柳広司『怪談』(光文社) を読む
柳広司『怪談』(光文社) を読みました。小泉八雲、というか、ラフカディオ・ハーンの『怪談』からいくつかの短編を作者が現代風にアレンジしています。まず、出版社のサイトから短編の構成とあらすじを引用すると以下の通りです。
怪談
「雪おんな」「ろくろ首」「むじな」「食人鬼」「耳なし芳一」
――名著『怪談』に、柳広司が挑む!
驚き、震えよ。
鮮やかな論理(ロジック)と、その論理から溢れ滲み出す怪異。
小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの『怪談』を、柳広司が現代の物語として描き直した異色の短編集。
この作者は『ジョーカー・ゲーム』と『ダブル・ジョーカー』、さらに、近日刊行予定の『パラダイス・ロスト』のD機関シリーズで昭和初期のスパイ活動を描き、昨年は『ロマンス』でやっぱり昭和初期の華族のデカダンスを取り上げています。我が家では、どちらかといえば、おにいちゃんが好きそうな領域の作家だと考えていたんですが、この作品『怪談』は近くの図書館で借りてホラー好きの下の子に読ませました。
小泉八雲の原作から大いに現代風にアレンジしてあり、例えば、「鏡と鐘」ではインターネットで途上国へのボランティア物資の提供が求められたり、「耳なし芳一」では琵琶法師ではなくビジュアル系のロックバンドだったりします。また、「ろくろ首」ではオリジナルの「ろくろ首」と「かけひき」をミックスしたような内容になっていて、首が伸びて犯人の背広に血痕を残し、警察官が犯人を見分けるように誘導するというストーリーです。ただし、「耳なし芳一」でライブハウスのオーナーが元僧侶で、「阿弥陀堂」という名称のライブハウスに現実感があるかどうかは少し疑問です。また、「むじな」は一般的には「のっぺらぼう」として知られていると思いますが、小泉八雲のオリジナルでも「むじな」というタイトルだったと記憶しています。
当然ながら、いわゆるモダン・ホラーばかりではなく、カギカッコ付きの「怪物」が出て来るタイプの古いホラーも含まれていますが、実に秀逸な仕上がりです。読者の想像をはるかに超えるストーリー展開、何ともいえず不気味な雰囲気、すべての短編ではないですが、例えば、「鏡と鐘」などで本格ミステリのような味付け、いずれも成功しており、しかも、読み進みやすい文体となっています。とってもオススメの5ツ星です。ほとんどの公立図書館に所蔵されていることと思います。多くの方が手に取って読むように願っています。
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