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2012年2月 2日 (木)

所得格差は生活習慣にどのような影響を及ぼすか?

やや旧聞に属する情報ですが、おととい1月31日に厚生労働省から「平成22年 国民健康・栄養調査結果の概要」が発表されています。あくまで概要なんですが、pdf の全文リポートもアップされています。後日公表の詳細な報告書にはマグネシウム摂取量などの細かな情報があり、エコノミストでは太刀打ちできないんですが、今回発表された概要版では、第1部の循環器疾患に関する状況と第2部の基本項目に加えて、第3部 その他の中に第1章所得と生活習慣等に関する状況が明らかにされています。昨年までは世帯の所得階級別の統計は見かけなかったんですが、今年の結果は格差を考える上で非常に興味深い情報ですので、私のブログでも簡単に取り上げたいと思います。
調査では、世帯所得を200万円未満、200万円以上600万円未満、600万円超の3階級に分け、男女別に以下の7項目について、それぞれの割合をパーセントで算出しています。ただし、野菜摂取量だけは割合ではなく絶対値の平均グラム数となっています。なお、世帯数ベースのシェアで、200万円未満世帯は23パーセント、200-600万円世帯は56パーセント、600万円超世帯は21パーセントをそれぞれ占めています。

  1. 肥満者の割合
  2. 習慣的な朝食欠食者の割合
  3. 野菜摂取量
  4. 運動習慣のない者の割合
  5. 現在習慣的に喫煙している者の割合
  6. 飲酒習慣者の割合
  7. 睡眠の質が悪い者の割合

さらに、単純に割合や野菜摂取量を算出しただけでなく、600万円超世帯を基準とする多変量解析を実施し、統計的に有意な差があるかどうかを検定しています。帰無仮説の棄却水準は明示されていませんが、通常の統計的な検定では5パーセントが用いられる場合が多いと私は認識しています。上の7項目の調査結果で、統計的に有意な差がかなり認められる5項目についてプロットしたのが以下のグラフです。単純に上の7項目のうち、上から順に5項目を抜き出してプロットしています。データソースは全文リポートの p.32 です。なお、最後の2項目である「飲酒習慣」と「睡眠の質」については大きな差がなく、特に、男性の「飲酒習慣」については、所得が多いほど割合が高くなっていたりします。

所得と生活習慣等に関する状況

グラフの世帯所得階級にアスタリスクを付した結果が600万円超の世帯と統計的に有意な差が見られる結果です。ですから、男性はそうではありませんが、女性は世帯所得が多いほど肥満者の割合が有意に小さくなっています。朝食欠食の割合も、必ずしもすべてが統計的に有意ではありませんが、所得が多いほど朝食の欠食割合は低いとの結果が見られます。野菜摂取量、運動習慣、喫煙習慣については、ほぼすべての所得階層で統計的に有意な予想される差が観察されます。すなわち、所得が高いほど、朝食を欠食せず、野菜摂取量が多く、運動習慣があり、喫煙割合が低い、逆から見れば、所得が低いほど、朝食を欠食し、野菜摂取量が少なく、運動習慣がなく、喫煙割合が高い、という結果が示されています。例外的に、600万円超世帯と統計的に有意な差がないのは、200-600万円世帯の男性の運動習慣と女性の朝食欠食だけです。
繰返しになりますが、男性の肥満、飲酒習慣、睡眠の質については統計的に有意な差があまりなく、男性の飲酒習慣については所得が多いほど割合が高くなっていて、世界的な常識とやや不整合な結果も見られますが、上のグラフに見られる通り、所得格差と生活習慣についてはかなり密接な相関関係があることがデータとして実証されたと私は受け止めています。ただし、注意すべきポイントはこの調査結果が示すのは相関関係であって、因果関係ではないという点です。一例として喫煙習慣を取り上げると、所得と喫煙割合には負の相関があるわけですが、どちらが原因でどちらが結果かは不明です。誤解を恐れずに平たく言えば、所得が低いから喫煙するのか、喫煙するから所得が低いのかは、この調査だけからでは分かりません。

社会保障の再分配効果

因果関係はともかくとして、所得の低い階級が一般的に好ましくない生活習慣を持つ割合が高いことは明らかです。例外は飲酒習慣だけです。では、生活習慣の観点からも、どうすれば所得格差を是正できるかといえば、市場にその機能が備わっていないのですから、政府が所得の再分配を行う必要があります。しかしながら、我が国の社会保障は圧倒的に引退世代に向かっており、勤労世代の格差是正機能が極めて貧弱であることは今までも何度かこのブログで論じて来た通りです。上のグラフは昨年のエントリーで使ったグラフを合体させたものですが、上のパネルは12月8日付けの「経済協力開発機構 (OECD) の格差リポート Divided We Stand」で、下は10月31日付けの「社会保障給付と全国消費実態調査に見る手厚い高齢層への給付」で、それぞれ、お示ししたものです。上のパネルはOECDのリポートから引用しており、勤労世代の格差是正がどの程度なされているかについて、社会保障による再分配前後のジニ係数の差で計測しており、日本の社会保障はOECD平均をかなり下回る格差是正機能しかなく、低福祉国と見なされている米国よりも弱い結果となっています。下のパネルは総務省統計局の全国消費実態調査のリポートから引用しており、年齢階級別に所得の再分配でジニ係数がどのように低下したかを計測しています。勤労世代における格差是正は極めて限定的な一方で、引退世代で高齢になるほど手厚い格差是正がなされていることが一目瞭然です。

シルバー・デモクラシーに基づく現在の我が国の社会保障の格差是正は国際的に見て極めて歪んだ形になっていることが理解できます。勤労世代は格差是正されず、恩恵は引退世代だけが得ています。税と社会保障の一体改革ではこの歪みを是正することは議論されるんでしょうか。それとも、さらに大きな財政リソースを投票行動の活発な引退世代に振り向けることを目指しているんでしょうか。従来から、私はこのブログで引退世代への財政リソースを削減すべきであると強く主張しています。

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