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2012年10月 3日 (水)

世銀「世界開発報告」 World Development Report を読む

昨日のエントリーでも触れましたが、東京で開催される来週のIMF・世銀総会を前に、一昨日10月1日、世銀から「世界開発報告」 World Development Report が公表されています。今年は雇用 Jobs に焦点を当てています。私の関心分野である開発経済学の視点から重要な文献ですが、何分400ページほどの英文リポートですので、すべてを網羅的に取り上げることはかなわず、今夜のエントリーでは40ページ余りの Overview からいくつか図表を紹介しておきたいと思います。

FIGURE 1 A job does not always come with a wage

まず、上のブラフはリポートから FIGURE 1 A job does not always come with a wage を引用しています。タイトルを直訳して「雇用は賃金を伴うとは限らない」と受け止めるより、地域別に農業従事者と自営業者と雇用者の比率を比較していると考えるべきです。二元的なルイス・モデルの世界をイメージすれば分かりやすいと思います。すなわち、グラフで wage employment とされているのがルイス・モデルの capitalist sector に当たリ、もっといえば、この賃金雇用の部分を拡大させるのが開発にほかならないと私は解釈しています。ちなみに、私は、ジャカルタにいた10年ほど前に、"A Note on a Theoretical Model for Economic Development: Mathematical Representation of Lewis Model," TSQ Discussion Paper Series 2002/2003-No.9, March 2003 というディスカッション・ペーパーを書いて二元的なルイス・モデルを数学的に展開しており、中国人民大学の先生の論文で引用されたりしています。

FIGURE 5 Jobs provide higher earnings and benefits as countries grow

私の研究成果の自慢話から世銀「世界開発報告」の本筋に戻って、雇用が所得と社会保障の拡充をもたらすというのが上のグラフです。リポートの FIGURE 5 Jobs provide higher earnings and benefits as countries grow を引用しています。当然ながら、世銀が目指す貧困削減のために雇用はダイレクトに所得をもたらすといえます。ただ、リポートでは雇用は所得だけでなく精神的・身体的な健康といった他の側面でも影響を及ぼし、無職であることは満足感や幸福度を損ねると実に的確に指摘しています。見れば明らかですが、グラフでは平均賃金や社会保障の普及率と1人当りGDPの間には正の相関があることが示されています。

FIGURE 12 Some jobs do more for development

ということで、途中の分析を大幅に端折って、雇用が開発をどのようにサポートするかのイメージを示したのが上の画像です。リポートの FIGURE 12 Some jobs do more for development を引用しています。雇用が開発を支える柱は3本あって、生活水準の上昇、生産性の向上、社会的結束の強化、となっています。ただし、国や文化により、個人的な価値観と社会的な貢献度合いが一致しない場合があると警告し、公務員・医師・農民・商店主・教員の5つの職種について、中国、エジプト、コロンビア、シエラレオネの例を分析しています。

その昔、我が国の東海道新幹線や東名高速道路が世銀の開発援助も含めた資金で建設され、重要なインフラとして我が国の経済発展に寄与したのは戦後史でも有名な事実です。日本は援助される国から経済大国となり、バブル経済期には世界トップの援助国となりました。バブル崩壊とともに援助額は減少しましたが、豊かな日本の国民として、それぞれの立場から世界の貧困を撲滅すべく、私は出来る限りの貢献をしたいと考えています。

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