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2012年10月23日 (火)

上野泰也『「為替」の誤解』(朝日新聞出版) は何を「誤解」しているのか?

上野泰也『「為替」の誤解』(朝日新聞出版)"

上野泰也『「為替」の誤解』(朝日新聞出版) を読みました。著者はみずほ証券所属で主に債権を見ている人気のマーケット・エコノミストです。また、昨年暮れか今年に入ってから、このブログで取り上げなかったものの、佐々木融『弱い日本の強い円』(日経プレミアシリーズ) と安達誠司『円高の正体』(光文社新書) の2冊の新書も読みました。前者は日銀理論を展開し、後者はリフレ派理論を展開していますが、今夜取り上げた上野泰也『「為替」の誤解』は分かりやすいものの、ややこの2冊より落ちます。分かりやすいので評価する向きもあり、例えば、東洋英和女学院大学の中岡教授が「東洋経済」のサイトにて実に明快な書評を明らかにされています。私のこんなマイナーなブログを読むよりも、以下のサイトをご覧になった方がいいかもしれません。

中岡教授の書評のエッセンスとして2センテンスだけ引用すると、「本書の面白味は『円高そのほかの経済情勢にまつわる表層的な議論の間違いを指摘しつつ、日本にとって真に必要な経済政策』を分析し、"極論"や"暴論"を排して、あるべき政策を説いている点にある。奇をてらうことなくバランスの良い分析を展開している。」という点に尽きます。しかし、本書でほとんど政策論は展開されていませんので、念のために申し添えます。
これまた、念のために明らかにしておくと、著者は為替の動向に対してオーソドックスな理解を有しています。すなわち、本書の pp.172-73 では「およそ為替市場は、日常的に貿易による実需取引や投資による資本取引の影響を受けるし、中期的には中央銀行による金融政策の見通しに左右され、長期的には購買力平価に収れんしやすい部分もある。」と指摘されており、極めて標準的かつ教科書的な為替の理解を著者は多くのエコノミストと共有しています。私が役所に入ったころ、変動相場制下で為替はランダム・ウォークすると考えられていました。Meese and Rogoff の一連の研究成果の影響です。今では古典派の第2の過誤ではないかと見なされています。他方、本書の著者は中期の為替に金融政策の動向に起因する影響を認め、さらに、部分的かもしれませんが長期の為替に物価の影響を認めます。いうまでもなく、物価動向に責任を持つのは金融政策当局であり、中長期の為替には金融政策の影響を肯定しているわけです。しかしながら、本集の記述はこのうちの短期に集中しているような気がするのは私だけでしょうか。

最後に、本書の最終章で作者がすべてに否定的な回答を用意している6つの「極論」や「暴論」です。短期の為替売買の現場の見方としては否定されるのかもしれませんが、「為替」とは関係の薄いテーマもあり、同時に、「金融立国」のようにいかなる観点からも疑問が多い議論もありますが、中長期的な観点からは肯定的な見方の出来る論点も少なくないと私は考えます。

  1. 紙幣をすれば円安になる?
  2. 円安になれば日本経済は復活する?
  3. 経済成長すれば消費増税は必要ない?
  4. 「埋蔵金」をもっと活用したら?
  5. 日本は金融立国を目指すべき?
  6. もっと金融規制を強化すべき?

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