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2012年7月 5日 (木)

サックス『世界を救う処方箋』(早川書房) を読む

サックス『世界を救う処方箋』(早川書房)

ジェフリー・サックス『世界を救う処方箋』(早川書房) を読みました。中岡教授による週刊「東洋経済」の書評によれば、リベラル派の経済学者が最近になって出版した興味深い書籍が3冊上げられており、スティグリッツ教授の The Priuce of Inequality とクルーグマン教授の End This Depression Now! とサックス教授の The Price of Civilization、すなわち、本書です。まず、出版社のサイトから本書の内容紹介を引用すると以下の通りです。

世界を救う処方箋
「共感の経済学」が未来を創る

〈ハヤカワ・ノンフィクション〉混迷を深めるアメリカと世界経済を救うため、我々に何ができるか? 共同体の崩壊、エネルギー枯渇などの諸課題にも対処できるポジティブな解決策とは? アメリカを代表する経済学者による大胆提言
社会の分断、エネルギーの枯渇、環境破壊……。
アメリカの危機の淵源に、
地球全体の課題を解くカギがある!


世界各地で貧困と戦ってきた経済学者ジェフリー・サックスが、今回、危機に瀕する祖国アメリカに目を向けた。

増大する一方の貧富の格差、社会の分断、教育の劣化、巨額の財政赤字と政治腐敗、グローバリゼーションへの対応の遅れ、環境危機の深刻化……。悪化しつつある母国の病状を、途上国支援の現場で鍛えられた「臨床経済学」を応用して根本から診断、諸課題に対する抜本的な処方箋を提示する。

サックスは説く。いまこそ、私たちは行き過ぎた富の追求を見直し、とくに富裕層はその社会的責任を自覚して、「文明の対価」、すなわち税金を応分に負担すべきだ。目指すべきは、政府と民間が協調し、効率性、公平性、持続性が保証された他者への共感にみちた社会である。それがひいては、人類全体への共感へと至り、世界を救うことにつながるのだから。

アメリカの危機を救う方策を語るなかに、地球の未来を担うすべての人へのメッセージをこめた必読の書。

著者のサックス教授はハーバード大学を経て現在はコロンビア大学の地球研究所所長を務め、本集で明記しているようにマクロ経済を専門とするエコノミストながら、どちらかといえば開発経済学の造詣が深いと私は受け止めています。例えば、旧著の『貧困の終焉』や『地球全体を幸福にする経済』では開発援助の重要性を強調し、イースタリー教授の『傲慢な援助』と鋭く対立したりしています。著者が「臨床経済学」と呼ぶ開発経済学的な見地ながら、米国経済においても成長や貧困削減のために教育を重視する立場は特に注目されます。第10章などが典型的といえます。米国でも日本でも教育の質の低下は、意図的なものであれそうでないものであれ、明らかに政府による政策に起因しており、一部の論調ながら、教育の荒廃を教員組合の責任に転嫁する謬見が見られるのも共通しています。また、テレビの反教育的な役割を正しく指摘している第8章にも共感する日本人は少なくないと私は受け止めています。最終章で描写される米国のミレニアム世代は民族的に多様性に富み、高学歴を志向し、テレビよりもインターネットを情報源として活用している、というのは、部分的には日本の若い世代にも当てはまりそうです。
話が逆になりましたが、そもそもの混合経済から論を説き起こし、リバタリアン的な市場原理主義を切って捨てて、市場における適切な政府の役割を認め、効率性、公平性、持続性の3点を経済の基本に据えて論を進めます。本書全体の基礎となる第3章はかなり読みごたえがあります。医療に関する論調やロビー活動に左右される政治的な決定など、制度的な要因がありますから、必ずしも日本に同じ米国的な症状が当てはまるとは思いませんが、ここ30年くらいは日米が政治的には同じような軌跡をたどっていることも事実です。例えば、私が国家公務員になったのは中曽根内閣のころだったんですが、1980年代前半は米国でレーガン政権が、日本では中曽根内閣が成立し、本書ではレーガン政権が米国における保守反動政権の始まりとして指摘されていたりします。もちろん、もうひとつの新保守主義的な政権は米国では2001年から2期続いたブッシュ政権なんですが、日本では小泉内閣のころに重なる部分があります。本書は私が読んだ限りではもっぱらに米国経済を対象としており、日本経済に応用できる部分は限定的な気もしますが、市場や格差を考える上で、保守とリベラルの経済学の違いがうまく対比されています。

私がこのブログで取り上げるんですから、決して「トンデモ経済学」の書ではなく、正統的な経済書であることは太鼓判です。その上で、日々の金融資産の値動きに左右される超短期のマクロ経済学ではなく、私のように政府に勤務する官庁エコノミストの視点に似て、超長期のタイムスパンを見据えた将来経済への処方箋です。多くの方にオススメします。

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