湊かなえ『白ゆき姫殺人事件』(集英社) を読む
湊かなえ『白ゆき姫殺人事件』(集英社) を読みました。石けん会社の美人OLがメッタ刺しの上に灯油で焼かれるという凄惨な殺人事件を、この作者独特のモノローグで解き明かします。まず、出版社のサイトから内容紹介を引用すると以下の通りです。
内容紹介
疑惑の女性の周囲をとりまく、「噂話」の嵐
「あの事件の犯人、隣の課の城野さんらしいよ…」美女OLが惨殺された不可解な事件を巡り、一人の女に疑惑の目が集まった。噂が噂を増幅する。果たして彼女は残忍な魔女なのか、それとも──。
本作品の新しい趣向は、Twitterをモデルにした「マンマロー」なるSNSサイトの書込みを延々と関連資料として添付したり、モノローグの聞き役になっている硬派の週刊誌記者の取材を基にした週刊誌記事や新聞記事、あるいは、事件関係者のブログを関連資料として80ページに渡って収録していることです。一応、犯人探しのミステリですから、往々にして逆から読む人もいるんでしょうが、この関連資料を見ればすぐに犯人が分かってしまいます。そういう意味も含めて、この新しい趣向が成功だったのかどうかは評価の分かれるところだという気がします。
犯人探しのミステリとしては、怪しそうな人物にフェイントをかけておいて、実は別に真犯人がいるという典型的などんでん返しの謎解きなので、ハッキリと平凡といえます。ですから、この作品を評価するかどうかは、SNSのつぶやきやブログなどの関連資料を作品の本筋とからめて、どのように評価するかによります。私自身は本編のボリュームに比較して関連資料が多過ぎることもあって標準以下としか評価しませんが、デジタル世代の画期的な新機軸であると高く評価する人もいそうな気がします。
別の観点としては、メディアによる度を越した取材合戦や風評被害、オカルト的な呪いなどのトピック、音楽の話題なども豊富ですが、何よりも、この作家の作品の何点かを含めたいくつかのミステリに共通して、被害者があたかも殺されて仕方のない極悪非道な人間に描かれている点に疑問を感じます。実は、マンガの「名探偵コナン」にもいくつかこういった被害者像を提供する作品があると感じたように記憶しているんですが、いかなる理由があれ殺人とは被害者の人間としての存在を根本から否定する卑劣な犯罪であることを忘れるべきではありません。
この作者がデビュー作の『告白』を発表した後、5年後に目指す姿として、「まず、作家であり続ける。そして『告白』が代表作でないようにしたい」と答えたと記憶しています。『夜間観覧車』、『往復書簡』、『花の鎖』の3作はかなりイイセンいっていると思うんですが、この作品は『告白』を超える代表作ではないように私は受け止めています。
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