フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』とアーナルデュル・インドリダソン『湿地』(東京創元社) を読む
フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』とアーナルデュル・インドリダソン『湿地』(ともに東京創元社) を読みました。いずれも大いに注目されている海外ミステリです。まず、出版社のサイトから内容紹介を引用すると以下の通りです。
フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』
一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の息子。彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれた博物館警備員。エチオピアの寒村を豊かにした心やさしき銀行強盗。魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの哀しさ、愛おしさを鮮やかに描く連作短篇集。文学賞三冠獲得、四十五万部刊行の欧米読書界を驚嘆せしめた傑作!
アーナルデュル・インドリダソン『湿地』
北の湿地にある建物の半地下の部屋で、老人の死体が発見された。金品が盗まれた形跡はなく、突発的な犯行であるかに見えた。だが、現場に残された三つの言葉のメッセージが事件の様相を変えた。次第に明らかになる被害者の隠された過去。衝撃の犯人、そして肺腑をえぐる真相。シリーズは世界四十カ国で紹介され七百万部突破。グラスキー賞を2年連続受賞、CWAゴールドダガー受賞。いま最も注目される北欧の巨人、ついに日本上陸。
まず、『犯罪』については、同じ作者の続編である『罪悪』を5月30日のエントリーで先に取り上げていますが、図書館の予約の都合により、出版順と逆に読むハメになってしまいました。しかし、基本的に犯罪にまつわる短編を収録するという意味で同じ趣向の書籍であって、続柄があるわけではありませんから、読書の順番は気にする必要はなさそうです。以下の11篇の短編を収録しています。
- フェーナー氏
- タナタ氏の茶碗
- チェロ
- ハリネズミ
- 幸運
- サマータイム
- 正当防衛
- 緑
- 棘
- 愛情
- エチオピアの男
自らが犯罪を犯すというのも含めて、何らかの意味で犯罪に巻き込まれた個人の悲哀や異常な体験を鋭く描写しています。短い文章でミニマリストのような表現力です。構成については、かなりの部分で事実に基づく犯罪例が多いのではないかと見受けますが、いわゆる純粋のドイツ人もさることながら、移民や日本人も含めた外国人が何らかの意味で関わっている「犯罪」の比率の高さが垣間見えるのは私だけの印象でしょうか。
次に、『湿地』については、引用した出版社の内容紹介にある通り、日本初上陸であり私も読むのは初めてです。ミステリの謎解きの場合、何らかの意味で警察関係者、あるいは、一般に刑事と呼ばれる職業人は物語に不可欠であり、刑事抜きにミステリはほとんど成り立ちません。もちろん、シャーロック・ホームズのようにいわゆる私立探偵というプロがミステリの主人公になる場合も少なくありませんが、この『湿地』は刑事が主人公です。家庭が破たんし、薬物中毒の娘がこの物語の途中で帰宅したりします。舞台はアイスランドです。ミステリですから、ネタバレは避けるべきなのかもしれませんが、ひとつだけ明かすと、映画化の決まった東野圭吾『プラチナデータ』や何よりもマイクル・クライトンの作品と同じ趣向で、遺伝子情報が事件解明のカギとなります。
『犯罪』の各短編は狭い意味での謎解きばかりではありませんが、『湿地』は主人公の刑事が謎解きに挑む古典的なミステリといえます。2人とも最近まで日本では馴染みのなかった作者だけに、今後の翻訳の出版が楽しみです。
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