アジア開銀「アジア開発見通し改定」 Asian Development Outlook Update を読む
昨日、アジア開銀から「アジア開発見通し改定」 Asian Development Outlook Update が公表されています。私のこのブログの大きな特徴のひとつながら、国際機関のリポートを取り上げるのが3日連続になってしまい、ややためらったんですが、今夜のエントリーでは第1章の Dimming global growth prospects を中心にアジア新興国・途上国の経済見通しを簡単に取り上げておきたいと思います。まず、ヘッドラインとなる成長率見通しは以下の通りです。なお、このままでは見にくいと思いますので、画像をクリックするとリポートから成長率とインフレ率の見通しの2ページだけを抽出した pdf ファイルがブラウザの別タブで開くようになっています。
見れば明らかですが、今年4月の「アジア開発見通し」からほぼ軒並み下方改定されています。例外的に上方改定されているのは、今年2012年の東南アジアなどの一部の国だけです。特に下方改定が大きいのは中国です。地域別などでもう少し詳しく改定状況を見るため、リポートの 1.1.2 Revised GDP growth forecasts, 2012 and 2013 と1.1.3 GDP growth, ADO 2012 forecast versus year-to-date growth と 1.1.4 Revised GDP growth forecasts by subregion を一気に引用すると以下の通りです。
下方改定の地域別の要因につき、さらに詳しく見ると、リポートの Box 1.1.2 Factors underlying growth projection revisions に従えば、アジア域内では途上国よりも新興国の方が成長率の下方改定幅が大きく、上の表ではアジア新興国・途上国の2012年の成長率見通しの下方改定幅は▲0.8%ポイントですが、新興国だけながら外的ショックとしては▲1.8%ポイントになると指摘されています。予測に用いられている経済モデルの地域別にショックの大きさを探ると、▲1.8%ポイントのうち、米国が▲0.1%ポイント、欧州が▲0.3%ポイントの下方改定要因となっているほか、日本は逆に+0.1%ポイントの上方改定要因であり、商品価格の上昇が▲0.6%ポイントに上ります。しかし、もっとも大きな地域的な下方改定要因は、実は、アジア新興国自身であり、▲0.9%ポイントとほぼ半分のショックの寄与を示しています。要するに、中国経済の下振れがアジア域内に大きな影響を及ぼしていると考えるべきです。
アジア途上国の域外からリスクとしては2点上げられており、米国のいわゆる「財政の崖」と欧州の金融ストレスの高まりです。日本はリスク要因として上げられていません。上のグラフは、リポートの 1.2.1 Alternative scenarios: effect on emerging Asia を引用しており、それぞれのリスク・シナリオの場合の成長率とインフレ率の下振れの見込みをプロットしています。アジア地域は域内貿易比率も高く、かつての日本について「米国がくしゃみをすれば、日本が風邪をひく」といわれたほどの大きな影響は、欧米から受けることはないように私は受け止めています。もちろん、米欧経済のショックも一定の下振れ要因となるのは間違いありませんが、むしろ、中国経済に要注意なのかもしれません。また、直接投資などの資本流入についてもリスクとなる可能性が論じられています。
最後に、これらの経済見通しと下振れ要因の可能性に対して、アジア開銀は政策対応として、特に、マクロ安定化政策の発動の必要性は高くないと見込んでおり、アジア新興国・途上国は必要とあらば金融政策も財政政策も十分な余裕を持って発動できる条件があると見なしているようです。すなわち、以下の3点を上げています。
- Developing Asia currently has no urgent regionwide need to pursue countercyclical macroeconomic policies.
- Most economies in the region have ample room to use monetary and fiscal policy tools if needed.
- Weakness in major industrial countries and decelerating growth in the region's two giants point to a less-favorable future growth environment.
経済見通し以外に、今回の「アジア開発見通し改定」では、第3章で Special theme として Services and Asia's future growth にスポットライトを当てています。アジア新興国・途上国の成長に従って製造業からサービス産業へのシフトが見込まれるとし、サービス産業における生産性向上のため、規制の適正化、インフラの整備、人的資本の改善などを提言しています。
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