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2012年4月 3日 (火)

柳広司『パラダイス・ロスト』(角川書店) を読む

柳広司『パラダイス・ロスト』(角川書店)

柳広司『パラダイス・ロスト』(角川書店) を読みました。「魔王」と呼ばれる結城中佐が設立した帝国陸軍D機関を中心に据えた1940年くらいを舞台にしたスパイ小説です。2008年の『ジョーカー・ゲーム』、2009年の『ダブル・ジョーカー』に続くシリーズ第3弾です。上の装丁も前の2作を引き継いだ雰囲気です。まず、出版社のサイトから本の紹介を引用すると以下の通りです。

本の紹介
大日本帝国陸軍内に極秘裏に設立された、スパイ養成学校 "D機関"。
「死ぬな。殺すな。とらわれるな」――軍隊組織を真っ向から否定する戒律を持つこの期間をたった一人で作り上げた結城中佐の正体を暴こうとする男が現れた。英国タイムズ紙極東特派員アーロン・プライス。だが、"魔王"結城は、まるで幽霊のように、一切足跡を残さず動き回っている。ある日、ふとした発見から過去を辿ったプライスは結城の意外な生い立ちを知ることとなる――(「追跡」)。
ハワイ沖の豪華客船を舞台にしたシリーズ初の中編「暗号名ケルベロス(前篇・後篇)」を含む、全5編を収録。

引用にもありますが、短編の構成は以下の通りです。

  1. 誤算
  2. 失楽園
  3. 追跡
  4. 暗号名ケルベロス (前篇)
  5. 暗号名ケルベロス (後篇)

時代背景がやや特異です。1940年前後という設定ですが、欧州では独仏が戦端を切った後、すでにドイツがパリを占領下に置いており、英独がバトル・オブ・ブリテンの真っ最中である一方で、日米はいまだ参戦しておらず、世界大戦が欧州で始まったものの、太平洋戦争は宣戦されていない、という状況です。その太平洋戦争直前の情報戦でD機関のスパイが活動しています。前作の『ダブル・ジョーカー』の最後の短編で太平洋戦争が始まりましたので、今回の作品はその前の時代に焦点が当てられています。
個別の短編を概観すると以下の通りです。すなわち、「誤算」はパリを舞台に占領したドイツ軍とレジスタンスのつば競合いにD機関のスパイが暗躍します。フランスドイツ軍の戦略性のなさが指摘され、将来のドイツ敗戦が示唆されます。「失楽園」はシンガポールを舞台に、日本軍の戦略を正確に言い当てた英国陸軍武官を排除するのに、米国海軍武官がカクテルの評価から暗示を受けて、D機関のスパイにいいように利用されます。「追跡」は上の引用にもありますが、英国人ジャーナリストが結城中佐の過去を取材したところ、まったくの別人の偽装された生立ちを聞かされた上に、スパイ容疑で逮捕されます。「暗号名ケルベロス」は英国の諜報機関員がドイツのエニグマを解読し、まだ宣戦前の米国から日本に送り込まれるこの暗号解読専門家をD機関のスパイがハワイ沖で阻止したところ、この英国諜報機関員が殺さる謎を解き明かします。
相変わらず、とても面白く読みました。カッコいいです。特に、今回の作品では結城中佐の過去を取材するジャーナリストを登場させ、20年も前に結城中佐自身が意図的に偽装した生立ちが明らかにされます。この短編「追跡」が『パラダイス・ロスト』の白眉だろうと受け止めていますが、このあたりは、その昔の「ゴルゴ13」シリーズにおけるゴルゴ13の過去を追ったり、ドキュメンタリーを執筆しようとした作家の物語があったりしましたが、過去の生立ちやパーソナル・ヒストリーを隠すという点で、結城中佐とゴルゴ13の共通点が見出されたような気もします。謎は謎のままであると、かえって興味をかき立てられます。

『パラダイス・ロスト』作者メッセージ

上の画像はセブンネットショッピングのサイトにアップされている作者の手書きのメッセージです。確かに、「読後感爽快」で巧妙なトリックに感心させられるミステリです。特に、私や我が家のおにいちゃんのようにシリーズ前2作を読んだ方は必読のような気がします。

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