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2012年4月23日 (月)

東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川書店) を読む

東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川書店)

東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川書店) を読みました。東京郊外2時間くらいかかる土地の雑貨店における悩み事相談と児童養護施設丸光園にまつわる奇蹟、あるいは奇跡をテーマにしています。時代は1970年から2011年までをスリップします。といっても、これだけでは何のことやら分からないでしょうから、出版社の特設サイトから内容紹介と章別構成を引用すると以下の通りです。

内容紹介
悩み相談お任せください――。
時空を超えて交わされる、温かな手紙交換。
過去と現在が鮮やかに繋がったとき、
すべての真実が明らかになる。
すべての人に贈る、感動と驚愕の物語。

■第一章 回答は牛乳箱に
■第二章 夜更けにハーモニカを
■第三章 シビックで朝まで
■第四章 黙祷はビートルズで
■第五章 空の上から祈りを

また、出版社の特設サイトにはスペシャルエッセイも掲載されており、「タイムスリップを使った物語が好きです。」から書き出されており、極めて示唆に富む内容になっています。ハインラインの『夏の扉』や映画の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」にも言及しつつ、作者自身の『時生』にも触れています。私の感想としては東野作品ではタイムスリップの『時生』とともに、ラストは『流星の絆』にもテイストが近いように受け止めています。何よりもナミヤ雑貨店だけでなく、児童養護施設丸光園が密接に関係して、ですから、ナミヤ雑貨店の店主と丸光園の創設者の恋物語まで奇蹟はさかのぼるのかもしれません。
悩みの内容は、オリンピック代表を目指して練習を続けるか、余命わずかな恋人との残りわずかな時間を過ごすか、はたまた、飛び出した実家で病に倒れた父が営む魚屋を継ぐか、東京でミュージシャンの夢を追うのか、あるいは、ある程度安定したお茶くみOLを続けるのか、華やかだが不安定な水商売に飛び込むのか、さらに、妻子ある人の子どもを産むかどうか、といったものです。雑貨店と児童福祉施設の関係が複雑に絡み合いながらも、実は、人的にも空間的にもかなり限られた関係者の間だけに共有される奇蹟です。すなわち、タイムスリップするのはナミヤ雑貨店だけで、そのナミヤ雑貨店に悩みを投函するのは何らかの意味で児童養護施設丸光園の関係者です。もっとも関係が薄そうなのは、悩みの2番目のお魚ミュージシャンなんですが、このニュージシャンは丸光園で亡くなったりします。
タイムスリップを使って、未来から悩みの相談を受けているというのがミソであり、その後の歴史的な展開を知り抜いているわけですから、大いに有益なアドバイスが出来るのも当然です。もっとも、未来から見た知識なしでは、かなり紋切型のありふれた常識的な回答を、しかも、やや失礼な言葉遣いと乱れた文字で返答しているような気がしないでもありませんが、カギカッコ付きの「常識的なアドバイス」というものがとっても重要だという気もします。家業を継げとか、水商売を忌避するアドバイスです。

ただひとつ、私が疑問に感じたのは、地方大学の経済学部で日本経済論を教えていた経験から、最近の若者、具体的には1990年以降くらいに生まれた若者はバブル経済について、ここまで豊富な情報を持ち合わせていないような気がします。でも、そんな些細な部分を除けば、読後感はとってもいいですし、文句なく5ツ星です。笑いたい人は笑うことが出来て、泣きたい人は泣くことが出来る、かなり稀有な小説です。

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