国際収支と景気ウォッチャーから何を読み取るか?
本日、財務省から経常収支など3月の国際収支統計が、また、内閣府から4月の景気ウォッチャー調査結果が、それぞれ発表されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
3月の経常収支、2カ月連続黒字 11年度は過去最大の減少幅
財務省が10日発表した3月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は1兆5894億円の黒字で、前年同月と比べると8.6%減少した。経常黒字は2カ月連続。
経常収支の内訳をみると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は42億円の黒字で、黒字幅は98.2%と大幅に縮小した。自動車など米国向けの輸出が伸び、輸出額は7.3%増の6兆492億円と6カ月ぶりに増えた。一方、原油価格高止まりや火力発電用の燃料輸入増の影響で、輸入額は11.9%増の6兆450億円と27カ月連続で増加した。
旅行や輸送などの動向を示すサービス収支は554億円の黒字となった。訪日する外国人や特許使用料の受け取りが増えたため。貿易・サービス収支は596億円の黒字と77.7%減った。
企業が海外から受け取る配当などが増加したことを受け、利子・配当などを示す所得収支の黒字は同10.1%増の1兆8004億円と12カ月連続で黒字幅が拡大した。
1-3月期の経常黒字は前年同期比41.6%減の2兆3299億円だった。財務省は国際収支の先行きについて「貿易黒字は東日本大震災前より低い水準にとどまる可能性があり、厳しい状況が見込まれる」と指摘。その上で、内外の経済情勢や為替相場も含めて「今後とも動向を注視しなければならない」と説明した。
同時に発表した2011年度の経常収支は前年度と比べて52.6%減の7兆8934億円の黒字だった。黒字の減少幅は比較可能な1985年以降最大で、水準としては96年度(7兆2890億円の黒字)以来15年ぶりの低さに落ち込んだ。
同年度の貿易収支は3兆4495億円の赤字。単純比較ができない旧統計基準を含めた国際収支ベースでは第2次オイルショックに見舞われた79年度(6075億円の赤字)以来の赤字となった。比較可能な85年度以降では初めて。一方で、所得収支は同13.3%増の14兆2883億円だった。
輸出額は震災によるサプライチェーン(供給網)寸断や内外の景気減速のあおりを受けて、同2.8%減の62兆6272億円に落ち込んだ。原子力発電所の停止に伴う火力発電向け燃料需要などを背景に、輸入額は同14.0%増の66兆767億円となった。
4月の街角景気、3カ月ぶり悪化 先行きは2カ月ぶり改善
内閣府が10日発表した4月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、足元の景気実感を示す現状判断指数は50.9と前月から0.9ポイント低下した。悪化は3カ月ぶりだが、好不況の分かれ目である「50」を維持した。内閣府は景気の現状に対する基調判断を「持ち直している」で据え置いた。
現状判断は指数を構成する家計、企業の2分野で悪化した。4月からエコカー減税の対象となる車種の燃費基準が厳しくなったのを機に「販売量が落ち込んでいる」(東北・乗用車販売店)という。また「4月に入り、受注量が激減している」(東北・コピーサービス業)との声もあり、需要の一服が景況感の改善に水を差した。
一方で、雇用分野は改善。復興に向けた求人増に加え、「電機、自動車や携帯関係の電子で少しずつ動きが出てきている」(北関東・人材派遣会社)と緩やかな景気回復が雇用にも結びつきつつある。
先行き判断指数は同1.2ポイント上昇の50.9と2カ月ぶりに改善した。「震災復興による建設関係の動きは今年秋ぐらいまでは続く」(東北・コンビニ)と、本格化する復興需要が見通しを下支えしている。ただ、全原子力発電所の停止に伴う今夏の電力不足を懸念する声が多く、先行きに影を落とした。
4月にはエコカー減税の制度変更に伴って一服した自動車販売だが、今後の見通しは明るい。5月の新車投入効果に加え、「エコカー補助金のタイムリミットが近づけば、さらに駆け込み需要が進む」(東海・乗用車販売店)と予算が今夏にも前倒しで使い切られる可能性が意識されたという。
調査は景気に敏感な小売業など2050人が対象。3カ月前と比べた現状や、2~3カ月後の予想を「良い」から「悪い」まで5段階で評価して指数化する。今回の調査は4月25日から月末まで。
相変わらず、とてもよく取りまとめられた記事ですので、私の方で付け加える事項は多くないんですが、取りあえず、経常収支のグラフは以下の通りです。青い折れ線グラフの経常収支の内訳を積み上げ棒グラフで示しています。色分けは凡例の通りです。季節調整済みの統計をプロットしていますので、季節調整していない原系列の統計について報じた記事と少し印象が異なる可能性があります。
グラフに見る通り、季節調整済みの経常収支のうち、3月の貿易収支は2月の▲425億円から▲3723億円と大きく赤字幅が拡大しました。所得収支で黒字幅が拡大しましたが、経常収支では黒字幅が縮小しています。4月の貿易統計は上中旬まで発表されてますが、まだ赤字が続いています。すなわち、大雑把に、昨年の震災以来の傾向が続いていると私は受け止めていますが、1-3月期でならして見れば、タイ洪水に起因する供給制約が顕在化した昨年10-12月期に比べて経常黒字が回復しており、来週5月17日に発表される1次QEのGDP成長率に対する外需の寄与はプラスを記録するものと期待しています。もっとも、決して大きな寄与ではなく、+0.5%には達しないと考えるべきです。
さらに、景気ウォッチャーの結果は上のグラフの通りです。上のパネルは現状判断DIと先行き判断DIを、下は現状判断DIのうちの合計と雇用関連DIをプロットしています。なお、景気ウォッチャーは3つのコンポーネントから成り、家計と企業と雇用なんですが、家計はさらに小売、飲食、サービス、住宅に分かれ、企業は製造業と非製造業に分割されます。景気ウォッチャーは2000年から始まった歴史の浅い統計ですが、経験則として、景気に先行するのは当然としても、景気拡大期は雇用DIが合計を上回り、景気後退期は下回る、という傾向が読み取れます。4月の雇用に関する現状判断DIは上昇し、60に近い水準に達しています。日銀短観を別にして、月次のマインド指標としては景気ウォッチャーは供給サイド、消費者態度指数が需要サイドのマインドを代表していると考えられていますので、景気が順調の回復する中で、復興需要やエコカー補助金などの政策効果や輸出がけん引する景気回復から雇用の量的及び質的な拡大に基づく内需が主導する景気局面に移行するかどうかを私は大いに注目しています。
景気は昨年の震災とそれに続く供給制約による一時的な停滞局面からのV字型の急回復局面を終え、巡航速度に移行しつつあると考えるべきで、景気のけん引役も政策的な需要の創出や輸出から雇用の拡大や設備投資の増加に基づく内需に転換が図られるかどうか、注目の段階に差しかかっています。
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