本日、内閣府から今年1-3月期GDP統計2次QEが発表されました。ヘッドラインとなる季節調整済みの前期比実質成長率は1次QEの+1.0%から+1.2%へ、大方のエコノミストのコンセンサスの通り、小幅に上方改定されました。設備投資のマイナス幅の縮小の寄与が+0.2%ありますから、ほぼこれに見合う形の修正と受け止めています。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
GDP4.7%増に上方修正 1-3月実質年率、設備投資が上ぶれ
内閣府が8日発表した1-3月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質で前期比1.2%増、年率換算で4.7%増となった。5月に公表した速報値(1.0%増、年率4.1%増)を上方修正した。東日本大震災からの復興で企業の設備投資が上振れしたためだ。堅調な消費と復興需要が景気を支える構図が改めて示された。
速報値の公表後に明らかになった法人企業統計などのデータを使って推計し直した。改定値は事前の市場予想の4.4%増を上回った。内閣府は「国内需要が全体を押し上げる構図は変わっていない」と分析した。
生活実感に近い名目GDPは前期比1.2%増。年率では4.9%増と速報値から0.8ポイント上方修正した。
実質GDPを項目別に見ると、設備投資が2.1%減と速報値(3.9%減)から下げ幅を縮めた。1日発表の1-3月の法人企業統計で、自動車の製造ライン整備や復興需要に関連した設備投資が堅調だったことを反映した。
個人消費も1.2%増と速報値から0.1ポイント上方修正した。衣服や宿泊施設サービスが速報時点の推計から上振れした。公共投資は3.8%増で速報値からは下方修正したが、高い伸びを維持している。
2011年度の実質成長率は前期比0.005%減。速報値の0.009%減からわずかに上方修正した。震災やタイの大洪水、欧州を中心とした海外景気の停滞で製造業が打撃を受け、2期ぶりのマイナス成長となった。
市場関係者からは「今後は復興需要が徐々に低下し、GDPの先行きは中国を中心とした外需がカギを握る」(ゴールドマン・サックス証券)との指摘が出ている。
ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、アスタリスクを付した民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンクからお願いします
需要項目 | 2010/ 10-12 | 2011/ 1-3 | 2011/ 4-6 | 2011/ 7-9 | 2011/10-12 |
1次QE | 2次QE |
国内総生産(GDP) | ▲2.0 | ▲0.4 | +1.9 | 0.0 | +1.0 | +1.2 |
民間消費 | ▲2.2 | +0.1 | +1.5 | +0.9 | +0.6 | +0.9 |
民間住宅 | +1.6 | ▲3.1 | +4.8 | +0.1 | ▲1.6 | ▲1.5 |
民間設備 | ▲0.3 | ▲0.3 | +0.1 | +5.2 | ▲3.9 | ▲2.1 |
民間在庫 * | ▲0.7 | ▲0.1 | +0.3 | ▲0.4 | +0.4 | +0.3 |
公的需要 | ▲0.5 | +1.9 | +0.0 | +0.1 | +1.5 | +1.3 |
内需寄与度 * | ▲1.8 | +0.6 | +1.1 | +0.7 | +0.9 | +1.0 |
外需寄与度 * | ▲0.2 | ▲1.0 | +0.8 | ▲0.7 | +0.1 | +0.1 |
輸出 | ▲0.4 | ▲6.3 | +8.7 | ▲3.7 | +2.9 | +3.0 |
輸入 | +1.2 | +0.2 | +3.5 | +0.9 | +1.9 | +1.9 |
国内総所得(GDI) | ▲2.7 | ▲0.8 | +1.6 | ▲0.0 | +0.8 | 1.0 |
名目GDP | ▲2.4 | ▲1.3 | +1.6 | ▲0.3 | +1.0 | +1.2 |
雇用者報酬 | +1.2 | ▲0.4 | ▲0.2 | +0.6 | +0.2 | +0.1 |
GDPデフレータ | ▲1.9 | ▲2.4 | ▲2.2 | ▲1.9 | ▲1.2 | ▲1.3 |
内需デフレータ | ▲1.0 | ▲1.1 | ▲0.7 | ▲0.6 | ▲0.3 | ▲0.4 |
さらに、テーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの系列の前期比成長率に対する寄与度で、左軸の単位はパーセントです。棒グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された昨年1-3月期2次QEの最新データでは、前期比成長率がかなりの高成長であるとともに、それに大きく寄与しているのが赤の消費と黄色の公的需要であるのが見て取れます。
2次QEですから、1次QEと傾向はほぼ変わりありません。その意味で、1か月経過して「過去の数字」の程度が増し、むしろ、先行きが気にかかるところです。一般的なエコノミストの回答としては、為替と外需の懸念が表明されることと思いますが、現時点で、下振れリスクが可能性として指摘されるだけで、何の情報もありません。要するに、為替も含めた海外要因は、先週発表の雇用統計に代表されるように、米国経済が思ったほどは力強い回復過程にあるわけでもなく、欧州のソブリン危機に至っては悪化の一途をたどるばかりに見えなくもありません。
他方、国内経済のうち、私がフォローしている消費についても分岐点に差しかかりつつある可能性が指摘されています。先月末に発表された総務省統計局の家計調査と経済産業省の商業販売統計とも、季節調整済みの前月比で3-4月はマイナスを記録していることは、昨夜のエントリーでも指摘しました。これら両統計を取り上げた最近のシンクタンクのリポートのタイトルを見ても、大和総研「持ち直し基調が続く中で横ばいの推移」と第一生命経済研「前月比で小幅減だが、均してみれば底堅い」は強気の見方を示す一方で、伊藤忠経済研「底堅いが過信は禁物」はやや弱気の見方をしていて、消費の先行きについては評価が分かれます。英語でいえば、"Half Full, Half Empty." だという気もします。設備投資については、いかんせん、GDP統計の元データとなる法人企業統計の信頼性の問題が残ります。
消費に関しては、もうひとつの観点があり、デフレを脱却しつつある、という点です。上のグラフは季節調整していないデフレータの前年同期比上昇率をプロットしていますが、着実にマイナス幅が縮小ているように見受けられます。ただし、従来からの私の主張ですが、物価上昇がプラスに転じるのはあくまでデフレ脱却の必要条件であり、十分条件は賃金の上昇です。非正規雇用の比率の上昇などの雇用の質的な劣化により十分条件が満たされにくくなっている点にも注意が必要です。
GDP統計を離れて、本日、財務省から経常収支などの国際収支統計が発表されています。4月の統計です。上のグラフは折れ線グラフで経常収支を、積上げ棒グラフで経常収支の各コンポーネントを、それぞれプロットしています。発電向けの燃料輸入の増加などから4月の経常収支は黒字幅を縮小させています。
最後の最後に、内閣府から発表された5月の景気ウォッチャー調査の現状判断DIと先行き判断DIは上のグラフの通りです。現状判断DIは2か月連続で悪化し、統計作成官庁の内閣府は基調判断を「持ち直している」から「このところ持ち直しのテンポが緩やかになっている」に下方修正しています。消費の先行きを見る上でのポイントは所得とマインドであると私は考えており、その意味で、やや懸念を覚えるところです。
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