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2012年10月19日 (金)

特例公債法案が成立しないと何が起こるのか - 大和総研のリポートから

昨日10月18日、大和総研から「特例公債法案の早期成立を望む」と題するリポートが公表されています。副題は「日本版『財政の崖』を回避せよ」となっており、現在の財政支出の状況や特例公債法案について分析を加えています。執筆したエコノミストのうちのおひとりは、このブログの昨年2011年10月20日付けのエントリーで取り上げた内閣府の「経済成長と財政健全化に関する研究会」のメンバーだったこともあり、私も何度かお会いしてお話を伺った記憶があります。まず、リポートの p.1 の[要約]にある6つのポイントから第2-4のポイントを引用すると以下の通りです。

[要約]
  • 特例公債法案が不成立のまま従来通りの歳出が行われた場合、11月にも一般会計の財源は枯渇する見込みである。政府は異例の措置として予算執行の抑制を閣議決定し、地方交付税の交付を遅らせるなどの手段を講じている。
  • 予算執行の抑制によって、一部の地方公共団体では借り入れが増加して金利負担が発生するなど、国民や住民の負担が増加している。特例公債法案の不成立によって、景気への負荷が強まり、また、人々の税負担が増加しているということを、認識すべきだ。
  • 予算執行の抑制が行われても、特例公債法案が成立しない場合、12月中には財源の枯渇が避けられない。その場合、社会保障給付や自衛隊、警察等の活動などの行政サービスに影響が及ぶ可能性がある。また、国債の発行スケジュールに変更が迫られることも考えられ、市場の不安定さが増す懸念がないとはいえない。

そもそも、特例公債法案が成立しない場合に直接的な帰結として何が起こるかというと、リポートでは、政府は特例公債の発行が許されないため、実質的に歳出は特例公債を除く歳入金額の範囲に制限されると指摘しています。予算が成立している以上、政府が支出することを国会が認めているわけなんですが、他方で財政法第12条が「各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければならない」と定めていますから、歳入がなければ経費の支出が出来ないというわけです。常識的な結論だという気がします。ということで、まず、今年度の一般会計の歳入のシェアは以下のグラフの通りです。リポートの p.2 図表1: 平成24年度予算一般会計の歳入構造を引用しています。

平成24年度予算一般会計の歳入構造

すなわち、本年度予算では一般会計歳出総額90.3兆円のうち、44.2兆円が公債発行の財源でまかなわれることとなっており、その大部分を占める38.3兆円が特例公債、いわゆる赤字国債によるものです。特例公債発行と建設国債5.9兆円を除く歳入は、税収とその他収入を合わせた46.1兆円だけであり、逆にいうと、歳出が46.1兆円に達すると公債収入を除くすべての財源を使い果たすことになります。今年度の半分、すなわち9月末までで累計の歳出は約39兆円に達しており、10月以降の残りの財源は約7兆円だけとリポートでは指摘しています。

政府部内行政経費 (庁費・旅費・諸謝金等)毎月、予算額を12で除した額の50%以下に支払を抑制。
独立行政法人等向け独法運営費交付金等3ヶ月毎に、予算額を4で除した額の50%に相当する額以上の交付を留保。
国大運営費交付金等
地方公共団体向け地方交付税道府県分の普通交付税については、当面9月交付分について、9-11月について月割りの交付。
裁量的補助金新たな交付決定は行わず、決定済みでも可能な限り執行を留保。
民間団体等向け裁量的補助金新たな交付決定は行わず、決定済みでも可能な限り執行を留保。
法令で支払時期が定められていない負担金等できる限り支払いを延期。
特別会計繰り入れ一般会計からの繰入金を財源とする経費について、一般会計に準じた対応。
一般会計からの繰入れ時期の延期について、一層の取り組み。

このため、9月7日の閣議で予算執行の抑制を閣議決定しており、リポートの p.4 図表4: 予算執行抑制の内容をテキストで引用すると上の表の通りです。特に大きな抑制は地方交付税交付金であり、財務省が発表している「財政資金対民間収支」の実績では、今年9月の地方交付税交付金の収支尻実績は▲2.7兆円であり、当初見込み時点の▲4.1兆円と比べて1.4兆円改善しているとリポートは指摘しています。

平成24年度予算一般会計の歳出計画

上のグラフは、リポートの p.3 図表3: 平成24年度予算一般会計の歳出計画を引用していますが、当初の支出計画から執行抑制しても、11月末には財源が枯渇する可能性が高いリポートは指摘しています。また、たとえ11月末の財源枯渇が回避されたとしても、12月には公務員のボーナス支給があります。

米国の「財政の崖」 Fiscal Cliff については、米国議会予算局 (CBO) が5月に発表した "Economic Effects of Reducing the Fiscal Restraint That Is Scheduled to Occur in 2013" と題するリポートの中で、2012-13年の現行法の下では歳出削減と増税を合わせて $560bil. に上る財政調整が行われると、概略の中身まで含めて明らかにしています。我が国ではこのレベルまでの詳細な情報は利用可能ではないものの、常識的にも軽く想像される通り、「国の一般会計を通じて行われる歳出がすべて停止し、社会保障給付や自衛隊、警察等の活動などの行政サービスに大きな影響が及ぶ公算が大きい」リポートは指摘しています。実態面で国民生活に及ぼす影響はかなり大きいと考えるべきです。さらに、金融面の影響も無視できません。国債の借換えは国債整理基金特別会計を通じて行われるため、直ちに滞る可能性は低いと考えられますが、安定的な国債発行ができなくなってマーケットが不安定になり、場合によっては長期金利に何らかの影響が出る可能性をリポートは示唆しています。ということで、「特例公債法案の早期成立を強く要望したい」と締め括られています。

とっても常識的で、エコノミストでなくても直感的に理解でき、広範な合意を得られそうな内容を含むすぐれたリポートです。特に、私なんかは直接的にお給料が特例公債法案の成立にかかっていますので、大いに気になって一気に読み切ってしまいました。

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