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2012年3月21日 (水)

若年者の就職について政府の会議で議論されなかった重要ポイントは何か?

やや旧聞に属する話題ですが、一昨日3月19日に第7回雇用戦略対話が総理大臣官邸で開催され、内閣府から「若者雇用を取り巻く現状と問題」と題する資料が提出されました。中学校・高校・大学などから雇用へと円滑に接続できなかった若年者は、前期中等教育で89%、後期中等教育で68%、高等教育で52%など、極めて高い比率に達することが報告されています。一昨年に地方大学の教授職を離れて東京に戻ってから1年半になりますが、若年層の雇用の問題は相変わらず私にとっても大きなテーマです。特に、現在の日本ではシルバー民主主義の圧力により定年が延長される方向にある一方で、若年雇用が大きく蝕まれつつあると私は認識しています。将来に日本を考える上で大きな論点となる可能性があります。今夜のブログでは、この「若者雇用を取り巻く現状と問題」を簡単に取り上げたいと思います。まず、日経新聞のサイトから関係する記事を引用すると以下の通りです。

大学進学者、安定就業5割に満たず 高校は32%
10年卒業・中退者、政府が推計

政府は19日、大学や専門学校への進学者のうち、卒業・中退後に就職して正社員など安定した仕事に就いている人の割合は48%にとどまるとの推計をまとめた。就職先が見つからずにアルバイトをしたり、就職してもすぐに離職する人が多いためで、高校を卒業・中退して社会に出た人の場合、安定就業の割合は32%とさらに低い。高等教育が雇用に結びつかない実態が浮き彫りになった。
政府や経済界、労働界の代表が集まる「雇用戦略対話」の会合で示した。政府は6月をめどに若者の就職を支援する総合対策をまとめる方針だ。
調査は2010年3月に大学や高校などを卒業した年次の学生が対象。中途退学して先に社会に出た人も含まれる。全国の学校への聞き取りや、雇用保険の加入状況から割り出す就職後3年間の離職率などから内閣府が推計した。
10年春に大学や専門学校を卒業した約85万人のうち、すぐに就職した人は56万9000人。ただ近年の若年層の離職率の傾向から、就職した人も19万9000人が3年以内に離職する公算が大きいと分析している。
卒業時に就職しなかった人や、アルバイトなど一時的な仕事に就いた人は14万人。中途退学した6万7000人も含めると、安定的な仕事に就かなかった人は全体の52%の40万6000人に上る。
高校から社会に出た人は一段と厳しく、大学などに進学しなかった35万人のうち、68%にあたる23万9000人が安定的な仕事に就かなかった。未就職者や一時的な仕事に就いた人は約3割の10万7000人に上った。約2割にあたる7万5000人は就職していても3年以内に辞める可能性が高いという。
実際には離職してから再び就職したり、卒業後しばらくたってから就職先が見つかったりした人も少なくないとみられる。卒業後すぐに正社員などにならなかった全員がずっと無職だったり、不安定な職業に就いているわけではない。
ただ大学や高校などを出たら正社員となって安定的に働くという、日本で長く続いてきた雇用モデルが崩れてきた実態は浮き彫りになった。
政府は大企業志向の強い大卒者に対して、大卒の人材を求める中小企業や地方企業を紹介するなど雇用のミスマッチ解消を進めているが、大きな効果は上がっていない。同日の戦略対話では「学校から職場への円滑な移行を促すため、省庁を横断した抜本的な対策が必要」との認識で出席者が一致した。

次に、このリポートではタイトル通りの若者雇用を取り巻く現状と問題について、以下の4点を論点として取り上げています。

  1. 教育から雇用への接続の問題
  2. キャリア教育の問題
  3. 大卒と中小企業のミスマッチの問題
  4. 若者非正規雇用の問題
学校から職場への接続の問題

まず、リポートの p.1 には学校から職場への接続の問題として、上の画像が示されています。どう見るかというと、先に引用した日経新聞のサイトに分かりやすい図解がありますが、改めて解説すると、一番右の高等教育で例を上げれば、卒業年次の学生数のうち大学院への進学を除き、77.6万人が卒業もしくは中途退学しています。緑色の帯の就職56.9万人に、ピンクの帯のうち、無業・一時的な仕事についた者14.0万人と中途退学者6.7万人を加えた我が右下の分母の77.6万人です。これが大学院などに進学しなかった大学生・専門学校生の総数です。分子の40.6万人はピンクの帯の3類型、すなわち、早期退職(3年以内)19.9万人、無業・一時的な仕事についた者14.0万人、中途退学者6.7万人の合計です。進学しなかった大学生等の過半に当たる52%は雇用への接続に何らかの問題があったと判定されていると私は受け止めています。

大卒と中小企業のミスマッチの問題

そのひとつの問題としてクローズアップされているのが、大卒と中小企業のミスマッチの問題です。上のグラフはリポートの p.3 から引用しています。左軸の単位は大卒求人倍率となっています。1000人未満企業や300人未満企業では、まだまだ大卒求人倍率が高い一方で、3000人以上企業の倍率が極端に低くなっています。でも、大学生は大企業志向が強く、雇用のミスマッチが生じているとの指摘です。

若者非正規雇用の問題

最後に資料から引用する画像ですが、結果として非正規雇用の問題に行き着きます。上のグラフはリポートの p.4 から引用しています。35歳未満の非正規雇用比率が他の年齢層に比較して、1990年代から激増しているのが見て取れます。最初の画像にもありましたが、卒業・中途退学していきなり無業や非正規雇用、というパターンが少なくないと考えるべきです。

ここまで、官邸で開催された第7回雇用戦略対話の資料を概観しましたが、大きく抜け落ちている視点が2つあります。第1にマクロ経済の成長により雇用を拡大するという視点と、第2に制度的な世代間不公平により若年層が不利な扱いを受けているという視点です。
まず、約2年前、私がまだ大学教員で日本経済論を講義していた時、2010年5月14日付けのエントリーですでに主張していますが、失業や非正規雇用を個人の自己責任に帰すのはムリがあります。マイクロな政策ではなく、マクロ政策が雇用には割り当てられるべきです。例えば、米国では完全雇用の達成は中央銀行のマンデートです。次に、雇用が拡大しても制度的な世代間不平等により高齢者ばかりがその果実にあずかり、若年者に雇用が回って来ない現実を直視すべきです。現在の政府がやろうとしているのは、定年制の延長と公務員新規採用の大幅削減です。ここに現政権の雇用政策の世代間不平等が象徴的に現れていると見るエコノミストは私だけでしょうか。
ですから、マイクロな雇用政策としてジョブカフェを開設して若年者にジョブカードを配布して、職業訓練によりスキルアップを図るのは、もちろん、若年層の雇用拡大のために大いに有効ですが、同時に、マクロな雇用政策として経済成長を促進し、その果実が制度的に高齢者ばかりに利益になるのではなく、せめて世代間不平等がないように平等化を図り、出来れば、雇用に関してはアファーマティブに若年層に逆に有利になるくらいの雇用政策が必要です。しかし、マクロな雇用政策は私の考える有効な政策とかなり差がある政策を現政権は指向しているように見えます。

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