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2012年7月 4日 (水)

上田淳二『動学的コントロール下の財政政策』(岩波書店) の結論やいかに?

上田淳二『動学的コントロール下の財政政策』(岩波書店)

上田淳二『動学的コントロール下の財政政策』(岩波書店) を読みました。動学的一般均衡モデルを用いて、財政の将来推計を試みています。明記はしてなかったと記憶していますが、おそらく、乱数を発生させて確率的 stochastic に解かれているのであろうと想像しています。私は週刊「東洋経済」のサイトで見ましたが、いくつかの経済週刊誌などで書評が取り上げられているようです。副題は「社会保障の将来展望」とされており、著者は現役の財務省官僚です。まず、短いものですが、出版社のサイトから簡単な内容紹介を引用すると以下の通りです。

動学的コントロール下の財政政策
単年度予算をいかに編成するかに縛られた日本の財政活動に,欧米や国際機関では一般的な「動学的財政コントロール」(Dynamic Fiscal Control)の考え方を導入することで何が見えてくるのか.現実の政策と具体的データを踏まえた分析で,現行の社会保障制度とそれを支える税制の問題点を定量的に明らかにし,その将来像を提示する.

まず、政府の活動については、本書に記してあるように、古典派経済学的な夜警国家における公共財の提供やマクロ経済の安定化のほか、今日的には、広い意味の公共財と捉えるエコノミストもいますが、社会保障の所得移転が大きな部分を占めているのは誰もが認めるところでしょう。そして、少子高齢化に伴って膨れ上がる社会保障費が我が国の財政のサステイナビリティを圧迫していることも多くの国民に認識されており、社会保障と税制の一体改革を巡る議論が国会で交わされていることも周知の事実です。こういったイシューについて定量的に把握することは極めて重要であり、その結論は、本書の第5章 p.208 に示されています。すなわち、さまざまな仮定とともに、2010年を起点とし50年後の2060年に欧州的なGDP比60%の財政赤字残高を目標とすれば、動学的財政不均衡はGDP比で13.9%と試算されています。消費税率に換算すれば35%に達すると同じページに明記されています。
問題とすべきは、この財政不均衡に対する政策対応です。例えば、「東洋経済」の書評では「増税の前に成長率を高めることが先決、と主張する人は、過去20年間の実績を正しく認識しているのだろうか。」との書出しで始まり、財政不均衡是正のための政策のプライオリティは成長より増税と考えているように見受けられます。しかし、消費税率に換算して35%の増税が現実的かどうかは大きな疑問が残ります。すなわち、政策の選択肢は成長と増税と歳出削減の可能性があると私は考えています。さらに言えば、増税の選択肢は消費税率引上げだけでなく、他の税の増税も視野に入れる必要がありそうな気がします。いずれにせよ、増税よりも歳出削減を重視したアレジーナ教授とペロッティ教授の一連の研究成果が思い出されます。
我が国でも、消費税率引上げの議論が広がるとともに整備新幹線の大盤振舞いが始まったりしています。税収を増加させることにより、歳出増加圧力が加わるのは明らかであり、歳入増が歳出増を招きやすいというのは、政策変更によりパラメータがシフトするわけですから、典型的なルーカス批判の視点です。現政権の消費税率10%への引上げは、財政再建には不足するという意味で中途半端である上に、歳出増加圧力をどのように処理するかによっては、まったく期待されるのと反対の結末で終わりかねない危険を有しているような気がしてなりません。もちろん、歳出の削減だけでこの大幅な財政不均衡を埋め合わせることも不可能だと私は考えており、ましてや、昨日の朝日新聞夕刊の4コマ漫画にある通り、いわゆる「ムダの排除」で財政収支を均衡させるのは幻想以外の何物でもありませんが、指摘すべきは消費税増税だけで財政収支均衡を図るのは現実的ではないという事実であり、従って、第1に、歳出の削減をアジェンダに加えるべきで、第2に、歳入の増加に消費税増税以外のメニューを加えるべきです。現政権の「一体改革」が消費税増税に偏っていることは多くのエコノミストが実感している通りであり、私は決して一部の財政タカ派の議論に与することはしませんが、従来からのこのブログの主張の通り、世代間格差の是正の立場からも、現在の高齢者への圧倒的な優遇策を見直すべきであると考えています。その意味で、消費税増税とともに社会保障給付の削減と資産課税の強化が財政再建のためのホントの「一体改革」の政策として検討されるべきであると考えています。

この本を読んで素直に書評を書くとすれば、我が国の現状の財政不均衡を消費税増税だけで埋めようとするのはムリなので社会保障給付を中心とする歳出削減や資産課税強化などの増税も必要、という結論になるハズです。「東洋経済」の書評のようにそうならないのは、無理やりに党派的な主張を潜り込ませているか、それとも、キチンと読めていないかのどちらかだという気がしないでもありません。いずれにせよ、日銀政策委員には不向きだったかもしれません。

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