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2012年10月22日 (月)

貿易赤字とエネルギー政策の関係やいかに?

本日、財務省から9月の貿易統計が発表されました。季節調整していない原系列で見て、ヘッドラインとなる輸出額は前年同月比10.3%減の5兆3598億円、輸入額は4.1%増の5兆9183億円、差引き貿易収支は5586億円の赤字となりました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すれば以下の通りです。

貿易赤字額、9月では過去最大 対米輸出伸び悩む
財務省が22日発表した9月の貿易収支は5586億円の赤字だった。赤字は3カ月連続で、赤字額は9月では過去最大だった。特に対中国は景気減速や尖閣問題を巡る日中関係の悪化などに伴い、3295億円の赤字と同じく過去最大だった。米国向けは貿易黒字を維持したものの、輸出が0.9%増と急速に伸び悩んだ。
輸出額は前年同月比10.3%減の5兆3598億円と4カ月連続マイナス。自動車や船舶、電子部品が減った。うち対中国は14.1%減と大幅に落ち込んだ。4カ月連続の減少で、主に重機用エンジンなどの原動機(48.7%減)、乗用車を中心にした自動車(44.5%減)、自動車関連部品(17.5%減)の落ち込みが目立った。「反日デモの影響がどの程度出ているかわからない」(財務省関税局)という。
輸入額は4.1%増の5兆9183億円で2カ月ぶりのプラス。主に原粗油や通信機、LNGが増えた。
財務省関税局は先行きについて「EUや中国向けの輸出減が継続していくか見ていく必要がある。輸入面も燃料の価格動向を注視する」としている。

次に、いつもの貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフでプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

貿易統計の推移

輸出の鈍化ないし減少と輸入の増加を受けて、定義式で決まる貿易収支は赤字を続けています。特に、輸入については原油価格の上昇から貿易赤字が拡大しています。ドバイ原油価格の我が国への影響はほぼ2か月から1四半期ですので、当然ながら、足元の原油価格より遅れて我が国の貿易収支に影響します。日本は小国ではありませんから、原子力発電を止めて火力発電に切り換えると世界の燃料価格は上昇します。貿易赤字の裏側には電力政策が微妙な影を落としています。どのような電力構成にするかは国民の選択ですが、単にイメージだけで選択するのではなく、裏側のコスト構造にも十分な情報を得て選択すべきです。原子力の比率を下げて自然エネルギーの比率を高めようとするのであれば、それなりのコスト負担が必要です。どこにもフリーランチはありません。

輸出の推移

輸出の金額指数を数量と価格で、また、主要な地域別に、2種類の寄与度分解を行ったグラフは上の通りです。特に、地域別の輸出を見ると、欧州向けとアジア向け輸出が減少を続けています。アジア向けについては中国向け輸出が前年同月比で▲14.1%減となり、尖閣諸島の国有化に反発する反日デモが9月中旬から拡大したことが影響していると受け止めています。もちろん、国境問題だけではなく、中国経済の減速がマクロで中国の輸入を鈍化させていることも見逃すべきではありません。しかしながら、10月統計では尖閣諸島の影響がさらに大きく出る可能性も否定できません。中国以外では、欧州向けはソブリン危機のために落ち込んでおり、唯一、北米向けは前年同月比で増加を続けていますが、伸び率はかなり鈍化し、9月はわずかに前年同月比で+0.1%に過ぎません。

直接の影響として、7-9月期GDPの外需はマイナス寄与となる可能性が高まったと多くのエコノミストは考えていますが、間接的にも、輸出がコケれば、生産がコケて、当然のように雇用に波及しますから、景気への波及は大いにあります。景気局面が後退期入りしたとの議論もあり、かなり微妙な段階に差しかかって来ました。リーマン・ショックの後には輸出の大幅な落ち込みが景気後退の振幅を大きくしたことも記憶に新しく、今後とも貿易動向を注視したいと思います。

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