教育の付加価値で見て大きな差はなく、国立と私立の6年制中高一貫校の中学校入学時の偏差値と大学の合格実績をプロットすると、かなり強い正の相関があり、いわゆる進学校と称されている国立や私立の6年制中高一貫校は、いわば、偏差値の高い子を入学させて、そのまま大きな教育の付加価値をつけるわけではなく、偏差値の高い大学に送り出している、という構図であると分析されています。よい友人に囲まれて中学・高校という青春時代を過ごすというピア効果は測りがたいものの、数量化できるいろんな教育条件、例えば、生徒と教師の人数比とか、1クラスの生徒数とかは教育の付加価値には有意に相関せず、唯一、かなりの正の相関を示したのは授業時間数であったとの結論を得ています。要するに、長時間勉強して、努力すれば偏差値の高い大学に入れるということです。なお、上のグラフは小塩・佐野・末冨論文の p.61 図4-1. 中学入試偏差値と合格実績から引用しています。

教育や医療などに関しては、先日取り上げた故宮展もそうですが、市場経済的な視点だけで問題を解決するのはムリだろうと私は考えています。そういう意味で、私は市場原理主義的なエコノミストではないと勝手に自分を位置付けています。もちろん、エコノミストは公平を無視して効率だけに着目するわけではありませんが、市場経済的な解決方法は効率的な一方で、公平かどうかは疑問が残ります。教育と医療については、通常の経済問題と異なり、トレードオフの関係にありがちな効率と公平がともに重視されて然るべき分野であると私は考えています。

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