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2012年3月11日 (日)

久坂部羊『第五番』(幻冬舎) はオススメしません!

久坂部羊『第五番』(幻冬舎)

久坂部羊『第五番』(幻冬舎) を読みました。この作者の『無痛』の生き残った登場人物、すなわち、為頼英介、高島見菜子などがそのまま5-6年後に起こった事件に巻き込まれたというシチュエーションです。まず、出版社のサイトからあらすじを引用すると以下の通りです。

あらすじ
薬がまったく効かない新病・新型カポジ肉腫が列島に同時多発。一方ウィーンでは天才医師・為頼がWHOの奇妙な関連組織メディカーサから陰謀めいた勧誘を受ける。『無痛』著者の壮大なミステリ。

私はこの作者の作品は、同じ登場人物でシリーズ前作とも言える『無痛』しか読んだことがないんですが。この最新作の方がかなり落ちます。登場人物はオモテの主人公が為頼英介や高島見菜子、ウラの主人公が白神陽児やイバラなどです。ほかに、『無痛』よ『第五番』に共通する登場人物は南サトミなどですが、約5-6年を隔てていますので、登場人物はそれぞれに年齢を重ねています。『無痛』を読んでいなくても『第五番』は楽しめるのかもしれませんが、少なくとも、白神陽児については『無痛』と『第五番』で役回りが大きく異なり、『第五番』ではほとんど説明はなかったように記憶していますので、明らかに『無痛』を読んでいた方がベターです。その意味で少し敷居の高い小説かもしれません。
以下、ネタバレがあるかもしれませんので、未読の方が自己責任で読み進むようお願いします。
まず、我が国の医療の矛盾を鋭く突いた作品という評価も出来るんでしょうが、私の評価が低い理由は、何と言っても、小説として尻切れトンボです。第5部の炎上の途中くらいからが謎解きになるんですが、医学的に水疱瘡のHHV-3が未知のウィルスHHV-9に突然変異するのは、私のようなシロートに理解させようという努力はムダなのかもしれないので、それはそれなりに省略してもいいような気がしますが、治療した方が治療なしよりも致死率が高いというのは説得的な議論がなされていないと感じました。私の頭が悪いだけだと言われればそうかもしれませんが、医学的な知識のない一般読者が理解出来ない小説にどれだけの値打ちがあるのかは疑問です。尻切れトンボでかつわけの分からない展開です。サビーネが死ぬのは為頼をウィーンから日本に帰国させるためだということなんでしょうが、伊部の役割は単にサビーネを死に至らしめるだけなんでしょうか。理解不能です。南サトミは何のために前作から引き続いて再登場した上で、あのような死に方をするんでしょうか。サビーネの遺骨を日本に届けるのであれば、南サトミの遺骨が放ったらかしにされる理由がよくわかりません。不可解な人的つながりもいっぱいです。イバラではなく笹山が「好ましからぬ医師」を殺害していた理由は何か。三岸が北井に殺された理由もイマイチ不可解です。そして何よりも、為頼英介や高島美菜子などの一部を別にして、登場人物のキャラが余りに異常です。菅井憲弘は発病してからおかしくなったにしても、前作からのイバラと白神のコンビ、三岸薫とその取巻きの笹山靖史や北井光子の美術グループ、服部サビーネと伊部哲の音楽グループ、ジャーナリストの犬伏利男などなど、芸術畑の登場人物が多いのが前作との違いかもしれませんが、性格的に通常の社会生活を送るのが困難ではないかと思われそうな面々が並んでいて、小説の登場人物の半分ほどが性格的に問題があり、「この人が死にますよ」と前もって作者が読者に暗示しているような気すらします。小説の展開は極めて不親切で筋が通らず、登場人物のキャラは極めて異常で感情移入しにくい、と言えます。

我が家のおにいちゃんに、期末試験後のヒマ潰しとして医療小説と考えて『無痛』と『第五番』を与えてしまいました。とっても後悔しています。『無痛』が平均的な3ツ星とすれば、『第五番』は2ツ星くらいかもしれません。我が家は全て図書館から借りて読んでいて、買い求めたわけではないのが助かったと考えています。下の子に渡した柳広司『怪談』の方が数段優れている気がします。日を改めて取り上げます。

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